5.「大きいのを撃ちます」
戦場の喧騒は益々激しく、戦闘が止む気配もない。
力量の向上とそれに伴う新たな力に、日出郎が喜びを覚える暇も、またなかった。混迷を極める中庭から弾かれるように、クロウラーが一体、がさがさと這い寄って来る。それに気づいた兵士が槍で牽制してくれるが、大蜥蜴は意にも介さず階段を駆け上がろうとしていた。
「ハチェトリー、まず俺が一発かます。仕留め切れなかったら、後に続いてくれ」
「え? でもあの、どうやって」
最後まで言わせず、日出郎は壁に体を押しつけるようにして少年用のスペースを確保しながら、手を突き出した。長々と集中している時間はない、気合で勝負だ。
体内で熱を高める。それは煮え滾る溶岩をたたえた、赫く輝く絶遠の世界への扉。吹き上がる炎は真紅の色彩に変わり、指先に絡みつく。
「――フレイっ!」
人の頭ほどの大きさを持った火球が、隼のような速度でクロウラーに襲いかかり、今まさに階段に前足をかけた蜥蜴の眉間に炸裂した。〈火山〉の力を用いた基本的な攻撃召術、〈小炎〉。
「すごいっ!?」
驚愕するハチェトリーを他所に、甲高い悲鳴を上げて身をのけぞらすクロウラーを睨みつけながら、意識と呼吸を整える。今はレベルアップの高揚感で恐怖を押さえつけられているが、本来は格上の相手だ。可能な限り速く、追撃しなければならない。
逸る思いをむしろ体中に広げ、嵐にする。それは啾々たる大地の哭声、生命を奪い去り渇きをもたらす無慈悲な世界への路。ひりつく飄風が灰白の色彩に変わり、指先に絡みつく。
「――ラハガっ!!」
持ち上げ、振り下ろした手刀の軌跡に沿って、真空の刃が生まれた。目には見えないが空気を引き裂き迫るそれは、咄嗟に躱そうとしたクロウラーの喉元を、容赦なく切り刻む。
ぱあっと鮮血が舞い、颶風に吹き散らかされた。それは〈砂漠〉の力による攻撃召術、〈小嵐〉。
「う、嘘ぉ……あっ」
超常の二撃を受けてなお、大蜥蜴は生命を止めていない。しつこく獲物を狙う気配を漂わせながら、警戒も露わにその場に留まっている。
驚愕を抑え切れぬまま、ハチェトリーは慎重に狙いを定めて〈小雷〉を放った。階段を跳ねるように流れた電流は、既に生命力の大半を失っていたクロウラーを呆気なく絶命させる。
「ゆ、勇者様……さすが、さすがですっ! 一度の力量成長で、まさかいきなり召導師として開花されるなんて!」
「ああいや、そのー、それな。うん、まあ、ね」
若干キョドりながら曖昧に頷いた。
ゲームの『ファイナルラストファンタジア』では、レベルアップ時に手に入れた技能点を割り振る際、ウィンドウ下部にポイントの使い方を読むことができた。すなわち、技能の習得や向上に必要な技能点は目標技能レベルと同じであること、ただし召術系の技能は例外であること。
召術は源泉系統ごとに別個の技能として習得しなければならないが、習得や向上の基準となる目標技能レベルは合算される。
たとえば既に【召術:〈雲海〉Lv.2】を所持している状態で新たに【召術:〈密林〉Lv.1】を習得したい場合、必要な技能点は1点ではなく3点だ。更にどちらかのレベルを上げたい場合、どちらであっても4点が必要となる。
ゲームでは、だ。先ほど日出郎が新規技能に関する象明を開いた際、その部分の説明は存在しなかった。実際、残り2点だった技能点で、【召術:〈火山〉Lv.1】と【召術:〈砂漠〉Lv.1】を習得できている。
つまり特性レベルの上昇と同様、ゲームよりも有利になっている、ということだ。
(ひょっとして、パッチが当たってるってことなのかな。ゲームの時も、複数系統の召術を伸ばすのはキツ過ぎたからなあ)
