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学生の本分とは

 二度目の夏服にも慣れ始めた時期。

 そろそろ良いかなと泣き始めたセミの声を聞きながら、何時もと同じ恒例の大樹の傍での昼食。

「現在の状況ですが……」

 最近では魔法少女の報告会を兼ねた貴重な時間です。


「結論から言って魔法少女の数はかなり減っていると言っていいでしょう」

 ハッキリ言って『友釣り漁』が大当たりでした。

 私がちょっと魔法少女の姿で人気のない場所を歩くだけで魔法少女達がホイホイ釣れました。

 世界の意思殺意高すぎです、むしろ不幸な少女達が多すぎるのか。

 最も優さん達の敵ではありませんでしたが。

 彼女達の事は全部。児童相談所と警察と役所に丸投げました。

 下手に素人が首を突っ込んでも良い事は無いと判断ました。

 彼等は流石は専門家といった所でしょうか、確りと適切な援助を彼女達に施してくれました。

 急激に増えた仕事に関係各所から悲鳴が上がっているらしいですが、そこは給料分と諦め仕事に励んでもらいます。

 彼女達は今、適切な法の支援を受け、現実的な問題解決を模索している最中です。


 ただ、主人公であり真理とは依然コンタクトを取る事は出来ませんでした。

 恐らくそれは魔獣解放フラグが折れていない証拠なのでしょう。

 ですが慌てる事はありません、魔獣の開放は正確な時期こそ明記されていませんでしたが、最終回で真理が事切れる寸前に見た空から雪が降ってくる描写がありました、つまり。

「真夏の現在は、まだその時期ではないと」

 私の推論を聞きながら思案顔の早苗さんに頷き返します。

「はい、そう言う事です、それにほら」

 そう言って私が指さした先には、鳥籠に入れられた生物の姿が。

「魔法少女を作っている存在は私達の手の中にあります」

 コイツが新しい魔法少女を勧誘しない限り、魔法少女は増える事はありません。

 また新しい生物が魔法の国から派遣されるのではと危惧していますがサアさんの糸で街を探ってもらいましたが今の所そんな気配は無いそうです。

 最近ではかなり魔法少女の数が減って来ました。

 言い方は悪いですが、魔法少女を狩り切るのに時間はかからないでしょう。



「く、ここからだせ!捕虜虐待反対!!」

 私の視線に気づいた生物が、鳥かごをギコギコと揺らしますが鳥籠はびくともしません。

 これは、サアさんが持ってきた対妖魔用の道具でこの中に入れられた妖魔は完全に力を封印されてしまうと言う素敵アイテムです、つまり。

「魔法少女のいないマスコットなど、ただの奇妙な生物にすぎません」

「ほ、捕虜の虐待はジュネーブ条約に違反しているぞーー!!」

「何でそんな知識あるんですか」

「ふん、この世界の大まかな知識は学習している、貴様らの様な猿とは違うのだよ!」

 そう言って、偉そうに胸を張っています。


「無駄に偉そうだなコイツ」

 鈴さんがジト目で鳥籠を揺らします。

「きゃーやめてやめて、ごめんなさーい」

 途端に下手に出る生物、と言うか。

「最初に会った時と随分口調が違いますね」

「そんなのキャラ作りしてたに決まってるだろ」

「ああ、そう……」

「く、この仕事をうまく乗り切れば昇進だって部長に言われたのに」

「部長とか居るんだ……」

「こんな事ならローンなんて組むんじゃなかった……」

