後日談 サアーダ
六話連続投稿となっていますので注意してください。
世界崩壊
かつて我々の世界を襲った異変。
その始まりは諸説あり20世紀の大戦が始まりとも冷戦が切っ掛けとも、それ以前、遥か過去から始まっていたと唱える者もいる。
だが大多数の人々は21世紀とある地方都市を襲った災厄を想像するだろう。
かつて愚かにも、とある魔法の国がこの世界の住人を詐欺まがいの手口で搾取していた事件があった。
そしてそれが阻止されると見るや、舞台となった都市そのものを破壊しようとする暴挙にいち早く危険を察知した民間人の活躍により事態は早期に終息、大きな被害が出る事はなかった。
問題はその後だった。
この当時、我々の身近にある超能力や魔法と言った者に代表される技術は一般には知られておらず、極一部の人々が秘匿している状態。
だがこの事件を機に超常の存在が一気に世界中に認識されるようになった。
当時の人々の驚きようは想像を絶するものだっただろう。
今まで御伽話やインチキだと思っていた事が実は真実だったと言う事実に世界は衝撃が走った。
その衝撃は人々の持つ常識、つまり世界観を崩壊させるのに十分な威力を持っていた。
政治、経済、宗教、文学、科学、医療、その他この世界にある人、物、どれをとっても影響を受けなかったものは居なかった。
新たなビジネスチャンス、新たなフロンティア、輝かしい未来に人々は酔いしれた。
だがそれは世界のほんの一面にすぎなかった。
新たな技術により起こされる事件、事故、そして差別それらの負の側面が着実に世界を蝕んでいった。
人は異端を嫌うもの。
ある日突然、隣人が異能者や人間ですらないかもしれないと言う事態に人々は混乱した。
超能力者の児童の登校を学校側が拒否する事態にもなり大きな社会問題に発展した。
当時では未知だった技術による犯罪およびテロ行為が頻繁に行われ社会情勢が不安定だったのにも事態の拍車をかける要因にもなった。
これらはどれも対応を一つ間違うと世界崩壊に繋がる代物ばかりだった。
だが我々人類はそれらを乗り越え新たなるステップへと進む事が出来た。
様々な要因はあるが、その中心には常に六人の女性の姿が確認されている。
彼女達はそれぞれの分野において輝かしい業績を上げ混迷の時代に確かな秩序を作りだした。
当時の人々は彼女達を称賛、憧れ、嫉妬、親愛、恐怖、尊敬、畏怖、様々な複雑な感情が入り混じった複雑な感情を籠めて彼女達をこう呼んだ。
『メアリー・スー』
その呼び名にふさわしく彼女達の活躍は目覚ましく、その余りにも鮮やかな手腕に後年多くの歴史学者達が彼女達の一人でも欠けていたのならば人類はここまで繁栄するにはもう4、5世紀かかったであろうと言われている。
また、これもよく知られている事だが彼女達は同じ学園の出身で在学中に知り合い深い友情を育み、それが後の混迷の時代において全員で力を合わせる原動力となった。
在学中彼女達は常に行動を共にし友好を深め、とある大樹の下で様々な事を語り合ったと言う。
ただ、大樹が生えている場所の立地条件と、当時からすでに学園中から一目置かれていた彼女達の邪魔をする事を嫌った生徒達によって当時彼女達が何を話しあっていたかは近年になっても分かっていない。
多くの学者達は、既にこの時から世界情勢などの事が話し合われていたのではないかと言われているが、後に女傑として名を馳せる彼女達も当時は華も恥じらう乙女、時に恋の話などに花を咲かせていたのではないかと筆者は愚考したい。
閑話休題
少々簡潔ながら、それぞれ六人の紹介とその活躍を纏めてみたいと思う。
日比野 涼子
特殊災害対策局の局長を務め世界中で頻発する事件、事故、超常現象などの解決に導いた人物。
通称『J』事件やマンハッタン大樹海現象、月面崩落事件、などの数々の大事件を的確な指揮で最小限の被害で鎮圧したのは余りにも有名な話である。
彼女の指揮は時には突拍子もない様な支持を出す事もあるが、それは後々の布石となり事件解決に一役買ったと言った事が幾つも確認されている。
また、人の才能を見抜く目も長けており、彼女に見いだされた者達の中にはそれまで触った事すらなかった技術を教えた結果、見る見る内に熟練者すら圧倒する技術を身に付けると言った事も珍しくなかった。
このような事から、予知能力者ではないかと言われているが本人は否定している。
六人の中の中心的人物で纏め役でもあったと言われ、彼女が帰国するたびに他の五人も集まり情報交換をしていたと言われている。
辰宮 優
