私の想い
『魔法少女ミラクルポップ』
『高瀬 真理』はどこにでもいる普通の女の子。
でもある時ひょんなことから魔法の国から来たマスコット『むむたん』と出会い魔法少女となる。
異世界に存在する魔法の王国は人々の嬉しいという感情で動いているよ。
でも悪い魔獣が人々を襲って皆から嬉しい感情を奪って行くよ。
魔法少女の使命は悪い魔獣を倒して皆を助ける事。
悪い魔獣を退治すると魔法の国からお礼にミラクルポイントが貰えるよ。
ミラクルポイントを貯めるといろんな奇跡が起こせるよ。
お菓子だって、お洋服だって、気になるあの人を振り向かせる事も。
そんな真理の魔法少女の物語。
「以上が原作の簡単なストーリーです」
何時ものように大樹の傍でのお昼ごはんで今朝出会った生物とそれに付随する原作を説明しました。
「う~ん特に変なストーリーじゃないと思うけど?」
率直な優さんの感想に、他の皆さんもウンウンと頷いています。
ですがサアさんや早苗さんなどは何か違和感を感じているようです。
「涼子ちゃんがここまで警戒するって事は、何かあるってことよね?」
「はい、私が今話したのは、言わば裏表紙に書いてある粗筋のようなものです」
「つまり、語られていない事があると?」
「嘘は言ってないですよ、魔法の国が嬉しいという感情を糧に動いている事も、魔獣が人々を襲う事も嘘ではありません」
「でも、それだけじゃあないと」
早苗さんの言葉に私は話し始めます。
魔法少女達の悲しい物語を。
「最初の三話までは魔法少女になった真理が魔獣を倒してミラクルポイントを貯めるまでが描かれています」
ふわふわの魔法少女の衣装を着た真理が魔獣を倒して行く可愛らしい物語でも。
「有る程度ミラクルポイントがたまった後、彼女は同じ魔法少女に襲われます」
「はあ!何でよ!同じ味方でしょう!!」
「ミラクルポイントのせいです」
魔獣を倒すと魔法の国から送られるミラクルポイント。
ミラクルポイントとはその名の通り奇跡のポイント。
ポイント数に合わせて様々な奇跡を起こす事が出来る。
それこそ何でも。
「問題はミラクルポイントが譲渡可能だった事でした」
とある魔法少女はどうしても叶えたい願いのため真理にポイントの譲渡を迫りますが断られ激昂し力ずくでポイントを奪おうと攻撃してきます。
魔法少女のバケモノじみた力でぶつかり合う二人。
周囲に甚大な被害を出し何とか勝利した真理と血を吐き事切れるもう一人の魔法少女。
「し、死んだの?!」
「ええ、死にました」
そう、このお話は容赦なく人が死んで行きます。
生き返る事はありません、他の漫画の様に実は生きていたとか、脳死状態で助かった、などと言った展開は絶対にありません。
同じ魔法少女からの突然の襲撃、そして犯してしまった殺人と言う罪。
恐怖に震える彼女に魔法の国から『人を傷つけた悪い魔法少女を退治した』報酬として多大なミラクルポイントが支給されました。
そのポイントの中には襲撃してきた魔法少女の分も入っていました。
『人を傷つけた悪い魔法少女』を退治すれば多くのミラクルポイントを貰える事。
そして倒した魔法少女からもミラクルポイントを奪える事を知った他の魔法少女達は譲れぬ願いのため終わりの無い戦いに身を投じます。
特に多くのミラクルポイントを持つ事になった真理は強制的にその争いに巻き込まれ、自身の罪に向き合う暇も無くさらに手を血で汚していきます。
善意が空回りし、悪意が悲劇を加速させる魔法少女達のバトルロイヤルが幕を開けるのでした。
「な、何よそれ、魔法の国は何考えてるのよ!」
あんまりな原作の内容に真っ青になって悲鳴に近い声の優さん、他の人達も似たような顔色をしています。
「優の意見に賛成だ、何故魔法の国は争いを助長するような真似を?」
「……鈴さん、もしも貴女が何か大きな事故に合い奇跡的に助かった時何を思いますか?」
「!!!」
思い当たる事があったのでしょう鈴さんの、いえ、全員の顔色が更に悪くなっていきます。
「深い絶望や悲しみ怒りを抱くかもしれません、でもこうも思いますよね『助かってよかった』と」
