4.「やっぱり現実はおっかねえ」
敵襲の報を受け、食堂内の空気は一気に緊迫した。
ほとんどの者が慌ててその場を離れ、一部の者は残った食事を忙しくなくかきこみ出し、日出郎とハチェトリーだけがすぐには動けずにいる。
「ゆ、勇者様」
「お、落ち着こうハチェトリー。まずは落ち着かないと」
言っている日出郎の方がよほど動揺し、手にしたパンを煮物の鉢に突っ込んだりしていた。食堂の外では兵士や従僕たちが怒声を上げながら右往左往しており、厨房では料理人や下働きの奴隷が慌てて器具や食材を片づけている。
なおこの世界、少なくともラフガルド王国には奴隷階級が存在している。ファラスの文化や価値観は十世紀から精々十五世紀のそれであり、一昔前の王道RPG風ゲームであった『ファイナルラストファンタジア』に比べると、平等主義とは無縁の絶対的な身分差が散見された。
とは言え奴隷は主人の大切な財産であり、啓蒙思想など存在しない世界でも一定の人権めいたものは保証されている。日出郎は、案外あのドット絵の世界の中にも厳然たる階級社会があったのかなあ、なんて思いを馳せたものだ。
「勇者様、ひとまずここを出ましょう。籠城するにせよ打って出るにせよ、身支度は整えておくべきです」
ちょっと現実逃避している間に、ハチェトリーは落ち着きを取り戻していた。
「そ、そうだな。えっと、じゃあ、ごちそうさま」
既に人気のない厨房に声をかけてから、食堂を出て自室へ急ぐ。大部屋に詰め込まれている兵士たちとは違い、勇者たる日出郎には仮住まいの個室が与えられていた。と言っても砦の二階の一角、六畳ほどの広さの部屋に、寝台と長椅子、低い机と箪笥が置かれているだけだが。
なおハチェトリーもここで寝起きし、朝から晩まで甲斐甲斐しく日出郎の世話を焼いてくれる。さすがに寝るときは一緒の寝台ではなく長椅子だが、最初の晩は彼の寝息とか『ゆうしゃさまぁ……』なんていう寝言が気になって、ろくに睡眠を取れなかった日出郎だった。
ともあれそんな二人の愛の巣、もとい共同生活の場に飛び込むと、まずは窓を開けた。木製の窓が開かれると曇天の空の下に広がる草原、そしてそのあちこちで群れをなしてこちらを伺う集団が見えた。
緑色の肌に小さな体躯、棍棒や粗末な槍で武装し、禿頭には疣のような角が個体によってランダムな位置と本数で生えている。
【ゴブリンLv.4】
様々なゲームでお馴染みの小鬼種族であるゴブリンは、この世界でも人間に敵対する魔物の一大勢力として存在していた。一匹では臆病で小狡いだけの雑魚だが、徒党を組むと途端に残虐になり、集団を形成すると小さな村なら壊滅の憂き目に合うこともある。
そんなゴブリンが十匹前後でグループを作っており、それが窓からざっと見ただけでも十以上。つまり百を越える数が草原に集まっていた。ゴブリンは夜行性のため山林や洞窟などで遭遇することが多く、曇天とはいえ昼日中にこれだけの規模で集まっているのは異常らしい。
体格や武装はともかく面構えの凶悪さのため、日出郎からすれば不良の大集会にうっかり遭遇してしまったような恐怖を覚えた。窓を開けた日出郎に気づいた一団が、ぎゃあぎゃあと吠えかかってくる。
「げぎゃあ(おうコラ出てこいやボケェ)!」
「ごがぎゃあ(おれらと勝負せぇやゴルァ)!」
「げごがぎぎゃあ(ワンパンで沈めたるわダボォ)!」
不良の集団そのものだった。いい感じに現代風に翻訳してくれる〈共枢言語〉が、こういう時は恨めしい。
