後日談 由梨華
綺羅氣螺学園
乙女ゲームの舞台となったり、魔法少女の最終決戦の地に選ばれたりと何かと曰くのある名前が突っ込み待ちな学園。
乙女ゲームが終わろうとも、魔法少女達の戦いが終ろうとも、その他大勢の人達にとってそんな事関係無く。
変わらずここは学び舎であり続けている。
今日も今日とて思春期の少年少女達が様々な事を学ぶために通っている。
そしてそれはここで働く者たちにも言える。
例え世界が如何様にも変わろうとも、教えるべき生徒たちが居る限り教師と言う職業に終わりはない。
これは、そんな教師たちの、とある日常。
そこは場は『熱』で溢れていた。
「うおおおお!これでもくらええええええ!!」
向き合う二人の少年たち。
そのうちの一人が突然発光しながら光球を打てば。
「まけるかああああ!見ろ俺の最終形態!!」
対するもう一人の少年に突然羽が生えて何か良く分からない理屈で光球を打ち返す。
「ふ、やるな」
「そっちこそ」
拮抗した実力、得がたきライバルとの戦いに二人の口元に笑みが浮かんだ直後。
「あんたたちーーーー!!なにしてんのーーーーーー!!!」
ドゴーーーン!!
先ほどの光球よりも遥かに巨大な衝撃波が二人をまとめて吹き飛ばした。
「まったく、あれほど無許可のテニス試合は禁止と言ったはずよ」
所々に大穴が開いたり融解しているテニスコートのど真ん中で先ほどの少年二人が正座で叱られている。
「「さーせーーん」」
「心がこもってない!!」
ゴチーンと拳骨が二人に振り下ろされる。
「「いってーーーーー!!」」
先ほど派手に吹き飛ばされたのに本人たちは元気そのものだ。
「まったく!君たちときたら毎回毎回!!」
最もそれは、本人たちの防御力の高さもあるが、衝撃波を放った、今彼らを叱っている教師である彼女が両者を吹き飛ばしながらも怪我をしないように手加減してくれたお陰でもある。
「とにかく!二人とも午後の授業が始まるまでにテニスコートを元に戻しておく事、いいわね!」
「「はーい」」
「………まったく、返事だけはいいんだから」
一通りのお説教の後、後片付けを二人に命じてテニスコートを後にする。
「じゃあ皆、部活頑張ってね」
「「「ありがとうございました!!」」」
後の事をテニス部に任せてその場を後にすると、テニス部部員たちが体育系らしく綺麗な礼で見送ってくれた。
ここ数日の二人の喧嘩には彼等もほとほと困っていたそうだ。
エース二人の喧嘩のせいでここ数日碌に練習出来なかったそうだが、このぶんなら次の大会に間に合うだろう。
テニスコートを離れ、職員室に向かう。
途中通りかかった中庭では見慣れた大樹の姿が見えた。
学生時代と変わらない大樹の姿、ただ違いがあるとするならば、自分達が此処の生徒だった頃には中庭の端にあった大樹が、中庭の中心に鎮座している。
今は放課後なので幾分、人は少なめだが、昼休みになると大勢の生徒達が大樹の木陰でお弁当を広げたりたり、お喋りしたり、昼寝に使ったりと色々な生徒達が大樹に集まって来る。
あの魔法少女騒動のあとボロボロになった学園は、様々な方面からの寄付によって瞬く間に再建された。
寄付と言っても実際は騒動を起こした元攻略対象者達の親が口止め料として払ったものだ。
詳しい金額は知らないが、理事長のとても良い笑顔が金額の高さを窺わせている。
その惜しみない資金源を元に、理事長は学園を再建では無く改造に乗り出した。
おかげで元々豪華だった施設はさらにグレードアップし、校舎や学園寮は収容人数を更に増やした。
更に世界各国から幅広く留学生を受け入れ、時流もあって多くの少年少女達が就学してき。
今の学園はその広さもあってちょっとした国際都市のような様相に変わっている。
その学園改造のおり、中庭の位置がずれ、中庭の端にあった大樹が中心に移動する事となった。
今では立派な学園のシンボルとして多くの生徒達に慕われている。
嬉しい気もするが、ちょっと自分達だけの場所が取られた様な気持になってしまう。
そんな事を、何となしに考えながら中庭を横切っていると。
「俺のターン!ドロー聖獣ビャッコ召喚!」
大樹の向こうから巨大な怪獣が出現した。
「これで俺の勝ちは決まった様なものだな」
「く、いきなり聖獣召喚とは!だが、まだだ!」
何やら白熱した二人がにらみ合っており、このままでは周囲にも被害が及びそうな雰囲気な所に。
「こらーー!無許可のデュエルは禁止だと言ったはずだぞ!!」
「「ぎゃーーーーーー!!」」
別方向から来た山田先生が怪獣ごと二人を拳一つで吹きとばして強制終了させました。
あの魔法少女騒動の時以来、世間一般に超常的な人がいる事が認識されるようになった。
それは社会に様々な衝撃を与え、社会は急速にその姿を変えていった。
そしてそれは教育現場も例外ではない。
いやむしろ、より深刻な問題があった。
何せ子供たちの中には、サッカーボールから火が出てきたり、作った料理を食べたら口からビームが出たり、テニスで空中を飛んだりカードゲームで世界の覇権を争ったりするような猛者がわんさかいるのだ。
臆するなという方が無理な事だろう。
一時期学校側が子供の入学を拒否するという事態までなり特殊能力を持った子どもの受け入れ先が問題にもなった。
そんな中、誰でもわけ隔てなく入学を認める事を大々的に宣伝した学園に生徒達が集まって来るのは自然な事と言えた。
今この学園の状態は、以前久々に母校を訪れた涼子が顔をひきつらせながら。
「うわっなにこれカオス」
と言う呟きで大体察してもらえるだろうか?