「そんな……それじゃあ………」
「むしろ、そういった負の感情が大きいほど反対の感情は純化され強大なエネルギーを生み出します、だから魔法少女が街で暴れてその被害が拡大すればするほど魔法の国は発展してゆき、そして厳しい戦いを潜りぬけた魔法少女達の感情もまた同じ、いえ、それ以上の爆発力を持っていました」
「ふっっっっざけるんじゃないよ!人間を何だと思ってるの!!」
特に正義感の強い優さんから恐ろしいほどの怒気を感じます、ですが。
「魔法の国にとって、この人間は燃料以上の価値はありません、そして魔法少女とは燃料兼体の良い回収人のようなものです」
「涼子もしかして最初に出てきた魔獣と言うのも……」
「ええ、適度に人間を傷つけ嬉しい感情を純化させるため魔法の国が街に放ったものです」
「自作自演……真っ黒じゃない魔法の国」
酷い頭痛に悩まされたかのように頭を抱える鈴さん。
ですが物語はそれだけでは終わりません。
激しい戦いの中で一人また一人と命を落としていく魔法少女達。
真理を含め数人が生き残った所で過剰なエネルギーで急速に発展した魔法の国がさらなるエネルギーを求め恐ろしい暴挙に出ます。
余りに強力な力を持ち魔法の国でも制御できずやむなく封印していた凶悪な魔獣を欲に目がくらんだ魔法の国は解き放ってしまいました。
解き放たれた途端目につくすべてを壊そうと暴れまわる魔獣。
破壊の限りを尽くす魔獣の姿に最後の最後で手をと入り合い戦う事を決意した魔法少女達。
ですが一人また一人と倒れて行く魔法少女達と炎に包まれ崩れゆく街。
最後に刺し違えるように魔獣に止めを刺した真理は最後の力を振り絞り、廃墟と化した街の中倒れながら自分の持っている多大なミラクルポイントを使い大切な人の幸福を願い息を引き取り物語は終わりを迎えます。
「「「「「………………………」」」」」
余りにもあんまりな結末に言葉も出ない様子です、無理もありません。
この救いのない物語をリリカルでポップな絵柄で描かれているせいでさらに悲壮さを際立たせていました。
表紙だけは可愛いイラストが描かれているせいで子供が間違って読んでしまう『事故』が多発。
ネットでも。
『あらすじ詐欺』
『表紙詐欺』
『トラウマ製造機』
などと呼ばれていました。
可憐な乙女たちの悲劇に多く人が涙しファンも付きましたが、フィクションならともかく現実となると話は違います。
「その悲劇をコイツが引き起こすってこと?」
怒りの臨界点を完全に突破した優さんの声は熱さを通り過ぎ絶対零度の冷たさを宿していました。
「むぎゅー!むぎゅー!」
その視線の先には今朝私の部屋に不法侵入してきた生物が糸でぐるぐる巻きにされて大樹の枝から逆さ吊りにされています。
「今朝急に涼子ちゃんが電話してきてビックリしたわ~」
「すいません朝早くにお騒がせしてしまって」
「ううん良いのよ~こういう事は私が適任だろうしね」
生物を縛っているこの糸はサアさんの得物。
遥かな昔、とある蜘蛛の妖魔が生涯出し続けた糸を手繰り集めた物。
明るい場所でも目を凝らさなければ見えないほど細いこの糸は、たった一本で数トンもある鉄骨を持ち上げたり、下手な刃物などでは切れない頑丈さを持っています。
糸からの振動で遠くの会話を傍受したり糸を束ねて敵の攻撃を防いだり、またこの妖糸を高速で動かす事によって凄まじい切れ味を出す事も出来ます。
無論それはサアさん個人のセンスと数千年に及ぶ研鑽の結果であり素人が下手に手を出そうものなら自分で自分の首を飛ばしてしまう事でしょう。
また、蜘蛛の妖魔の特性か、対象の力を吸収し無力化させる力を宿しており、この怪しい生物を縛るにはうってつけの代物です。
今朝この生物が現れて直ぐサアさんに連絡を取り捕まえてもらいました。
「ふふふふ…何の心配も無いわ、あと少し小指に力を入れるだけでこの生物はバラバラになるから」
「ふぎゅーー!!ふぎゅうーー!!」
「いえあの…」
「大丈夫だよ涼子ちゃん、そんなふざけた原作に関わる必要なんてないよ」
優さん十二神流の最終奥義の構えを取らないで!
