それぞれの道へ
口からビームが出たりと色々ありましたが、その後の入院生活は、滞りなく過ぎて行きました。
経過観察だとかで結局、今年の夏休みは病室で過ごす事に成りました。
その間も優さんや両親は、何くれと時間を作ってお見舞いに来て、色々な事を話してくれました。
他には、下島博士が全身義体化計画書なる物を持ってきたり。
魔王さんが、一粒飲めば魔族に転生できる、魔業丸なる丸薬を持ってきたり。
それを知った鈴さんと早苗さんに二人とも絞められてたり。
それを見ていた医療漫画の主人公が、下島博士と魔王さんと三人で何やら話していたり。
また料理を持ってきた木城さんのせいで再び口からビームが出たり。
木城さんの計らいで私達の夏休みの宿題が簡単なレポートだけになって喜びのあまり六人で騒ぎまくって看護師さんに叱られたり。
そんなこんなで、それなりに充実した入院生活を楽しんでいました
ただ私が病室で食っちゃ寝している間も世界は慌しく動き続けていました。
あの似非マスコットの証人喚問が国会で行われたり。
エスパーとかミュータントなどを対応する機関が公に成ったり。
どこぞのテロリストがミサイルを撃とうとしてミュータントとエスパーの混成部隊によって鎮圧されたり。
なんやかんやあって発射されたミサイルを二足歩行の戦闘機が撃ち落としたり。
魔王さんと首相が会談したり。
異世界と国交を結んだり。
物凄く改革的な怪我の治療法が確立されたり。
本当に色々な事がありました。
……………………最後のやつって医療漫画の主人公と下島博士と魔王さん関係ですよね?
そのうちとんでもない事になりそうな予感がそこはかと。
まあ、そんなこんなで二学期になる頃には無事に学校へ通えるようになるまでに回復しました。
登校したらしたで色々と騒がれましたが、そこは仕方のない事でしょう。
色んな意味で有名になってしまった私達です。
どこぞのお偉いさんが私達の身柄を何処か別の場所に移して護衛したらどうかと言う事を言ったそうですが。
凱さんを始めとした彼女達の保護者がせめて高校くらいは普通に通わせたいと色々と手を尽くしてくれたおかげで引き続き学園に通う事が出来ました。
そもそも、護衛も何も、彼女たち以上に強い存在は上から数えるしか居ないので護衛も何も無いんですが。
そして肝心の学園生活の方はと言うと。
相変わらず遠目に見られていたり、かと思えば積極的に話しかけてくる人がいたりと色々です。
色々変わった事もあれば変わらない事もありました。
そんな中私達は。
何時もと同じように皆で大樹の傍でお弁当を食べたり。
お喋りしたり。
勉学に励んだり。
生徒会の仕事を手伝わされたり。
…………………………なんでだ?
いえ、原因は分かっているのですけどね。
私がTSさせてしまった元攻略者の一人、俺様生徒会長に泣き付かれてしまったのがそもそもの始まりでした。
彼……いえ彼女は元が男性だったと信じられないほど美しい容姿に変わっていました。
元が良かったのもありますが、それに加え生まれながらのカリスマ性や育ちゆえの上品さ、そして明確な頭脳。
正に天は二物も三物も与えたと言っても良い完璧な美少女。
学園中の男子生徒達が。
「お、俺は今まであんな美少女が目の前に居たのに気が付かなかったなんて!!」
と言った風に驚くやら嘆くやらと大騒ぎでした。
ですが彼女、元が男性だったせいで、何と言うか、隙があるんです。
私たち女性が成長するに従って自然と身につける、女性と男性との距離感やちょっとした動作などに、どことなく隙があり、そのせいで。
「彼女は俺に気がある!」
等と盛大に勘違いした男子生徒達に迫られる日々を送る羽目になってしまいました。
涙ながらに。
「好きでも無い男に強引に迫られて困っている」
と相談を受けた時には、反応に困ったものです。
いや、だってねえ………
以前あれだけ優さん達にしつこく付きまとっていたのを知っている身としては何を言っているんだこいつは、と思ってしまっても仕方が無いでしょう。
思わず「知るか」の一言で思ってしまいましたが、TSさせてしまった負い目があること。
それに、うちの学園は生徒会の力が強く、行事やイベント何かを仕切っていましたから、生徒会が機能しないと色々困ると木城さんにも相談され仕方なく手伝う事になった次第です。
こんな事になっても、まだ生徒会長を続けようとする根性は凄いと思いますが、なんでも。
「以前の自分と同じ事をしないと、自分が分からなくなってしまいそう」
なんだとか。
彼女の実家の方にも色々と見合いの話が舞い込んでいるらしく、中でも外でも落ち付けるような環境ではないそうです。
手伝いと言っても、軽度の男性恐怖症にかかっている彼女と他の男子生徒との防波堤になりつつ簡単な書類の整理などを手伝う位でした。