 そういって、さめざめと泣き始める生物。

 魔法の国って……


「まあ、そういう事で魔法少女関係は今の所、問題は無いと考えていいでしょう、ただ油断は禁物です」

 魔法の国がこのまま何もしてこないわけがありません。

「その辺りは、私の役割ですね」

 早苗さんは異世界の魔法で私達を魔法の国へと行く方法を探っている最中です。

「最近では賢者も手を貸してくれていますから、研究もかなり進みました」

「なるほど、つまり今の懸念はたった一つということですね」

 そす、私達を悩ます目下最大の問題。


 格闘家

 特撮ヒーロー

 超能力者

 勇者

 不死者

 魔法少女


 私達の事を現す称号は数あれど、私達を一纏めに言い表わす称号に付いて回る宿命。

 その称号を持つ者はソレから逃れる事は出来ません。

 つまり。

「もうすぐ期末試験です」

 学生の本分は勉強です。


「アーアー聞こえなーい!聞こえなーい!!」

 鈴さん耳を塞いでも現実は変わりません、何より。

「鈴さん、今日返された数学の小テストどうでした?」

「ななな何の事か分からないな~」

 目が思いっきり泳いでますよ。

「鈴さん」

 ポンと優しく彼女の肩に手を置き優しく笑いながら語りかけます。

「ネタは上がってるんだ観念しろ」

「うわああああん!涼子が怖いいいいい!!」

 いかん、余計に怯えさせてしまった。

 まあ、ネタ云々は本当で凱さんから最近、鈴さんの成績が落ちてきていると相談を受けたのが、そもそもの発端でした。

 鈴さんは普段ヘルシャフトの首領代行の仕事に最近では私の魔法少女関連にも手を貸しているせいで少々成績が落ちるのも仕方がないと思っていました。

 現状その少々を大いに下回っている訳ですが。


「前回の中間試験の内容は聞いています、かなり危なかったそうですね」

「う~凱ばか~」

「はいはい、凱さんに文句言わないの、それより数学の小テストは?」

「…………………………」

 観念したのか無言で渡された小テストに描かれた点数、一言で言うならば。

「これは酷い」

「うわーーーん!」

 泣いても小テストの点数は良くなりません、ですが。


「良い機会ですから全員で泊まり込みの勉強会をしませんか?」

「「ええええーーーーーー!!」」

 私の提案に優さんと鈴さんからは不満の声が上がりましたが。

「う~ん、まあ悪くないんじゃない?」

 と、消極的ながら賛成の由梨華さん。

「素晴らしい提案です、ぜひ行いましょう」

 積極的賛成な早苗さん。

「わ~お泊まりなんて楽しみね~」

 少しずれた賛成のサアさん。


「賛成4 反対2で勉強会の開催を決定しました」

「ひどい!」

「数の暴力反対!」

 敗者の嘆きは勝者には届かないものです。

「それじゃあ、今度の土日に私の家で勉強会をしましょう」

「「「「おーーーー!!」」」」

「「ぉ~………」」

 二人とも、そんなに嫌そうにしなくても。



 そんなこんなで時はあっという間に流れて土曜日。

「「「「「おじゃましまーす!」」」」」

 玄関に元気な五人分の声が響きます。

「いらっしゃいませ」

 最初は嫌がっていた二人も、お泊まり会は楽しみらしく最終的には嬉しそうに、準備と称してお菓子などを買いあさっていました。

 勉強するんですよ?大丈夫でしょうか?