「何の心配も無いわ、残り滓は私が燃やし尽くしてあげる」
バチバチと由梨華さんの手のからパイロキネシスの青白い炎が上がっています。
「いえ、ですから皆さん落ち着いて下さい」
他の二人も似たような様子で早苗さんは聖剣を取りだし、鈴さんもサクセサーの変身キーである指輪に手を掛けています。
「皆さん少し冷静になって下さい、所詮コレはただの末端、大本の魔法の国を何とかしなければどうにもなりません」
たとえ今ここで、この生物を消したとしても魔法の国には何の痛痒も感じません。
「だったとしても!涼子ちゃんがそんな事に付き合う必要なんかないじゃない!」
もっともな事です、こんな外道な原作に関わり合う必要はありません、ですが。
私は深呼吸をして呼吸を整え今まで考えていた事を話します。
「このままだと近い内にこの街が崩壊する可能性があります」
「どういうこと?!」
「先ほども言ったように原作では街が徹底的に破壊される描写がありました、このままでは何れ同じ運命をたどる可能性が高いです」
「何故それがこの街だと、他の街の可能性は?」
「いいえ、それはあり得ません、原作では魔法の国はこの上」
そう言って上空を指さした私に釣られるように全員が空を見上げます。
「上空に街を覆うように不可視の魔方陣を張りそれによって人々の感情エネルギーを集めています、この魔方陣は魔法の国と言えども簡単には展開できる物ではなく原作では真理の居る街にしかマスコットは現れませんでした」
つまりコイツがここに居ると言う事が、この街で原作が起きると言う何よりの証拠なのです。
ちなみに魔法少女達には街を出たらミラクルポイントが無くなると脅して街から離れられなくしていました。
「う~ん私が気付かないなんて、かなり高度な隠蔽の魔法が使われているみたいねぇ」
サアさんが眉根を寄せながら難しい顔で空を見上げています。
そしてここからは不確定ですが、もっと重要な事。
「サアさん」
「どうしたの?」
「『妖魔ハンターモルス』の未来編憶えていますか?」
「あまり覚えていないわね、以前も言ったように私の原作知識はあってないようなものだから、でもそれが重要なのね?」
「はい」
モルスと妖魔との戦いが様々な時代で描かれている作品、その中には未来が舞台の物もありました。
それも近未来など生易しい物ではなく、五十世紀や六十世紀など遥か遠い未来を描かれていました。
ですが、そこに描かれているのは華々しい未来ではなく、第三次世界大戦の影響で荒廃した未来。
地は裂け水は枯れ人心は荒廃し妖魔が跋扈している絶望的な光景。
要するにモヒカンヒャッハー状態です。
「原作ではなぜ戦争が起きたのか詳しい経緯は書かれていませんでした、ですがただ一行だけ『二十一世紀に起きた極東の一都市を完全に破壊するテロに端を発した戦争』と書かれている文がありました」
「「「「「………………………」」」」」
本日二度目の絶句。
「もちろん必ず戦争が起きるとは限りません、単なる私の考えすぎな可能性も高いです」
むしろ、そうであって欲しいです。
ですが。
「皆さん思い出して下さい、今まで皆さんが関わった原作で完全に原作回避できた事例はありますか?」
「で、でも助けられた人はいっぱい居たよ!あと乙女ゲームのイベントが起きなかったこともあったし!!」
「ええ、確かに起きなかったイベントもありました、ですがどうしても、『起こる』事を絶対に止められなかったイベントもありました」
思い出すのは眼鏡風紀委員長が起こした監禁事件。
自分達は眼鏡風紀委員長が監禁エンド有るのを知っていて、私達はそれを警戒して居ました。
ですが天文学的な偶然が重なり鈴さんは確かに一時的にではありますが監禁されました、サクセサーとして数々の戦いに身を置いていた鈴さんが、能力が高いと言っても、ただの一般人である眼鏡風紀委員長に攫われたのです。
それは私の高校受験の時の光景を思い起こさせました。
「由梨華さんも原作の悲劇を起こさないように行動していましたが、小規模ですがテロ事件事態は起きてしまったでしょう?」
「確かに、そう言われれば……」
「早苗さんの場合は変則的ですが勇者と魔王の戦いが一応起きましたよね?」
「ええ、原作と同じではありませんでしたが確かに起きました」
つまり、物語の骨子に関わるような事件などは必ず起きてしまう可能性が高いと言う事。
ですが、抜け道はあります。
今まで起きた強制イベントを見る限り、『強制イベントは必ず起きる』しかし『その結果までは世界の意思は関与できない』。
など、二つの事。
「……たしかに、陸兎さんを助けようとした時、私は陸兎さんの死亡イベント自体を無くそうとして危機に陥って、結局死亡イベントを引き起こしてしまった」
「ですが、その後二人で協力してその死亡イベントを生き残りました、監禁事件の時も同じ、『監禁事件』は起きました、ですが鈴さんは自力で脱出しました」
「じゃあ、戦争は起きないの?」
「正直そこまでは分かりません、何処までが強制イベントなのか判断が付きませんから、ですが…」
「魔獣の開放は必ず起きる、可能性は高いと?」
「はい、私はそう考えています」
今の日本で街一つが完全に破壊されたとして、世間はどう思うでしょう?
