それぞれの恋愛事情
前回までのあらすじ
ヒロイン五人転生者+彼氏持ちでした、以上。
「でね、陸兎さんったらね…」
「いーなーそっちはラブラブで」
「鈴の場合は大切にされてるって証拠じゃない?」
「えーでもさー」
「あまりベラベラと口説き文句を垂れ流されるのも疲れるものですよ、この前なんか…」
「ふふふ、みんな仲良しさんね~」
六人中五人が彼氏持ちと言うこの状況。
話す話題の大半が惚気話になって暫くたちます。
「あーお茶が美味しい…」
最近では水筒のに入れてきた濃い目の緑茶を啜りながら惚気話を聞くのが日課になってきた今日この頃。
色々一人身には辛い状況ですが、まあ良いでしょう。
彼女達は課せられた苦難の道を乗り越え幸福を手にしました、それに嫉妬するほど狭量ではないつもりです。
優さんは以前話したように闇の格闘家集団との戦いの中で心を通わせ原作が終わった後、告白を受け正式な恋人に成りました。
ですがそれも簡単な道ではありませんでした。
原作知識で陸兎さんが死ぬ事を知っていた優さんはそれを回避するため色々と行動したそうですが、悪い意味で原作補正が付き逆に危機に陥ってしまったそうです。
絶対的な戦力差で原作知識も役に立たない状況に絶望しかけた優さんを救ったのは、助けようとしていた陸兎さんでした。
「あの時からかな、この世界の人達をキャラとしてじゃ無くて『人』として見始めたのは」
守ってあげる、などと驕った考えを改め共に生きていくという認識に変わった瞬間だったと、後に述べていました。
その後二人で協力して死亡フラグ折る事に成功。
今も時々その時の陸兎さんの雄姿を惚気ながら話してくれます。
鈴さんは自身を助けてくれた凱さんに思いを寄せ、告白しました。
ちなみに凱さんの年齢は二十五歳、彼の名誉のために言っておきますが、けっっっして彼はロリコンの類ではありません。
むしろ最初は好意を伝えた鈴さん対し、鈴さんの感情は恋愛感情ではなく組織から救ってくれた者に対する一種の刷り込みに近い感情だと言う事を。
そして自分はヘルシャフトとの戦いで何時か命を落とすかもしれない、それよりも戦いとは無縁の場所で他の誰かを愛して欲しいと言ったそうです。
そんな事を伝えられた鈴さんは当初かなり落ち込んだそうですが、凱さんの真っ直ぐで熱い心に何時しか真剣に彼の事を愛している自分に改めて気が付いたと。
「あれが、アタシの本当の恋の始まりだった」
当時の事を振り返ってくすぐったそうに話す鈴さんは、とても綺麗でした。
その後改めて自分が凱さんの事を好きだと言う事を伝えました、無論それでも凱さんは首を縦には振りませんでしたが根強く鈴さんが思いを伝え続けた結果、高校を卒業までその気持ちが変わらなければ正式にお付き合いをするという条件で了承されました。
なので現在のお二人はとてもプラトニックです。
もっとも雰囲気はダダ甘ですが、傍目から見たら凱さんだって確り鈴さんの事を想っているのがまるわかりです。
由梨華さんの相手はなんと原作主人公の十夜さんです!