技能は最大10レベルまで向上させられる。必要な技能点は1+2+3……+10で、通常なら55点だ。
しかし二系統の召術をそれぞれ10レベルにしたければ210点、三系統なら465点もの技能点が必要となる。通常の技能三つをそれぞれ10レベルにするのに必要な技能点が165点であることを考えれば、これがいかに莫大な点数かわかるだろう。
またレベルアップで得られる技能点は、1レベルにつき3点。最大レベルである99まで成長しても、297点しか得られない。技能点だけを得られる消費アイテムも存在するが、ゲーム全体を通しても数えるほどしか入手できなかった。
つまり普通に遊んでいる限り、ゼロから三系統の召術を極めることは不可能なのである。
(まあ仮にも勇者だもんな、多少のずるは許してもらわないとな)
「とにかく、希望が見えてきた。上手いこと兵士の皆さんを援護しつつ、はぐれた魔物をやっつけて、経験点を稼ごう」
「はい!」
頬を薔薇色に染めてキラキラした目で見上げてくるハチェトリーと、頷き合った。
激戦が続く中庭を気にしつつ、自分の象明を確認しておくと、HPとEXPの間に【LP:18/24】という項目が増えている。ほぼ確実に、召力を数値化したものだろう。
先ほどの〈小炎〉と〈小嵐〉が一発3点ずつ消費したと考えると、後六発は攻撃召術を使える計算だ。
問題はこの数値が、レベルアップで回復するかどうか、である。先ほどはHPが全快した感じがしたので、LPも同様だと思いたい。経験点の表示は【EXP:6/30】、どうやら魔物を倒すと、そのレベルと同じだけの経験点が入るらしい。
じっくり検証したいところだが、生憎とそんな余裕はなさそうだった。戦線を突破したゴブリンが、じわじわと階段あたりを包囲し始めている。ただ、連続して襲撃を退けた二人を警戒してか、すぐには突っ込んで来なかった。
「ぐぎゃあ(オウお前、行けや)」
「ががぎゃあ(お前こそ先いけやボケ)」
「ごぎげぎゃあ(ぐずぐずすんなやカスども)」
押し合い圧し合いしつつ、段々包囲が狭まりつつある。どいつか一体が先陣を切ったら、雪崩を打って襲いかかって来そうだ。
そんな様子に気づいたか、前線の兵士の何人かが押っ取り刀でこちらへ向かってこようとしていた。一瞬の逡巡の後、ハチェトリーは手にした手斧を腰帯に挟み直すと、高い声で彼らを制止する。
「……こないで! 大きいのを撃ちます、離れてくださいっ! ……勇者様、三つ数えたら僕の後ろに」
少年は日出郎の傍らで両手を前に突き出し、意識をゴブリンの一団に集中した。階段や廊下は狭いが、ゴブリンの体躯だと二体が一度に襲いかかってくる可能性がある。レベルアップしたとは言えまだ2レベルの日出郎が、その攻撃を捌くことは難しいだろう。
ここで、決める。手出ししてはいけない相手だと、認識させる。
視界の半分を埋めていた日出郎の大きな体が、もぞもぞと壁沿いに移動した。不穏な気配を感じ取ってたか、ぎゃあぎゃあ喚いていたゴブリンたちが一斉にこちらを向く。慌てて踏み出す、その一歩より先に。
「――メガロ・レビンっっ!」
轟音と閃光、そして身を灼く電雷がハチェトリーの両手から発され、ゴブリンの集団を襲った。六匹の小鬼の集団が一撃、そして一瞬にして、黒焦げになって絶命する。効果範囲の外周部にいた数匹も漏れなく半身を焼き打たれ、悲鳴を上げながらのたうち、這いずって逃げ出した。
それは少年の切り札、〈雲海〉の力を用いた中級の攻撃召術、〈大雷〉。
周囲を圧する凄まじい音と光に、中庭で交戦中のほとんどの者たちが身を竦め、呆気に取られている。好機であった。いち早く立ち直った日出郎は、震える体を鼓舞して半回転すると、廊下の手すりから身を乗り出す。
