表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
周回遅れの召喚勇者 ~キモくてニューゲーム~  作者: 行広主水
第1章「召喚されたはいいけれど」
6/27

6.「そんなの僕もです!」

 巻き上げられた石礫が、少しの間を置いて何個も降ってくる。それが頭や体を打つ痛みにも気づかず呆然と、日出郎は無意識にハチェトリーを庇いながら、巨大ななにかが落ちてきた場所を凝視していた。

 すぐそばまで吹っ飛ばされてきたジェイワルズの愛騎が、泡を吹いて倒れている。騎士本人はというと少し離れた場所で、横様に転がっているが、ぴくりとも動かなかった。


 生死を確認し生きているなら速やかに救助したいが、彼がこんなことになった原因が判明しないまま、迂闊には動けない。

 やがて土煙が薄れて、落下物の正体が判明する。


【カタパルトロールLv.15】


「れ、レベル15!?」


 記憶を探っても、ゲームの『ファイナルラストファンタジア』では遭遇しなかった魔物だ。丸まっていた姿勢をほどき、ゆっくりと立ち上がると、現れたのは身長3メートルを越える巨体である。

 人型をしてはいるが足が短い代わりに腕が異常に長く、頭部より大きな手が直立した姿勢で地面に着いていた。緑青ろくしょうを吹いたような不気味な肌をしており、その肌を包むのは腹と肩だけ覆う皮鎧。

 顔は河馬を思わせるユーモラスな造作であったが、厚ぼったいまぶたの奥に爛々と光る目には、ゴブリンなど比較対象にもならない邪悪な殺意で宿る。その手に握られた大型鉄槌スレッジハンマーは、当たれば人間など粉微塵にしてしまうだろう。


【カタパルトロール:硬質の肉体を持つトロールの上位種。一日に三度まで、自らの肉体を岩石状に変え、狙った場所に飛ばす能力を持つ】


 怯えながら目を離せずにいるうち、サブウィンドウが開く。なるほど、ここまで飛んできたのは特殊能力によるものであったようだ。

 射程距離がどの程度あるのかまではわからないが、自前で空中挺進エアボーンめいたことができるのは恐ろしい。


「ごぼぉ……ばぁ(調子サ乗るなよ、人間ども)」


 鳴き声とも威嚇音ともつかぬ息吹が大きな口から漏れると、敵意の言葉が日出郎の耳に届いた。


「に、逃げてっ!」


 慌てて声を上げるが、遅い。慄然として動けぬままだった兵士、ハチェトリーに声をかけていたごつい男に向かって、カタパルトロールがゆっくりと歩み寄る。動作は緩慢だが、巨体な分だけ歩幅が大きい。あっという間に距離を詰め、ハンマーを振り上げる。


 くしゃっ。


 紙を丸めるような音を立てて、呆然と見上げるしかできなかった兵士の頭部が、着ている鎧の中に引っ込んだ。トロールがもう一方の手で無造作に突き飛ばすと、兵士の死体は玩具のように軽々と転がっていく。

 たちまち、悲鳴と怒号が中庭を埋め尽くした。半狂乱になって逃げ出す者が半分、顔を引き攣らせながらも距離を取りどうにか向きあえている者が半分。


 日出郎とハチェトリーは前者寄りの後者といったところか、背を向けることはしなかったが、そのまま速やかに後方へと下がった。

 一方のカタパルトロールはのしのしと中庭を練り歩き、適当に目についた兵士を乱雑だが豪速の殴打で攻撃している。直撃すれば即死は免れず、かすめただけでも重傷だ。運良く避けることができたとしても、とても反撃できるような姿勢は保てない。


 ぼぇぇおおおっ!


