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せっちん!  作者: 濱野乱
空蝉編
34/97

cold play(前編)


カヲリは、エトワール選を戦う決意を固めた。

とはいうものの、陽菜たちに勝てると、真剣に考えているわけではなかった。彼女たちと同じステージに立てると思うだけで、溜飲が下がる。

螺々はそんな浅はかな考えを見透かしているのか、腕を組んでカヲリを一喝する。

「浮つくんじゃあないッ! カヲリ。勝たせてやるとは言ったが、君の気持ちが大事なんだぞ」

カヲリは、びくっと身をすくませる。

「あっ、はい、わかってます」

「本当か・・・・・・? まあ、いいだろう。それと、君を応援するマスコットキャラを用意した。今ここに呼んでやろう」

準備があまりに周到なのが、不気味ではあったが、今更発言を撤回することはできない。

螺々がホイッスルを吹くと、どこからともなく規則正しい足音が鳴り、せっちんと、ハクアが小走りで屋上に闖入した。二人は螺々の前に立ち止まり、横一列に並んだ。

「君を応援する、幼女たち。名付けて、カヲリガールズだ!」

幼女たちの普段の表情豊かさはなりをひそめ、色をただしている。踵をきちんと揃え、胸を張る様は、訓練された兵士を想起させた。

「あ、貴方たち、どうしたの? そんなかしこまっちゃって」

カヲリが身を屈めて心配しても、二人は前を見据えたまま直立を崩さない。

「午前中はたっぷり訓練したからな。何でも言うことを聞くぞ」

螺々は自慢げだったが、カヲリは幼女たちに同情するように、眉を曲げる。

「なにもここまでしなくても・・・・・・」

「同志カヲリ!」

叱責するように、ハクアが叫ぶ。バネ仕掛けの人形のようで、カヲリの度肝を抜いた。

「我々は、カヲリをサポートするために訓練をしてきたのです! たるませるのは、腹のお肉だけにしてください」

「そうじゃそうじゃ・・・・・・、うん、うん」

半ば適当に相づちを打つ、せっちん。見ると、あくびをかみ殺している。それに気づいたハクアがせっちんの肩を掴んで揺さぶる。

「お前! 言われた通りにやるです。でないとビスケットがもらえないですよ」

螺々が二人の背後で、「おいしいビスケット」と書かれた袋を振っている。餌付けされて、協力させられているのだ。

「気持ちはうれしいけど、二人に無理させなくても、私戦えます」

螺々が薄く微笑んだ。カヲリの覚悟を試したのだろう。

「だ、そうだ。よかったな、バックダンサーはしなくていいぞ」

キャストたちは人の目に触れないのだから杞憂であったが、二人は乗り気ではなかったようだ。螺々に解散の指示をされると、いつもの子供らしい顔で、ビスケットを頬張っていた。