兎に角こんな騒動が日常茶飯事なので、必然的に教師達も鍛えられてゆく。
さっきの山田先生も自分達がここの生徒だった時にも居たベテラン教師だったが、その時は、厳しいが普通の先生だったはずなのだが、どうしてこうなった。
なんでも、生徒達に負けない様に自主的に十二神流の道場に通ったそうで、優曰く。
「かなり素質あったわ」
との事で、この学園の教師陣も最近では人外離れしてきている。
もっとも、その筆頭がエスパーである自分なのだが。
なにはともあれ、こういった騒動はこの学園では日常茶飯事で、いちいち騒ぐようなことではない。
今回も、デュエルしていた場所が山田先生が顧問をしている園芸部の花壇の近くで無かったのならもう少し見逃されていただろう。
「あ、そう言えば、涼子が今年はデュエリストに注意するように言ってたっけ」
なんでも、そろそろ次元断層からカイザーギガドスが次元支配を狙って侵略してくるのをデュエル勝負で退けるのが今、山田先生にしこたま叱られている悪ガキ二人だそうで。
…………………どうしろと?
取りあえず山田先生に一声かけてから職員室に戻るとしよう。
「山田先生、そろそろ職員会議始まりますよ」
「ああ、すいませんね、こいつ等をもう少し絞ってから行きます」
「えっちょっと由梨華ちゃん助けてよ~」
「こら、東先生と呼びなさい!」
どうも生徒たちと年が近いせいで、いまいち教師としての威厳が無い。
最も逆に考えるなら親しみやすさとも取れるので一概に悪いとは言えないが。
「それじゃあ先に職員室に戻ってますね」
「ええ私も直ぐに向かいます、こらお前達の説教は終わって無いぞ」
「「ギャー助けてー!!」」
職員室へと向かう背中に二人の悲鳴が跳ねかえった。
「えーでは定例の職員会議を始めます」
何時も通りの職員会議。
出される議題は大体同じで、どの学校でも問題になっている学生の学力の事や風紀の乱れに関する事が殆どだが。
「最近問題になっているカンニングへの対処ですが……」
「エスパーの透視能力者は武田先生が開発したアンチ超能力装置を試験期間中各教室に配置する事を検討しています」
「また、式神、幽体離脱、交霊術、神降ろし等のオカルト関係はT先生の『破ァ』で対処していだくとして……」
「問題は単純に身体能力が高い生徒ですね、単純だからこそ中々発覚しにくい」
「やはり時間能力者に監視を頼みますか?」
「いや、やはり学園の問題は我々教師が確りしなければ……」
「監視以前に生徒達に自主的に能力の使用を自主的制限させるよう呼びかけるのも大事だと思います」
こんな会話に成るのはこの学園ならではだと思う。
その後も。
「来月に異世界から留学予定のエルフとダークエルフの二人のクラス割に付いてですが……」
「やはり、なるべく離れたクラスに割り振った方が良いのでは?」
「いや同じ学園に居るのだから何れは接触するだろう、露骨に彼等を引き離していてはその時に反動が大きいのでは」
「ではクラスは別々に、後は合同授業などで徐々に馴らしていくと言うのはどうでしょう?」
「やはりそれが妥当な所でしょうか」
「次に行く先々で殺人事件に遭遇するA組の溝口君の修学旅行での日程ですが……」
などなどバライティには事欠かない。
ただ、自由な校風を売りにしているので他の学校などに良くある服装の乱れや髪を染めると言った事は問題にされない。
むしろ、少し周りを見渡せば、ピンクやイエロー、赤青緑と言ったカラフルな髪の色を持つ子が大勢いる。
これで染めていないのだから驚きだ。
「(それにしても早苗の奴ま~た、厄介事押し付けてきて)」
何でもエルフとダークエルフの和平の証として両者の王族を一人づつ此方の世界に預ける事になったと事後報告を受けたのは数日前。
「ごめ~ん両方の長老がどうしても自分とこの王子を留学させろって煩くって、下手に時期をずらせば優劣を付ける事になるから二人同時になっちゃって」
とひたすら電話口で謝られた。
「(まったく、次の里帰りの時の飲み会は早苗持ちだからね!)」
脳内で高めの飲み屋をピックアップしている内に会議は進み由梨華のクラスにダークエルフの転入生が来る事になった。
