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せっちん!  作者: 濱野乱
菊と刀編
8/97

Goodbye Lullaby(前編)

 

ハクアが音楽室を出て間もなく、薫子たちも廊下に出た。疲労困憊の薫子は、気温の低下した外気に触れた途端めまいを感じ、壁に手をついた。闇に沈んだ校舎は、まるで未知の魔物の胃袋に繋がっているようで、薫子の足は重くなる。

機嫌の直らないせっちんが、乱暴に前を歩きながら言う。

「ここいらでよさぬか?」

せっちんの小さな背中が、やけに遠く感じる。薫子の視力はだいぶ回復してきたものの、遠近感はまだ狂いが生じていた。

「そうも言ってられないわ」

伊藤がもし危険な人物だとしたら、陽菜や幸彦にも害を及ぼすかもしれない。決着をつけるには今しかない。ハクアを拘束してから、伊藤に接触するのがベストだったが、過ぎたことを言っても始まらない。

「何だかんだ言って、せっちんって私のこと気にかけてくれるわね」

「なんじゃ、ふふくか?」

「ううん、感謝してる。私たち良いコンビみたいね」

せっちんは返事こそしなかったものの、満更でもなさそうに口元を緩めていた。

二階廊下を歩いていると、美術室から人が出てきた。薫子は立ち止まり身構えた。目を凝らすと、相手は女子生徒らしい。彼女は薫子の姿に気づいた途端、逃げるように反対方向に走りだした。

「ま、待って!」

薫子がやっとの思いで走り追いつくと、向こうも観念したのか足を止めた。

「ごめんなさい、私今、目がよく見えなくて、もっと近くに寄ってもいい?」

廊下の明かりは消えており、薫子が手探りで前に進むと、女子生徒の方から近づいてきてくれた。

「その声、美堂さんですか?」

探るように尋ねてきた声に、薫子はあまり聞き覚えがなかったが、最近どこかで聞いたような気がする。

「私です、今朝お会いした荒巻妙子です」

「ああ……!」

荒巻妙子は、スカートめくり事件の被害者だった生徒だ。伊藤と一緒に美術室に入ったのは彼女だったのだ。別の可能性を考えていた薫子は、胸をなで下ろしていた。

「あの、その顔どうされたんですか? それに制服がボロボロ」

「うん、ちょっとね。それより爆弾事件があったっていうのに、貴方こそどうしてこんな遅くまで?」

妙子は返答に困ったように、それはですねとか無意味な言葉を口走っていた。やがて誤魔化しきれないと思ったのか、誰にも言わないでくださいねと念をおしてきた。

「実は私、伊藤先生の絵のモデルをしていたんです」

薫子は品定めするような目で、妙子の体をじっと見つめた。

「あっ・・・・・・、でもですね、いやらしいこととかそういうんじゃなくて、芸術の発展のために」

妙子は薫子の好奇の視線に耐えきれなくなったように身をくねらせた。

「美堂さん、今日ここで私と会ったこと、本当に誰にも言わないでください。伊藤先生にご迷惑がかかるかもしれないし」

薫子は妙子の肩に手をやった。その時、少し逸らした首筋にキスマークがあるのを薫子は見逃さなかった。

「心配しないで、今日のことは、私の胸に仕舞っておくから。早く帰りなさい、親御さんが心配するわ」

「は、はい! ありがとうございます」


薫子は、妙子が上機嫌で立ち去る後ろ姿を憤懣やるかたないという気持ちで見送った。

「そなたのいまのおもい、あててやろうか?」

闇の中からせっちんが、ふいに姿を現した。 「いとう、ぶっころす」

せっちんが中指を立てたので、薫子はその指をぱくっと口にくわえた。

「な、なにをする!」

仰天するせっちんのすべすべの指をぺろぺろしていると、薫子の不穏な衝動も落ち着きを取り戻す。

「うまし。味付けしなくてもなかなかいけるわ」

「そ、そなた、わらわをくうつもりか」

 美術室の前に立ち、せっちんに手のひらを向ける。

「なんじゃ、さもしいまねをして」

「いや、則宗貸してくれないかなーと思って」

せっちんは、渋々暗いところに行き、例の儀式をして戻ってきた。

「こんかいだけじゃぞ、そなたにかすのは、ふほんいなのじゃ」

「ごめんごめん、またご飯食べさせてあげるから許してニャン!」

変に高いテンションは、せっちんを不審がらせた。

美術室の隣の準備室にぼんやりと明かりが灯っている。伊藤はまだ中にいるようだ。

薫子はしっかりと左手で則宗を握りしめ、美術室に入った。続いて準備室に通じる小さい扉に手をかけた薫子は、ぱっとノブから手を離した。

「どうした? また”わな”か」

小声で尋ねるせっちんの不安を和らげるように、薫子はおどけてみせる。

「えへへ、静電気だったみたい。なんかびっくりしちゃった」

「……? そなたさっきから、なにかへんじゃぞ。さきほどのだめーじが、ぬけきっておらぬのではないか?」

万全とはほど遠い状態で、伊藤と対峙するのに不安を感じていないと言えば嘘になる。しかし薫子は、今日中に伊藤と会わねばならない。単に教え子をキズモノにしている倫理観の欠けた男に対する制裁よりも、もっと大事なものが薫子に待ち受けている。そんな漠然とした予感があった。