始業のチャイムが鳴る。カヲリは教室に戻ろうとするが、螺々は残って作戦会議をすると言って、煙たがる幼女たちと座って話し込んでいた。

カヲリが屋上から校舎へ入ると、動悸に襲われた。

階段の途上に未来がいた。壁に背を持たせ、目をきつく閉じている。

カヲリは、そーっと気づかれないように通り過ぎようとするが、壁から身を離した未来に行く手を遮られる。

「無視すんなよな」

カヲリは一瞬口がきけなかったが、未来の目は笑っている。いつもの人当たりの良さが現れていた。

「ご、ごめんなさい。私・・・・・・」

「暗い顔すんなって。丑之森に何か言われたのか?」

未来は、カヲリが螺々に呼び出され屋上に向かったと、マイに聞いたらしい。

「いえ、螺々さんとは別に何も」

「そっか、ならいいや。さ、教室戻ろうぜ。ここ寒いんだ」

未来に肩を抱かれ、カヲリは歩きだした。未来に昨日のことを話したと疑われているわけではなさそうだ。教室まで他愛ない話をして、盛り上がった。

「ああ、そうだ。カヲリ」

思い出したように未来が足を止め、カヲリの目をのぞき込んだ。未来の暗い瞳はどろんとしていて、憑かれたように焦点があっていない。

「昨日見たこと、誰にも喋っちゃだめだからな。わかってるよな」

念を押されるまでもなく、カヲリは何も言うつもりはなかった。それでも改めて、何も言うまいと自分を戒めた。

「それじゃ、またな! 今度、卓球しよーぜ」

別人のように明るく手を振って、未来は走り去っていった。

「恋をすると、人が変わるのかな……」

未来が去ってから、カヲリは一人ごちた。

自分も何らかの変化があるのかもしれない。良かれ、悪しかれ。


 (2~)


エトワールは、身も心も清く保たねばなりません。

エトワールが汚れれば、世界も純度を保てなくなるからです。

愛は純度が肝心です。愛は触れあえば触れあうほど、純度が減ってしまうのです。だから男と触れあってはいけません。

愛は所詮、夢幻。絵空事。

人は愛を知らない方がいいのかもしれません。

 

