メアリー・スー
ブックマークして下さった方
評価してくださった方ありがとうございます
拙いながらも、ゆっくりやっていきたいと思います。
『竜玉争奪戦記』
遥かな昔、竜と戦い勝利した男がいた。
男の強さに感嘆した竜は自身の宝である竜玉を男へと譲り永久の友誼を誓った。
男は自身の技を11人の弟子と息子に継がせ12の流派からなる十二神流格闘技を編み出しその開祖となった。
時は過ぎ現代日本。
男の直系の子孫である『辰宮 竜太』は先祖から受け継いだ竜玉とそれを狙う謎の組織との戦いに巻き込まれてゆく。
と言うのが大まかな粗筋の週刊マンガ雑誌で連載していた漫画。
最初こそ竜玉の謎を追うといったストーリーだったが週刊マンガ雑誌の宿命か回を重ねるごとにバトル色が強くなって行き中盤以降完全にバトルマンガに移行。
主人公とその仲間たちが使う十二神流格闘技の使い手たちと闇の格闘家集団との死闘が描かれている。
ただ、それ以降人気が爆発しアニメ化もされた人気作品。
「以上が私の知っている竜玉争奪戦記の大まかな情報です」
「うん、私の知ってる事と大体一緒だね」
衝撃のハイキングの翌日。
私は何時もの大樹の傍で辰宮さんと一緒にお弁当を食べています。
どうしてこうなった。
結論からいえば彼女は私と同じ転生者でした。
あの後、熊を一撃で倒した雄姿に呆然としていたら振り返った辰宮さんとバッチリ目が合いました。
思わず。
「乙女ゲームじゃ無かったのーーーーーー!?」
と叫んでしまった私は悪くない。
混乱した私を必死に宥めてくれた辰宮さん。
いろいろ思い出したくない醜態を晒しながらも、お互いの事を話しあって分かった事それは。
私が乙女ゲームに転生したと思っていたように彼女は『竜玉争奪戦記』に転生したと思っていた。
何故彼女がそう思ったのか、彼女の名字『辰宮』で分かる通り原作主人公『辰宮 竜太』の『妹』としてこの世界に生を受けたからだそうです。
ただ一つ問題が、そもそも原作には主人公の『妹』など居なかった筈です、その事に関して彼女は。
「二次創作とかでよくあるオリキャラ転生したと思ってた」
らしいです。初めは半信半疑だった彼女も兄の名前や家が特殊な格闘技を教える道場だったことや。
自身も超強力な格闘技を教え込まれたり。
何より彼女が中学一年の頃、原作が始まったのを見て確信に変わったそうです。
ちなみに原作は彼女が中学三年の時、ラスボスを倒して終了したらしいです。
「それにしても乙女ゲームねぇ」
私の『綺羅氣螺学園物語』の説明を聞いた辰宮さんは、あまりピンと来ていないようです。
「辰宮さんは今まで乙女ゲームだって気付かなかったのですか?」
自分はこの特徴的すぎる学園名に今まで目をそむけてきた悪役転生という事実を突き付けられたのだが。
「やーだって、この世界が『竜玉争奪戦記』だって言う先入観があったし、何より『前』の私は少年漫画にハマって乙女ゲームとかには手を出してなかったのよね、妙にキラキラしい顔の人ばっかに縁があると思ったらそう言う訳だったんだ、って言う事はあの人と恋人に成ったりしたかもしれないのうわーないわーー……」
「嫌そうですね、会長とは随分仲良く見えたのですが?」
ついでに世間一般的には高物件なのですが。
「一応上級生だし生徒会長だから無碍にはできないけど、正直上から目線の人ってタイプじゃないのよね」
「あらら、それはまた……」
会長ご愁傷様です。
「それに」
「それに?」
まだあるのでしょうか?
「私、彼氏いるし」
「うゑ」
思わず変な所から声が漏れてしまいました、ってそうじゃなくて!