十二神流格闘技の使い手で彼女自身優れた使い手でもあるが、特筆するべきは、彼女の弟子達にある。
本来、僅かな人間しか修める事の出来なかった十二神流を多くの人達が学べるように改良する事に成功する。
それは、一般市民でもある程度の自衛の手段を手に入れたと言う事である。
この事によってテロなどの犯罪での死傷者がかなりの人数が軽減されたと言われている。
彼女に師事した人の中には社会的地位の高い人達がかなりの数存在しており、彼、彼女達は自力で己に降りかかる困難を乗り越える術を手にする事となった。
間接的に彼女が救った命は六人の中で最大だと言われている。
天羽 鈴
秘密組織ヘルシャフト首領であり裏社会の支配者として長く君臨していた人物。
秘密結社という性質上詳しい活動内容は分かっていないが、特に超科学による犯罪者撲滅に力を入れており違法な人体実験などを行うマッドサイエンティスト等が標的になっていたと言われ、人体実験の被害者の保護や社会復帰などにも力を注いでいたと言われている。
東 由梨華
自身も優れた超能力者であり何かと差別されがちだった超能力者を始め、様々な能力者の子供達を平等に教え導いた教師。
何かと繊細な時期の能力者にとって最大限の理解者であり続けた。
また、過激派による能力者を狙ったテロなどでは体を張って子供達を守ったという実績がある。
彼女の教えを受けた子供たちが様々な分野に進出して行き大きな勢力になって行った。
常盤 早苗
日本に生まれながら、異世界の魔王国の王妃となった女性。
その優れた内政手腕にて、魔王国を大いに富ませ積極的に此方の世界との交流を図った。
この時代において異世界交流がスムーズにできたのは彼女の功績が大きいと言われている。
没年不明の一名を除き彼女たちの中で一番の長寿で150歳まで生き、その葬儀には世界を超え様々な人々が弔問に訪れたと言われている。
また夫婦仲も非常によく、魔族と人間との時間の流れの違いから夫より先に死んでしまった彼女を魔王は何時までも愛し続けていたと言うエピソードがある。
サアーダ・エレオス
この時代に存在が認知され始めた妖魔と言う生き物に付いての深い造詣を持ち様々な人々に妖魔の脅威を訴えその対処法を伝授した。
彼女のアドバイスは的確で妖魔関連の事件などでは非常に重宝されたといわれている。
さらに人間に害をなそうとした妖魔を直接討伐することもあり、様々な妖魔関連の資料にて彼女の名が乗ることも多々あった。
ただそれ以外は謎の多い人物で、ほかの五人の出自がハッキリとわかっているのに対し彼女だけは、その特徴的な見た目に反しどこで生まれたのかさえ分かっていない。
またその最後も謎が多く公式な記録に残っているのは、常盤早苗の葬儀で彼女の名が記帳されて以降、公式の記録に彼女の名が乗ることはなくなり、そのすぐ後に死亡したのではないかというのが通説になっているが、その後も彼女らしき人物を見たという目撃例が相次いでいる。
また、26世紀末期に起きた妖魔大戦で彼女らしき人物が各地で活躍したと言われているが、どれも決定的な証拠は無い。
六人の中で最も謎に満ちた人物と言える。
一説によると彼女は………
「またその本を読んでいたのか?」
かけられた声に本から顔を上げれば、視線の先には、どんなに時がたとうとも見慣れることなどない美しい貌があった。
「ええ、この微妙な人物紹介が結構気に入っているの」
するりと撫でた本の表紙には『40世紀を迎えるにあたり振り返る歴史』という題名が書かれている。
「そんなものか」
声も表情も何の抑揚もない無表情だが、長い本当に長い年月を共にしてきたサアだけは、その無表情の中に『呆れ』の感情を感じることができた。
その事に少し嬉しさを感じながら、改めて周囲の景色をゆっくりと見回す。
そこにはただ赤茶けた剥き出しの大地が延々と続く荒野が広がっていた。
目の前に広がるただ、ただ荒涼とした世界。
「……………………」
腰を下ろしている地面に手を伸ばし小石を拾えばサラサラと砂となって指の隙間から逃げてゆく。
誰が想像するだろう。
かつてこの場所に緑豊かな大樹がそびえ立っていたなどと。
全ての物に終わりは等しく訪れる。
見上げる天に空は既に無く、赤々と燃える赤色巨星の容赦のない熱波が地上を焼いている。
約50億年という年月が過ぎた今、老年期に差し掛かろうとする太陽が膨張し地球を、いや太陽系その物を飲み込もうとしている。
既に、この地球には知的生命体は存在せず、わずかな微生物が細々と存在するのみ。
その微生物たちも、もうすぐ今星ごと焼かれ消える時が刻々と迫ってきている。
ボウ!