「(適任って言えば適任なんだけどさ)」
最近は能力持ちの教師も増えてきたが、その中で由梨華の能力は突出しており、何かあった時の対処の仕方などが上手いのでどうしても厄介事を押しつけられてしまう。
元々そういった厄介事と思われる生徒達の力になりたくてこの職業に就いたのだ、泣き事を言っても仕方が無い。
今度の飲み会で盛大に愚痴ろうと、そんな事を考えている時。
「せ、先生~」
心底困った様子の女生徒が職員室に入室してきた。
「あら、吉田さんじゃない、どうしたのって、ああそう言う事……」
見れば自分の担当しているクラスの子で、その腕の中に抱えられている小動物もどきを見ておおよその事情は察した。
「すみません少し抜けます」
「分かりました、手続き関係は此方が準備します」
他の先生方もなれたもので、手早く必要な資料と書類を持って来てくれた。
「助かります、さ、行きましょう」
「え、あ、は、はい、失礼します」
「それじゃあ、色々質問するけどいいかな?」
取りあえず事情を聴くため手時かな空き教室で話を聞く事になった。
「は、はい大丈夫です!」
「そんなに緊張しないで、悪いようにしないから安心して、ね?」
いささか緊張気味の生徒に優しく言い聞かせながらも、心の中で憂鬱に溜息をつく。
あの自分達の戦いの後、世間一般に魔法少女という存在が認知された。
そしてその実態が明るみに出ると世論は怒り狂った。
なにせ未成年を甘い言葉で操り危険な仕事をさせていたのだ、怒るなと言う方が無理な事。
当然のごとく魔法少女の活動は規制されたが、それも長くは続かなかった。
涼子曰く。
「原作が、アレ一つじゃ無かった」
その言葉の通り、魔法の国以外からも様々な所から魔法少女を求めてマスコット達が押し寄せてきたのだ。
無論、魔法少女になった彼女達も様々な報道で魔法少女の危険性は知ってはいるが、年頃の少女がいたいけな小動物の姿をしたマスコットの願いを断れるような子は少ない。
何より、マスコット達が危機的状況に陥って助けを求めると言うシチュエーション、所謂『飛び込み営業』が横行し結果、魔法少女達として契約する少女達が後を絶たなかった。
ちなみに今目の前に居る女生徒もその『飛び込み営業』の被害者らしく、帰り道の公園で傷だらけのマスコットを見つけて契約を迫られたらしい。
この事態を重く受け止めた時の政権は、『魔法少女法』を成立。
魔法少女は公的に認められた存在となった。
無論だからと言って全てが自由と言う訳ではない。
「まずは日を改めてご両親から同意書に判子とサインをこの書類に貰ってきてね」
「は、はい」
必要な書類を渡し、改めてこれからの事を話し合う。
まずは同意書や様々な書類を市役所と警察署に届ける事。
そうする事で、彼女は国の魔法少女名簿に名前が登録される。
これにより、もしも彼女が戦闘で何らかの器物破損が起きた場合、その修復のための魔法少女予算が下りる事となる。
その後、指定された病院での健康診断とカウンセリングを受ける。
魔法によって無理な身体改造をされていないか、洗脳されてはいないかなどが調べられ、これにクリアすると魔法少女活動の許可が下りる。
「健康診断とカウンセリングはその後も一カ月に一度は受け続けてもらうわ、これを拒否すると魔法少女の活動は禁止されるから注意してね」
「は、はい、気を付けます」
必要な書類や健康診断を受け持つ病院の紹介状などを神妙な顔で受け取る姿に彼女のこれからの事に対し心細く思っているのが見て取れた。
まだ高等部に進級したての彼女にとって市役所や警察署に届け出を出すと言う事でようやく事態の深刻さを認識したと言った所だろう。
少し緊張をほぐす意味も込めて、魔法少女になるメリットを説明する。
敵が不規則に襲ってくる場合も考慮して、授業の一部免除や、試験の代わりにレポート提出が認められている。
他にも足りない出席日数を補習で起きなったりと色々と優遇措置が取られている。
無論それだけでは本業の学業に支障が出てしまうので、魔法少女達を対象とした勉強会などが頻繁に行われている。