「行きましょう」

薫子が、先だってゆっくりと扉を開ける。準備室には蝋燭の明かりだけが頼りなく点在していた。入ってすぐのところに荷物が置かれており、中の様子は体全部入れないとわからない。まばらな人声が薫子たちの耳に届いた。

「んっ……、嘉一郎さまぁ、そこですぅ」

甘えたような声を出していたのはハクアのようだ。薫子は慎重に身を乗り出す。

ハクアが薫子たちに背を向け立っており、その正面に伊藤がしゃがみこみ、こぎざみに手を動かしていた。

「はうぅ……、一人でするのとは、全然違うですぅ。こんなの知っちゃったら、もう吾輩一人じゃ満足できません」

衣擦れの音。

「ふふっ、君も自分ですることがあるんですね。でもいけませんよ、僕がするのは今夜限りにさせてください」

ハクアの背中がわななく。

「あんっ……、嘉一郎さまのイケズ。不出来なハクアに、もっと個人授業してください」

ハクアが伊藤の後頭部を抱きしめると同時に、薫子は飛び出していった。

「そこまでよ、伊藤嘉一郎! 教え子のみならず、年端もいかぬ幼女にまで毒牙にかけるとはゲスの極み。私が成敗してくれる」

則宗を抜き放ち見えを切ると、それを引き立てるように優秀な相棒せっちんが、紙吹雪をまいた。恐らく準備室から見つけたものだろう。

「あん?」

ハクアが鬼も逃げだすような形相でふりむく。伊藤はしゃがんだままだ。

「また懲りずにやってきたですか、この雌豚。吾輩と嘉一郎さまの楽しい時間を邪魔しやがって覚悟はできてるですね? 今度こそ、本物の地獄を拝ませてやるです」

「イタズラされてると思って出てきたのに。どうしてそんな男を庇うの?」

「イタズラ? 吾輩のブラウスのボタンが取れたから、繕ってもらってただけですよ。どこぞの欲求不満の淫獣のせいなんですけどね」

ハクアは、にやりと笑って体を薫子たちの方に向けた。確かに一番下のボタンから糸が垂れたままだ。薫子の高揚した気分に水を差さされた。 

伊藤は好戦的な態度を諫めるように、ハクアの薄い尻を撫でた。

「はうぅ、嘉一郎さまぁ、見られちゃってます、見られちゃってますからぁ」

ハクアが自分の小指をくわえ、腰砕けになると伊藤が立ち上がった。薫子と対峙すると悲しげに目を細めた。

「失礼、ハクアがご迷惑をおかけしたようですね。僕から謝罪させてください。申し訳ありませんでした」

三十秒程、伊藤は頭を上げなかった。薫子は、無表情でその姿を見下ろした。

「そのことと、荒巻さん達のことは別問題ですよ、伊藤先生。どうお考えになっているか教えてください」

伊藤は顔を上げると、ハクアの被っている帽子に手をやった。

「ハクアがスカートをめくったのは、事実です。しかしそれは僕の意図したことではありません」

「あくまでシラを切るのね」

「確かにハクアのしでかしたことは僕の責任。彼女たちには然るべき補償をするつもりでいます」

薫子は幸せそうだった妙子のことを思った。

「ずいぶん手厚い補償をしていらっしゃるんでしょうね」

伊藤は薫子の間合いぎりぎりまで歩いてきた。反射的に刀の柄に手をかける。薫子の動きに対応するように、ハクアが素早く立ち上がる。

伊藤は長い腕を差し伸べた。

「菊……、ですか。君に似合いの銘ですね。知っていますか? 菊の花言葉を」

「全然。私そういうの疎くって」

伊藤がまた一歩踏み出す。まだ早い。薫子は居合いのタイミングをはかっていた。

「高潔、女性的な愛、そして……、破れた恋」

薫子は則宗を抜刀しようと気合いと共に力を込めたが、刀は鞘と一体になったかのように、固く動かなかった。

「え? 嘘、何で」

愕然としてせっちんを顧みるが、彼女は肩をすくめるだけだった。

「”でんち”ぎれじゃ」

「はあ!? 何それ、聞いてないわよ。肝心な時に使えないったら。ふんぎぎぎ」

あらん限りの力を込めたが、則宗は薫子を拒むように石のように固まっている。それを見て伊藤が笑っている。  

「おもしろいですね。そうは思いませんか、ハクア」

「はあ、あんなのに負けたと思うと壮絶ショックですぅ」

薫子は必死だった。伊藤は不気味だし、ハクアもまだ力を温存している。則宗が使えないとなると、徒手空拳で戦わなくてはならない。いつの間にか薫子は則宗に頼りきっていた。単に使いやすい得物というだけでなく、握っていると力が湧いてくるのだ。

