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後日談 早苗

「それでは、テープカットをお願いします!」

 マイクから聞こえる少し興奮気味の女性の声に後押しされるように鋏に力を込める。

 チョキン

 これまでの苦労とは裏腹にテープはあっけなく切れた。

 その途端、会場中に響く拍手と歓声に笑顔で応えながら、チラリと自身の後ろにそびえたつ巨大な建物に目をやる。

 そこには巨大な電波塔がそびえ立っている。

 この落成式は電波塔完成のための催しで、今自分は主催者としてこの場に居る。


 この電波塔完成で異世界と地球とが電波で繋がる事が出来るようになった。

 この意味は本当に大きい。

 今まではちょっとした連絡でも、わざわざ魔方陣を書いて、そこから地球から人を呼ぶか、自分で行くしかなかったが、これからはお手軽に電話で済ます事が出来る。

 これで今まで色々と時間を割かれていた案件もずっと早く対応できるようになる。


 世界を超える電波の開発から、電波塔建設など長い道のりだった。

 地球の機械技術と異世界の魔法技術の融合。

 双方の技術者の意識のすり合わせから、材料の調達に電波塔を作る広大な土地の確保。

 特に土地問題は頭を痛めた。

 魔王城から遠すぎず近過ぎない場所の選定。

 さらに地球の機械を使うに当たって発電所の建設も並行して行わなければならなかった。

 発電所建設に地球側が原発を押しつけてこようとしてきたり、賄賂やら談合やらをしようとする企業との立ち回り。

 他にも地球の技術に対する不信感を持つエルフやドワーフの長老たちの説得。

 ドワーフは頑固者ぞろい、エルフは偏屈者ばかりで本当に大変だった。

 そんな苦労を乗り越え今日ようやく、この異世界であるこの地に電波塔が完成したのだ。


 何やら偉そうな禿げ頭の親父の演説を聞き流しながら、達成感が体中を廻る。

 情報は力である、これで、様々な連絡が迅速に届き仕事もはかどる!!

 そしたら、滞っていたあれやこれやの案件も………

「うふうふうふふふふふふふ………」

「お、おい、王妃様がまた怪しげな笑いしてるぞ」

「ほっとけほっとけ、どうせまた仕事の事でも考えてんだろ」

「あーあ、また残業が増えるのか……」

「ぼやくなよ、王妃様の政策のお陰で生活は格段に良くなったんだから」

「けどよ、俺なんか久々に家に帰ったら娘に「おじちゃんだれ?」て聞かれてさ」

「お前なんかまだましだろ、俺なんか衛兵呼ばれたんだぞ」

「「「「………………………………」」」

「「「「俺たちこの仕事が終わったら有給取るんだ……」」」」

 なんて会話があったりしながらも式は滞りなく進み最後に懇親会を兼ねたパーティーが開かれた。


 パーティーといっても堅苦しいものではなく立食式で会場のあちこちで様々な人達が固まって談笑している。

「この度はおめでとうございます」

「どうかこれからもわが社の製品を御贔屓に」

「これからも我が国との良い関係を望みます」

 特に魔国の王妃であり、この電波塔建設の中心的役割を果たした早苗の元にはひっきりなしに出席者が挨拶にやってくる。

「ええ、ありがとうございます、これからもより良い関係を願っています」

「いや~それにしても相変わらずお美しい」

「あら、お上手です事」

 にこやかに対応するが、その笑顔の裏で出席者の顔ぶれを見ながら心の中でため息をこぼす。

「(小者ばかりね)」

 電波塔の場所柄どうしても落成式は異世界で行わなければならない。

 まだ地球側でも異世界に対して懐疑的なものも多い。

 そうでない人達も、やはり異世界の地に足を踏み入れるにはそれ相応の勇気が必要だ。

 必然的にこの場に居るのは上から行くように命令されて渋々来た者、もしくは影武者、。

 要するに小者ばかりである。

 彼らの口から出てくる安っぽいおべっかに欲に塗れた視線。

 魔王の妃となった時にこういったやからに囲まれるのは覚悟していたが、こうも街灯に集まる虫の如く集られては些かへきへきしてしまう。


 こっそりと心の中で溜息をついていると。

「やあやあ、挨拶が遅れて申し訳ない!」

 貫録のある男の声が響いた途端、モーゼの如く周りにひしめいていた人垣が割れた。

 割れた人混みの先に熱風の様な覇気と共に男が立っていた。

 その覇気に気圧される事無く微笑みながらドレスのすそを摘み、その人物に対し優雅に礼をする。

「ようこそいらっしゃいました、歓迎いたしますわ総理」


 徳丘清次

 魔法少女条例を始め数々の画期的な法律の制定。

 混迷を極める世界情勢の中、強いリーダシップと柔軟な発想を持って日本のみならず世界に強い影響力を持つ。

 支持率は常に80%越えで彼がいなければ日本はこの混迷の時代を生き残れなかったとも言われる男。

 そんな超重要人物が目の前に居るのだ、例え此方が王妃として地位があろうとも、最上級の礼を持て接しなければならない。


「いやー官房長官が色々煩くて来るのに苦労したよ」

「総理の身を心配しての事ですわ、ですが今回の落成式の出席、誠に感謝します」

 彼が来るのと来ないのとで、今後の事業にも大いに影響してくる。

「なあに、こんな面白そうな事に顔を出さないわけにはいかないからな」

 そう言って悪戯小僧の様に笑っているが今頃、大臣達の胃は甚大な被害を受けている事だろう。

 ただ、こういった型にはまらない彼の行動が様々な困難を乗り越える切っ掛けとなっているのは確かだ。

 ちなみに裏から手を回し涼子を特殊災害対策局の局長にした主犯はコイツである。

 色々侮れない人である事は確かだ。

 とにかく、その無邪気そうな笑顔に呑まれない様、密かに臍に力を貯め再度ニッコリと最上級の笑顔を創り上げる。

「(やはり、戦うならば強者とではないと)」

 こうして、二人の間にしか聞こえないゴングが響き渡った。


 後日。

 オリハルコンの輸出増加と、留学生の大量受け入れが発表された。


 後日談 早苗編 終わり


 常盤早苗

 彼女も初期に考えていたプロットから大きく外れた者の一人。

 最初は生真面目キャラの予定だったのが、書いている内に、どうしてこうなった的な性格に。

 きっと彼女は今日もニッコリ笑って残業を言い渡す。


 魔王国

 テンプレ的な脳筋魔王に支配されていたが、そこに早苗がやってきて劇的ビフォーアフターされる。

 ブラック企業並みの仕事量だが魔族は基本的に体力も人並み以上なので割と平気。

 むしろ、以前の様に戦争で命の危険が無い分、気は楽。





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