 咆哮を上げ、当たるを幸いに攻撃を繰り返すカタパルトロール。竜巻がのろのろと動き回っているようなもので、兵士たちも逃げ惑うことしかできない。

 物見台や屋根部分から弓兵たちの攻撃がなされるが、硬く分厚い皮膚を傷つけることはかなわず、トロールもまるで気にした様子がなかった。滑腔銃マスケットならまだ効果も期待できるのだろうが、ないものは仕方ない。


「ゆ、勇者様。流石にあいつは無理です。逃げましょう、どうにか」

「そうしたいのは、山々なんだけどねえ……」


 ははは、と乾いた笑いが漏れる。先ほどの咆哮、ハチェトリーを始め他の人間たちにはただの吠え声としか聞こえなかっただろうが、日出郎の耳にはしっかり翻訳されて意味が届いた。


『出てこい勇者、オラの獲物はお前だぁ』


 つまりカタパルトロールの行動、そして今回の魔物どもの襲撃自体が、日出郎を標的としたものということである。

 自分のせい、とは思わない。なにせ日出郎自身、望まずしてこの世界に召喚されたのだ。

 だがだからと言って、自分を狙って現れた災厄を放置して自分だけが逃げる、というのもどうなのか。あまりに情けなく、不甲斐なく、やるせない。


「せめて……せめて注意を引いて、他のみんなが逃げる隙を作ろう。ハチェトリーは遠くから一発でかいのを撃って、後は全力で逃げて。門を抜けたら、外の魔物にもう一発かまして、突破口を開く。いいね?」

「勇者様は?」

「どうもあいつ、狙いは俺らしいから……せいぜい挑発して、逃げ回るわ。あの巨体だし、スタミナはそうないでしょ」


 それは日出郎も似たようなものであったが、敢えて言わない。レベルアップこそしたものの、どの特性レベルもまだ一般的な成人男性の数値以下であることは、決して言わない。


「そんなの駄目です! 囮をするなら、僕がします」

「いや、言葉が通じるの、俺だけだし。それに……その、なんだ。君を犠牲にするくらいなら、死んだ方がまし「そんなの僕もです!」


 きりっとした(と自分では思う)顔で格好いい(つもりの)台詞を言ったら、食い気味に返された。

 しばし睨み合う、と言うほどには互いに目つきは険しくないが、ともかく翻意を促し見つめ合う。耳には、カタパルトロールの巻き起こす騒音が止むことなく届いていた。


「はあ、しゃあない。じゃ、第二の手段だ。で、やるだけやって駄目なら、速攻で逃げ出そう。あのな……」


 思いつきはしたが、リスキー過ぎて一度は捨てたアイディアを、手短に解説する。案の定ハチェトリーも猛反対したが、二人そろって尻尾を巻くよりはマシだろう、という日出郎の説得で、十数秒後には渋々折れた。

 どのみち、長々と悩んでいる余裕はないのだ。今はまだ外へ逃げたゴブリンたちも戻って来ないが、トロール一体に蹂躙されている現状を把握されれば、また雲霞の如く集まってくるだろう。


 ゴブリンというのはそういう魔物だ。小狡くて威勢だけは良く、少しでも不利だと判断すれば躊躇なく逃げるが、僅かでも有利とわかれば嵩にかかって悪逆の限りを尽くす。

 今はまだ表に出ているのは兵士たちだけだが、建物に隠れ潜んでいるであろう従僕や使用人や奴隷たちまで引きずり出されたら、なにをされるか考えるだけで陰鬱になる。


「じゃ、頼むよ。一回こっきりだから、焦ってすぐに出すなよ?」


 なんかこれ取りようによってはセクハラっぽい台詞だな、なんて愚にもつかないことを考えながら、日出郎は走りだす。一方のハチェトリーは別方向へ、気配を消すように慎重に移動を開始した。

 逃げ回る兵士をなぶるかのように追うカタパルトロールの背に、挨拶代わりに〈小炎フレイ〉をぶつけた。火球の一撃は流石にダメージを与えられたか、トロールが振り返る。


「ぐぼぉばぁ?(なんだあ、ちっこいオラみてえのが来たな)」


 失敬な感想である。まあ確かに全体的に肉厚で足が短く顔もぶよぶよしているが、さすがに化物と言われるほど醜くはないはずだ。


「ゆ、勇者は俺だ! 狙うなら、俺を狙え!」

「べぼわぁーっ、ばっ、ばっ(馬鹿こくでねえ、おめえみたいなたるんだ勇者がいるか)」

「うぐっ……そ、そう言ってびびってるだけじゃないのか? やーい、ばーかばーかおたんちん、お前の母ちゃんでべろっぱー」


 目を剥いて舌をべろべろ上下動させる。ろくすっぽ交友関係を築かず大人になってしまったため、挑発が小学生レベルだった。


「ぼばんっ(ぶっ殺す)!」


 しかし相手も同レベルだと、かえって効果覿面(てきめん)のようだ。遊び半分のようだったそれまでの攻撃と違い、天高く振り上げられたスレッジハンマーは、崩落事故のような勢いと質量を持って襲いかかる。