「涼子これお土産!」

 その鈴さんが差し出したのは。

「わ、スイカ!」

 ずっしり重くて丸々と大きなスイカでした。

「凱が涼子の家に行くなら持って行けって」

「そんな気を遣わなくても……」

「いいのいいの、これ組織が新たに開発した甘みの強い新種のスイカだから美味しいよ」

「そ、それは凄いですね、組織ではそんな事もしているのですか?」

「何でも植物系怪人を作る時の応用らしいよ、よく知らないけど」

「………………食べても大丈夫なんですか?」

「大丈夫だよ、毎日食べてるアタシが何ともないんだから」

「毎日ですか?」

 それはまた、いくら夏だと言っても、毎日スイカとは随分な……

「博士が作る個数間違えて多く作りすぎちゃって最近の組織での食事は全員三食スイカな状況で……」

「あの博士何やってるんですか……」


 サクセサーを開発した下島博士は、いわゆるマッドな人でしたが悪人ではなく、主人公の凱さんに色々な武器を作って提供していました。

 その武器は強力で何度も彼の窮地を助けたほどです。

 色々と性格に難はある人ですが腕は確かなはずですから。

「だったら大丈夫ですかね」

「だから大丈夫だって言ってるじゃん」

 取りあえず、このスイカは冷蔵庫で冷やしておきましょう。


「さあ、皆さん入って下さい」

 何時までも玄関で騒いでいるわけにもいきません。

「ではこちらに」

 そう言って部屋に案内します。

「わー綺麗なお庭!」

「本当だ!」

「きれーー!」

「素晴らしい日本庭園ですね」

「心が落ち着くわね」

 皆さん廊下から見える庭の風景に驚いています。

「ええ、この家自慢の庭です」

 毎日庭師のおじさん達が精魂籠めて作り上げた自慢の庭です。

 季節の花々や木々の色どりなど、見ていて飽きません。


「凄い川がある!」

「わ、本当だ!」

「由梨華さん、優さん、落ち着いて下さい、取りあえず荷物を置きましょう」

 今にも庭に飛び出しそうな二人を押し留めます、このままだと済し崩し的に遊びにシフトチェンジしてしまいます。

 ちなみに、一番に庭に飛び出そうとした鈴さんはサアさんの糸で縛られています。


「さ、ここです」

 案内したのは庭に面した和室の一室。

 庭からの風が気持ちよくクーラー要らずな部屋です。

「気持ちいい部屋ですね」

 早苗さんの言葉に応えるように風鈴がチリリンと澄んだ音を鳴らします。

「ええ、私のお気に入りの部屋です」

 ここなら、みんなで気持ち良く勉強ができます。

 前日に設置してもらった大きめのテーブルに教科書や参考書を並べます。

 準備は万端、気力は満タン。

「さあ、勉強会を始めましょう」



「そこはxを代入して……」

「う~ん、こう?」

「え~っと、どうするんだっけ」

「この公式を当てはめれば……」

「ここは、こうして……」

「ううん…難しいわねえ」

 しばらくは黙々と勉強をしていると。


「お嬢様、少し休憩なされたらいかがですか?」

「あ、妙子さん」

 開け放っていた障子の向こうから家政婦の妙子さんが、冷たいお茶と、焼き菓子を差し入れてくれました。

「わー!美味しそう!!」

「妙子さんの手作りお菓子は絶品ですから」

 妙子さんは、私が幼いころから、この家で家政婦として働いてくれています。

 屋敷には他にも何人かの家政婦さんが居ますが、妙子さんはその中で一番の古株で私の身の回りの事を全般に担当しています。

 特に料理が美味しくて、妙子さんが作ってくれる毎日のお弁当が楽しみだったりします。

 他にもお菓子作りも上手で、差し入れてくれたクッキーとマドレーヌからは焼き立てを主張する湯気と共にバターの良い匂いが漂ってきます。


「お勉強も良いですが、あまり根を詰めすぎるのも良くありませんよ」

 時計を見ると結構な時間が過ぎていました。

「疲れた~」

 時計を見た途端、ヘロリと机に倒れた鈴さんの鼻先にクッキーを持って行き。

 パクッ

「うまうま」

「ふふふ、鈴さんったら」

 至福の表情でクッキーを頬張る鈴さんに自然と頬が緩みます。


「ありがとう妙子さん」

「いいえ、お気になららずに、お嬢様のお友達のため今日のおやつは特に張り切らせて貰いましたよ」

 そう言ってニコニコと嬉しそうに笑う妙子さん。

「妙子さん、ありがとうございます」

 思えばこうして友達を家に連れてくるなんて一年前まで考えた事もありませんでした。

 そう言った意味でも妙子さんに随分心配かけたかもしれません。

「それで、お嬢様今日の夕食は?」

「ええ、六人分お願いします」

「分かりました、腕によりをかけますから楽しみにしていて下さい」

 そう言って妙子さんは嬉しそうに台所に向かって行きました。



「むぎゅむぎゅ……」

「あらあら優ちゃんったら、そんなに慌てなくてもクッキーは逃げないわよ」

 クッキーでリスのように頬をパンパンにした優さんをサアさんが微笑ましそうに見ていたり。

「ぷしゅー……」

「ほうら、餌だぞうー」

 パクッパクッヒョイ

「うー」

「あははは」

「まったく、二人とも何やってるんですか」

 完全にガス欠状態の鈴さんに、親鳥が雛に餌をやるようにクッキーやマドレーヌを持って行っては食べさせながらも数回に一度はヒョイと手を引っ込めて鈴さんに恨みがましい視線を投げられながら笑っている由梨華さんと、その二人を呆れたような目で見ている早苗さん。