視線を巡らせ、見つけた。戦場を思うがまま蹂躙する、ブラッドオックスのうちの一体。
「〈小炎〉っ!」
果たして火球は胴部に着弾し、目論見どおりその長い毛に着火した。
ゲーム時代の知識を、思い出した成果である。各攻撃召術にはそれぞれ固有の効果があり、フレイ系の術は一部のモンスターに“炎上”の状態異常を与えるのだ。効果時間はランダムだが、残っている限り追加ダメージを加え続ける。
「今だっ!」
そして機を逃さぬよう、大声で兵士たちに呼びかけた。はっとなった兵士たちは、それぞれの敵に対し勇躍し挑みかかる。
ところがこれは、悪手であった。日出郎の呼びかけは〈共枢言語〉の効果によって、ゴブリンたちにも届いてしまったのだ。
「ぐぎゃあ(往生せえやボケェ)!」
「ばがぎゃあ(目にもの見せたらダボォ)!」
「ごんがげぎゃあ(舐めとったらあかんぞゴルァ)!」
再び戦場が混迷していく。装備や体格の差でゴブリンを圧倒していた兵士たちも、縦横無尽に暴れ回るクロウラーや、止めることすらできないブラッドオックスに掻き回され、圧倒的多数の攻め手に対しどんどんと疲労を貯めていった。
疲労が貯まれば動きが鈍り、動きが鈍れば遅れを取る。やがてはゴブリン相手にも苦戦を強いられるようになり、正門から雪崩れ込んでくる敵を捌き切れなくなり始めた。
戦闘開始時から物見塔や屋根に登った兵士が弓矢や投石や攻撃していたのも、外の相手だけで手一杯なのか、段々と散発的になりつつある。
特に滑腔銃は、弾薬が尽きたのか故障したのか、先刻から発射音も聞こえなかった。
(くそ、ジリ貧くさいなこれ)
などと考えていたら、戦闘の中心からこぼれ出たゴブリンが寄って来たので、派手な音がせず注意を引かない〈小嵐〉を放って倒す。
すると、日出郎の耳に場違いなファンファーレが響いた。レベルアップだ。
【ヒデロウ・イサカ】
【越界種・日本人/男・25歳/勇者Lv.3】
【特性】
【肉体Lv.12 敏捷Lv.10 感覚Lv.11 知性Lv.12 精神Lv.9】
【HP:30/30 LP:30/30 EXP:2/51】
【技能】
【算術Lv.2、召術:〈氷河〉Lv.2、刀剣Lv.1、召術:〈火山〉Lv.1、召術:〈砂漠〉Lv.1】
【妙技】
【共枢言語※、共闘共栄※、◇◇◇◇※】
【召術】
【〈小凍〉〈凍装〉〈小炎〉〈小嵐〉】
【装備】
【歩兵剣Lv.3、叡智の額冠Lv.35、革の胴衣Lv.1、布の服Lv.1、革のサンダルLv.3】
事前に期待したとおり、同時にHPとLPが全快した。これなら戦術も組み立てようがある、ということで技能は【召術:〈氷河〉Lv.2】を一気に習得・向上させる。
「ハチェトリー、〈大雷〉はもう一発、撃てるよな?」
歩兵剣で周囲を威嚇しつつ、少年に話しかける。ゲームと同じなら〈小雷〉の消費LPは3点、〈大雷〉は10点のはずだ。昼前の訓練から数えて彼はここまで前者を五発、後者を一発、放っている。消費LPは合計25点。
ハチェトリー自身が以前に〈小雷〉なら十五回は使える、と言っていたから最低でも45点のLPがあることが推測でき、誤差もあるだろうが残りは20点前後。
召力が減少すると気力や集中力が削がれるそうだから、あまり無理はさせられないが、ここが使いどきと判断した。
「どうにか、あのやけに元気なブラッドオックスだけでも仕留めたい」
指差す先には言葉どおり、気まぐれな突進を繰り返して戦線をぐちゃぐちゃに掻き乱している魔物がいる。
他の個体はそれなりに痛手を受けていたり、孤軍奮闘するジェイワルズが引き受けたりしているが、そいつだけは手がつけられない様子だ。
「俺が声をかけるとゴブリンにまで伝わっちゃうから、タイミングを測って君が指示を出して。その間は俺が援護をして、それから君が術を放つ。できるか?」
