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暇つぶし再び 前篇

 現在私は。

「…………………………暇です」

 暇を持て余しています。



「あー暇、暇、暇ですー………」

 無駄に大きいベッドの上に寝なながら暇を持て余し寝返りを打とうとして。

「あだだだだだ!!」

 傷に当たって一人で悶絶するまでが、ここ最近の一連の流れになっています。

「はあ、暇ですねえ」

 何とか傷の痛みが引いても出てくるのは溜息ばかり。

 ぼんやり見上げる天井は見慣れた私の部屋の天井、ではなく白を基調とした清潔な色合いの天井が目に映ります。

 そう、ここは病室、今私は絶賛入院中です。



 竜太さんを見送った後、アッサリ気絶した私は気が付けば、病院のベッドで寝ていました。

 まず一番に目に飛び込んできたのが。

「りょうごじゃんしんじゃやだーーー!!」

 と、目と鼻から大量の水分を消費している優さんの泣き顔でした。

 余りにも凄い顔だったので寝起き一番のセリフが。

「優さん……凄い顔ですね……」

 と、思わず呟いてしまい、私が起きたのに気が付いた優さんが。

「涼子ちゃん!涼子ちゃんが生き返ったーーー!!」

「ぐはあっ!ち、ちょっと優さん抱き付かないで傷がああああああ!!」

「涼子!起きたんだな!」

「良かった、目を覚ましたのね!」

「本当に心配しました」

「………涼子ちゃん……無事でよかった……」

「現在進行形で無事じゃないですーーーー!!」

 等と病室で大騒ぎをしていると、騒ぎを聞き付けた医者と看護師が駆けつけてきて、六人揃ってコッテリ叱られたと言う事がありました。


 あ、言っておきますが別に私、死んだわけではありませんよ。

 まあ、結構それに近い状態だったようですけど。

 何せ左腕は文字通り皮一枚で繋がっているような状態で、そこからの出血も激しく、更にお腹にはいまだにレイピアが刺さったまま。

 どうやら攻略対象者達の魔法少女の装備にはいろいろ細工がされていたみたいで、それぞれの武器には攻撃力を高める魔法でブーストがかかっていたそうです。

 その魔法の関係上彼らが気絶しても装備が消えなかったとか。


 レイピアはお腹を完全に貫通した状態で、内部ではいくつかの内臓も貫かれていたそうです。

 この状態で下手に回復魔法等掛けたらレイピアごと患部が癒着してしまい大変な事になる、かと言ってこのままだと命が危ないと言う状態。

 そんな危険な状態を何とかしたのが私の運び込まれた病院に居た医者と看護師さんでした。

 彼らの天才的な手術の腕前のお陰でちぎれかけた左腕は繋がりレイピアも無事に摘出する事が出来たそうです。

 まあ、ぶっちゃけるなら医療漫画の主人公とメアリー・スーが居ただけなんですが。


 もっとも彼らだけではこの大手術を成功させることは難しかったそうで。

 レイピアにかかった魔法を解析して解除したサアさん。

 体の負担にならない程度に回復魔法を絶えず掛け続けていてくれた早苗さん。

 更にはヘルシャフトが最新鋭の医療設備を提供したりと、色々と皆さんの協力のお陰で何とか命を繋ぐ事が出来ました。

 ただ、何とか命は助かりましたが、暫くは入院を言い渡されました。


 回復魔法やポーションなどで治せばいいのではと聞いた所。

 元々が重体だったので回復魔法で一気に治すと体に負担がかかったり、骨や組織が変な風にくっついてしまう可能性があるそうです。

 それでも普通なら未だに集中治療室に居てもおかしくない所をこうして普通の病室でゴロゴロ出来るようになったのは早苗さんが体の負担にならないように調節した回復魔法やポーションのお陰で、通常では考えられないほどの速さで傷が治っているそうです。

 また、こんな風に魔法と現代医療を合わせて治療した事例など今までになかったと言う事もあり、経過観察も兼ねて入院するように言われました。

 ……………モルモットじゃないですよね?


