表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/25

プロローグ

 悪役令嬢に転生してしまいました。


 綺羅氣螺学園

 小学校の入学式で、頭の痛くなるような文字が書かれた校門を見た瞬間、私の頭を占めたのはそんな一文でした。


 乙女ゲーム『綺羅氣螺学園物語』

 小中高の一貫教育を掲げ部活動なども盛んな名門校を舞台にヒロインとイケメン達との恋物語が人気を博した作品。

 その人気ゆえにその後五作もの続編がが作られた乙女ゲーム屈指の名作。



日向野(ひびの) 涼子(りょうこ)

 日向野財閥令嬢であり、一作目のメインヒーロー、俺様生徒会長の婚約者。

 一見長い黒髪を靡かせる大和撫子的美人だが、扇子を扇ぎながら「おほほ!」と高笑いを上げる残念な人。

 選民意識が強く取り巻きを侍らしヒロインを虐める典型的な悪役。


 だか彼女はある意味凄かった。

 改めて言おう彼女は悪役なのである。

 この物語全ての。


 この物語はそれぞれの続編ごとにヒロインが変わるが悪役だけは変わらない。

 悪役は『日向野 涼子』ただ一人。

 作品でもヒロインの邪魔をしてその度に彼女達を愛するイケメン達に酷い目にあわされる。

 なのに彼女はめげずにヒロイン達を虐め続ける。

 自業自得とはいえ五作目辺りになるとかなり悲惨な状況になってネットでも。


「またこいつかよwww」

「もういっそ楽にしてあげろよ……」

「もういい、もういいんだ休め涼子!」


 など半分ネタに半分憐れまれる。

 そんな存在に転生しました。

 まあ、そんな未来を知っているので原作通りに進めなければいいよね。

 そう考えていました。

 甘かったと言わざをえません。




 最初は上手くいっていたと思います。

 八歳のころ俺様生徒会長との婚約話が持ち上がりましたが破談にしました。

 原作じゃあ頭の弱い子設定だけど勉強頑張って常に学年上位に食い込めるようになりました。

 ついでにお嬢様らしく踊りやお花なども頑張って先生方から免状も貰えました。

 あと何かあった時のために身体も鍛えました。

 特に弓道が意外に面白くてはまってしまった結果、大会に何度か出て優勝もしちゃって騒がれたりしました。

 日比野財閥令嬢である私の周りに取り入ろうとする娘達もいましたが丁重にお断りして、取り巻きや派閥などとは距離を置いています。

 そこ、ボッチって言うな。

 ちなみにイケメン共とは徹底的に距離を置いています。

 あいつ等は鬼門だ。



 ただ、ここで誤算が一つ。

「そもそもこの学園に居なきゃよくね?」

 と、考えた私は原作が始まる直前の中等部卒業の時分に別の学校を受験しようとしました。

 そうしたら…


 別の学校の願書を手に取ったら突然の突風に襲われ願書が空の彼方に。

 何とか願書を手に入れ郵送しようとしたら謎の郵便事故多発。

 それでも何とか受験に漕ぎ着けたと思ったら、狙ったように突発的な事故や事件に見舞われる受験会場にたどり着けない。

 具体的に言うと受験会場に行こうとするとハリウッドアクションムービー並みの出来事が次々と。

 受験会場にトラックが突っ込んできた時は死ぬかと思いました。

 他の受験生の方々お騒がせして申し訳ありません。


「これが世界の選択だというのか!」

 などと中二っぽいセリフを吐いて現実逃避した私はきっと悪くない。

 流石に高校浪人にはなりたくないので腹を決めてそのまま進学する事にした途端この現象はピタリと止み、あっという間に入学式に。



 入学式当日。

 来いよヒロイン、フラグなんか捨ててかかってこい嘘です、すいません私悪い悪役じゃないです助けてください。

 私の心の叫びなどお構いなしに晴れ渡った空が憎々しい春の日。

 こんな感じで迎えた入学式、バッチリ一作目のヒロインが居ました。

 ちなみに壇上で在校生代表挨拶と言う名の演説をぶちかましているのはメインキャラである俺様生徒会長です。

 関わりたくない人筆頭です、さっさとヒロインとくっついて下さい邪魔しませんからお願いします。


 そんな事を考えていたら、ふと違和感を感じました。

 あれ、ストーリーが違う?

 今はいわばゲームのプロローグ。

 物語では外部からの入学生であるヒロインが入学式に遅刻し会長の挨拶の時に慌てて会場に乱入して悪目立ちしてしまう。

 この一件で俺様生徒会長に目を付けられたヒロインは彼に反発しながらも恋心を育んで行く。

 大まかなストーリーはそんな所だったはずです。


 はずがヒロイン遅刻していません。

 私の斜め前に普通に座っています。

 これはどう言う事でしょう?


 そこまで考えて、ふと閃きました。

 ひょっとして彼女も転生者かもしれない!

 あり得る話です、私のような存在が一人だと言う確証は何処にもありません。

 私と同じようにイベントを回避しようとしている可能性もあります。

 ですが私と同じだと言う保証もありません。

 私の記憶違いだったり、たまたまヒロインが遅刻しなかっただけかも知れない。

 焦りは禁物です。


 どうやって確かめましょう?


 ①直接聞いてみる(ダイレクトアタック)

「貴方は前世を覚えていますか?」

 ………だめだ、ただの電波さんだ。

 死ぬ、身体的に死ななくても社会的に死ぬ、むしろ私の心が死ぬ。

 ヒロインも電波に絡まれるとか気の毒すぎる。


 ②観察する別名保留

 他に名案が浮かばない以上これしかありませんか。

 原作では、ここから怒涛のイベントラッシュが始まり、二人の仲が急速に近づいていきます。

 イベントラッシュの連続で作品内の時間では物凄い速さでヒロインとイケメンがくっつくのがこの作品の特徴です。

 ゲーム五作目の開始時点で一作目のヒロインが二年生だという時点でお察しして下さい。

 例え入学式のイベントが無くても他のイベントが起こる可能性は大いにあります。

 つまり、これから起きるイベントを彼女がどう対処するかで彼女が私と同じなのかそうで無いのかが分かるかもしれない。


 原作だと私と彼女は同じクラスだったはずです。

 観察するにはうってつけの環境ですが気をつけねば。

 例え転生者だとしても味方とは限りません。

 生前に読んだネット小説などでは逆ハー狙いで此方に無実の罪を着せようとするような人かもしれません。

 慎重に見極めなければ。

 壇上から流れてくる俺様語りを聞き流しながら、私は密かに拳を握りしめました。



 この時まだ私は知りませんでした。

 この世界の本当の姿を。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