「かすのじゃ」

せっちんに手渡すと、たやすく鞘から刀身がのぞいた。

「何だ、抜けるじゃない。もっかい貸して」

せっちんは首を振って、背中に則宗を隠してしまう。ふざけているわけではなく、何か事情があるようだ。それとなく薫子は察する。

あきらめて伊藤に向き合う。伊藤は知らぬ間に薫子のパーソナルスペースを侵していた。薫子に戦慄が走り、拳を振り上げる。伊藤は難なく薫子の腕をとった。

「僕は君と争う気はないんです。話を聞いてもらえませんか?」

「いや! 何か貴方のこと好きになれないの。大人しく殴らせて」

薫子の腕に鳥肌が立つ。吐き気もしてきて、もう戦うどころではない。

伊藤が薫子の頬に手を当てた。無遠慮な感じはせず、壊れものを扱うように触れられた。

「可哀想に、こんなに腫れて。少し目を瞑って」


伊藤の形の良い指が薫子の頬を包み込む。伊藤の手は熱かった。マッサージするように顔をもみしだく。強くもなく弱くもなく程良い感触を味わっていると、顔がだんだんほてってくる。伊藤が手を離すと、薫子は目を開けた。視野が格段に広がっている。

「はい、もう結構ですよ。どうですか? 楽になったでしょう」

「え、ええ……」

薫子は頬を押さえながら不本意な返事をした。顔の腫れが嘘のように引いていた。痛みもなくなって、完全に目も開くようになった。

「こんなので帳消しになったと思わないで」

「もちろん。大事な話はこれからです」

伊藤は、せっちんを一度興味深げに眺めてから話し出した。

「美堂さん、キャストのことを知りたくありませんか?」

うっかり首肯しそうになったが、薫子は平静な面もちを保った。

「そこにいる彼女、せっちんにも関わることです。美堂さん、何の知識もなしにキャストと行動を共にするのは、お勧できません」

「せっちんは悪い子じゃないわ。貴方たちと一緒にしないでくれる」

薫子は、せっちんを手元に引き寄せていた。確かに薫子は彼女のことを何も知らない。しかし薫子とせっちんの絆は、確実に深まっていた。伊藤の揺さぶりに微塵も動じない。

せっちんは無表情で薫子を見上げた。 

「もうよい。そろそろはなすべきときがきたようじゃ」

「せっちん?」

せっちんは、伊藤の前に泰然と立つ。

「”いとう”とやら、そなたがかんがえておるとおり、わらわは、きゃすとじゃ」

伊藤は膝をつき、せっちんの手を恭しくとった。

「初めまして、出会えて光栄です。どうですか、君も美堂さんが事情に通じている方が都合がいいのではありませんか」 

「つごうはよくとも、ふつごうもあるじゃろ。そなたが”まこと”をかたるほしょうがない。わらわは、”いつわり”をこのまぬ」

「偽りを感じたら、君が逐一訂正してください。僕は知っている限りの情報をお話しすることを誓います」

せっちんは、薫子の目を見上げた。お前が決めろと言われているようだった。聞いてしまえば、もう後戻りできない。しかし、とっくに覚悟はできている。

「話は聞くわ。まずはそれからよ」

笑みを浮かべて伊藤は立ち上がり、ハクアの横に立った。

「美堂さん、もうご存じでしょうがハクアは人間ではありません」

薫子はハクアの姿を戸惑いと共に見つめる。華奢な少女が今にも噛みつかんばかりの顔で薫子をにらみ返してくる。とても幻覚とかそういう類とは思えない。

「そして、そこにいるせっちんも。キャストとは、ゲストと呼ばれる特殊な人間から分裂した思念体のような存在なのです」

致命傷を治し、幻の名刀を持つせっちん。爆弾の扱いに長け、狡猾な知恵を持つハクア。彼女たちはあまりに人間離れしている。

「ちなみに、キャストの姿はゲスト以外の人間には見えず、映像に記録することもできません」

薫子にも覚えがあった。未来はせっちんの姿に気づくことはなかったし、荒巻妙子も同様だった。

「もしかして、この学校の異変にキャストは関係しているの?」

「待ってください、美堂さん。順番にお話します」

薫子は口を閉じた。伊藤の口は滑らかだ。嘘発見器のせっちんがいるから流れに任せよう。