典型的な一級フラグ建築士で難聴系鈍感ハーレム主人公、原作では結局最後まで特定の恋人を決める事無くハーレム継続エンドを迎え一部ですが強烈なアンチを生み出した存在。
どうやって恋人同士になれたのか聞いた所。
「え?ちゃんと目を見て確りした発音で「あなたの事を異性として愛してます」って言っただけだよ」
と、大変に漢らしい返答を貰いました。
「それと料理かな、特別上手い訳でもないけど、普通の手作りのお弁当とか渡したら物凄く喜んでくれたわ」
「あ~確かハーレムヒロインの殆どが何故か飯マズ設定だったから……」
「まさか、普通のお握りに涙流しながら感謝されるなんて思わなかった」
なお超能力は心の強さに関係する様で、原作では最終巻で多大な犠牲が出た後ようやく「皆を守りたい」とか言って強力な力を覚醒させた主人公ですが、この世界では早くに由梨華さんという恋人が出来たおかげか、原作より早くに力の覚醒に成功。
そのおかげでテロ組織との戦いを有利に進める事が出来、原作の悲劇の回避に繋がったそうです。
早苗さんの場合、異世界で頑張って原作の悲劇を回避して居る頃に魔王が行き成り王国に進攻してきたそうです。
この時、色々と魔王国と友好的に同盟を結ぼうとしていたため、魔王の行動はまさに青天の霹靂でした。
もっとも、魔王としては色々鬱陶しいちょっかいを掛けてきた人間の国が行き成り友好的な態度を取り始めたと見える訳で、頭も良く、カリスマがあり魔族としての矜持も持ち合わせていますが、基本的な性格が脳筋の魔王にしてみたら、一戦交えて真意を測ってみようといった程度のものだったそうです。
ですが人間側にしてみたらたまった物ではありません、とにかく早急に民を避難させ様としましたが、何しろ魔王は単体で動いているので非常にフットワークが軽く早苗さん達の国まであと少しの所まで迫っている状況でした。
そこで当時すでに最強の勇者の称号を得ていた早苗さんは国境付近に赴き少しでも時間を稼ごうと単身魔王に挑んだそうです。
二人は魔王国と人間の国との中間地点にある荒野で激突。
三日三晩の激しい戦いの後に両者とも激しい疲労で力尽き倒れながらお互いに。
「「惚れた、私の物になれ」」
と言って告白して、お付き合いが始まったそうです。
「どこをどうしたらそうなる!」
「三日間にも及ぶ殺し愛の末、気が付いたら彼の事愛してました」
「あーあるよね、そうゆう事」
「言葉を百紡ぐより心に響く事がある」
「うんうん分かる分かる」
「うふふふ若いわね~」
何故か早苗さんに激しく同意する皆さん、なにこのアウェイ感。
「涼子ちゃんもそのうちわかるわよ」
いやサアさん、そんな母親が子供に「大きくなれば分かるわよ」みたいなノリで言われても……
兎に角その後、早苗さんが将来、魔王に嫁入りすることを条件に同盟を締結したそうです。
「彼ったら、早く嫁に来いって煩いの、まったく少しは待てないのかしら」
早苗さんは此方の世界で確り知識を蓄えてから、あちらの世界に腰を落ち着ける旨を魔王さんに伝え彼も了承していますが、時々我慢がきかなくなって無理矢理次元の壁を突き破って来ては、早苗さんに聖剣でぶん殴られるまでがデフォです。
「みんな素敵な出会いよね羨ましいわ~」
そう言ってのほほんと笑っているサアさん、いえいえ、貴女だって負けては居ませんよ。
サアさんは初めてモルスと出会った時からずっと彼の傍に寄り添い続けているそうです。
それこそ数千年単位付き合いです。
「気が付いた一緒に居たわね~慣れって怖いわ~」
何と言うか傍目からは、熟年夫婦にしか見えませんでした。
何時も無表情なモルスさんですが、サアさんと居る時は表情こそ変わりませんがその空気が若干和らいでいる気がします。
サアさん自身の原作知識は殆ど使えない状況ですが、原作では永遠の孤独の中で生きるモルスの傍に居るという事が何よりも原作ブレイクになっています。
それぞれラブラブっぷりを連日遺憾なく発揮してくれている皆さんですが、そんな事お構いなしに攻略キャラの人達は彼女達を口説いてきます。
無論彼女達も最初は恋人が居るからとやんわりと断っていたのですが。
「俺の方が相応しい」
とか
「ふ、俺の誘いを断るとは、ますます欲しくなったぞ」
などと訳の分からない事を言いながらしつこく迫っています。
顔と能力だけは高い人達なのでこの学園では彼らはかなりの有名人ですが、最近では『彼氏持ちの女性に言い寄る残念美形』といった認識が広まっています。
それでも熱烈なファンは居ますが原作に比べてかなり支持率が落ちているのは確かです。
知らぬは本人ばかりなり。