 皆さん妙子さんのお菓子を気に入ってくれてよかったです。


 そうやって私もお茶を楽しんでいましたが。

「でもさー涼子と早苗は勉強の必要無かったんじゃないの?」

 ある程度回復してきた鈴さんが、そう疑問を投げかけてきました。

「どう言う事ですか?」

「いや、だってさ、涼子も早苗も成績良いじゃん、わざわざ私達に付き合う必要なんてないと思ってさ」

「ああ、そう言う事ですか、別に無理に付き合ってるわけじゃありませんよ」

「そうなの?」

「ええ、私の成績が良いのは皆さんに会うまでは悪役回避のため生活の殆どのリソースを勉強などに費やしてきたおかげですから」

「ほ、殆どって……」

「殆どは殆どです、原作での涼子は、お馬鹿な子設定でしたから、それくらいしないと、今の成績になれなかったんです」

 なので、優さん達に会えてからの気の緩みと、魔法少女関係のダブルパンチで中間テストはかなりヤバかったです。

 悪くはありませんでしたが、このままだとズルズルと成績が落ちて行くのは目に見えていました。

「なので、ここらへんでバシッと自分に活を入れようと思いまして」


 早苗さんの場合はもっと単純な理由で。

「化学ばかりに力を入れてしまって」

「なんでまた、化学ばっかり?」

 それには、まあなんと言いますか、深いような浅いような訳があります。

「私が将来、異世界で生活するつもりだと前に居ましたよね」

「うん、魔王のお妃になるんだよね」

「ええ、ですがお飾りの妃になるつもりはありません、あの世界の極一部を除いて文明は中世ほどで停滞しています、そこに現代知識を入れたらどうなると思いますは?」

「あ~……その、あんまり聞きたくないけど、つまり?」

 早苗さんは眼鏡をキラーンと光らせながら一言。

「目指せ内政TUEEEEE」

 その眼鏡の奥の瞳には言い知れない熱が籠っているように見えます。

「デスヨネー」

「魔法も使い放題で夢が広がります」

 ウフフフフと怪しげな笑いを響かせる早苗さん、やり過ぎない様にしてくださいね。

「そう言う訳で、調子に乗って化学知識ばかり学んだ結果、他の教科が少し……特に古典がかなり危ない状況なのです」


「じゃあさ、優は?テストの時は何時も彼氏に教えてもらってたじゃない、なんで今回は勉強見てもらわなかったの?」

 鈴さんの問いかけに優さんは、ぷーっと頬をふくらしながら。

「む~!お兄ちゃんが悪いの!」

「え?竜太さんがですか?」

 おや、お兄さんに何かあったのでしょうか?