別に四六時中一緒に居るわけでも無く、護衛をしている訳でも無いのでそれでもよかったのですが。
私達が居ない間を狙い、彼女が一人になったすきを狙い勘違いを拗らせた男が強引に迫ってきたらしく、あわやという時に偶然通りかかった『爽やか剣道少年』。
女性に対し強引に迫ろうとする男と怯える乙女、颯爽と登場するヒーロー。
その後の展開は詳しく説明する必要はないでしょう。
一言、言うならば、その後の私達の生徒会での作業は書類整理の類ではなく、恋バナ的な恋愛相談へと変わったとだけ書いておきます。
他の四人もそれぞれに悲喜こもごも色々ありましたが何だかんだで今は落ち着き。
眼鏡風紀委員長は生徒会長と同じように騒がれていましたが、こちらはある程度騒いだら落ち着いたのか、学園屈指のクールビューティー兼女王様として君臨し。
一匹狼系不良は何故かヨーヨーを武器に辺り一帯を治めるスケ番に。
ホスト系教師は現在、色々伝手を使ってお見合いやら合コンに出まくっているそうです。
何でも男の時には気にしなかったけど女になったら色々ギリギリの年齢だった事に気が付いただとか。
一番インパクトがあったのは美少年後輩でしたね。
ある日、突然芸能界にアイドルとしてデビュー。
男だった時の経験を元にどうすれば男心をくすぐれるかを知りつくした完璧な演技。
今ではトップアイドルとして芸能界に君臨しています。
それからも色々な事がありました。
冬休みに皆でスキーに行ったら何故か猛吹雪の中、宿泊していたペンションで殺人事件が起きて偶然居合わせた名探偵が解決したり。
海水浴に言ったら「いあいあ」と呪文を唱える半魚人に襲われたり。
山に登ったら偶然、洞窟を発見したら、そこは超古代の遺跡の入り口で、トラップに嵌ったり中に眠るオーパーツを廻って考古学者や各国の軍隊との争いに巻き込まれたり。
美術館に行ったら美術品を狙う有名な怪盗の子孫と、それを阻止しようとする名探偵の子孫の知恵比べに巻き込まれたり。
偶然拾ったビデオテープは見たら死ぬ系の呪われたビデオでどうしようかと困っていると、通りすがりの寺生まれの転生者さんが「破ァ!」で何とかしてくれたり。
鈴さんとは別系統の五色の全身タイツの戦闘服に身を包んだ人達と知り合ったり。
飛行機が巨大ロボットになったり。
新幹線が巨大ロボットになったり。
パトカーが巨大ロボットになったり。
お魚銜えたどら猫を裸足で追いかけてる主婦と擦れ違ったり。
本当に色々ありました。
そんな慌しくも楽しい時はあっという間に過ぎて行きました。
そして……
「………………………………やっぱり大きいな」
改めて見上げた大樹は何度見ても大きくどっしりと大地に根を張ったその姿に圧倒されます。
でもその大きさは見る物を威圧する様なものではなく、見ていると心が落ち着いて行く優しい雰囲気を漂わせています。
「おーい!涼子!」
「鈴さん………それにみんなも」
振り向けば涼子さんを始め何時もの五人が揃っていました。
「やっぱりここに居たんだな」
「ええ、自然と足が向いてしまうみたいです」
事件があったのなら、大樹の下で互いに知恵を出し合い。
何も無い時も、ここでお昼やオヤツを食べながらおしゃべりに興じる。
そんな毎日でした。
でも、そんな日々も今日で最後。
今日、私達はこの学園を卒業します。
振り向けば三年間、顔を合わせ続けてきた友人たちの変わらない姿が、いえ、約一名ほど。
「りょうごちゃん~~」
そう言って抱き付くと言うより、しがみ付いてきた優さんの顔は、何時か見た時の様な顔面からもの凄い量の水分を放出している状態です。
「優さん凄い顔になってます」
あ、ちょっと、鼻水は付けないで、これから卒業式が控えているのに。
「ううう~~~」
「ほらほら、もう泣かないで」
「だって………だって今日でお別れだと思うと………」
そう言って再びポロポロと涙が零れていく。
「もう………大げさなんだから………」
そう言いながらも、優さんに釣られて私まで涙腺が緩んでくるのを感じます。
他の四人も、こっそり鼻をすする者、上を見上げて誤魔化そうとする者、そっと眼がしらを抑える者、感慨深く目を閉じる者。
皆それぞれ今日と言う日を、それぞれ噛み締めています。
「まあ、優の気持ちも分からなくないよ」
「今日で、お別れなんですね……」
しんみりした空気が辺りを包みます。
「はいはい、みんなしょぼくれないの」
そんな空気の中、努めて明るい口調でしんみりした空気を払拭してくれたサアさん。
「もう会えなくなるわけじゃないんだから、今日は笑って別れましょう」
そう言ってハンカチを取り出して優しい手つきで優さんの顔を綺麗にします。
「………うん」
その優しい感触に優さんも落ち着いてようやく泣きやんでくれました。
「でも、見事に全員バラバラの進路になったわね~」
「ええ、本当に……」
私達らしくも無く、しんみりとした原因の一つにそれぞれの進路も関係しています。