来栖未来は、エトワールになった直後、”選挙委員”にこう言われた。

正直、腑に落ちることは何一つなく、愛が減るなどと考えもしなかった。

愛は確かめあって、より深まるものと信じて疑わなかったのである。

だがそれは少女の甘い考えであった。

相手を知れば知るほど、より深く知ろうとする考えは薄れていく。一つになり、全てを知るのだから、何を知る必要があろう。

相手も知ろうとはしなくなる。熱が冷たいところに逃げ、互いの体温で死ぬことになる。

できるなら、ずっと冷たい体のままでいたかった。熱が冷めないように、大事に抱え込み、逃がさないようにずっと共にいられたら、どんなに幸せだろう。

「未来!」

香澄が手で机を叩く音で、未来は現実を直視した。

薄汚れた教室、疲れたような顔をしたクラスメート、灰色のいつもの日常風景がそこにはあった。

香澄はカリカリと音が鳴りそうなほどいきり立った目で、未来を見下ろしている。

「おぅ・・・・・・、どうした、香澄」

「どうした、じゃないわよ。掃除の邪魔だから早くどいた方がいいわ」

気づけば、周りを箒を持った生徒が囲っている。これはしたりと慌てて、荷物をまとめて教室を飛び出した。

「未来! どこ行くの?」

「あ、えっと・・・・・・」

走り出したはいいものの、行き先は決めていない。昨日の今日で卓球部屋に行くつもりはなかった。

「たまには、帰りにどこか寄っていかない?」

香澄の方から、誘うとは珍しい。未来は驚いたものの快諾した。

香澄に連れて行かれたのは、奥行きのあまりない寂れたカフェであった。古ぼけた赤いソファは、弾性が萎え、あまり座り心地がよくない。

ドガの描いたエトワールという絵画の複製が

、壁の目立つ位置にかけられていた。

「意外だな、香澄がこんなところに来るなんて。あんまり趣味じゃないだろ」 

香澄は、窓の外を眺めていた。外を行き交うのは、寒そうに身を寄せあって歩くカップルだ。

「そろそろ、クリスマスね。未来は、予定あるの?」

通りを斜に見ながら、香澄が尋ねる。

「ん? 別にないけど? どうしたんだよ、良い人でもできたんじゃねーだろうな? 寂しいぞ」

未来が興味ありげに身を乗り出すと、香澄は唇の端を軽く曲げた。

「あるわけないでしょ、そんなこと」

香澄が頼んだパフェが運ばれてきた。うず高く塔のように積まれたクリームの上に、凶器のようにフルーツが刺さっている。

「お、お前・・・・・・、変わったなあ。前はこんなの食わなかったろ」

未来が感嘆のため息を漏らしている間に、香澄はスプーンを入れている。未来も相伴に預かる。

「おいしいわねぇ、未来」

「あ、ああ、そうだな・・・・・・」

当初、自分を慰める目的で、ここに連れてきたのかと思ったが、香澄の方が楽しんでいる。未来も負けじと、スプーンを入れた。

「さっきの話だけれど」

「うん?」

パフェが視界を塞いでいるので、香澄の表情を窺い知ることはできない。それでも彼女が、言葉にならない喜びを噛みしめていることだけは察せられた。

「本当に、クリスマスの予定はないの?」

金属質の高い音が鳴った。未来がスプーンを落としたのだ。間髪入れずに、ウェイトレスが代えのスプーンを持ってきてくれた。

「ずいぶんつっかかるじゃん。もしかして、あたしとデートしたいとか?」

冗談半分で未来が言うと、香澄がきまじめに首を縦に振る。

「そうね、そうなったらいいわね」

会合の目的が不明なまま、パフェを食べて散会した。

「ごちそうさま、未来。とてもおいしかったわよ」

去り際に香澄が曰くありげに笑ったのが印象的だった。香澄はあまり笑わない女だ。特に三年になってからそれがより顕著になった気がする。

「クリスマスかあ・・・・・・」

十二月に入れば、意識せざるを得ない重大イベントである。未来も当然視野に入れてはいたが、あまり期待できそうにない。

熱が冷めてしまった恋人には、クリスマスの赤も寒々しく映る。


 (3~)

 

「これなんかどうかな」

カヲリは姿見の前で、キャメルのダッフルコートを合わせていた。学校帰りに、洋服店に立ち寄ったのである。

まばゆく照らされた店内には、カヲリと同年代の少女たちでひしめきあっていた。主な客層が十代ということもあり、陳列された商品も、明るい色のものが多かった。

ハクアは、カヲリの買い物に付き合わされ、不服そうではあったものの、次第に興味を持ち、嘴を入れ始めた。

「お前、子供っぽく見られたいのですか? こっちのコートにした方がいいです」

ハクアが指さしたのは、黒のチェスターコートだ。

「えー、ちょっと普通すぎない?」

「デートは、普通が一番ですぅ。変にぶちかましてから後悔しても、遅いのですよ」

週末、翔と出かける時のために、新しい服装を考えているが、一向に方向性が定まらない。カヲリは女子らしい格好にしたいのだが、ハクアは大人っぽさを重視したシックなものを好むのだ。