「キャストを発現する者は、何らかのトラウマを持っているようです」

「トラウマ……」

薫子の脳裏に一人の男の影がちらとかすめる。

「ゲスト一人につき、キャストは通常一体。僕の場合はハクアですね。彼女は常に側に寄り添い、僕を助けてくれます」

ハクアは照れたように口元を緩めたが、薫子には嫌みに聞こえた。

「ちょっと待って。私もゲストだとして、キャストは、せっちんなの?」 

薫子は期待を込めて、せっちんに尋ねたがその期待は裏切られることになった。

「そなたにはもう、”きゃすと”がおるではないか」

「えっ? どこどこ?」

薫子は当たりに目を走らせたが、それらしき者は現れない。

ハクアが堪えきれずに、吹き出した。

「ぷぷっ、こいつ真正の阿呆ですぅ。お前のキャストはとっくに消滅してるですよ」

「どういうこと?」

「実は学校中に隠しカメラを仕込んでいるのです。当然寮の中にも。昨夜、お前を襲った獣が、キャストです。キャストは映像に映りませから、吾輩、一応足を運んで確認しました。えへん」

薫子は則宗で斬り殺した獣を思った。身を守るには仕方なかったとはいえ、あの獣も理性のひとかけらでも残っていたのではないか。だとしたらやりきれない。

「あんずるな。だれもしんだとは、いうておらぬ。あれは、そなたのなかにちゃんとおる」

「そ、そうなの? 何だぁ、ハクアちゃん脅かさないでよー」

薫子は内心かなりのショックを受けていた。この事実で、せっちんとの絆を否定されたよう気さえしていた。

「さて、話の続きをしても?」

伊藤が待ちかねたように言うので、薫子は肯いて体を正面に戻す。

「キャストは合計七体、そしてゲストも七人。その中に支配者ルーラーと呼ばれる者がいます」

「ルーラー?」

「ええ、文字通り支配者的な権限を持つ何者かのようです。ハクアが言うにはその支配者を見つけることがゲストの役目のようです」

また胡散臭い言葉が出てきた。せっちんもその支配者を探しているのだろうか。

「ねえ、伊藤先生。その支配者の目星はついてるの?」

「いいえ、まだ何とも。僕とハクアが目にしたのは、美堂さんと、せっちんだけです」


薫子が真っ先に思い浮かべたのは、ニーナとナノという二人の少女だ。彼女たちはルールという言葉を口にしていたし、せっちんたちとはまた少し毛色が違って見えた。

ニーナたちのことを聞こうと、薫子が口を開きかけると、伊藤に先を越された。

「せっかくの機会ですから、お伺いします。せっちん、君の主は支配者ではありませんか?」

一同の注目を集めても、せっちんは臆する様子はない。

「そうたやすくこたえるとおもうか、たわけめ。じゃがひていだけは、しておいてやろう」

伊藤はせっちんのつぶらな瞳をじっとのぞき込んでいたが、すぐにそらした。

「そうですか。ありがとう」

伊藤はそれ以上追求せずに素直に引き下がった。

「そなたのようは、すんだようじゃな。では、わらわは、たいさんさせてもらおう」

きびすを返そうとしたせっちんの肘を、薫子は掴んだ。

「ちょっとどこに行くの」

せっちんはうるさそうに薫子の手を払いのける。

「きいたとおりじゃ。そなたとわらわは、てきたいするかのうせいがある。これいじょうそばにおるのは、とくさくではあるまい」

「可能性だけで勝手に決めないでよ。支配者だかなんだか知らないけど、そんなの関係ないわ」

薫子は是が非でもせっちんと別れたくなかった。ここで引き留めないと、もう以前の二人には戻れない気がする。

「かおるこ」

せっちんは、初めて薫子の名前を呼んだ。感動を味わう暇もなく、捨てぜりふを残していった。

「そなたといることができたじかんは、とてもゆういぎであった。つぎにあうとき、やいばをまじえることのなきよう、いのっておるぞ」

薫子は後を追うことができなかった。せっちんの背中は強い拒絶の意志を示していた。

せっちんが出ていくと、誰も口を開くことはなくなっていた。薫子はショックに打ちひしがれていたし、伊藤はぶつぶつ考えごとをしていた。ハクアは途中だったボタンが気になるのか無心にそれをいじっていた。