 最初から逃げる気満々で臨んでいなければ、一秒後には日出郎の肉体は四散し中庭を濡らしていただろう。これまでの人生で一番必死になって走り、背後で炸裂した衝撃の主に向かって、涙目になりながら挑発を繰り返す。


「どこ狙ってんだ間抜けー、お尻ぺんぺん、ぺんたごーん」


 無駄に大きな尻を振って、なるべく余裕があるようにはたいて見せた。それでトロールは増々頭に血を昇らせ、日出郎の思惑どおり彼だけを追い回し始める。

 一瞬の油断がすなわち死であるため、周囲に気を配っている余裕など欠片もない。ハチェトリーの指示を受けた兵士たちが、上手く避難を始めてくれていることを祈るばかりである。


(あー、そういえば鬼ごっこなんて、幼稚園以来かもな)


 早くもぜえはあと荒い息を吐き吐き、ふと思った。小学校以降は肥満が進んで動きが鈍くなり、馬鹿にされたりいじめられたりすることも多かったため、子供らしい遊びを楽しんだ記憶がほとんどない。

 などと余計なことを考えたのが、いけなかった。闇雲に振り回されたハンマーが、服だかなめし革の胴衣(レザージャーキン)だかの一部を引っ掛ける。ただそれだけのことで、日出郎の90キログラム超えの肥満体が、枯れ枝のように吹き飛んだ。


「ぐへっ!?」


 地面を跳ねること二度、三度。カタパルトロールからすれば掠めた程度の一撃が、日出郎にとっては暴走トラックに跳ね飛ばされたかのような、重く太い衝撃であった。

 受け身など取りようもない。次は体術技能か軽業技能を取ろうかな、なんて益体もないことを考えつつ、全身がばらばらになりそうな痛みに耐える。


「ばはっ、ばはっ、ぼはっ(そら見るだ、勇者とかふかしこいて、ただの太った鼠だべ)」

「……へ、へへん。ばーかばーか、あんぽんたん。お前の母ちゃん、ですぴえろー」


 震える声でなお言い募り、尻まで手が届かないので脇腹あたりをぽんぽん叩いた。トロールの目が殺意とは違う、単純で無思慮な怒りに染まるのが見える。


(ハチェトリー、頼む……! まるで粘れなかったけど、もう駄目だ……!)


 内心の懇願を察知したとも思えないが、視界の片隅で、少年が手を挙げるのが見えた。これに反応できればまだ早い、と合図を送るわけだが、日出郎のライフはゼロだ。そのままやってもらうしかない。

 主からの反応がないため、戦場から距離を置いた位置で待機していたハチェトリーは、慌てて事前の指示どおりに攻撃召術を放った。

 狙うのはトロールではない。あらかじめ見つけておいて、つかず離れず確保しておいた、生き残りのキャタピラー。


 今まさにカタパルトロールが追撃せんとしたその瞬間、ハチェトリーの手によって無関係な巨大芋虫がほふられる。魔物の消滅とともに経験点が少年に、そして〈共闘共栄〉の妙技の効果によって日出郎にも、与えられた。

 倒れ伏す日出郎の耳に響くは、場違いなファンファーレ。そしてレベルアップと共に全身に活力が溢れ、萎えていた精神が蘇った。


「おおお」


 力任せの乱雑な攻撃を辛くも避けて、そのまま駆け出し一気に距離を取る。瀕死と思っていた相手が一瞬にして元気良く動き出したことで、トロールはまたからかわれたのだと誤解し、更に頭に血を上らせた。

