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せっちん!  作者: 濱野乱
菊と刀編
13/97

胎児の夢

午後二時半、丸岡高校の女子寮では、せっちんが壁を伝い歩きしていた。床につく程の長い髪を、重そうに引きずっている。

せっちんが薫子の部屋のベッドで目を覚ました時には、幸彦と螺々の姿は寮のどこにもなかった。能力の使用で、ガタのきた体は言うことを聞かない。焦りばかりが募る。

「む……」

せっちんの進行方向から、人影が現れる。胸を張って、両手を勢いよく振り上げる美堂薫子だった。

「あら、誰かと思えば」

薫子は、興味深そうに口元に手をやった。せっちんは、構わず先を急ごうとする。

「ちょっと待ってよ、どこ行くの?」

「そなたにかまっているいとまはない。そこをどけ」

薫子は知らん顔で、せっちんの髪をしつこく触ろうとする。押しのけようとしたはずみでよろけた。

「風邪でも引いたの? 弱っちいな」

おでこを軽く押されただけで、せっちんは尻餅をついてしまう。

ようやく薫子は、せっちんの体調が本当に思わしくない状態であることに気がついた。

「そなたのほうこそ、よわきになって、たいさんしたかと、おもうたわ。ずいぶんおはやいごきかんじゃの」

「あら、減らず口叩けるってことは、まだ平気みたいね。私がいない間に何があったのか、話して頂戴」

薫子の部屋まで、せっちんをおぶっていき、そこで話を聞いた。

薫子が不在の間、丑之森螺々がやってきて、せっちんと交戦したこと、螺々がゲストであること。善戦したものの、螺々をしとめ損なったこと。現在、幸彦が螺々と行動を共にしている可能性があるということだった。

「丑之森螺々が何で今更、私に会いに来たのかしら。もう何年も会っていないのに」

薫子には、螺々に関する記憶がほとんどない。性別も年齢も国籍も、本当に会ったことがあるのかどうかすら、自信はなかった。ただ、あの研究チームのリーダーが丑之森螺々という名前だけだったというだけである。父の知り合いらしいが、今では確認しようがない。

「みためは、せいようじんのおんなじゃったが、なかみは、ちとわからん」 

せっちんは、よくわからないことを言って、タオルで顔の汗を拭いていた。

「寺田君は、どうして丑之森についていったのよ」

「おそらく”るーらー”のさしがねじゃろ」

伊藤が話していた破滅をもたらす存在、支配者。それが本当に存在するのであれば、今回のことは、チャンスでもある。幸彦の後を追えば、支配者にたどり着ける。

「ついに……、会えるのね。支配者に」

薫子の勇み足を咎めるように、せっちんは厳しい目を向けた。

「そなたは、”るーらー”に、なんのいこんもなかろう。なぜたたかおうとする?」

ニーナにも、似たようなことを聞かれた。何のために拳を向けるのか。それがわからなければ、先ほどの二の舞になるだけである。

「正直、わからないわ。もう会社のためでもないし、上司のためでもない。この学校との縁も浅くて、愛着もない。寺田君は、女に貢がせるろくでなしで、バチが当たったんでしょう。ハクアも生きるか死ぬかの世界で戦ったんだもの。私が怒るのも筋違い。でもね」