蝋燭が小さくなり、薫子に顔に濃い影が差した。

「支配者はこの学校で何をするつもりなのかしら」

薫子は誰に言うでもなくつぶやいた。

「破滅」

ハクアがボタンをいじりながら答えた。

「端的に言うとそういうことです。お前もわかってると思いますが、キャストはちっとばかし不思議な能力を持っているですぅ。それを悪意を持って使ったとしたら」

取れかけのボタンが床に落ち、薫子の足まで転がって止まった。

「それをさせないために、吾輩がいるです」

「怖くない?」

「そりゃ吾輩もか弱い女の子ですから、ビビっちまうこともあるかもしれません。でも嘉一郎さまがいるところ吾輩あり。キャストというのは、そういうものです」

正義の味方のように胸を張るハクアの頼もしい言葉を、伊藤は聞いていないようだった。まだ考えごとをしていた。

せっちんがキャストだとすると、対になるゲストもいるはずである。彼女のゲストはやはり彼なのだろうか。

「美堂さん」

薫子の思考は中途で妨害された。頭に手をやり、伊藤を見やる。

「何でいきなりせっちんに、あんなこと聞いたのよ」

「失礼。あれしか方法が思いつきませんでした」

「そうやって貴方たちは、いちいちゲストとキャストに尋ねて回るわけね」

「途中で何らかの糸口を掴めるといいのですが」

非行率極まりないやり方で、彼らが得るメリットは何なのか。ハクアのように平気で人を襲うようなキャストも当然現れるだろう。むしろ伊藤たちの言に信憑性がない。

「貴方たちの話には、矛盾があるわ。私も支配者の候補に入っているわけよね?」

「ええ、そうなります」

「でもおかしいわ。ハクアは、そんなのおかまいなしに私を殺そうとした。しかもその場にせっちんもいたのよ。質問で判別するしかないのなら、そんなことはしないはず。違う?」 

伊藤は横目でハクアをにらんだ。

「申し訳ありません、美堂さん。僕は嘘はついていません。ただ支配者を探すのはあくまでついでだと思ってください」

薫子は本当に幻滅し、ドアへと向かった。

「大した正義の味方だわ、貴方たち。私も帰らせてもらう」

「僕の話を最後まで聞かない限り、君はこの部屋を出ることができない」

蝋燭の火が一瞬大きく揺らめいた。薫子からドアまで五メートルもなかったはずである。手を伸ばせばすぐの距離が、やけに遠くかすんで見えた。まるで深い洞に迷い込んだ時のように、薫子は不安を感じた。一度目をこすりもういちど前を向くと、雑多な部屋の質感が戻ってくる。ドアはもう数歩の距離。それでも薫子は、また伊藤たちに体を振り向けていた。

「聞き届けて頂きありがとうございます。そこに椅子がありますから、どうぞかけてください」

「いいえ……、結構よ」

何とも不可解だった。薫子は部屋を出るつもりでいた。それなのに逆の結果になった。まるで自分の意志がねじ曲げられたような不快感。ハクアの仕業かと思ったが、彼女はボタンを拾っていただけだった。