よく見るとヤンキーの集会に改造バイクがつきもののように、ゴブリン集団にも数体に一体ほどの割合で、四足歩行の魔物が混ざっている。流石に乗るには少し無理がある大きさだが、ゴブリンの体格ならなんとか騎乗できるのだろうか。
【キャタピラーLv.3】
【クロウラーLv.5】
キャタピラーは体長3メートルほどもある巨大な芋虫、クロウラーはそれよりやや小さい程度の大蜥蜴だ。更に視線を巡らせると、ブラッドオックスを連れている集団までいる。
「ありえません……ゴブリンが、自分たちより力量の高い魔物を飼い慣らす手段を持っているとは到底、思えない」
震えながらハチェトリーが言うが、事実は事実だ。砦にも軍用の騎竜は何頭かいるが、以前に叡智の額冠で鑑定してみたらレベルは最大で5だった。兵士たちのレベルは4から6というところで、兵士長を務める何名かが7、一人だけ突出しているのが騎士ジェイワルズの9だ。
ハチェトリーはレベル5、少なくともゴブリンよりは強い。そして日出郎は相変わらず足手まといそのもののレベル1だった。
砦にいる兵士は二百名くらいだと聞いている。窓から見える範囲が襲撃してきた敵の全てなら、まあ負けることはないだろう。だが部屋の外から聞こえてくる騒々しい物音や怒声から察するに、似たような数の集団がぐるりと砦を取り囲んでいるようだ。
つまり敵はおおよそ四百体のゴブリン、そして五十体程度の四足型。まともにぶつかり合えば、結果は火を見るより明らかであろう。
「とは言え、降参ってわけにもいかないんだろうなあ」
窓を閉めて閂をかけ、嘆息する日出郎に、ハチェトリーも同意した。
「相手はゴブリンですからね。降伏したところで、全員が嬲り殺されるだけでしょう」
ほとんどの魔物は人間を食う。ゴブリンも例外ではなかったが、より厄介なのは、弱らせた獲物を玩具にして遊ぶような残虐さがあることだ。砦が陥落してしまえば、住人は残らず地獄を味わうことになるだろう。
「それにしても、魔王が倒されたばかりだというのに、何故こんな活発な活動を……」
「まあ考えてわかるものでなし。ハチェトリー、とりあえず着替えないと」
「あっ。そ、そうでした。すいません、気が利かず」
貫頭衣と筒袴を脱いで下着姿になると箪笥から、召喚時に着ていたTシャツを取り出して、その上からキルト地の長袖上着とズボンとを着る。
更に壁にかけてあったなめし革の胴衣を着込めば、鎧というには頼りないが、素肌を晒しているよりはよほどましな格好となった。
足元だけは召喚された時からずっと履いている革のサンダルで、ベルト部分などを調整したためフィット感は上がっているが、剥き出しのつま先などが少々心もとない。軍用ブーツなど望むべくもないが、せめて完全に足先を覆いたいものだ。
ハチェトリーも日出郎を手伝ってから、いそいそと着替え始める。男同士だし気にするものではないのだろう、と思いながらもなにか見てはいけない気がして、日出郎は少年に背を向けた。部屋の外からは絶え間ない喧騒が響く中、しゅり、しゅるりと衣擦れの音がやけに明瞭に耳に届く。
日出郎と同様にキルト地の上下、そして出会った時にも着ていた白い法衣に身を包み、腰帯に手斧を手挟む。旅立つ際に父から渡された逸品で、象明を見ればレベル5の優れた品であるとわかるだろう。
「勇者様、武器を」
従士の務めと思っているのか、部屋の隅に立てかけてあった鞘つきの剣を、日出郎の腰に革ベルトで固定してくれた。
【歩兵剣Lv.4】