「そうだよ!受験だからってずっと陸兎さんに勉強見てもらってさ、最近私に構ってくれないの!!」

 苛立ちを現すかのようにバシバシとテーブルを叩いています、どうやらかなり怒っている模様。

 意外な所で恋人同士の危機が。

「ふ~ん、でもさ、メールとか電話はしてるんだろ」

「うん!毎日、『愛してる』とか『一緒に居られなくてごめん』て電話とメールで言ってくれるの」

 と、思ったら、鈴さんの一言でコロリと嬉しそうな表情になる優さん。


 ですが直ぐに顔を曇らせでしまいます。

「それに最近、ちょっと家に居づらくて」

「何かありましたか?」

「なんだか最近お父さんの様子が変なんだ、顔を合わせたら、歯ぐきが見えるほど唇を捲り上げた顔をしてたり、頬が痙攣するような怖い顔をしてて、何だか怖くて」

『笑うという行為は本来攻撃的なものである』そんな一文が頭をよぎりました。

「………なんか、ごめん」

「何で涼子ちゃんが謝るの?」

「いえ、ちょっと……」

 何と言うか……お父さん、どんまい。



 その後。

「サアさん、そこの年表間違っていますよ」

「あら、そうなの?この事件って今はこの年に発生した事になってるのね」

「直に見てきたんですね……」

 サアさんが苦手だった歴史を勉強したり。


「ねえねえ、英語のヒアリングで異世界トリップの言葉が分かる魔法を使えば……」

「それだ!」

「それだ、じゃありません!!」

 カンニングもどきを阻止したり。


 そうして有意義に時は過ぎ。

「それではお嬢様、私はこれで」

 通いの家政婦である妙子さんは夕方には家に帰ります。

「はい、妙子さん今日もありがとうございます」

「お夕飯は十分な量を作ってはいますが足りない場合は電話して下さい、直ぐに作りに行きますからね、それとお夜食にサンドイッチも作っておきましたから」

「もう、妙子さんの中では私はどんな食いしん坊になっているんですか」

「私の中では初めて会った時、卵焼きを美味しそうに食べてくれた小さな女の子のままですよ」

「又その話ですか、いい加減忘れて下さい!!」

「はいはい、ではお嬢様お友達と楽しんでくださいませ」

 そう言って妙子さんは帰って行きました。


 残された私達は妙子さんの作ってくれた料理に舌鼓を打ち。

「わ、本当に美味しい!」

「何時も涼子の弁当は美味しそうだったが、秘密はあの人だったんだな」

「むむむ、十夜のためにも料理習おうかしら」

「ふむ、国内の生産力を上げるだけではなく、こちらの世界の料理の再現や新たな調味料の開発も……」

「早苗ちゃん、また凄い顔になってるわよ」


 その後、みんなで一緒にお風呂に入ったり。

「お風呂広ーい!」

「クロール!クロール!!」

「ちょっと鈴!泳がないでよ!」

「やはり衛生面から言っても入浴は外せませんね、問題はコストがかかる事ですが……」

「大勢でお風呂なんて久しぶりね~」

「「「「「…………………………」」」」」

「ん?どうしたのみんな黙っちゃって?」

 服の上からでも分かっていた事ですが。

「「「「「でかあああああい!!」」」」」

 何がとは言いません。

 ただ、これだけは言わせて下さい、私達が小さいんじゃない、相手がでかいだけなんだと。


 お風呂上がりには鈴さんの、お土産であるスイカを皆で食べました。

 良く冷えたスイカは、甘くて瑞々しく確かに美味しかったです

 少しはしたないですが、みんなで庭に向かって種飛ばしなどをして遊んだりもしました。

 そうして妙子さんが和室の一室に事前に六人分のお布団を引いてくれていたので、そこでみんなで一緒に寝ました。

 電気を消してからも楽しくお喋りしたり、ちょっと怖い話をしたり。

 寝ている鈴さんに私と早苗さんが両側から数学の公式を囁き続けるといった睡眠学習を試みて、鈴さんがうなされたりといった事もありました。

 こうして勉強会兼お泊まり会は過ぎて行きました。


 翌日。

「それじゃあ皆さんまた明日、学校で」

「またね涼子ちゃん」

「それじゃ、また明日」

「楽しかったよ、またやろうね」

「お世話になりました」

「また学校で会いましょうね」

 こうして、勉強会は終わり、皆さんそれぞれ待っていてくれる人達の元へと帰って行きました。


「………何だか家が余計に大きくなった気がします」

 皆が帰った後の家は、どこか空虚な寂しさを感じさせます。

「駄目ですね、こんなことでは」

 パシパシ頬を叩いて気合いを入れなおして明日の予習に手を伸ばします。

 皆で頑張ったんです、ちゃんと物にしなければいけません。


 そうして時は過ぎ、テストを迎えた私達はそれぞれ満足のいく成果を得ました。

 特に鈴さんは成績が上がったので凱さんに頭を撫でてもらったと嬉しそうに話してくれました。


 そして私は。

「どうしよう……」

 真夏の空に向かって現実逃避の遠い目をしています。

 日本庭園だったはずの我が家の庭は、緑の海とも言うべき光景に成っています。

 ウネウネとツルを伸ばし蠢きながら更に支配地域を広げ自身の子供と言うべき丸々とした実をならす植物の名は。

「スイカってこんなに早く育つ物でしたっけ?」

 あの日、飛ばしたスイカの種が急成長して庭どころか家まで飲まれそうです。

 確かに食べても何も影響はありませんでしたよ、問題はそれ以外にありましたけど。

「く、ここは死んでも通さねえぞ、おいヤス気合いを入れろ!!」

「へい!親っさん!!」

 庭師のおじさん達は、このスイカに果敢に挑んでいますが劣勢を強いられています。

「のおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「おやっさーーーーーーーん!!」

 あ、飲み込まれた。


 このスイカ騒動。

 凱さんが必殺技でスイカを焼き払うまで続きました。



真冬に真夏の情景を書くのって予想以上に大変だった。

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