第一話 血の契約
はじめましてこんばんわ。
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いろいろ手探りでやってます。矛盾点とか多々ありますけどご容赦を
人里離れた森の奥。獣も迂回するほどに鬱蒼と茂る草葉の下で、一組の男女が取っ組み合っていた。
組み伏せるのは男、年若い。齢は十五、つい一昨日に生誕の日を迎えたばかりである。金髪に碧眼、容姿は人並み以上に整っているが、息を切らし歯を食いしばって相手を組み伏せる今は美少年と言うよりも野獣めいた印象が勝る。
組み伏せられるのは少女、こちらも年若い。うっすらと桃色がかった白髪が地面に広がっていた。色づいた紅葉のように赤い瞳が少年をじっとみつめている。感情を感じさせない無機質な表情はどこか作り物めいていて、組み伏せられてなお声一つあげない彼女の不気味さをよりいっそう際立てている。
「魅了スキルは下位レベルに対してのみ働く。やめろ、マナの無駄だ」
少年の顎から汗が滴り、少女の胸元に垂れる。
自分の行使するスキルが機能しないことを悟ると、少女は少年から顔を逸らし、押さえられた四肢をばたつかせ始めた。
「まだ抵抗するのか。仕方がない」
少年はふっと息を吐くと、押さえていた少女の両腕を解放する。
両者、両腕が自由になる。
少女は好機とばかりに上半身を起こし、同時に少年に掴みかかろうとする。
対する少年は落ち着いていた。彼は両腕が自由になったと同時、懐に隠し持っていた二枚の紙片を取り出してそれを少女の両腕にさっと貼り付ける。
紙片に描かれた魔法陣が淡い光を放つ。
瞬間、少女の両腕は力を失い、吊り糸が切れたようにだらりとして動かなくなってしまう。
少年は少女に驚く間も与えず、白い細首を掴んで彼女をそのまま地面に叩きつけた。
彼が少女に顔を近づけると、少女は無表情のまま顔を左右に振り始める。
少年は掴んだ首を少しだけ締める。さらに、少女の顔が彼の正面にくるよう空いている手で少女の顎を掴んで無理やりに固定する。顔が近づく両者、唇すら触れあいそうな距離で二人は見つめ合う。
と、少女が少年から視線を外す。
少年はそれを見るなり大きな声で叫んだ。
「お前は僕に敗北した! 見ろ! 僕を見ろ! どこに目を逸らす、現実はここにしかないぞ!」
緋色の瞳が再度少年をとらえる。
それからしばらく、二人はまたも見つめ合う。
長い時間が流れ、日も暮れ始めた頃合いにそれは起こった。
「熱いなっ!」
少年はとっさに少女の首から手を離す。
烙印にも似た赤い紋様が少女の首に浮かんでいた。紋様は少女の首を一周しており、首輪のようなそれは少女が少年に屈服した証であった。
少年は腰帯の中にしのばせていたナイフを取り出し、刀身を左手の親指にあてがう。
指先から血がにじみ出したのを確認し、彼は傷ついた指を少女の首にあてがい、紋様の上に血による横一本の線を引いた。
「う、ぐ……」
熱さに耐えきれずさっと手を引っ込める。紋様の上で血からうっすら煙が上がっている。
少年は紋様の様子をじっと見守る。
紋様が冷めていくのが見て取れる。紋様はやがて赤色から黒色に変わった。
「契約は為された」
少年は少女の両腕に張りついた紙片を引きはがし、少女の腹の上から体をどかした。
少女はぼんやりとした瞳で少年を見つめている。
体を起こす気配が無いので、少年は仕方なく少女の背中に手を差し込んで彼女を上半身だけ起こす。
そのまま彼女を少し引きずり、近くの木にもたらせかけた。
彼は地に膝をつき、静かな口調で告げる。
「僕は名をラフィータという」
無反応な少女を気にせず、少年は言葉の先をつむぐ。
「お前に名を授ける。よく聞け、そして刻み込め」
陽がとうに姿を隠し、影の上に影が落ちる闇深き森の深奥で、
少年は少女の耳元に顔を近づける。
名を告げられるその瞬間、少女は目を大きく見開いた。
少年は立ち上がり、少女の頭にぽんと右手を置いた。
彼は自分の顔についた泥をぬぐい取りながら、冷徹な表情のまま言う。
「乱暴して悪かった。それなりに期待してるから、尽力するように」
少女はそんな主人を上目遣いで見つめ、やがてこくりと頷いた。
この話だけ短め。
ヒロインとの馴れそめ的な。
基本、一話八千から一万字を目安に更新していきます。