本来の原作では卒業後は学園付属の大学へ進学する設定でしたが、既にそんなものは意味も無く。
私達はそれぞれの道を歩き出していきます。
「優さんは体育大学でしたよね」
「うん、将来はスポーツトレーナーに成りたいんだ」
魔獣騒ぎのせいで十二神流の名が裏の世界だけでなく表の世界にまで知られるようになりました。
そのせいで一時期は道場に弟子入り志願者が殺到しましたが、そのほとんどが、厳しい修業に耐えきれず止めてしまいました。
「涼子ちゃんと修行した時にも思ったけど、十二神流をもっと分かりやすく、沢山の人に伝えたいんだ、涼子ちゃんの時みたいに、何かあった時、自分自身を守る力を伝えていきたいって思ったんだ」
そう語る彼女の目は、ありがちな表現ですが将来に向けてキラキラと輝いています。
「まあ、アタシはそんな大層な志を持ってるわけじゃないけどさ」
「何言ってるんですか、鈴さんだって十分に凄いですよ」
鈴さんは経済学部のある別の大学に進学します。
余り勉強が得意ではない彼女が、その進路を選んだ理由は。
「やっぱり、組織を運営するには経験も大事だけど知識も必要だとおもってさ」
いよいよヘルシャフト首領代行から代行の文字を取る決意を固めた様です。
彼女の進路について凱さんは複雑な気持ちでいるらしいですが、変わらず彼女を守り続けると言っていました。
「由梨華さんの方はてっきり、十夜さんと一緒に組織に所属すると思っていました」
「あはは、まあ私も最初はそのつもりだったんだけどね」
エスパーやミュータントなど超常現象を操る存在が認知されるようになった世界。
今はまだ表立っていませんが何れ差別や偏見が表面化するのも時間の問題でしょう。
そして、そう言った悪意に対して幼い者ほど敏感であり無力です。
だからこそ由梨華さんは教育学部のある大学に進学し教師を目指す事を志しました。
「綺麗事かもしれないけどさ、私でも何か子供達に伝えられる事があるんじゃないかって思ってさ」
ちょっと照れくさそうに教師としての憧れを語る彼女はきっと良い先生になります。
「正直、私は皆さんが羨ましいです」
早苗さんは、この学園を卒業と同時に魔王さんと結婚式を上げます。
彼女自身は、まだ学ぶ事が多くあると思い学園付属の大学進学に乗り気で、普通ならそのまま進学予定でした。
ですが魔獣騒動で異世界の事や魔王さんとの関係が明るみになってしまい、異世界との関係を強化したい日本政府や様々な人達の思惑やらのせいで、卒業と同時に魔王さんと結婚する事になってしまいました。
「別に結婚する事自体は良いのよ、元々そのつもりだったし、でも周りからこんな風に強制されるみたいにして結婚するのって何だか釈然としません」
溜息交じりに呟く早苗さん。
「早苗さん………」
女の子にとって特別な行事を周囲の政治的な思惑で左右されてしまった彼女の胸中はいかほどの事でしょう。
「ふふふふふ、でも、向うがその気ならこっちも考えがあるわ」
「早苗さん?!」
「大学に行けないなら、向うで大学を作ればいいのよ!象牙の塔の主に私はなる!!」
あ、心配無いわこれ。
余談ですが。
結婚が早まる事を知った魔王さんが、ひゃっほいと飛び上がって喜んでいる所を早苗さんに見つかって、聖剣でフルスイングで殴られていました。
「ふふふ、本当にみんな色々ね~」
そう言って、ふんわりと笑うサアさん。
「……やっぱり旅立ってしまうんですね」
「ええ、それが私の本来の姿だから」
サアさんは卒業と同時に再びモルスさんと当ての無い妖魔討伐の旅へと旅立って行きます。
「長い事生きてきたけど、こんな風に普通の人の様に一つの場所に留まったり、学舎で勉強なんて事なんて無かったから毎日が新鮮だったわ」
そう言って校舎を眩しそうに見つめるサアさん。
「サアさん………また、会えますよね?」
「もちろんよ、何かあったら直ぐに呼んでね、絶対駆けつけるわ」
「絶対ですよ?」
「ええ、約束しましょう」
それに、っと少し茶化した様な口調になると。
「みんなの結婚式には絶対出なきゃいけないからね」
あ、それなら、会う回数がぐっと増える気がします。
「う~ん、でもどうだろう?最近家のお父さん陸兎さんに対して「娘が欲しくば自分を倒してからにしろ!」って言ってるから」
「アタシの方も凱がまずは交換日記からって……」
あー優さんと鈴さん方は気が長そうですね。
「私はなぐべく早く首輪をつけておきたいな、十夜のハーレム体質って全然治って無いから」
「私なんか式が後数日後に迫っていますからね、まったくマリッジブルーになる暇もありませんでしたよ」
由梨華さんと、早苗さんはかなり早いですね。
何だか綺麗に二つに分かれたようで。
「それじゃあ、涼子ちゃんは何時なのかしら?」
「は?」
「あ、それは私も気になる」
え?何でいきなりそんな話題に!