 そんなこんなで現在入院中の私は何もすることが無く暇を持て余している状態です。

 最初はみんな良くお見舞いに来てくれたんです。

 竜太さんを始め十二神流の皆さんや、凱さんを始めヘルシャフトの人達は大勢いるので代わる代わる来てくれました。

 下島博士なんかは。

「使ってみたかった……」

 と言って残念そうにロケットパンチ機能付き義手を持ってきて、鈴さんに絞められてたり。

 …………正直ちょっと心が揺れた。

 由梨華さんと十夜さん、そして元ハーレム要員の人達が来て微妙な空気になったり。

 魔王さんが部下の吸血鬼さんを連れて来て。

「吸血鬼になったら超回復能力を得て怪我なんてすぐに治るぞ」

 と言って早苗さんに聖剣でぶん殴られたり。

 モルスさんが来た時なんかは病院中の人達が見惚れてとんでもない事に……

 医者も看護師も更には患者まで夢見心地で見惚れて病院中が阿鼻叫喚に……………正直あまり思い出したくない。

 ただ一言言えるのは、死人が出なくて本当に良かった、と言う事だけでしょう。

 本人に罪はないですが居てはいけない人と環境と言う物はきっとあると思うんですよ。


 そんな彼女たちも、ここ最近忙しくて見舞いに来れない状態が続いています。

「はあ……暇ですねえ、テレビでも見ますか」

 皆さん色々暇つぶし用にとゲームとか本などを持ってきてくれていますが、左手が満足に使えない状態ではゲームもやりにくいし、本もこんな状態ではページを捲るのも億劫です。

 なのでここ数日、まともな娯楽と言えばテレビくらいと言うのが現状です。

 もっとも現状、そのテレビも今。

 キシャアアアアアアアア!!

「竜咆波ァ!」

「ケルベロスファイアーアターック!」

 何処の局も大怪獣決戦しか放送していませんが。


 画面の向こうでは竜太さんが技を放ち魔獣を殴り飛ばしたり。

 サクセサー姿の凱さんが炎を纏って魔獣に突撃したり。

 十夜さんがテレキネシスで魔獣を吹き飛ばしたり。

 魔王さんが魔法で燃やしたり凍らせたり。

 モルスさんが剣で切り刻んだり。

 彼らの攻撃で文字通りすり潰されてゆく魔獣の姿。

 ちなみに画面の端にはテロップで。

『この映像は合成ではありません』

 という注意書きがしてあります。


 私が気絶した後、勢揃いしたヒーロー全員によって無事に魔獣は退治されました。

 もっとも街のど真ん中であんな騒動が起きたのです、騒ぎにならないはずがありませんよね。

 間の悪い事に異常気象を生放送しようと各局のテレビ局が街に集まっていたせいで、この映像は一切修正される事無く全国のお茶の間に放送される事になり。

 おかげで日本中が上に下にと大騒ぎな状態。

 しかも魔獣だけではなく戦っている竜太さん、凱さん、十夜さん、魔王さん、までバッチリと映っています。

 別のチャンネルでは優さん鈴さん由梨華さん早苗さんサアさんがラスボス(魔法少女)と死闘が映っています。

 なお、モルスさんだけは、彼の顔を映した映像を映した機械は謎の故障が相次ぎモルスさんの姿だけは後姿だけしか映っていません。

 あれか?余りに美しすぎて機械がショートしたのか?


 ここ数日、彼女達が見舞いに来れないのも、それが原因です。

 なにせ、素手で魔獣を倒せる格闘技や変身ヒーロー、エスパーや勇者、妖魔、魔法少女の存在が一気に世に知られてしまったのです。

 騒ぐなと言う方が無理でしょう。

 彼らと彼女達は今、色々な対処に追われている真最中です。

 画面の向こうではコメンテーター達が真っ赤な顔になったり真っ青になったりと彩り豊かです。

 彼等も昨日まで信じていた世界観をがっつり壊されたのですから無理もない事でしょう。


 それに問題になっているのは私達だけじゃ無くて。

「で、では次の映像を……」

 キャスターが震える声で次を促すと、怪獣大決戦から映像が切り替わりました、そこには。

「ふおおおお!メテオサーブ!!」

 ズバシャアアアアア!!

「なんの!夢幻無狂の構え」

 ドシャアアアアアア!!