平静を装い、薫子は尋ねる。

「危険だっていう支配者がついでってことは、それ以上の大目標があるってわけよね?」

「その通りです」

薫子が思い浮かべたのは、せっちんの求める”きんのおまる”だった。伊藤たちもそれを狙っているのだろうか。

「ですが今はそれ以上は申し上げられません。僕たちの生命にも関わってくることですから」

その点、軽々しく教えてくれるとは薫子も思っていない。伊藤たちが何か画策していて、せっちんと衝突する予測が立てられただけで十分である。

「私も支配者の可能性があるから?」

ハクアが話に無関心で、やたらとボタンをいじっているのは、口を滑らせないようにするためだろう。つまり彼らは探られたくない秘密を持っている。

「興味が湧いてきたようですね、美堂さん」

「貴方のお話が上手だからよ。ねえ、他のキャストに会ったらどうすればいいのかしら?」

薫子は身を乗り出して、伊藤に近づく。この際搾れるだけの情報を搾り取るつもりだ。

いきなりハクアが伊藤と薫子の間に割って入った。

「キャストに出会ったら、即座に殺害するです!」

「さ、殺害……!?」

動揺する薫子をよそに、ハクアは大きな目を爛々と輝かせて言う。

「悪・即・斬ですぅ。相手がどんな能力持ってるからわからないし、殺っちまえば支配者だろうが同じことです。どうせ、最後の一人まで」

「ハクア、口を慎みなさい!」

伊藤が厳しい口調でハクアを諫めた。彼女は両手で口を押さえ黙った。目には涙を一杯溜めて可哀想な程震えている。


伊藤は肩をすくめる。 

「失礼。この娘は時折品のない言葉を遣うようです」

「いいわ、もうなれてきたし」

薫子は涙ぐむハクアの帽子にやさしく手を置いた。

「まあ、私にも覚えがあるし、キャストが危険なのは否定しないわ。で、そろそろ私を引き留めた理由が聞きたいんだけど」

 ハクアは背を向け、部屋の端に移動した。へそを曲げたのだろうか。

「ぶしつけですが君に共闘を申し出たい」

「お断りするわ」

薫子はにべもなく返事をした。ハクアがこそっと振り向いていてたが、まだぐずぐずやっていた。

「僕を信じてもらえませんか、君の力が必要なんです」

「支配者を探すため? それとも別の目的のためかしら? いずれにしろ貴方たちと組む動機はないわ」

伊藤はまだ何かを隠している。きんのおまるや、ニーナたちのことは黙っていた方がよさそうだ。

「私が譲歩できるのは、お互いの不可侵条約までよ。今の所、それが妥当じゃないかしら」

ここで交渉決裂すれば、薫子は拳を交える覚悟があった。伊藤の出方をじっと待つ。

「ハクアのこと、よほどすえかねたのですね。わかりました。今日の所はそれで結構です。ですが、お互いに情報を共有するのは悪くないと思いますよ。特に君の場合には」

ハクアは薫子がエゾテーの社員であることを知っていた。伊藤もそれを知っており、脅すつもりであることは明白だった。 

薫子は涼しい顔で流す。

「お気遣いありがとう。でももう優秀な協力者には恵まれてるから、必要ないわ。今日見たことは忘れるから、お互い有意義な学校生活を送りましょう、伊藤先生」

そのラインを踏み越えたら今度こそ容赦しないぞというニュアンスを言外に込めた。

「ああそうだ、美堂さん。最後に一つだけ」

うんざりする薫子にみやげを渡すかのように付け加える。

丑之森うしのもり創造開発研究所。この独立行政法人に聞き覚えはありますか?」

その名を聞いた時、薫子は口が半開きになり、情けないほどの恐慌を露呈していた。何とか体裁を保つように咳払いをする。

「いいえ、ないわ」

「そうですか、お引き留めしてすみません。どうぞ気をつけてお帰りください」

鉛のように重く感じるドアを音を立てて閉め、薫子は魔物の住む洞から退散する。意味ありげな伊藤の微笑は、しばらく薫子の中で尾を引いた。

薫子が出ていってから、伊藤は絵の具などの道具の後片づけをてきぱきと、済ませ帰り仕度を始めた。

「いつまでそうしているつもりですか」

部屋の隅で壁と対面しているハクアに当てつけるように言うと、蝋燭の火を吹き消した。部屋が暗闇になっても、ハクアは動かない。

「僕は、これから人と会う約束をしています。君は戸締まりをして来てください」

ハクアはじっと耳をすませている。しまいには伊藤が根負けした。

「待ち合わせの店のモンブランは、ちょっとした名物だそうですよ」

ハクアは一人取り残されると、ハンカチで涙を拭った。辞典を持ち、いそいそと準備室を出た。

「はうぅ、モンブラン、モンブラン、でもティラミスも捨てがたいです、がんばった自分にご褒美ですぅ」

ハクアは伊藤に叱られたことをすっかり忘れ、スイーツに有頂天になっていた。

校舎の裏口から外に出て、伊藤の待つ駐車場に向かう。

風が強く吹いて、ハクアは帽子を押さえ立ち止まった。

校舎の裏手は竹藪で、風が吹くたび、さわさわと揺れている。 

歌うような声が、風に乗って運ばれてくる。

「ハークアちゃん」

少し先にある柱の陰から、ぴょこっと赤毛が飛び出た。

「遊びましょ!」

続いて青毛がひょこんと柱の陰から飛び出した。

赤と青の二人の少女が、立ちはだかるようにハクアの行く手に現れた。


(*)


「何者ですぅ? お前ら」

ハクアは、降って湧いたような怪しい二人を品定めした。

赤毛の方は、ボーダーのワンピースにパーカーのカジュアルな服装。こちらはハクアより背が高い。青毛の方は白い振り袖に鼻緒の赤い、黒の高下駄を履いていた。頭に白百合の花を挿している。小柄だが下駄のおかげで、赤毛との身長差は埋められていた。

「あらあら、あたしたちを御存じない? それはいけませんねぇ」

赤毛の方がおどけて言う。

「いけませんねぇ、教えてあげないと」

青い方が引き取る。二人は一挙手一投足同じ動きでハクアの眼前に歩いてくる。ふざけあって笑い合う姿は、不快感を催させる。

ハクアは後ずさりながら叫ぶ。

「名を名乗れです! それとも恥ずかしくて名乗れない名前ですか?」

二人はくすくす笑っている。笑い方までそっくりで、服装さえ同じならまるで合わせ鏡のよう。

「あたしは、ニーナ」

 赤毛が言うと、青毛が続く。

「私は、ナノ」

二人は手を繋ぎ、ハクアの周りをぐるぐる回る。かごめかごめをするように。

「お前ら、さてはキャストですね。かくなる上は」

ハクアは辞典を振り回し隙を作ると、脱兎の如く逃げ出した。ナノがバランスを崩して地面に手をついた。ニーナとナノはしばしその勢いに飲まれ、大人しくその背を見送ってしまったほどだ。

「何あれ。追うのめんどくない?」

ニーナがぼんやり言うと、ナノが頑なに首を振る。

「絶対許せないの。オシオキしなきゃだよ」

 