また、就職でも有利に立つ事もある。
あまりお勧めはしないが涼子のとこの特殊部隊は内状はともかく外から見たら特殊部隊で花形職場だ。
あそこは忙しさもあって隊員募集は随時受け付けている。
他にも企業や研究機関など引く手あまただ。
魔法少女の能力は未だ未知数で、異世界の魔法とも違うので様々な企業や研究機関からも引っ張りだこだ。
生臭い話だが、彼女たちの『魔法』は色々と使い道がある。
単純な身体強化などでも特殊部隊に配属できるほどの身体能力。
加えて異世界の魔法とも違う独特の魔法を習得するものが多く居る。
何と言うか『原作』が涼子と違う別系統の魔法少女達の魔法は、対象をお菓子に変えたり、悪い物をお花に変えたりとファンシーなものが多い。
それゆえ多方面から注目を集めている。
対象をお菓子に変える魔法は食糧危機に、悪いものをお花に変えてしまう魔法は汚染除去など様々な活躍が期待されている。
無論様々な組織が彼女たちの身柄を狙っているが、政府も目を光らせているので違法な人体実験などの危険性は少ない。
ここが、完全に無いと言えない所が辛い所だが、金の卵を産む鶏の腹を裂くような馬鹿はいない。
福利厚生も確りしており、『魔法少女基金』成る物が存在し、様々なバックアップが充実している。
怪我をした時の治療費や、電車やバスなどの公共交通機関も基本的に無料となる。
また、各種助成金や補助金なども充実している。
そう言った事を話している内に段々と彼女の緊張も緩んできたので、ここいらで本題に入ろうと思う。
「それで吉田さん、貴女の契約したマスコットの出身は?」
「ちょっと!それは!!」
「あんたは、ちょーーーーーーっと黙ってようか」
何やら抗議の声を上げようとしたマスコットの口を念力で封じる。
「貴方に発言権は無いわ、然るべき書類を提出して身分を明らかにして初めて日本国の庇護を受けられると知りなさい今の貴方は密入国および女子高生に危険な仕事を斡旋させる怪しげな生物よ」、
「え、せ、先生?」
「あ、吉田さんは帰っていいわよ、必要な書類は持って行ってね、先生はこれから大事な話し合いがあるから」
ニッコリ笑って有無を言わさず帰ってもらいます。
後に残ったのはマスコットと二人。
「さ、『お話し』しましょう?」
言うまでも無い事だが、『魔法少女基金』の出資者は、魔法少女によって助けられた魔法の国からの『善意』による多大な出資によって成り立っています。
後日譚 由梨華編 終わり
書かれなかった設定など。
東 由梨華
最初に考えた人物像が、後ろにスタンドを背負って敵をオラオラとぶちのめす系女子の予定だった。
他にも彼女が動くたびに『ゴゴゴゴゴゴ』や『ズシャァ』などの擬音が響いたり、一人だけ作画が違う顔立ちだったり、気が付いたらジョジョ立ちしている様なキャラだった。
しかし書くに当たって「こんな乙女ゲーヒロインいねーよ」と我に帰り今の形に落ち着く。
ただ、そのため作者の中ではいまいち影の薄い子になってしまったので今回の事で目立てばいいなぁと思っている。
十夜
由梨華の恋人にして、ラノベ主人公。
由梨華とは幼馴染で由梨華が前世の記憶を思い出すと同時に「こいつを難聴系鈍感ハーレム男なんかにしない!」と心に決め、調教…もとい教育を施される。
なので多少は鈍感は治ったが、生来の性格と原作補正のせいで少しだけ鈍感。
しかし『原作』と同じように大勢の女の子から好意を持たれているが女の子が傷つかないよう気を付けながら、ちゃんと断っている。
だが、その姿勢が更に女の子とたちの好意に拍車をかけている悪循環に陥っている事には鈍感な彼は気付かない。
周りの、それとない妨害が入ってなかなかプロポーズ出来ないでいる。
魔法少女
契約を迫ってきたら注意するようにと、テレビのCMや学校や行政主催のセミナーなどでしつこく注意喚起されている。
この世界では、おれおれ詐欺並みに警戒されている状態。
ただし本編でも言っていたように魔法少女になれば様々な特典が受けられる。
反面、無許可での魔法少女活動は処罰の対象になる。