 何時か見たテニスの試合が映っていました。

 ………………うん、改めて見てもこれはひどい。

 コメンテーターの皆さんの表情も引きつっています。

 あ、いえ、一人だけ平然とした人が居ます。

「そ、それでは、ここでテニストレーナーにこの映像の意見を聞いてみましょう」

 ああ、そう言う人でしたか、その人はニコニコと嬉しそうに。

「いやあ、双方とも素晴らしい選手ですね、将来が楽しみです」

「は、はあ」

 爽やかに明後日な事を言うトレーナーにキャスターも戸惑っています。

「えっと、でも、この人達、その………隕石とか………を呼んだりしてますよね」

「ええ、あの年でこれだけの技を繰り出すなんて凄い才能です」

 違う、そうじゃない。

 何となくキャスターと視聴者の心が一つになった気がしました。

「その、今更ですが……その……こういうのはルール違反にはならないので?」

「はっはっは、何を言っているんですか」

 インストラクターは爽やかに笑いながら。

「ルールブックには隕石を落としてはいけないなんて書かれていないじゃないですか」

「なにそれこわい」

 と、このように、今まで異常だと気付かれなかった異常にも人々が気付き始めています。

「で、では次の映像は今年の高校サッカーで……」

 半分涙目のキャスターさん、頑張って生きて下さい。


 そんな感じで見るともなしにボーとテレビを見ていましたが。

「次は国会中継ですか」

 政治に興味の薄い国民性だとしても最近の国会中継は高視聴率らしいでね。

 コンコン

 そんな事を考えていたら、不意に病室がノックされました。

 おや、回診時間にはまだ余裕がありますし。

 この部屋は個室で私以外はいません。

 誰か久々の見舞いにでも来てくれたのでしょうか?

「あ、はーい、どうぞ」

「こんにちは元気してる?」

 現れたのは理事長である木城さんでした。


「木城さん、お久しぶりです」

「ごめんね、直ぐに来れ無くて」

 私が入院してから色々な人がお見舞いに来ましたが木城さんが来たのは今日が初めてです。

 言っておきますが、それは彼女が薄情なわけではなく。

「しかたありませんよ、学校があんなに派手に壊れたんですから」

 主に私のせいです。


「うん、先日やっと工事の見積もりが終わってね」

「すみません……」

 他の人達は校庭で戦っていたし、魔獣もアッサリヒーロー達に倒されたので校舎には殆ど被害はなかったそうです、私が派手に壊した場所以外は。

「うん、もうね、割れた窓とか黒板とか机とかも凄い数なんだけど、床がね……もう土台まで崩壊す位深く穴があいててさ、でも、それだけならまだ良かったの、いえ、よくないけど良かったの、でも壊れた部屋の一つが職員室でさ………生徒達の成績とかを管理してるパソコンとかが物理的にクラッシュされて教員総出で不眠不休でデータの復旧をして今日ようやく復旧のめどが立って………」

 ここではない、遠い何処かを見ているような木城さんの眼差しが痛い。

「重ねがさね申し訳ありません」

 は、派手に壊した自覚はあったけど、そんな事になっていたなんて!!


「ああ、ごめん、貴方に愚痴を言いに来たわけじゃないの大丈夫、データの方も時間はかかるけどちゃんと復旧できるし、校舎の方も補助金がガッポリ入るから心配しないで」

「いえ、でも学校を壊したのは私ですから」

「それに関しては貴女は被害者でしょう?こちらを殺す気でいる狂人に囲まれて周りを気にせる人なんて、いない………訳じゃないけど、そんなこと出来る人間なんて一握りだし、そもそも学園を戦場に選んだアイツ等が元凶なんだしね」