 しかしこれこそが日出郎の目論見で、レベルアップ目前であったことを保険として利用したのだ。


 つい先程までの彼の経験点の欄は、【EXP:48/51】。キャタピラーかゴブリン一匹の経験点で、職業レベルが成長する点数である。

 まだ魔晶石と化しておらず、倒れているだけの魔物が何体か中庭にいることは把握していた。そいつに止めを刺せる状態で待機するよう、ハチェトリーに頼んでいたのだ。

 策と言うほどのものでもないが、上手くいったようでホッとする。


「お前の攻撃なんか効きゃしねえよ、おたんこなす! 味噌汁で顔洗って一昨日きやがれ、このすっとこどっこい!」


 なおも挑発しつつ、周囲を見回す。兵士たちが正門から列を成して退却していた。ジェイワルズを始め倒れていた者たちも、生きている限りは回収されたようだ。ハチェトリーは……いた。食材やら調理器具やらいっぱいに抱えた料理人の背を、押している。

 どうやら皆、無事に避難できそうだ。後は自分だけ、流石に技能を新規で選んでいる余裕はないが、特性レベルは上昇しているしHPも全快だ、逃げの一手で生き延びて見せる。

 だが、なんということか。


「ご主人様、置いていかないでっ!」

「うるさいっ、足手まといまで連れて行けるかっ!」


 機を読み違えたか、カタパルトロールが日出郎にだけ注目していると判断したのか、ごく手近な扉が開いて小太りの中年男が飛び出した。確かジェイワルズ傘下の兵士長の一人で、貴族の位を有する男だったはずだ。

 喋ったことはない。兵士とは思えないたるんだ肉体に、日出郎が一方的な親近感を覚えていただけである。小太り男の抱えた鞄からは、火事場泥棒的に慌ててかき集めたものなのか、装飾品や色鮮やかな布などがはみ出ていた。


 そんな小太り男に、貧相な少年がすがりついている。どうやら奴隷であるらしく、足首に逃亡防止用の枷鎖が見えた。

 ぎゃんぎゃんとわめく彼らの声がうるさかったのか、ただ逃げ回るだけの日出郎の相手に飽きたのか。カタパルトロールとは、そちらに首を巡らせた。


「おい待て、お前の相手は俺だろっ!?」


 トロールはずんずんと、小太り男の方へ向かっていく。それに彼らが気づいた時には、もうスレッジハンマーの攻撃範囲内だった。


(ああくそ、間に合え!)


「――コルドっ!」


 かざした手の先、虚空から杭のように尖った氷柱つららを含む極低温の風が生まれ、巨体に向かって吹きつける。〈氷河グラシア〉の力による攻撃召術、〈小凍コルド〉だ。

 トロールの分厚い皮膚は〈小炎フレイ〉や〈小嵐ラハガ〉では貫けない、と判断しての選択だったが、所詮は遥か格下の術者が用いる初級の召術である。魔物はまるで意にも介さず、ハンマーを振り下ろさんとしていた。


「や・め・ろ・お・!」


 歩兵剣ショートソードを抜いて、闇雲に突進する。だが。


「ぼはぁ……っ(ようやっと、小狡こずりぃのをやめたな)?」


 だがそれこそが、振り回され続けてきたカタパルトロールの、逆襲の策だった。

 日出郎のことなどまるで眼中に置かない風であったトロールだが、彼が勇者を名乗って以降は、その抹殺のみを目的とし続けていたのだ。挑発を受け倒したと思ったらあっさり復活され、ここまでいいように弄ばれたが、今更目標を変えることなどしない。

 そしてとうとう、馬鹿正直に飛び込んできた相手を。スレッジハンマーの容赦ない一撃が、真正面から捉えた。


「ごはっ」


 血反吐を撒き散らしながら、日出郎の大きな体が吹っ飛ぶ。一息にひしゃげて散らなかったのは、レベルアップの効果か、以前の刀剣技能のように無意識に体術技能を習得していたからか。

 地面に激突する寸前、かろうじて身を捻り、顔面からのタッチダウンは回避する。そのまま地面をバウンドし、向かい側の壁にまで吹っ飛ばされた。


 真っ赤に染まった視界の向こうで、カタパルトロールがこちらへ向かってくるのが見える。小太りの兵士長と少年奴隷は逃げられただろうか。そうでなければ、甲斐がない。

 朦朧とする意識に、万華鏡のようになにかが浮かぶ。ああこれあかんやつや、走馬灯やあ……と思ったが、子供の頃の記憶などろくなものがなかったため、過去についてはなにも浮かばない。今際の際に、いじめられたり無視されたりキモがられたり笑いものにされたりした半生など、思い出したくもない。