薫子は顎を上げ、握りしめていた拳を開いた。

「陰に隠れてこそこそ動き回ってる支配者が、気に食わないわ。寺田君には訊きたいこともあるし、それが片づくまでは死ねない」

薫子は、自分の言い分が方便だと自覚している。だが、残り少ない命でも、何かの役に立つなら使いたい。じっとしてなんていられない。そのためにここに戻ってきたのだ。

せっちんが薄く笑う。

「ふん、そなたらしいの」

せっちんはベッドから起きあがり、部屋の入り口へと足を向ける。

「わるくないこたえじゃ。じゃが、わらわは、おのれのせきむをはたすのみ。それをじゃましてくれるなよ」

と、せっちんとの共同作戦が妥結された。が、いざ鎌倉とは行かないのが、この女たちである。

「ちょっと、人のパジャマ勝手に着ないでよ。それに何その頭、邪魔じゃないの? あと私、着替えるからちょっと待ってて」

「いちいちやかましい、おんなじゃ。はようせぬとおいていくからな」

せっちんは、鋏を持って洗面所へと向かった。薫子は荒らされた部屋の中から、昨夜したためた封筒を見つけたものの、中身がなくなっているのに気づき、泡を食う。

「ど、どうしよう」

せっちんが洗面所の鏡の前で、髪を持ち上げたり下げたりしていると、思い詰めた顔で薫子が入ってきた。

薫子の格好は、予備のセーラー服に紺のソックス、手には化粧ポーチと、赤いフレームのメガネを持っていた。

「”いまふう”にしたいのじゃが、しあんしているひまはないの。さっさときってしまうか」 

せっちんは、幸彦のところに一刻も早く駆けつけたい。時間が惜しく、適当に切るつもりだ。

薫子は、素早く鋏を取り上げる。

「髪は大事にしなさい。私が切ってあげる。これでも実家は、美容室なんだから」

「いやじゃ。なんかそなたはこわい」

宥めすかし、髪を櫛でといていく。しゃっしゃっと気持ちよく髪を整え、準備完了。鋏を入れ、十分後には完成していた。

「おお!?」

せっちんは、鏡に映る自分の姿に目をみはった。肩の長さまで、つまり能力を使う前までの長さに整えられていたからだ。 

「どう? これなら文句ないでしょう?」

「う、うむ。くるしゅうない」

せっちんが毛先を手でこねるような仕草をすると、一瞬でカールが完成した。謎機能に薫子が少し引いた。

「さ、さて、私も準備しないとね」

薫子が洗顔を終え、ファンデーションを塗っていると、支度を終えたせっちんが、急かすように貧乏揺すりを始めた。

「まだか」

「もうちょっと」

「もうすこしか」

「後ちょっと」

「もういいか」

「まだだめよ」

「さきいくぞ」

「最後なんだから、念入りにさせて。お願い」

せっちんは貧乏揺すりを止め、洗面所を出ていった。部屋に戻り、アザラシのように転がって、英気を養う。

「お待たせ、どう?」

メイクをばっちり決めた薫子の顔を、せっちんは横目で、うっすらと確認した。

「けばいの」

薫子の準備は万端となったが、せっちんの服装が大きめのパジャマのままだった。これではいまいち締まらない。

「あ! そうだ、あれがあるかも」

薫子は、部屋の隅に放置されていたダンボールを引っかき回した。中には衣服が入っている。その中から水色のパーカーを、引っ張りだした。

「な、なんじゃ、それは?」

せっちんが、這いずりながら逃げようとする。薫子はその背を捕まえ、パジャマを引っこ抜くと、例のパーカーを着せた。それは、プルオーバーのパーカーだ。フードの部分にクマ五郎の目と耳がついていた。サイズ感がせっちんに丁度よく、本人も気に入ったらしい。何度もくるくると、その場で回っていた。

「しかし、ちと、こどもっぽいの」

せっちんは、照れたようにフードを被った。とてもラブリーなので、薫子は何としてもこのパーカーを着せたくなった。

「このパーカーはね、去年の社内運動会で総合優秀賞を取った時にもらったのよ。よりにもよって子供用とはね。そういえば、参加者は既婚者ばかりだったわ」

ほれみたことかと、せっちんはパーカーを脱ごうとした。

「でも気にならない? どうして上場企業の社内運動会の総合優秀賞の賞品が、ただの子供用のパーカーなのかしらね」

せっちんは興味を引かれたのか、フードを頭から外すだけに止めた。

「実は違ったのよ。これはただのパーカーじゃないの。素材は、耐久性、耐熱性に優れたアラミド繊維を使用! 世界的デザイナー、ホシノ・ヨーコが制作した世界に一つの至高のパーカーなのよ!」