「あら」
先ほどまで読んでいた本が太陽からの熱線に耐え切れず発火し、燃え尽き灰になった。
その灰も風に吹かれサラサラと風に乗り塵となって消えていく。
その様は、もうすぐ訪れるこの星に訪れる運命その物のように見えた。
「そろそろ行こう」
「……………もう、そんな時間なのね」
地表は既に灼熱地獄と化し、あちらこちら融解している部分さえある。
自分たちのような存在でなければ存在することさえできない状態だ。
それも持ってあと数時間だろう。
もうすぐこの星は太陽に完全に飲み込まれる。
最後の思い出にと懐かしいこの場所で皆のことが書かれた本でも読んでみたが、どうやらタイムリミットのようだ。
改めて、不毛と化した大地を見回す。
様々なことがあった。
平和
戦乱
繁栄
衰退
世界は目まぐるしく動き続けていた。
様々な人たちがいた。
何かを志した人。
何かをなした者。
志半ばで果てたもの。
悪徳を働く者。
日々を懸命に生きる者。
愛を唄うもの。
愛を否定する者。
何かを残した者。
ただ消え行く者。
本当に色々な人と出会い、別れていった。
それでも。
昨日のことのように思い出す。
友人たちと語り合った何気ない日常。
気の遠くなるような人生の思い出の中で一際輝いていた瞬間。
彼女達が去った後も自分は彼と共に、この地を見守っていた。
時に彼女たちの血を引く者たちと出会うこともあった。
協力することも敵対することもあった。
あの本の作者も本人は知らないようだったが涼子の血を引く一人だった。
そういった意味でも、あの本は数少ないお気に入りの一つだったが、それもあっけなく消えてしまった。
だが、これで良いのかもしれない。
旅立つ時は身軽なほうがいい。
物も心も。
「そろそろ行こう、もう時間がない」
今から目の前にある宇宙船で今日地球を離れる。
思い出深い土地だったのでズルズルと居座ってしまったが、それももう限界になってしまった。
モルスにも、これ以上自分の我儘で迷惑をかけるわけにもいかない。
「さよなら」
最後の言葉を残し、私たちは旅立った。
宇宙船の窓から見える地球の姿はどんどんと小さくなってゆく。
その姿も、いくつかのワープの後、太陽の光さえ見えなくなり、やがて太陽系を飛び出し新たな銀河へとたどり着いた。
目の前には未知なる銀河の姿を見た時、こらえきれない感嘆の溜息がこぼれた。
「なんて凄いの……」
目の前に待ち構える銀河から、いや、さらに別の銀河からも、おびただしいほどの人々の息遣いを感じた。
例え母なる星がなくなろうとも。
いや、だからだろうか。
『人』という種は絶えることなく、この世界に着実に種を残し続けている。
様々な惑星へと入植し。
時に自身の遺伝子を書き換え。
時に機械にその精神を写し。
時に異種族と交わり。
様々な姿かたちを取りながらも『人』という種は確実にこの広大な宇宙にその種子を芽吹かせていた。
そしてそれと同時に。
「みんな………そこに居たのね」
未開の惑星の一角に。
酸性雨が降りそそぐ摩天楼の一角に。
宇宙海賊の本拠地に。
重力井戸の遥か底に。
大規模な移民船団の中に。
それぞれ感じることが出来た。
懐かしい彼女たちの存在を。
恐らく再びこの世界に転生したのだろう、何人かは記憶を持っているようだが、忘れたままの人も居るようだ。
だが、それでも『彼女達』であることには変わりはない様だ。
日々を懸命に、力強く、懸命に前を向いて生きている。
「また、出会いましょう」
再び訪れるであろう出会いに心躍らせながら、未知なる銀河へと旅立っていった。
後日談 サア編 終わり
書かれなかった設定
サアーダ・エレオス
他のキャラが色々設定を考えて変更したりと初期の姿から大なり小なり変わっているが彼女だけは思いついた当初の姿のまま採用された不思議な存在。
転生した当初は原作に気付かず「内政物キター!!」と喜んでいたが、紀元前の寒村にそんな彼女を受け入れる余裕もあるはずもなく物狂いとして半ば捨てられるように妖魔の供物にされた。
妖魔に面白半分に不死者にされ実験体兼玩具として生かされるという生き地獄を味わいモルスに助けられた時にはすでに廃人状態で本来ならば回復する見込みもないのだがモルスの献身的な支えと不死による長い年月によって少しづつ回復していった。
しかし一度精神が壊れてしまった弊害で原作や転生以前の事のほとんどを忘れてしまう。
転生者の中で一番、転生以前の記憶が薄い人物。
長い人生の中『突撃隣の最後の晩餐』を始め数々の歴史的事件に密かに立ち会っている。
歴史書がひっくり返る様な発言をさらりと零しては周囲の肝を冷やす。
名前の意味はアラビア語でサアーダ『幸せ』ギリシャ語でエレオス『慈悲』。
モルス
原作では妖魔を討伐する以外興味のない人物として描かれていたが、サアと出会ったことで性格に多少の丸みが出る。
原作の最終回では長い生に疲れ自身を目覚めない眠りに封印するという最後だったが、共に歩む存在がいることで今日も元気に宇宙のどこかにいる。