「ねえ、お兄ちゃんとはどうなの?」
「いや、どうなのと言われましても……」
優さんのお宅にお邪魔した時にちょっと話したり、時々メール交換する位ですよ?
「う~ん、これは優ちゃんや鈴ちゃんのグループに入るのかしら?」
「普通に進めば4、5年と言った所でしょうか?」
「いや、こういうのこそ意外と進む時はグッ行くかもよ」
好き勝手言ってますね貴女達!
「あのですね、そう言うのは何と言いますか流れ的な感じで……」
日本人的玉虫色の発言でお茶を濁さなければ、暫くこの話題でこねくり回されてしまう。
「もう、そんな事言って」
ただ、優さんはそんな私の返答が気に入らなかったのか不機嫌そうに頬を膨らませています。
「このままで良いの?あと少ししたら涼子ちゃんは……」
「優さん……」
卒業後、私は留学するため日本を発ちます。
私は優さん達に会うまで悪役令嬢回避のためだけに生きてきました。
それは、とても狭い世界。
その中で全部分かっているつもりで何も見えなかった私。
そんな私に気付かせてくれた竜太さんに対して確かに特別な思いを抱いていると思います。
でもその想いはどちらの方角を向いているのか自信が持てないのです。
いえ、そもそも今のままの私は真っ直ぐで優しい竜太さんに相応しいと言えるでしょうか?
だからこそ、私は。
「この広い世界で色々な事を学んでいきたい」
両親とも色々と話し合った末の結論でした。
二人とも心配してくれましたが、最終的には納得してくれました。
「うー~……そんな風に言われたら何も言えないじゃない」
優さんは、まだ、むくれ顔のままですが、何とか納得してくれたようです。
「………分かった、じゃあ涼子ちゃんが帰って来るまで悪い虫が付かない様に確り見張ってるから!」
「いや、そこまでしなくても……」
私と竜太さんの間はそもそも、そんな中では無いので………
キーンコーンカーンコーン
色々言いたい事もありましたが、不意のチャイムでかき消されてしまいました。
「っと、いけませんね、ゆっくりしすぎたみたいですね、式が始まってしまいます」
流石に卒業式に遅刻は不味いです。
あれ以来、色々と便宜を図ってくれている木城さんのストレスが凄い事になってしまいます。
此方にそのつもりが無くても騒動が向うから追尾式ロケットの様に次から次へと厄介事が襲ってきて、その度に授業やテスト、及び校舎の修復など本当にお世話に成りました。
「お願いだから、卒業式位は平穏無事で終わらせて!!」
と、血を吐くような表情で懇願されてしまいました。
ここ最近、胃薬がお友達だと零していましたから、どうかお大事に。
「早く行こう、式が始まっちゃう!」
慌てたように会場に走って行く五人の後に私も続きます。
数歩過ぎた所で、ふと後ろを振り返ります。
「………………………………………………」
そこには、やはり変わらずに大樹が佇んでいます。
一人ぼっちだった九年間、みんなに出会った三年間。
常にこの大樹と共に歩んできた。
でも、それも今日で終わり。
そろそろエンドロールが流れる時間です。
「……………………………………行ってきます」
一言、そう呟くと再び優さん達の後を追うため走り出しました。
エンドロールが流れようとも私達の人生はこれからも続いて行く。
卒業式の後には卒業旅行の後、早苗さんの結婚式に出席した後、留学先へと向かいます。
アメリカのアーカムにあるミスカトニック大学へと。
ようやく本編が終わりました。
後は留学先の出来事と、それぞれの、その後を書いて終わりにしたいと思います。