せっちんは、ぽかんと口を開けている。あまり身なりに気を遣わない彼女は、服に関心が薄いのだった。だが耐久性には問題ないし、時間も惜しいのでせっちんはパーカーの下に、薫子の古いチェック柄のスカートを見つけて穿いていた。

薫子は、運動用に持ってきたアディダスのスニーカーを履き、せっちんは、ぼろ草履を履いた。

寮の外では、黒い虎が座って待機していた。

せっちんは虎を見かけた途端、回れ右したが、動きが鈍くなっていたため、たやすく行く手を遮られる。

「な、なんじゃ、こいつは、うわー!」

せっちんが虎に押し倒され、顔をぺろぺろされている間に薫子は、根本的な問題に立ち返った。

「二人はどこへ行ったのかしら?」

 

  

 (*)

  

「螺々さん、旧校舎ってどこにあるんですか?」

薫子が寮を出発する三十分前のことである。幸彦は歩きながらそう訊ねた。広い林道を螺々と二人並んで歩いていた。逍遥するような気軽さで、普段より味わって。

「君はこの学校の歴史について、どの程度知ってる?」

「僕が知ってることといえば、明治時代に軍の演習場があって、その跡地に学校を建てたことぐらいですかね」

その他にも、この地では古くから錫や、銅が採掘される鉱山があったと聞いたことがある。ただ、旧校舎の情報は耳にしたことがない。現在使われている校舎は建てられて数年のはずだから、それ以前の校舎は壊されてしまったのではないのか。

「そこまで知っていれば十分だ。後で詳しい話をしてやるよ」

螺々は迷うことなく、丸岡高校の敷地を歩いた。校庭を抜け、体育館脇の迷路のような小道に足を踏み入れた。

幸彦は薄々、螺々の向かう先が予想できた。二人が行きついたのは、せっちんのいた木のトイレだ。ここが旅の終焉だと、理解するのに時間はかからなかった。

螺々は、せっちん像を早速調べにかかる。一通り調べ終わると、トイレの中に入って行ってしまった。

このトイレは男子用しかない。螺々は個室にいた。

幸彦が近寄ると、一緒に入るように手招きする。幸彦が個室に入ると扉を閉め、鍵を掛けた。足下には和式便器があり、壁にはせっちんが書いたものだろう、「よごすべからず」という張り紙がしてあった。二人で入ると結構窮屈である。天井からは、豆電球がぶら下がっている。和式便器から微風が上がってきて、螺々の髪を揺らした。

「螺々さん、旧校舎に行くんじゃないんですか?」

「ああ、そのつもりだとも。ここから引き返すことはできないよ。それでもいいんだね?」

幸彦が肯定すると、螺々は張り紙を剥がした。その下にはボタン式のパネルが隠れていた。ボタンには、一から九までの数字がついている。

「えーと、たしか、0228だったかな」

螺々は四桁の暗証番号を押した。幸彦はその数字に心当たりがあったが、口には出さなかった。

「螺々さん? 一体何を」

螺々が人差し指を立て、沈黙を強いる。気持ちよく水の流れる音がBGMになった。

細く、長く、水の音が糸のように断ち切れるまで、彼らは狭い個室に寄り添っていた。

「もういいか。扉を開けてごらん」

幸彦は言われるがまま、扉を開けた。そこは見慣れた男子トイレではなかった。まず目に飛び込んだのは、真っ黒に塗りつぶされた空間だった。幸彦は反射的に後ろに飛びのこうとして、螺々にぶつかった。

「おい、痛いよ」

「だ、だって」

光の一切届かない暗闇が広がっている。一度そこに踏み込めば、自分が取り込まれ、咀嚼され、一切なくなってしまう。そんな闇だった。近代以前の闇ではない。あるいは、科学で照らされたものしか知らない幸彦は、それがどういう性質を持っているのか理解できなかったのかもしれない。