「でもあの位置ですと、僕らも庭に下りないと……」
標的はちょうど中庭の反対側あたりにおり、ぎりぎりでハチェトリーの〈大雷〉の射程外だ。力ある術者であればもっと遠くまで術を届かせられるのだが、少年の力量ではまだそこまでの到達距離は出せない。
なお日出郎のものは、もっと短小だ。術の射程のことである、念のため。
「いつまでも安全地帯で術攻撃ばかりはしていられないよ……正直、怖いけどさ」
レベルアップをして【精神】が上昇したせいか、多少は肝が座った気がする日出郎である。勇者にそう結論づけられては、ハチェトリーとしても否やはなかった。
これまでの戦闘の犠牲者も、既にかなりの数に上るだろうが、その中に主を加える気など毛頭ない。残敵がどの程度いるかは判然としないが、安穏としていられる状況でないことは、ハチェトリーも肌で感じていた。
頷き合うと、身を屈め、そっと階段の下へ向かう。先ほどの範囲攻撃で傷んでいたが、すぐに崩れ落ちるほどではない。目線が下がったことで、戦場が把握しづらくなった。
階段下にゴブリンが潜んでいたが、目が合った瞬間に背を向けて逃げ出す。一匹一匹は所詮こんなものなのだ。
「あっちの方から回り込もう」
「あ……これ、まだ落ちてたんだ。片付け忘れてたな」
地面に散らばる魔晶石や壊れた武器に混ざって、焦げた板切れが転がっていた。昼前の訓練の際、ハチェトリーが術の標的にしたものだ。あれがほんの数時間前のこととは信じ難い剣戟と流血の巷を、慎重に迂回する。
心が擦り切れるような焦れったい移動の末、標的としたブラッドオックスと兵士たちが戦っている場を臨む場所に辿りついた。まだ、ほとんどの者が二人には気づいていない。何体かのゴブリンが遠巻きに窺う程度だ。
「じゃ、いくよ」
「はい……皆さんっ! さっきの大きいのを撃ちます、離れてくださいっ!」
突如として響き渡った、戦場には不似合いの可憐な大声に、驚愕しつつも兵士が散開する。中には心得たもので、わざとゴブリンやキャタピラーをそちらへ追いやるよう、巧みに位置取る者もいた。
それを横目に日出郎は、習得したばかりの術に集中する。イメージするのは水流、硬い骨の中を柔らかな髄が通っているように、真実は見えぬ場所にあって深く揺蕩う静かな力。清冽なる氷水は紺碧の色彩に変わり、指先に絡みつく。
「――コルルドっ」
燦めく氷片が舞い散り、環を描いてハチェトリーを取り巻いた。攻撃召術ではない。〈氷河〉の力によって対象の思考力や知覚力、なにより召術を操る能力を向上させる召術、〈凍装〉。
まさか新たな召術、しかも更なる源泉に基づく術を使うと思っていなかったハチェトリーは、動揺して集中を乱す。
それでも失敗することなく自分の召術を完成させられたのは、日出郎の期待に応えなければという思いと、今まさに効果を発揮したばかりの〈凍装〉のお陰であった。
「――っ、〈大雷〉!!」
突き出したハチェトリーの両手から扇型に、無数に枝分かれし絡みつきながら拡散する紫電の束が放たれる。轟音に打たれて兵士たちまで尻餅をつく一方で、効果範囲に入ったブラッドオックス他の魔物たちは身を灼き裂かれ、血と神経を蒸発させて斃れる。
先ほどゴブリンの群れを屠ったものより、格段に威力が上がっていた。放ったハチェトリー自身が呆然としてしまうほどの威力である。
いかに切り札と言うべき強力な召術とは言え、彼の力量でブラッドオックスを一撃、というのは難しいはずだったが……結果は、食らった魔物すべてが呆気なく魔晶石を残し消滅したことで、証明された。
わっ、と喚声が上がる。運良く被害を逃れたゴブリンたちも、意気上がる兵士たちによって人形のように打ち倒されてった。