サクセサーも超能力も極一部の人しか知られていない現状、破壊された街で少女達の悲しい運命を知る人はいません。
人々が賢明な判断をすれば滅多な事は起きないでしょうが、全ての人が賢明な判断を取れるわけではありありません。
それに日本だけの問題ではありません、突然起こった事態に他国がどう反応するか。
「「「「「…………………………」」」」」
三度目の沈黙は今までよりずっと重苦しいものでした。
五人が言葉を失う中、私は今朝からずっと考えていた事を。
その思いを形にするため言葉を紡ぎます。
「私は………」
暗い雰囲気の中、自分の声は予想以上に大きく聞こえます。
「私は死にたくありません、今まで頑張ってきたのも悪役令嬢の死亡フラグを折るためです、没落エンドとか死亡エンドとか嫌です、だから頑張れました」
自分がどんな役割を負わされて生まれてきたのかを知ったあの時から私は、ただ逃げるためだけに己を鍛えてきた。
「私達は同じ転生者です、でも、優さんも鈴さんも由梨華さんも早苗さんもサアさんも違いました」
彼女達は、この先に起きる災いを知りながらも逃げずに戦う事を選び、そしてハッピーエンドを手に入れた。
「痛いのも嫌です、怖いのも嫌です、死ぬなんてもっと嫌です!!……でも」
それでも私は……
「バットエンドはもっと嫌です」
それが私の偽らざる思い。
「綺麗な悲劇より、安易なハッピーエンドが好きです」
私はゆっくりとここに居る全員の顔を見渡します。
「二次創作で原作で悲惨な運命を辿る人が救済されるのが大好きです」
ここに居るのは全員それを成し遂げた人達。
「もう一度言います私はハッピーエンドが大好きです、だから」
世界に怯えるだけだった私に勇気をくれた人達。
「みなさんの力を貸して下さい」
結局私は原作の悪役と変わらないのでしょう。
我儘で傲慢で卑怯で他力本願。
こんな結末は嫌だと、駄々をこね。
結末を変えたいと思い。
自分の力不足を知りながら。
友達を巻き込もうとしている。
それでも私は、戦争だとか、人類の行く末とか、小難しい事を言ったけど。
「私は変えたい、この悲劇の名作を、ハッピーエンドの駄作に貶めたい」
それが私の、日比野涼子の偽らざる本心。
「涼子ちゃん」
最初に動いたのは優さんでした、彼女は姿勢を正し真っ直ぐ私を見つめています。
その瞳からは先ほどまでの子犬のような人懐っこさは消え波紋一つ無い澄んだ水面のような静謐さを湛えていました。
「十二神流格闘技竜の技の使い手、辰宮優、我が友、日比野涼子の願い受け全ての理不尽と戦う事を誓います」
それは始めてみる十二神流の使い手としての優さんの顔。
「次はアタシだね」
その次は鈴さんでした。
「ペガサスのサクセサー兼ヘルシャフト首領代理、天羽鈴、難しい事は抜きだ絶対助けよう!」
力強い、鈴さんらしい宣言。
「しょうがないんだから」
その次は由梨華さんがヤレヤレと言った様子で。
「超能力保護機関エイドの東由梨華、戦争なんて起きたら私にだって影響があるんだから、変な遠慮しないの!」
幼子を叱るようにメッと叱られてしまいました。
「まったく、先が思いやられます」
早苗さんが困ったように首を振りながらも確りと私を見据え。
「異界の勇者、常盤早苗、人々を守る事それは勇者としての義務であり権利です、世界が変わろうともそれだけは変わりません」
それは彼女の確固たる信条。
「最後は私ね」
サアさんは何時ものように暖かな笑顔を零しながら何時もと同じような口調で。
「死神モルスの従者サアーダ・エレオス、人々に害をなす妖を倒すのは私の役目よ」
何時もと変わらず、それが己の役目なのだと笑いながら。
「ッ~………みんな」
本当に。
本当に得難い友人達です。
ありがとう
ただ、ひたすらに、にありがとう
でも今は、まだお礼を言う時ではありません。
だから。
「みなさん………」
この思いを何時かみんなに伝えるために。
当たり前で
平凡で
ご都合主義な結末を迎えるために。
「メアリー・スーを始めましょう!!」