「大丈夫だ。この辺はまだ安全地帯だよ」

螺々は幸彦を押し退けるようにすると、トイレの外に出た。足下には何もない。むしろ何かあった方がましだっただろう。螺々の姿が墨汁に溶けるように消えてしまった。

「螺々さん!」

不安に駆られ叫ぶものの、木霊一つ返ってこなかった。

幸彦は、足先だけを闇にそっと差し入れた。意外にも、固く確かな感触を靴に感じた。しっかりと体重をかけても問題はなさそうだった。

一歩、二歩と、ついには体全体を闇に放り込む。よくよく目をこらすと、小さな赤い点がおぼろげに見受けられた。広い空間があり、遠くに明かりがあるようなのだ。

幸彦は、その目印を頼りに歩き始めた。だが、どれだけ歩いても点には近づけない。どれくらい歩いたのか気になり振り返ると、トイレの個室から漏れる明かりが、だいぶ遠くなっている。ここはかなり大きな空間のようだ。手探りで壁らしきものを探すが、何もない。ただまっすぐ赤い点を目指す。時折、足を踏み出すと、金物をこすったような神経を逆撫でるような音を確認した。

気温が先に進むにつれ、下がるように感じる。手先が強ばりだした。しかしそれは幸いだった。自分の指先すら目で捉えることができないのだ。音と痛みが辛うじて自己を規定していた。

十分ほど歩いて、ようやく赤い点のある目的地を発見した。赤い点は、床に置かれた皿の上にある小さな蝋燭の火であった。明かりのある場所でしゃがんでみると、床が透明な材質で作られていると判明した。

「ガラスみたいだ。でも一体ここはどこなんだろう」

幸彦の疑問に答えるように、突然肩がわしづかみされた。総毛立つ。

「ようこそ、旧校舎へ。よくここまで来れたね」

螺々が背後に立ち、お世辞を言うのを、幸彦は遠くの世界の物音に感じた。

「ら、螺々さん、一体ここは何なんですか? 旧校舎って」

螺々は幸彦の側にしゃがみこみ、ジッポライターの火をつけた。より広範囲が照らされる。

朧げに照らしだされたのは、透明なガラスで仕切られた小部屋が幾重にも続く廊下だった。小部屋の中には、机や椅子のようなものが、学校の教室とそっくり同じように置かれている。ただ机や椅子までガラスで出来ており、やはり異質な世界を形成している。

「こ、これが旧校舎、なんですか。でもどうして、ガラス張りなんだ。これじゃ全て筒抜けだ」

「それが都合がよかったんだろう。ここでは、かつてある実験が行われていた」

螺々は、ライターの火に照らされた螺々の横顔は、少し興奮したように紅潮していた。

「ここでは全てがさらけ出され、隠し事ができないように思える。だが、実際は逆だ。全て見えるというのは、何も見えないのと同じことなんだよ。即ち、ここで、我々の目は役に立たないのさ」

「じゃあ一体何のために」

「君は子供の頃、人を見た目で判断するなとか、心の目で見なさいとか言われたことはないか?」

言霊を意識していた日本人には、似つかわしくない表現である。言葉の本来の意味を軽視しても、場の空気を壊さないことが求められる。嘘をつくなとか、人を傷つけるなとか、何の力も持っていない言葉を平気で使う。使えるようにならなければならない。幸彦には、それが我慢ならないことがある。

「よく言われますけど、そういう言い方をする人に限って、言葉の意味を軽んじてる場合が多いですね」

螺々は声を押さえて笑った。まるでこの迷宮に潜む何者かに、聞き咎められるのを恐れているようだった。

「心の目で見る。つまり、透視の研究がここでは行われていたんだ。君くらいの年の学生を集めて、共同生活を行わせてね」

「どうなったんですか?」

螺々はライターの火を消した。蝋燭の火が、頼りなく揺れるあやかしの空間が戻る。

「発狂する者が続出したそうだ。透視ができるようになったと自称する者ほど、その傾向が強いことが判明している。透視の真偽については、確かな資料は残されていない。私もこの場所に来るまで、旧校舎の存在は眉唾だと思っていた。戦前、研究室で学生の噂話を耳にしたのが何となく印象に残っているくらいだ」