ハクアは校庭中央までたどり着くと、足を止め、暢気に深呼吸をした。

白線で引かれたトラックが消えかかっているがまだうっすら残っている。

満天の星空を堪能する間、追跡者の二人はゆっくりと後を追ってきた。ハクアは彼女たちができるだけ近づいてくるのを辛抱強く待った。

ニーナが意外そうな顔でハクアの正面で立ち止まる。やっと声が届くくらいの距離だ。向こうも馬鹿ではないらしい。用心はしているようだ。

「あれー、鬼ごっこはもう終わり? 捕まえちゃうぞー」

「捕まえちゃうよー、クスクス」

ハクアは辞典を持つ手に力をしっかり込める。

「一体どっちが鬼ですかねぇ。吾輩はただ逃げたわけではありません。お前たちを、戦い易いフィールドにおびき寄せたに過ぎないのです」

ハクアは地面を指さしてから、薫子を苦しめたリモコンスイッチを見せびらかした。

「こんなこともあろうかと! 校庭に地雷をしこたま埋めてあるですよ。ほらそこにも、そこにも! ほれ、後ろにも!」

地雷源の情報にニーナがケタケタ笑いながら、飛び跳ねた。ナノは袖で口元を覆い、思案している。

得意のハッタリの効く相手でないことは薄々わかる。フェイクの地雷は、少しでも動きを鈍らせるスパイス程度の働きしか期待していない。 

先程はしらを切ったが、ハクアはこの二人の姿を見かけたことがある。それは昨夜のことであり、薫子の死地においてのことだった。

二人の能力もわからない以上、適当にあしらうのが賢明だが、情報は少しでも欲しい。ニーナ、ナノいずれかが、キャストかゲストだと思ったが、見分けがつかなかった。例えキャスト同士でも電波の波長でわかったりしないのが困ったところだ。別々のキャストが結託している可能性もあったが、あの相似性は無視できない。

「吾輩、これからスイーツ食べに行くですよ。できれば日を改めてもらえるとありがたいのですが」

「そうはいかない。ルールを破った悪い子をオシオキしに来たんだから」

ナノが即座に答えた。彼女からはニーナ以上の敵意を感じる。

ハクアが遭遇したキャストは、今、目の前にいる二人を除いて、せっちんのみ。あの二人の能力は、見当もつかない。その能力が、何らかのルールに関することで、ハクアがそれを知らずに抵触したとしたら、こちらもキャストの能力を使わないと対処できない恐れがある。元よりキャスト同士が顔を合わせれば死闘あるのみ。そう割り切っていたハクアにもはや迷いはない。

「はあ……、雌豚の相手して疲れてるですのに。まあ相手がキャストなら遠慮せずに済みそうです。お前ら自分の罪を数えやがれです」

ハクアは辞典を掲げ持ち、精神を集中する。風がふいにやんだ。

闇に表紙の金字が浮かび上がる。一人でに辞典のページが捲られ始める。後は時間が過ぎるのを待てばいい。時間はかかるが、発動すれば無敵の能力。

罪業の書。

ニーナたちはその場から動かなかった。地雷の情報が効き目があったのか、余裕のためか。

めくられたページが中程で止まり、ぎっしりつめこまれた楔型文字が黄金色に染まりつつある。このままいけば約束された勝利はすぐのはずだった。

「ぐっ・・・・・・!?」

疾風の勢いでハクアの手の甲が突如切り裂かれ、鮮血が校庭の土を黒く染めた。その拍子に辞典を落としてしまう。直前、ナノの袖が一瞬光ったのが見えた。何かを投げつけられたのだ。飛び道具は想定していなかった。油断した。

「もうお終いみたいだね、ナノ」

「そうね、ニーナ。それでは私たちの用事を済ませてしまいましょう」

 二人が同じ歩幅でにじり寄る。

「く、来るな・・・・・・」

恐怖に駆られ、リモコンスイッチを震える手で突っ張るが。ナノに、たやすく取り上げられてしまう。

「お、お前ら何様ですか? 吾輩、悪いことはしてないですぅ!」

ナノがリモコンを手で壊して、投げつけてきた。ハクアの眉間に直撃する。

「したよ、キャストはゲストを直接攻撃してはならない。ルールを破ったらいけないよね?」

「そんな、そんなもの知るかです。お前らが勝手に決めたルールに従う道理がどこに」

「あるよ、だって私たちが支配者権限を預かってるんだよ? 支配者が決めたことは絶対なの」

ナノがあっさりと言ってのけた。

こんなに早く支配者に遭遇するとは、ハクアにとって青天の霹靂だったと言える。伊藤は支配者に心当たりがあるようだったが、ハクアは聞かされていない。

しかし、現実に脅威として現れた以上、対処に迫られる。とりあえず時間を稼ぐしかない。ハクアが駐車場に現れないことで、伊藤が異変に気づいてくれるかもしれない。こんなことになるなら発煙筒を持ってくればよかった。