ハクアが横で口を挟むおかげで、余計な買い物はしなくてすむが、少しじれてくる。 

値札を何気なしにめくると、どちらも結構なお値段だ。カヲリはコートを早々とあきらめ、安いネックレスを購入した。

せっちんも一緒に店内にいたのだが、離れた所で商品を物色していた。

「ちんちくりんのお前に似合う子供サイズの服は、ここにはないですぅ」

ハクアが馬鹿にすると、せっちんは黙って店を後にした。言い返されると思っていたハクアは、大慌てでその後を追った。

大通りに面した店を出ると、三人は揃って身震いした。

夕闇に映えるクリスマス仕様のイルミネーションが、早くも目を楽しませてくれる。

カヲリは去年まで、僻む側であったが、今年は胸一杯味わうつもりだ。

ハクアもカヲリの隣で、物思いに耽っていた。せっちんだけが興味を示さず、一人歩き出した。

「おーい、待つですっ!」

ハクアがすかさず後を追う。

「まだ怒ってるですか? さっき吾輩が言ったこと」

「いや」

浮ついた自分を責められているようだ。ハクアは面目をつぶされた。

「たまには気晴らしも必要です。ずっと気を張っていたら、つぶれちゃいますよ」

せっちんは今朝から肩肘を張っている。追いつめられているようで、見ている方が不安になるのだ。

「カヲリが、”えとわーる”になれなければ、われらのまけじゃ」

エトワール選勝利は、支配者打倒のプロセスに他ならない。

支配者もエトワール選にエントリーしている。それも筆頭候補の一人と目されている。

もし、カヲリが支配者を破れば、支配者のプライドは地に落ちるだろう。

それが第一段階。

そして、ハクアとせっちんが、ニーナ、ナノを完膚無きまでに叩きのめす。 

全ては、支配者の心折るための戦い。螺々が全ての絵図を描き、ハクアとせっちんはそれに乗ったのである。

キャストとして、弓を引くのをためらった妥協案という側面があるが、単に支配者を暴力で屈服させても終わるものでもないと、全員の見解は一致している。

支配者が、支配者権限を用いて、新しいルールを加える可能性がある。そうなった場合、元の木阿弥である。また新しい世界に支配者が逃げ込んでしまうのだ。

「まどろっこしいってのには目を瞑るとして、吾輩このプラン、結構悪くないと思うです。ただ・・・・・・」

ハクアは、せっちんの肩を掴んで振り返らせる。

「どこかに重大な陥穽かんせいがあるように思えてならないんです。お前はそれを隠しているんじゃないですか?」

ハクアが疑問に思ったのは、せっちんが小林雪乃の側にいたことだ。ニーナが、小林雪乃をマークしていると言われたが、雪乃が何者か、ハクアは知らされていない。宣言どおりニーナが襲撃してきた状況も不可解である。ニーナは、支配者権限に触れない限り襲ってこないはずだ。

疑り深いのは性分だが、この場合仕方がない。もし、せっちんが隠しごとをしているのなら、それを知らないことで危険度は格段に跳ね上がる。ナノの件の恨みは忘れていないのだ。

「しんぱいしょうじゃの。まあ、そなたのせいかくは、おおいにたすかるがの」

ハクアの手を払いのけ、せっちんは背中を向けた。

質問をはぐらかされるのは、いつものことだが、うんざりするハクアだった。

同盟は、薄氷を踏むような危うさで維持されている。やはり信じられるのは自分だけなのか。同盟を組んだのは本当に正しかったのか。混迷は深まる。

カヲリたちがアパートに帰ると、明かりがついており、母と卓についた客がいた。

「おー、おそかったのー! 邪魔しとるぞ、おっぱい!」

テーブルにつき、つまようじを口に入れた小林雪乃が威勢よくカヲリを迎えた。髪をカールさせ、珍しくスカートを履いている。

「ゆ、雪乃ちゃん・・・・・・、どうして」

「うちの近所をうろうろしてたから、連れてきたんだよ」

母がカヲリの疑問に答えた。

幸彦に、もう雪乃に関わるなときつく言われていたが、また会えてカヲリの喜びはひとしおだ。外見もこぎれいにしているようだし、雪乃の生活は順調のようだ。

雪乃は、母の作ったたこ焼きの残りを食べていた。

匂いに釣られ、ハクアが部屋に入る。その姿を視野に捉えた雪乃が飛び上がった。

「な、何だ、こいつ、すっげー! 人形みたいだ。外人か? ヘイ、アイム、ジャパニーズ!」

「見りゃわかるです。うるさいガキですねぇ」

ハクアが、顔をしかめ、耳を押さえた。

雪乃はにやにやと、侮るような笑みを浮かべた。

「日本語がずいぶん堪能じゃのう。話が早い。長幼の序って知っとるか? 年下は年上の言うことに絶対服従なんじゃ」

「ああん? 言ってる意味がよくわかんねえです。もっとわかりやすく言ってもらえますぅ? 長幼の序を重んじろって言うなら、もっとジャップらしい大和言葉準拠でお願いしまーす」