螺々は、先に立って歩きだしていた。幸彦は遅れまいと慌てて後を追いかける。

曲がり角に差し掛かったところに、階段が設えられている。そこには蝋燭が短い間隔で置かれており、少し安堵感が湧く。だがそれは罠だった。もうトイレは彼方に追いやられ、振り向いても見えなくなった。

「ここは地下何階まであるんでしょう? 螺々さん」

螺々の返事がなかったので、傍らに目を移す。

螺々は、階段に足を掛けることなくその手前で立ち止まっていた。忌まわしいものを目の当たりにしたように、顔をしかめていた。

幸彦は、耳を澄ませる。地下からは、声なき声が彼を誘う。それは哀しくて、懐かしいものだった。

「螺々さん、もしかして支配者は、僕の知っている人かもしれません」

「どうしてそう思う?」

「いえ、何となくそう思っただけです」

蝋燭の火があるとはいえ、依然視界は満足に開かれず、二人の足音だけが、甲高く響く。

階段を下りきった所で、開けた場所に出た。だいたい教室二つ分をぶち抜いた広さだ。通路はなく、一方向の壁に両開きのドアが三つあるだけだ。その部分だけコンクリートになっており、中は窺えない。壁にランタンがかかっており、上の階より、だいぶほの暖かく感じる。

「ここからは、君一人で行くようにと指示がある。真ん中の扉だ」

幸彦は、三つあるうちの真ん中の扉の取ってを握った。扉は鉄製で重量感がある。

「寺田君、少しいいか?」

螺々に呼び止められ、幸彦は扉から離れた。

「君は先ほど、支配者に心当たりがある口振りだったね。どうするつもりだ」

幸彦は、自分の思い通りにならない境遇を思った。ただどうしようもない過去に思いを馳せても何も変わらない。マッチ売りの少女とは逆に、幸彦は過去を対岸に置くことで現在を生きてきた。卑怯でも、そうするしかなかったのだ。

「支配者は、僕を憎んでいる。僕にできることは、過ちを償うことだけかもしれません」

幸彦は静かに話を終えると、螺々に背を向けた。

「ふん、そうやって格好付けるのが男らしいと思っているんだね。だが、忘れるな。時に撤退も勇気に含まれる」

幸彦は、驚いて振り向く。螺々の複雑そうな顔がわずかな明かりで照らされている。

「ありがとうございます。でも、もう逃げるのは疲れました」

幸彦はそれだけ言い残すと扉を開け、中に滑り込んだ。

扉の中は、人が二人入れるくらいの狭い小部屋であった。燭台がある他は何もない。行き止まりかと、幸彦が部屋を出ようとすると、部屋が軋み、ゆっくりと下降を始めた。エレベーターのようだ。鉄が錆びているような、嫌みな音が振り子のように耳を襲う。老朽化しているため、いつ急降下してもおかしくない。やがて揺れが小さくなり、音も止んだ。幸い、何事もなく階下についたようだ。ボタンも何もなかったので、ここが終点らしい。扉が独りでに開き、幸彦を次なる目的地に向かわせる。

扉の外は、人一人が通れるかどうかの狭い通路であった。壁はコンクリートで、息が詰まりそうである。

突き当たりには、収納と書かれたプレートがついている鉄の扉が見えた。幸彦は大きく息を吐き、そこへ向かった。

螺々は幸彦と別れた後、別のエレベーターに乗った。やはり下りで、気味の悪い音が鳴り続けている。エレベーターを下りると、ガラス張りの細い通路を抜ける。通路は回廊のような作りになっていて、眼下には、百合の花の咲き乱れる花園が見下ろせた。人の手も光も届かないにもかかわらず、百合はおどろおどろしく咲き乱れている。

通路の突き当たりには、美術室というプレートのついた大扉がある。螺々は、扉に乱暴に蹴りを入れて、中に入った。

美術室は体育館くらいの広さだった。ロダンの彫刻のレプリカが、所狭しと陳列されており、躍動感溢れる肉体美がおしげもなく披露されている。ここも薄暗く、蝋燭の火が彫刻に影をまとわせていた。