それは中庭に侵入していた魔物すべてに言えることで、次に自分がああなってはたまらないと、軒並み及び腰になっている。
「やったな」
「は、はい。勇者様のお陰です、その……ふぁっ」
肩に置かれた手を握り返し、礼を言おうとしたハチェトリーが唐突に艶っぽい声を上げ硬直した。びくんっ、びくんっ、と震えながら吐息を漏らす。
「あっ、はっ……僕も今、力量が成長した、みたいです」
長い睫毛を瞬かせながら、言った。象明を見ると、職業欄は確かに【見習い召導師Lv.6】。堂々たる6レベルだが、まだ『見習い』の文字は取れていない。実際、ゲームでもキャラクターの職業は特殊なイベント時にしか変更されなかった。
それにしてもなんか俺の時とリアクション違くね? と日出郎は思ったが、そこは敢えてスルーして体調を慮ってみる。
「なにがどう変わったか、実感あるか? あと、LP……召力は回復しているか?」
「そう、ですね。少し体が強く軽くなったような……あと、今まで使えなかった、一つ上の〈密林〉に関する召術が使えそうです。召力は回復しています。ほんのちょっと前まで頭が重かったのが、よく眠った朝みたいにすっきりしています!」
言いながら徐々に実感が湧いてきたのか、はきはきと喋り表情も爽やかなものになっていた。どうも【肉体】や【敏捷】にポイントが回り、【召術:〈密林〉】のレベルが向上したように見受けられる。
先ほどまでバリバリ使っていた〈雲海〉系でないのは、当人が防御や物理戦闘の方に気が行っているためか。
(もしかして俺を守るため、かな?)
面映いような情けないような、複雑な気分になる。
「おい! あんた、やるなあ!」
「召術ってのは凄いもんだ……さすが勇者殿の従士だけある」
「勇者殿もありがとうよ! 助かったぜ!」
援護を受けた兵士たちが、快活に礼を言ってきた。いやどうも、とかあはは、とか適当に返事をしておく。一際ごつい兵士が、ハチェトリーにおずおずと声をかける。
「お嬢ちゃんは小っこいのに、立派な召導師だったんだな」
「いえあの、僕、男です」
「「「え゛!?」」」
周囲の兵士たちが一斉に少年を凝視する。何故だかそばにいたゴブリンも動きを止め、隙を突かれて倒された。
「勇者様ぁ……僕、女の子に見えますか……?」
羞恥に頬を薔薇色に染め、かすかに潤んだ瞳で日出郎を見上げる。なにやら罠を踏んでしまったような空気に、兵士たちも沈黙し、固唾を呑んで彼を凝視した。
「……まさかあ!」
「……ですよね!」
朗らかに否定すると、花のような笑顔でぴょんと跳ぶハチェトリー。守りたい、この笑顔。日出郎と兵士たちの思いが一つになった瞬間である。
そんなことを話している間にも、中庭の戦いはほぼ趨勢が定まり、ゴブリンたちはあらかた倒されるか逃げ出すかしていた。まだまだ外には敵もいるだろうが、ひとまず態勢を整えることができるはずだ。
最後のブラッドオックスを討ち果たしたジェイワルズが、中庭の兵士たちに声をかける。
「負傷の少ない者は正門前を固めろ! 弓兵は補充と、警戒を厳に! それと重傷者は……」
「隊長、上です! 危ないっ!」
物見塔の兵士が、絶叫を上げた。何事かと頭上を振り仰いだジェイワルズの体に影が差し――落下してきた巨大な物体が、彼を乗騎ごと吹き飛ばした。
【小炎】
〈火山〉系1レベルの単体攻撃召術、消費LP3。追加効果で稀に炎上。
【小嵐】
〈砂漠〉系1レベルの単体攻撃召術、消費LP3。追加効果で稀に転倒、流血。
【大雷】
〈雲海〉系3レベルの範囲攻撃召術、消費LP10。追加効果で稀に感電。
【凍装】
〈氷河〉系2レベルの、単体の召術行使能力を強化する召術。消費LP5。