ガンを飛ばし合う二人に既視感を覚えつつ、カヲリは雪乃をひょいと抱き抱えた。

「長幼の序を知ってるなら、私にも敬語使えるかな、雪乃ちゃん」

「むり」

カヲリは、笑顔のままドアに手をかけた。

「母さん、帰ってきてすぐで悪いけど、この子を駅まで送ってくるね」

「あ、ああ」

母の表情が硬いのだが、カヲリはそれほど気にしなかった。雪乃に小さな靴を履かせるのに必死だった。

「ごちそうさま、またくるぞ」

最低限の礼儀はわきまえているらしく、雪乃は母に辞去の挨拶をし、ドアを閉めた。

部屋に一人残されてから、母は首をしきりにひねっていた。

「雪乃ちゃん、誰と喋ってたのかねぇ・・・・・・」

カヲリは部屋の外に出て、外階段の真上で立ち止まった。

「ん・・・・・・?」

階段に一体の土偶が置かれている。サイズは十センチ程度で、手のひらに載りそうだ。

カヲリは最近どこかで、この土偶を目撃した記憶があるのだが、思い出せなかった。 

「何止まってんだよっ、おっぱい! 牛歩か? 牛になりてーのか・・・・・・、ん?」

雪乃がカヲリの横から顔を出し、階段にあるものを発見した。ためらうことなく、土偶を手に取った。

「これ、縄文時代の土偶じゃ」

「あら、よく知ってるのね」

雪乃は得意げに胸を張る。

「学校で習ったからな。本物だったら、考古学的価値があるぞ」

価値と聞いて、カヲリも身を乗り出す。

「ま、マジ? ちなみにいくら?」

「知るか。つーか、私が今から壊すからな、これ」

雪乃が、土偶を両手で持ったまま腕を高く振りあげた。カヲリがとっさに静止する。

「何してるの! 価値あるものだって、自分で言ってたじゃない」

「だからいいんじゃ」

雪乃が、真顔のまま腕に力を込める。

「価値あるものをぶっこわす! そこに愛があるかは関係ないんじゃ、それがロックなんじゃ」

「わけわかんないこと言わないでよ。アパートの誰かのものかもしれないでしょ」

もみ合いになったが、カヲリの方が力で優位なのは揺るぎない。土偶を救出した。

「ふう、全く・・・・・・、手間かけさせないでよね。ほら、行くわよ」

カヲリは土偶を階段の元の位置に戻し、雪乃と階段を降りた。

一部始終を眺めていたハクアが後からやってきて、土偶を手に取った。怜悧な瞳で、子細に眺めている。

「ハクアー、一緒に来るのは構わないけど、何も買ってあげないよー」

階段下でカヲリが呼びけるが、ハクアは無視した。

それどころか、無造作に土偶を階下に放り投げた。カヲリのすぐ脇をかすめる。

「きゃっ・・・・・・!?」

土偶は地面に落下し、粉々に砕けた。破片が四方八方に散らばり、修復しようにも、しようがない有様だ。

カヲリは青ざめ、雪乃は自分がやりたかったと不平を漏らした。

ハクアは何事もなさそうに階段を下り、カヲリたちに合流した。

「……、わ、私、知ーらない」

カヲリは後ろを振り返ることなく走った。雪乃がけたけた笑いながら、続く。

ハクアはだけがゆっくりと、その後に続いた。

「なあ、土偶ってよ、女性を象ったものらしい」

アパートからだいぶ隔たった私道で、雪乃が突然言った。

「へえ、そうなんだ」

カヲリは知っていたが、知らない振りをしておいた。雪乃の自尊心を満足させるためである。

「呪術用とも言われているし、何かイヤな感じだな」

「えっ?」

カヲリが戸惑う中、雪乃が淡々と続ける。

「カヲリ、お前、誰かから恨みを買ってるんじゃないか?」

雪乃がそんなことを言うとは思わなかった。土偶を壊そうとしたのも、カヲリの身を案じたのかもしれない。それには感謝するとしても、寒気を覚える。

「ま、まさか、そんなことあるわけ・・・・・・」

カヲリは出かかった言葉を飲み、早足で歩いた。最中、どちらともなく手を握り合った。両者とも、手のひらが汗ばんでいた。

「カヲリ!」

背後を振り返ると、後から来たハクアが、殺気だった気配を醸し出していた。

「そのガキから離れるです!」

緊張をはらむ一座の中、雪乃だけが、場違いに明るい笑みを浮かべていた。

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