「ええええええええ!辰宮さん彼氏いるんですか!?」
「うん」
「何時から!?」
「中学三年の時、告白されて」
「だ、誰ですか!?」
「キャラとしてなら日比野さんも知ってると思うけど『卯月 陸兎』って人」
「えええええええええええ!!!」
『卯月 陸兎』
『竜玉争奪戦記』の登場人物の一人で十二神流の使い手で主人公の仲間の一人。
優しい風貌に違わない繊細で臆病ともとれるほど大人しい性格。
しかし一旦仲間達に危機が訪れると持ち前のスピードを生かした超高速格闘術駆使して戦う勇気を持つ少年。
ですが。
「彼ってラスボス戦で主人公庇って死んでませんでしたか?」
「助けたに決まってるでしょ」
辰宮さん曰く積極的に原作に関わった結果、彼だけでなく原作で死亡するはずだった人達がかなり生き残っているそうです。
「オリキャラとして生まれたからにはこれ位しないとね」
との事です。
「とにかく、最終決戦が終わった後、陸兎さんに告白されてそれから付き合ってるの」
「わ~~………」
乙女ゲーム始まる前から終わってました。
「陸兎さんったらね、普段は大人しいけど私に告白してくれた時なんて、すっごくかっこ良かったの!何時もの優しげな顔がすっごく男らしくなっててラスボス戦の時にも無かった位、真剣な表情でね!それでね!それでね!」
「あー辰宮さんそれぐらいで……」
なんとなくブラックコーヒーか濃い抹茶を飲みたい心境です。
「それに私より弱い人はちょっとねー」
「いやそれは流石に会長が可哀想ですよ…」
熊も一撃で倒す格闘技の使い手と比べたら世の中の大半の人はひ弱です。
普通の学園ラブコメ乙女ゲーム出身の会長には荷が重すぎます。
「それで辰宮さん」
「優だよ」
「え?」
不意の言葉が理解できずパチリと瞬きをします。
「優って呼んでよ、そっちの方が呼ばれ慣れてるし、私も涼子ちゃんって呼ぶからさ」
「え、あ…は、はい」
転生してから気軽に名前を呼んでくれる人なんていませんでしたから少し嬉しいです。
「それに友達なんだから名前呼び位当たり前だよ」
「友達……」
「そうだよ、それも普通の友達じゃない、転生なんてとんでもない事を話しあえる間柄なんだから」
「~~~っはい!」
訂正します、すっごく嬉しいです。
「そ、それでですね優さん」
コホンと咳払いで赤くなった顔を隠しながらこれからの事を話す。
「この乙女ゲーム、優さんで終わりじゃないんです」
「ん?どう言う事?」
「つまり続編があるんです、もうすぐ次のヒロインが転校してきます」
「新しいヒロイン………あ、それじゃあ私のヒロイン役も終わりってことで会長に付きまとわれないで済むかな?」
「あーそれはどうでしょう……」
正式な続編は五作品だけでしたがファンディスクやその後を描いた小説や漫画も結構出ていました。
その中で会長の相手は大体が優さんだったはずです。
「うわーだめかー」
「あの、お付き合いしてる方が居る事は会長には?」
「言ったよ、それでもあの状態なの!乙女ゲーム補正か何だか知らないけど良い加減にしてほしいよ、最近話す時顔が近いのよ!」
会長ぇ…ちょっと同情しようかと思いましたが止めます。
「話を戻しますが七月には新しいヒロインが転校してきます」
「問題は彼女が私達と同じかどうかって事だね」
「はい」
普通に考えれば、そんな偶然そうそうあるはず無い物ですが、そもそも私達という存在そのものが本来あるはずの無い物です。
「う~ん、でもそんなに難しく考えなくてもいいんじゃない?」
「え?」
「転生してるかどうか分からないけど、良い人なら友達に、嫌な人なら距離を取ればいいんじゃないかな」
「それは……」
思えば、お互いが転生者だと知らない時も彼女は何かと私に良くしてくれました。
「だからさ、難しく考えなくて良いんだよ、みんな涼子ちゃんが酷い事しないってしってるからそんなに警戒しなくて大丈夫だよ」
「優さん……あなたは………」
一人でいるときには考える事すらしませんでした。
思えば常に怯えていました、何時かこの世界が『私』に牙を剥くのではないかと。
でも彼女は違います。
例えご都合主義と言われようとも物語をハッピーエンドに導く力。
まさに二次創作に出てくるオリ主のような人です。
いえ、女性である優さんはもっと優雅な響きを持つような名が相応しい。
だったらアレが一番合っているような気がします。
「優さん貴方は正にメアリー・スーのような人です」