「おい、いるんだろう?」

螺々が大声を上げる。呼応するように、伊藤嘉一郎が、彫刻の陰からぬうっと現れた。

「仕事は終わった。その報告に来たんだ」

「ご苦労様でした。支配者もさぞお喜びになるでしょう」

螺々は険しい顔で、伊藤をねめつける。

「話が随分と違うが、どういうことだ? 嘉一郎」

「違うとは?」

伊藤の姿が闇に紛れ、見えづらくなる。螺々は、片時も目を離さない。

「二週間前、私は君からメールを受け取った。厄介な生徒がいる。助けてほしいと」

その時分、螺々は別の仕事でたまたま日本に滞在中であった。螺々の主な仕事は、代行業である。

普段は法人、反社会的勢力、政府と、分けへ立てなく仕事を請け負っているが、個人からの依頼は紹介なしには受けない。ちょうどスケジュールに空きもあり、伊藤との浅からぬ間柄と、好奇心から螺々は話を聞くことに決めたのだ。 

「君は、支配者を名乗る生徒とコンタクトを取った。その生徒は不思議な力を持ち、学校の異変の元凶だ。そして君はゲストという首輪をつけられ、その生徒の言いなりになっている……と、こういう話だったな」

「その通りです」

公にはされていないものの、学校関係者に行方不明者が続出していることも螺々は聞いていた。その件にも支配者が関与しているらしいことも。

伊藤は支配者の手先になる振りをして、逆に情報を引き出し、弱点を探ろうとしていたと、螺々は思っていた。

「だが、おかしいじゃないか? 実際私がやらされたのは、寺田幸彦という、むこの少年を連れてくるというわけのわからない仕事だ。それとも何か、彼が支配者を打破できる勇者なのか? 私にはそうは思えないがね」

助けて欲しいと言いつつも、支配者の情報を全く開かさない伊藤に対し、不信感がついに爆発した。

「実際は私が考えていた以上に、君は支配者に染められていたんだね。そして、手っとり早く駒になりそうな私を呼び寄せた。そういうことだろう?」

依頼を受けた当初、螺々に邪心がなかったわけではない。長らく手放していた伊藤嘉一郎という得難いサンプルと、美堂薫子、さらに未知の支配者が一遍に手に入るとなれば、螺々が働く動機としては十分だった。

「私は人を踊らせるのが大好きだが、踊らされるのは大嫌いだからね。これは私に対する復讐か?」

螺々の知る伊藤は、あまり笑わない少年であった。丁度、幸彦のように内心で我慢を溜め、突然崩れる脆いタイプの人間だった。恐らく支配者の手によって彼は変わったのだろう。

「いいえ、丑之森博士。僕は貴方に恩義を感じているのです」

伊藤の静かな話ぶりは、脅威を与えずにはおかなかった。

「皮肉にしか聞こえんよ。私を恨みたいなら好きにするがいい。だがな、”彼女”を殺したのは、他ならぬ君自身だ。少女に執着しているのはそれが原因だろ?」

伊藤は笑顔を消し、螺々の正面に立った。螺々は煙草に火をつける。

「恩義に報いるつもりがあるのなら、支配者に会わせろ。話はそれからだ」

「できかねます。支配者は貴方にお会いになりません」 

「何?」

伊藤は、ポケットから何かを取り出した。

螺々も素早く懐に手を入れる。銃は故障していたがハッタリをかますことは可能だった。

伊藤が取り出したのは、金属製の小さなスプーンだった。腕をまっすぐ正面に伸ばし、スプーンで螺々の顔を隠すようにした。

「我々ゲストは、罪を償うために支配者に選ばれた罪人に過ぎません。それは貴方も例外ではない」

螺々のキャストはもういない。伊藤もまた同じだ。

だが、螺々は伊藤が持つ特殊な力を知っている。それはかつて螺々が与えたものであり、手がつけられないほど恐ろしいものだった。

伊藤は、朝日のような爽やか笑みを浮かべる。

「さようなら、丑之森博士。貴方は僕が知る最良の師であり、最低の大人でした。またお会いできる日を楽しみにしています」

螺々の手から、吸いかけの煙草が落ちた。

離別の台詞は、果たして螺々に届いただろうか。

螺々の顔は、抉られたように内側にへこみ、赤黒い肉が露出していた。頭蓋骨が陥没したように中程までなくなり、司令頭を失った体が、一瞬後、前のめりに倒れる。

伊藤の手にあるスプーンから、赤い液体が滴っている。彼はそれを口に含み、美味しそうにしゃぶった。


 