また、ゲームではヤンデレルートもあり、一向に靡かない彼女達に対し、そういった行為を働こうとした事もありましたが特に大事に至っては居ません。
優さんに壁ドンをかました俺様生徒会長は見事な腹パンを喰らい悶絶。
ホスト系教師は、学年主任に相談して注意してもらいました。
生徒に言い寄っているのに何故か大した処分もされませんでしたが、他の先生方を味方に付け、なるべく由梨華さんには近づけないようにしています。
もっとも何故か、由梨華さんの居る所にかなりの確率で現れて言い寄ろうとした所をサイコキネシスで縛られて転がされたりしてます。
一匹狼系不良も腕力に物を言わせようとした所逆に早苗さんにボコボコにされてました。
早苗さん流石に一般人相手に攻撃魔法はやめて下さい、人死には流石に不味いです。
え?これでも手加減している?本気なら聖剣で撫で斬り?どちらもやめて下さい。
一番すごかったのは眼鏡風紀委員長に言い寄られていた鈴さんですね。
眼鏡風紀委員長のヤンデレルートで拉致監禁エンドがあり気を付けていたのですが、世界の意思なのか絶妙なタイミングで鈴さんは眼鏡風紀委員長が持つ別荘に連れ去られてしまいます。
慌てて助けに行った私達が見た物は。
爆発炎上する別荘。
その中から傷一つ無く、揺らめく炎の中サクセサー姿でゆっくりと歩きながら出てくる鈴さん。
その勇姿に思わず処刑用BGMを口ずさんでしまいました。
あ、ちゃんと眼鏡風紀委員長は生きてますよ。
ボロボロの姿で気絶している所を別荘の焼け跡から発見されました。
もっともそんな事があった後も、しつこく言い寄っている根性はある意味凄いと思いますが。
何でも衝撃で記憶が飛んでいるらしいです。
また、彼らの実家の力を使い裏から手をまわして彼女達を手に入れようとした事もあったそうです。
確かに彼らの実家の力なら一般人の女性を裏の手口で手にする事も無理ではありません。
確かに彼女達は表向きは無名の一般人です。
ですが裏を返せば、表以外では無名ではありません。
鈴さんは秘密結社ヘルシャフトの首領代行ですし。
由梨華さんは、超能力者を庇護する政府の組織の支援を受けています。
意外な影響力を持っていたのが優さんでした、以前優さんが原作知識を使い暗殺者の手から救った人たちの中に、とある政財界の大物が居たそうです。
その人、仮に『ご老人』と呼びますが、助けられたご老人は優さんの事をいたく気に入り実の孫のように可愛がっているそうです。
その可愛がっている優さんに不埒な男が不純な動機で手を伸ばそうとしたらどうなるか。
色々ヤバかったとだけ言っておきます。
ちなみに早苗さんは、この世界では特に権力に関係ない一般人の生まれですが、上記の人達の力を借りて色々手を回してもらいました。
このような事があり現在イケメン達の行動に彼らの実家も頭を痛めているそうです。
この先どうなるのでしょうね、下手すれば廃嫡なんて事態なりかねないと思うのですが。
同情はしませんけど。
他の攻略キャラも彼女達に惹かれてはいますが、彼女達に恋人が居ると知ると身を引くか、諦めきれなくても遠くで見守る程度でおさめています。
思うに世界の意思はイベントを強制的に起こせても、その中の登場人物の感情は操作できないのでしょう。
要するに事件を起こすのは彼らの性質の問題と言う訳です。
「貴女が気に病む事は無いわ、彼らがどんな結末を迎えようと、それは自業自得なんだから」
これは一連のヤンデレイベントを防げなかった事に責任を感じていた私にサアさんが掛けてくれた言葉です。
「周りがどんなに彼らの事を気にかけようと、彼等はああする事を選択した、自分を追い込むのは自分自身、冷たいようだけど、それに気づくまで彼等はあのままでしょうね」
その言葉のおかげで色々吹っ切れました、いい加減彼らの身勝手な言い分にうんざりしていたのもありますが。
そのサアさんですが、春に原作が始まったばかりなので『まだ』変なイベントは起きていません。
今の所サアさんに一番執着を見せている後輩美少年。
モデルの両親から生まれた彼はイケメンを見慣れている私達でも思わず「うわ!」と見とれてしまう位の美少年です。
ですが彼は自分の見た目だけに釣られる女性を毛嫌いし、自分の美貌に見惚れないサアさんに興味を持ちます。
「あの人なら本当の自分を見てくれるかもしれない」
という期待を胸に。
違う、違うんだ少年よ。
確かにサアさんは相手の本質を見るのが上手いです伊達に数千年の年齢を重ねてはいません。
ですが彼女だってイケメンは好きです。
ただ、その比較対象が凄すぎるだけなんだ。
サアさんの恋人モルスさん。