ショートというわりに刀身は60センチメートル程度と、そこそこに長い。これは騎兵用の長剣をロングソード、歩兵用の剣をショートソードと呼び分けているからで、長さ自体は名称と関係ないからだ。
ちなみに柄とのバランスも含めビニール傘くらいの長さだな、と思ったのは日出郎だけの秘密である。
「本当なら、勇者専用装備で全身を固めていただきたいのですが……」
「ま、ない物はしょうがないよ。あっても、今の俺に使いこなせるとは思えないけどね」
おどけて肩をすくめ、笑いかけた。反論しようとしたハチェトリーも、困った顔で笑い返す。さてこれからどうしたものか、と改めて窓の外を窺おうとしたその時、外の方から凄まじい激突音が聞こえてきた。
何事かと慌てて部屋を出て、廊下から中庭を覗く。外に繋がる大扉の前と、その直上部分に大勢の兵士が集まっており、弓矢や投石で外に向かって攻撃していた。
断続的な激突音は大扉が発するもので、どうやら破城槌かなにかの攻撃を受けているらしい。それに混ざって散発的にボバンッ、ボバンッ! と花火のような音がしているのは、砦に五丁だけ配備されているという滑腔銃の射撃音だろう。
「とは言え、召術と比べれば命中精度で圧倒的に劣りますからね……威嚇くらいにしか、役に立たないでしょう」
「死守ーっ! 死守しろっ!!」
ハチェトリーの解説を、物見塔の一つから響く大音声が遮る。騎士ジェイワルズの声だ。わあわあという喚声に混じって、更なる激突音がした。びりびりと震動も伝わってくる。
そして。
「駄目だ、破られるぞーっ! 地上部隊、総員抜剣っ!」
「うああ、展開早い」
メキメキと嫌な音をさせ、大扉が破壊されながらゆっくりと開いていった。崩壊に巻き込まれないよう扉を押さえていた兵士たちが一斉に離れたため、最後は勢い良く倒れこむ。
砂埃が舞う中、キャタピラーやクロウラーを従えたゴブリンたちが雪崩れ込んで来た。扉を破壊するまでの攻防で相当数が撃退されたようだが、同胞の体を踏み越え、なお血気盛んに喚いている。
「あぎゃあ(ぶっ殺すぞコルァ)!」
「げあぎゃあ(覚悟しろやオルァ)!」
「ががぎぎゃあ(往生せいやドルァ)!」
そこへ、前衛に立った兵士たちの一斉攻撃が襲いかかり、次々とゴブリンたちを薙ぎ倒した。すると討たれたゴブリンの死体が、黒い煙を発して次々と崩壊する。
日出郎からは遠くて見えなかったが、鈍く輝く黒曜石のような石だけが後に残された。
「え!? き、消えたっ!」
「あれが、魔物と通常の生き物の、最大の違いです。魔物は死ぬと、魔晶石と呼ばれる鉱物だけを残して消えてしまいます」
あるいは魔晶石こそが魔物の本体であるという説もあり、召術とは原理の異なる神秘の力を内包していると言う。なんかそんな設定のアニメだかライトノベルだかがあったなあ、と薄ぼんやり思い出す。
ともあれ死体が邪魔をしないため、ゴブリンたちは次から次へと押し寄せてきていた。しかし、いかに相手の人数が多かろうが、正門を越えてやって来れるのはごく一部だ。迎え撃つ限り、数の優位は兵士側にある。
問題は足元を這い回って突破を図るクロウラーだった。大蜥蜴は動作の俊敏さも牙の攻撃力も、ゴブリンを遥かに上回る。複数人が槍を使って遠間から仕留める間に、薄くなった包囲網を突破しようとゴブリンどもが殺到した。
「ハチェトリー、援護した方がいいんじゃないか!?」
「で、でも……僕は、兵士の方々と連携する訓練を受けていませんから、術を使うと巻き込んでしまうかも」
言われてみれば確かに、乱戦の中に稲妻だの石弾だのを打ち込むのだ。狙いを外して友軍誤射を引き起こしては洒落にならない。