「それはそうですが、今回の事、何から何まで木城さんにお世話になってしまって」

「何言ってんのよ、私は大した事してないわよ」

「いえ、そんな事無いです、木城さんの紹介が無ければどうなっていた事か」

 木城さんに出会いお互いが転生者だと話した後、私達はそれぞれが体験した原作の事や、魔法少女の事などを説明しました。

 最初こそ格闘漫画や特撮ヒーロー等が現実に存在している事に驚いていましたが、私の魔法少女の事、そして街が壊滅する可能性を話すと流石に顔を青くしました。

 その衝撃から回復すると木城さんは慌しげに何人かと連絡を取った後。

「会って欲しい人がいるの」

 そう言って私達をある場所に連れて行き、紹介されたのが、今画面の向こうの国会で熱弁をふるっている男性。


『清次の政治』

 快男児『徳丘 清次(とくおか せいじ)』が政界に新風を巻き起こすサクセスストーリーを描いた漫画。

 木城さんは、その主人公である清次さんと知り合いだったらしく、結構な地位に付いている清次さんに一般人の私達でもすんなり会う事が出来ました。

 正確には清次さん自身ではなく清次さんの奥さんと知り合いで、彼女もまた転生者、メアリー・スーでした。

 二人は学生時代に知り合い、互いが転生者である事を知り意気投合、以来何かと連絡を取り合っていたそうです。

 ちなみに私の手術を担当した医療漫画のメアリー・スーとも友人同士で、その伝手を使って予めこの病院を紹介してくれていたので私の治療の時、スムーズに回復魔法の事やヘルシャフトからの医療器具の貸し出しが済みました。


 兎に角、そんなこんなで清次さんと知り合った私達は事の次第を話し、何か起こった時の、民間人の保護や避難、また事が終わった後のフォロー等を頼みました。

 最初は魔法少女等に対して懐疑的な彼でしたが目の前で変身したり、魔獣の解放がテロと間違われて、それが切っ掛けで戦争が起こる可能性や、魔法少女達の現状を伝えると俄然やる気になって力になる事を約束してくれました。

 ただ、私が考えていたよりもずっと魔獣の封印が解かれるのが早かったため、そう言った動きと連携が取れなかったのが痛かったです。

 今、清次さんはそう言った後れをとり返すかのように、様々な方面で活躍しています。

 流石は快男児と言った所でしょうか、その効果は凄まじく、いきなり超常現象が沸いて出て混乱しかかった国内を上手く纏めています。


「魔法の国は、自国のエネルギーを確保するため、日本国民を、それも未成年者を大勢使い危険な行為に従事させてきた、これは大変許し難い問題だ!!」

 画面の向こうでは清次さんの演説が絶好調です。

 清次さんのお陰で私達は公式には災害を未然に防いだ善意の第三者という扱いになっているそうです。

 ちなみに魔法の国は現在、自衛隊によって制圧され監視下にあるそうです。

 何せ向こうから大きな穴を開けてくれたので、後は穴を固定させるだけで良かったと早苗さんとサアさんが言っていました。

 自衛隊が魔法の国を制圧する事に異を唱える人もいましたが、緊急事態と言う事でごり押ししたそうです。

 また、色々と口をはさんで来そうなアメリカさんは自国やヨーロッパ全土に大量のミュータントや地球外生命体、天使や悪魔やNINJAなどやらその他もろもろ様々な存在が居る事が世間にばれて、その対応で此方に構っている余裕はないらしいです。

 時期を見て国連軍がやってくるそうですが、予定は未定だそうで、もう少し自衛隊には頑張ってもらうしかないようです。


「また、魔法の国は犯罪者とも手を組み危険な技術を流出させ!!」

 画面の向こうでは絶好調な清次さん、支持率は鰻登りで次期首相との声もあるそうです。

 そういえば、その犯罪者、つまりラスボス達の事ですが、優さん達との死闘末、今は厳重な監視下に置かれているそうです。

 ちなみに、『あの』姿を見た竜太さんをはじめ関係者一同、ひっっっっじょうにしょっぱい顔をしていました。

 特に実の弟の『あの』姿を見てしまった、竜鉄さんの表情と言ったら……

 ただ一つ良かった事は、彼等は例え主人公達に敗れたとしても未だに多くの信奉者が居ましたが、今回の事でガクッと信奉者の数が減ったそうです。

 彼らの意見として。

「あれは無い」

 そうです、無理もない事です。

 なので、以前よりもヘルシャフトの組織の運営がやりやすくなったと鈴さんなんかは喜んでいました。

 ああ、それから、あのマスコットもどきの生物も同じく厳重な監視下に置かれていますが、最初に私に接触してきた生物なんかは積極的に向うの情報を売りに来ているそうです。

 逞しいと言いますか、ここまで来るといっそアッパレな下種具合です。

 まあ、色々問題はありますが、少しずつですか良い状況になってきていると思います。



 ヒーローとメアリー・スーが活躍したんですからハッピーエンドで終わってくれないと困ります。




長くなったので前後編に分けます。

攻略対象者達の、その後は次回にて。

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