 代わりに浮かんだのは、ハチェトリーとのやりとりばかりだった。極薄の二十五年間の最後が特濃の三日間であったから、むべなるかな。

 出会った頃から一方的に慕ってくれて、子犬のようになついてくれた。この世界のことを教えてくれて、あれこれ世話を焼いてくれて。この世界の思い出は、すなわちハチェトリーとの思い出だ。


 一緒に食事したこと。風呂代わりの沐浴で背中を拭いてくれたこと。ぴったりくっついて召術の練習をしたこと。同じ部屋で眠ったこと。あれなんか変な方向に行ってない? 軌道修正を試みる。

 神秘的な法衣姿で「勇者様」と呼びかけてくるハチェトリー。素足も眩しい貫頭衣姿で「勇者様」と体育座りをするハチェトリー。寝間着にしている薄物姿で「勇者様ぁ」と寝床から切なげな声を出すハチェトリー。

 メイド服を着て「おかえりなさい、勇者様」、ビキニの水着にパレオ姿で「目がエッチだぞ、勇者様っ」、Yシャツ一枚でボタンを外しながら「やさしくしてね、勇者様ぁ」……そんな思い出はなかった。捏造だ。


「勇者様っ!」


 しかしこれはこれで幸せな映像だな、これに浸りながら死ぬのもいいかなあ……なんて思い始めていた日出郎の耳朶じだを、すっかり馴染んだ、しかしこれまでになく鋭く真剣な声が打つ。

 もはやほとんど見えない目に、自分を背にして魔物と相対せんとする、ハチェトリーの小さな背中が映った。


「ば、か……なんで、逃げ、ない……」

「言ったでしょ? 勇者様を、ヒデロウ様を犠牲にするくらいなら、死んだほうがマシです」


 半分ほど振り返った、少年の横顔。涙目で、青褪めて、震えていて。しかし今までのどの時より可憐で愛おしい、笑顔。


「がばはははぁ……(盾にもならね。まとめて、つぶれろ)」


 カタパルトロールの巨体で、影がさす。振り上げられたスレッジハンマー。


(俺はどうなったっていい、でもこの子は、ハチェトリーだけは)


 当人も気づかぬまま、日出郎の体が光を発した。清浄にして聖なる力が彼と、彼を庇うハチェトリーを包む。

 しかしその効果が発揮されるよりも早く、無慈悲なハンマーの一撃が全て打ち砕こうとして――


「人がいない間に、なに好き勝手してくれてんだ、あァン?」


――頭上から、粗暴な声とともに槍が落ちてきた。

 先端が二股に分かれた黒い槍が地面に突き立つと、おぞましい朱黒の光で形作られた魔法陣が描かれる。その陣に足元を囲われた途端、カタパルトロールの動きが止まった。


 ふわりと舞い降りた、小さな影。赤い(うすぎぬ)のワンピースと腰まである長い白髪を踊らせ、細い手足で魔物の背後に着地したのは、長く尖った耳と捻くれた黒い角を持つ華奢な少女。光の加減によっては青く見えるほど、病的に白い肌。

 十歳くらいであろうか。佳麗な顔に似合わぬ、凶悪な表情を浮かべている。


「なァ、オィ。誰に断ッて暴れてんだッて聞いてるんだヨ。あァン?」


 ()()()()が、動きを止めたトロールをにらみつけた。

【カタパルトロールLv.15】

 獣人型。おとぎ話のトロールは日の光を浴びると石化するが、この魔物は自分の意志で岩石と化すことができる上、そのまま飛んでいく。フライング&トロールズである。


大型鉄槌スレッジハンマーLv.8】

 人間では持ち上げることも難しいような巨大さ重さを有するが、作りは大雑把。質量こそが全てに勝る、という乱暴な思想の下に作られている。


小凍コルド

 〈氷河グラシア〉系1レベルの単体攻撃召術。消費LP3。追加効果で稀に氷結。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