「ゲームじゃ誤爆とかなかったからなあ……ううくそ、やっぱり現実はおっかねえ」
一進一退の攻防。しかしやがて、均衡を崩す存在が投入されてしまった。
「いかん! お前ら、持ちこたえろっ!!」
物見塔のジェイワルズが、慌てて持ち場から降り始めた。ほとんど同時にゴブリンの一群を割って、赤黒い巨体が突っ込んでくる。爆弾でも炸裂したかのごとく、数人の兵士が吹き飛ばされた。
現れたのは長い毛を持ち、黒光りする角を光らせた、牛のような魔物。ブラッドオックス、レベル8の脅威が前面に出てきたのだ。
一体、二体、三体。大砲の弾のようにブラッドオックスか突っ込んでくる都度、兵士たちの陣形に穴が空く。
「くそっ! 好きにはやらせんぞ!」
砦内部の厩舎から、焦げ茶色の鱗の麟竜に騎乗したジェイワルズが姿を見せた。初めて見た時のような完全武装で、騎乗槍を片手に愛騎を駆って、ブラッドオックスの一体に突撃する。
その雄々しい姿を呑気に見物している余裕は、日出郎にはなかった。とうとう兵士の包囲を突破するゴブリンが現れはじめ、そのうち一体が階段を登ってこちらに走り寄って来たからだ。
「ごあがかかっ(なに見物してんだデブ、おいコルァ)!」
「ひぃっ」
情けない悲鳴を上げながら腰の歩兵剣を抜こうとする間に、庇うように割って入ったハチェトリーが手を突き出し、召術を放つ。
「〈小雷〉っ!」
狭い廊下で稲妻を避けられるわけもなく、顔面に直撃を食らったゴブリンはもんどりを打ってひっくり返った。少年は手斧の刃沓を解きながら油断なく近づくと、まだ痙攣している敵の胸に刃を突き立てる。
黒い霧と化して、ゴブリンは消えた。一摘みほどの小さな魔晶石を拾い上げ、ハチェトリーは背後の主に振り返って微笑む。
「大丈夫ですか、勇者様」
「あ、うん。さすがだね、ハチェトリー」
「えへへ……恐れいります」
腰を抜かさなかった自分を褒めてあげたい日出郎である。レベルで言えば確かにハチェトリーの方がゴブリンより上だが、その差以上の圧倒的な強さは、やはり召術に拠るところが大きいだろう。
しかしなにより、目の前に敵が迫っても動じず術に集中しきった精神力が凄い、と日出郎は思った。少年の【特性】レベルはまだ見ることができないが、おそらく【精神】は自分より遥かに高いのだろうな、と思う。
主従が呑気な会話をしている間も、戦場たる中庭では喚声、そして喊声。雄叫びや怒声、金属音や破裂音、騎竜の嘶きに悲鳴など、様々な音が鳴り渡っていた。
そんな中でもハチェトリーの放った稲妻の音を聞きつけたか、中庭を渡って新たなゴブリンが近づいてきたが、今度は階段に足をかけたところで迎撃される。ハチェトリーの〈小雷〉は狙い過たず、不運なゴブリンを絶命させた。
「いやちょっと待て、あんまり景気良く使いすぎるなよ、ハチェトリー」
召術を使うと、“召力”と呼ばれる術を使うための活力が失われる。要するにマジックポイントだ。訓練の際に聞いた話では、ハチェトリーは〈小雷〉であれば連続して十五回くらいは使えるという。
威力を考えれば大した数だが、無思慮にばんばん撃って良い回数とも言えなかった。
「でも、余力を残している場合では……」
横目に中庭を見やる。ジェイワルズがブラッドオックスの一体を屠り、もう一体をなんとか押さえているが、まだ他に二体のブラッドオックスが戦場を蹂躙していた。爬行するクロウラーも着実に被害を増やしており、兵士たちは明らかな劣勢を強いられている。