彼は文字通りの絶世の美貌の持ち主です。
原作でも表現できない美しさとか、その場の空気さえ見惚れるなど書かれていました。
敵や味方も彼に見惚れ、時には神々や精霊さえも魅了する美しさ。
ニコポなんて目じゃない、その場に居るだけで全てが彼に見惚れる美貌。
正直甘く見ていました。
「いくらなんでも作家が過剰に書き立てていただけなんじゃ?」
「イケメンなら見慣れてるし平気平気」
なんて気楽に考えてサアさんにモルスさんを紹介され一目見た瞬間。
脳が沸騰しました。
比喩表現ですがあの時は本当に沸騰したかと思いました。
急速に頭に血が名ぼる感覚、ただ目の前の存在を凝視するだけの石像と化した私達。
少しでも彼の傍に居たい、近づきたい、そんな思いに囚われ、熱に浮かされながらも無意識に彼に手を伸ばそうとした所で、ほんの僅かに残っていた理性を総動員して。
私→優さん→鈴さん→由梨華さん→早苗さん→私
の順にお互いを殴り合う変則クロスカウンターとでも名付けましょうか、お互い同士を円になって殴り合い何とか正気に戻ってこれました。
絶世の美貌の前で円になってお互いを殴る少女達。
シュールってレベルじゃない。
ただモスルさん本人は非常にいい人でした。
奥歯がグラグラになりながら挨拶した私達を言葉は少なかったですが心配してくれました。
その姿に再度ぼうっとなりかけましたが今度は正気を失わずにすみました。
原作ではもっと非情で妖魔を倒す事以外興味が無いような描写をされていましたが、ずいぶんと印象が違いました。
サアさん曰く、モスルさんの顔を見てこんなに早く正気に戻った人は久しぶりらしく、そのお陰で機嫌が良かったらしいです。
他にも早く正気に戻った人が居るのかと聞いた所。
「う~んそうねえ、ヨセフさん家の息子さんと、シュッドーダナさん家の息子さんとかかしら」
そんな聖人と一緒にされても困ります、というかサアさんの交友関係が怖すぎます。
「そりゃあ、伊達に長生きしてないもの」
「いえ、その一言で済ませられても………いえ何でもありません」
取りあえず深く考えるのは止めましょう。
とにかく例えイケメンだとしても後輩美少年君は人間の範疇に収まる程度の美しさです。
万物を魅了する『美』そのもの、とも言えるモスルさんと数千年と言う月日を共にしたサアさん曰く。
「う~ん何だかねえ、美醜の違いは分かるんだけど、みんな同じに見えるのよね」
「まあ、あんな人外の美貌と数千年一緒に居ればそうなるのも無理は無いかもしれませんね」
「他にも綺麗だって感じる物はあるわ、花だったり、木々の木漏れ日、満天の星空、切れるよな冬の日の朝焼け、深海で揺らめく陽光、どれも綺麗だと思う、だけど私にとって価値のある『美』とはモルスだけなの、ふふふこれって面食いって事になるのかしら?」
「う、う~んどうでしょう?」
何か物凄い事聞いてしまった気がします。
「そんな事よりも!」
「うわ、どうしたんですか優さん」
先ほどまで彼氏談義に花を咲かせていた優さんが勢い込んで話しかけてきました。
「ねえ!私少し気になる事があるの!!」
「気になる事ですか?」
「うん、涼子ちゃんは私達の事、オリキャラもといメアリー・スーだって言ってたよね」
「ええ、皆さんの活躍はそれにふさわしいものだと思います」
「だったらさ、涼子ちゃんは何なんだろうって思ったの」
「私?」
「あ、それはアタシも気になってた」
「うんうん確かにね」
どう言う事でしょう、意味が分からず首をかしげる私に鈴さんや由梨華さんや他の人達も話に乗って来ました。
「つまり優さんは私も何らかの原作に関わり合いがあるのではないかと言う事ですか?」
「そうそう、だってこんなに原作持ちが集まってるんだよ、涼子ちゃんだって何かあるかもしれないじゃない!」
優さんの言葉に他のみんなもウンウンと頷いています、でも。
「どうでしょうか、私は皆さんのような特別何かすごい事をしたわけではないのだし……」
「ええ!そんな事無いよう、私達がこうして知り合えたのも涼子ちゃんが居たおかげなんだし!!」
「ふふ、ありがとう、でもそれなら単純にこの乙女ゲームのメアリー・スーだと思うのですが?」
「う~ん、そうなのかなあ、なんか違う気がするんだけど……」
いまいち腑に落ちない様子だった優さん。
そんな会話をしたのが昨日。
フラグ……だったのでしょうか?
そして今朝。
「ボクと契約して魔法少女になってよ」
「いやああああああああああああああ!!」
朝起きたら枕元に犬とも猫とも判別が付かない小動物もどきの生物が居ました。
どうやら私の物語は乙女ゲームでは無かったようです。