「はあ? お前ら嘘も休み休み言えです。吾輩疑り深い性格故、そんなに簡単に信じません。証拠を見せるですっ!」

ニーナとナノは顔を見合わせ、憮然とした。

「どうしよう、ナノ。”支配者権限”はあたしたちの手にあるけど、物証化できないよ」

「うーん」

二人は眉を八の字に曲げ、悩んでいる様子だった。しかし結論が出たのか、ハクアの方に向き直る。

「きーめた、きめた。実際に処罰を下せば納得してもらえるよな、ナノ」

「そうそう、支配者権限は、ルールを破ったキャストやゲストを裁くことができるんだよ。ニーナかしこい。というわけだからあ」

二人は揃って舌なめずりをした。

「支配者権限で、オ•シ•オ•キしてあげるね♡」

ニーナとナノは両手を繋ぎ、くるくるその場で回り始める。青白く白光し、動きを止めると、バンザイするように両手を高く掲げた。

「砕けろ、双魔鏡ジェミニ

二人が唱えると、ニーナの白磁のような肌に無数の亀裂が生じた。ナノも同様だった。亀裂は瞬く間に全身に及び、二人は陶器が割れるような音を立て、消滅する。後には何も残らなかった。

「じ、自爆した…… いや、何か嫌な感じがするです」

その時ふと、空を見上げたハクアは異変に気づいた。先ほどの空に比べて明らかに星の数が多すぎる。まるで空を埋め尽くすように瞬く星は増殖を続け、丸岡高校の上空に密集していた。真昼のような明るさになり、ハクアは目を細めた。

輝きを増す上空から、飛来物がハクアの背後の校庭の地面を抉った。雹でも降ったのかと、確認しに行く。

「これはガラスでしょうか。表面が磨かれていて鏡みたいです」

地面に刺さっていたのは十センチ大のガラス片だ。引っこ抜くと、光を反射して先端が鋭利な刃物のようにきらめいた。

「ひゃあ!?」

突如、 ガラス片一杯に眼球が映し出された。ハクアは、か弱い悲鳴を上げ、ガラス片を放り投げた。眼球は二度ほどまばたきするように上下に動いたが、やがて、ニーナの全身像が露わになる。

「何すんの? 危ないだろ」

ガラス片の中でニーナが腕を組んで不平を言っている。ハクアはまだ状況が飲み込めない。

「な、何で小さくなってるですか? こ、これがお前らの能力……」

雨だれのようにガラス片があちこち降り注ぐのを見て、ハクアは彼女たちの恐ろしい能力の正体に勘づいた。上空に同じガラス片が大量に浮遊して、それに光が反射しているのだ。

ハクアは校舎に向けて、脇目も振らず走った。今度は戦いの為ではなく、迫り来る死から逃れるために。

弾丸のような勢いで落下したガラス片が、ハクアの帽子を容赦無くはね飛ばす。

「ほらほら、もっと速く走らないとダメだよ、クスクス……」

百をゆうに超えるガラス片一つ一つにナノの姿が浮かび上がり、一斉に不快な笑い声を立てる。

ハクアのジャケットはずたずたに切り裂かれ、見る影もなくなっていた。眼鏡がフレームごとはね飛ばされ、額から垂れた血が目に入る。 

「うわあああっ!」

距離感がわからずとも、無我夢中で走ったおかげで校舎にだいぶ近づいた。

遮蔽物があればこの能力の威力は半減し、生存の可能性が大幅に高まる。せめて伊藤にこの事態を知らせなくてはと焦りは募る。

まるで水中で呼吸困難に陥ったかのように、苦しげにあえぎながら、校舎を目指す。後少し。

「ざんねーん、時間切れ♪」

ハクアのふくらはぎにガラス片が深々と刺さった。走った勢いのまま前に倒れ込み、土ぼこりが舞う。

「う、うっ……」

ハクアはふくらはぎから、ガラス片を何とか引っこ抜き、投げ捨てた。

息つく間もなく、背中に続けざまにガラス片が三つも突き刺さった。右肺に深く入り込み、ハクアは口から吐血した。

うつ伏せに倒れたまま、首を曲げて空を仰ぐ。燦然とした輝きが目前に迫っている。

「ふん……無粋な、奴らです。星空が見えないじゃないですか……、こんな紛い物の光に吾輩が屈すると思ったら大間違いですぅ」

ハクアは、残されたわずかな時間でガラス片の一つを手に取ると、ありったけの力を込めて地面に何かの図形を描いた。終えるとその上に覆いかぶさるように倒れ込む。


伊藤がメッセージに気づけば、この能力の致命的な欠陥に必ずたどり着くはずと信じて。

「申し訳ありません、嘉一郎さ、ま……、吾輩は」

 

 ここまでのようです。 






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