このままでは敵を押し留め切れず、正門前の戦線が崩壊するだろう。そうなったら、雪崩れ込んだ敵勢による圧殺劇が始まるだけだ。
「っ……そうですね、慎重にいかないと」
日出郎は単に臆して不必要な慎重論を唱えただけだったが、ハチェトリーはある意味で冷淡に状況に見切りをつけた。
おそらくこの戦は、勝てない。であるなら、なんとか主と逃げ延びる方法を模索すべきで、そのために力は温存しなければならない。中庭に油断なく目をやりながら、少年は戦場からの脱出方法を考え始めた。
日出郎が騎竜に乗れないため、強行突破は難しい。〈小雷〉よりも威力と範囲に優れた術は使えるが、消耗も激しいため使って一度か二度だ。
望ましいのは日出郎に自身の身を守ってもらいながら、その一度二度の大召術で空隙を作って駆け抜けること。相手は所詮ゴブリン、上手く怯ませられれば逃げる隙を作るくらいは……
「う、うわぁ」
思考に没頭し、警戒が薄れた所を突かれた。廊下の支柱を伝って、キャタピラーが這い上がってきたのである。その位置は、ちょうど日出郎を挟んで反対側。
「勇者様!」
鈍臭いことに日出郎は廊下の中央でたたらを踏んだため、幅の広い彼の傍らをすり抜けて前に出る空間が存在しない。肩越しに召術を放つにしても、半端に大きな体が邪魔だ。
「剣を! 早く!」
「おお、おうっ!」
慌てふためきながら、日出郎は腰の歩兵剣を抜いた。一抱えほどもある巨大な芋虫が、身をもたげて襲いかかって来るという悪夢のような光景に、思わず目を閉じながら剣を突き出す。
素人丸出しの一撃であったが、タイミング良く伸び上がったところを突かれ、キャタピラーが硬直した。
「そのまま突っ込んで!」
「わあああああっ!」
情けない声に、へっぴり腰。しかし90キログラム超えの質量を持って押し込まれれば、軍用に鍛え上げられた切っ先が芋虫の軟体を貫けない道理はない。
ぞぶり、という嫌な感触を日出郎に伝えつつ、歩兵剣の刀身はキャタピラーに根本まで突き刺さった。
「離れて! 早く!」
「う、うんっ」
尻餅をつきながら、ずるずる後ずさる。ほんの一瞬の攻防であったのに、まともに呼吸もできないほど疲労し、がくがくと全身が震えた。
一方で悲鳴も上げず、青臭い体液を撒き散らしながらのたうっていたキャタピラーは、やがて動きを止める。
「やったか?」
日出郎は敗けフラグな台詞をうっかり口にしたが、巨大芋虫はお約束に従うこともなく、やがて黒い霧と化した。後に残るは歩兵剣と、黄緑色の小さな魔晶石のみだ。
力量差のある相手を、タイミングが良かったとは言え一撃で屠れるとは。あれがいわゆる会心の一撃か、と驚き慄く。そんな日出郎の耳に、戦場の騒音を割って、場違いに陽気なファンファーレが響いた。
同時に体の震えが収まり、興奮やら恐怖やらでぼやけていた視界もクリアになる。戦いが始まってからずっと感じていた身も凍るような不安が、少し和らいだ気がした。
なにが起こったか最初はわからず呆然としていたが、はたと思いたり自分の象明を見る。
【ヒデロウ・イサカ】
【越界種・日本人/男・25歳/勇者Lv.2】
【特性】
【肉体Lv.11 敏捷Lv.9 感覚Lv.10 知性Lv.11 精神Lv.8】
【HP:25/25 EXP:1/32】
【技能】(2)
【算術Lv.2、刀剣Lv.1】
【妙技】
【共枢言語※、共闘共栄※、◇◇◇◇※】
【召術】
【なし】
【装備】
【歩兵剣Lv.3、叡智の額冠Lv.35、革の胴衣Lv.1、布の服Lv.1、革のサンダルLv.3】
「やっぱり……レベルアップしてる」
「え? あ、おめでとうございます」
特性レベルはおしなべて1ずつ上昇し、それにともなってかHPも増加。刀剣技能を獲得しそして、読めなかった妙技の一つが読めるようになっていた。
【共闘共栄:同行集団は構成員が得た経験点を、自分も得ることができる】
なるほど、と納得する日出郎。おそらく先にハチェトリーが斃したゴブリン2体の経験点が、彼だけでなく自分にも加算されたのだろう。そして自力で片づけたキャタピラーの分も合わせてレベルアップした、と。
ゲームの『ファイナルラストファンタジア』では、レベルアップ時は3点を特性レベルに振り分けていたが、今回は全ての特性レベルが上昇した。
なにもかもゲームと同じではない、というのはわかっていたが、レベルアップにも適用されるとは嬉しい誤算だ。3ポイント振り分けだと、いざ自分の身になれば絶対、無駄に悩むに決まっている。
一方で技能の方は謎が残る。ゲームではやはり3ポイントの『技能点』がレベルアップごとに与えられ、目標技能レベルと同じ点数を消費することで新たな技能を習得したり、既存の技能レベルを向上させたりできた。
新たに習得した刀剣技能の他、象明の技能欄に2ポイントが浮かんだままになっている。つまり、刀剣技能が勝手に習得された上で、あと2点分を好きに割り振れるようだ。
じっくり考えられるまで技能点は貯めておいても良いが、今この修羅場を突破する力を得る方が先決であろう。素直に配分するならこのまま刀剣技能を2レベルに向上させるところだが、所詮は職業レベル2の自分にとって、それは意味のある行いか。
そもそもどうやって新規の技能を習得すればいいのか、考えながら【技能】のあたりを注視していたら、習得可能技能のリストがサブウィンドウで浮かび上がった。どうやら、レベルアップまでに行ったことによって、新規技能の幅は定まるらしい。
その一覧、および付記された解説を見て、日出郎はにまりと微笑んだ。
「ありがとうな、ハチェトリー」
呟きとともに、二つの技能を注視する。これと意識することで選択され、その力は速やかに、日出郎のものとなった。
【ゴブリン:Lv.4】
鬼人型。ファラスのゴブリンは結構強く、ちょっと鍛えた程度の素人が調子に乗って手を出すと、あっと言う間に囲まれてボコボコにされたりする。喧嘩慣れって大事。
【キャタピラー:Lv.3】
昆虫型。強い弱いで言えばきっぱり弱いが、体長3メートルの芋虫、という時点で心が折れる。
【クロウラー:Lv.5】
爬虫類型。全長2メートルを超える大蜥蜴。毒こそないものの、地球のコモドオオトカゲによく似ている。最初のダンジョンで新米冒険者に襲いかかったりは、しない。
【布の服Lv.1】
キルト地の長袖長ズボンと言うとファンタジーだが、チェックシャツと厚手の綿パン、と表現すると途端にしま●ら臭がする。
【革の胴衣Lv.1】
革ベスト。頑丈は頑丈だが、シャツとの組み合わせはお洒落とは言えない。
【手斧Lv.5】
ブラウム家では独り立ちする男子に斧を贈る。息子を猫可愛がりし旅立ちを認めようとしなかった父は、最後までこれを秘匿していたが、母の折檻を受けて渋々渡してきた。
【歩兵剣Lv.4】
実のところ騎兵剣を所持しているのはジェイワルズだけだったりする。
【魔晶石】
魔物によって色や大きさが異なり、高レベルの魔物の物ほど価値が高い。ゲームではないファラスにおいて、魔物を倒すとお金が儲かる理由づけ。