 (*)

 

「そろそろ突入するわよ、準備はいい?」

薫子は屈伸をしながら、傍らでスクワットするせっちんに声をかけた。

場所は、丸岡高校、せっちん像前だ。草むらでは虎が伸びをしている。

空を見上げると、ひどく感傷的になる。ここに無事に戻れる保証はない。それはこの場にいる全員の認識だ。

せっちんは筋トレを終え、薫子の側にやってきた。

「わらわに、いぞんはない。あとはそなたしだいじゃ」

せっちんが、薫子を気遣うようなことを言うとは思いもしなかった。それだけこれから待ち受ける運命が過酷なのだろう。

「私も体が温まってきたわ。旧校舎に入りましょう」

せっちんから旧校舎の存在を聞いた薫子は、にわかに信じられなかったが、幸彦がそこにいるらしいということは信じられた。全てが始まったこの場所は、終焉の地でもあった。

トイレに入り、個室がエレベーターになるということを聞き、驚愕する薫子だったが、ふと振りむけば虎がいない。一端外に出ると、虎は暢気にあくびをしながら寝そべっている。

「こら、何してるの? 行くわよ」

あれほど従順だった虎が、言うことを聞かない。薫子の声が聞こえなかったように怠けている。

「よい。そやつは、すておけ」

せっちんが、厳しく言い放った。

「せっかく分かりあえたのに」

薫子は猛烈な不安に襲われた。虎を戦力に数えていたし、いないと心細い。

「きゅうこうしゃに、”きゃすと”はじゆうにではいりできぬ」


薫子が疑問を口にする前に、せっちんは小屋の中に消えていた。

せっちんが、件のエレベーターの仕掛けを動かし、二人は旧校舎へと足を踏み入れる。

 幸彦が惑ったように、薫子も初めは暗闇に難儀した。だがそこは、野生児の嗅覚と直感ですぐに慣れた。

「ねえ、せっちん、さっきのことなんだけど」

せっちんは、薫子の手をずっと握っている。はぐれるのを防ぐためだと言いはっている。

「貴方は、この場所を知ってたのよね? 支配者に会ったことがあるの?」

 せっちんが、強く手を握りしめてくる。薫子は少し歩くペースを抑えた。

「ちょくせつのめんしきはない。わかっておるのは、"にーな"と、"なの"という、きゃすとをあやつっておるということだけじゃ」

「本当に?」

せっちんの足が止まり、薫子も足を止めた。お互い同時に大きく息を吐いた。

「やめましょう。ここで仲違いしても意味ないわ。どうせ、行けばわかることだし」

「ふん、めずらしく、きがあうではないか」

二人は通路を進み、階段にたどり着いた。そこで薫子は、床がガラスになっていることに気がつき、スカートを押さえる。

「いやーん! これじゃ下から丸見えじゃない。寺田君は見てないわよね」

「ゆきひこは、そなたのしたぎなどに、うつつをぬかすまい」

そっけなく言って、階段を下りるせっちん。薫子は、口元に手をやって考えごとをしていた。

「はようせよ。おいていくぞ」

「あ、ごめん。今行く」

エレベーターのある広間につくと、薫子は鼻をひくつかせた。

「ねえ、さっきから気になってるんだけど、煙草臭くない?」

「そうか? わらわにはよくわからんが。そういえば、らら、とかいうおんなは、へびーすもーかーだったようじゃ」  

「へー……」

煙草の臭いを辿り、三つある扉のうち、螺々の通ったものを二人は選んだ。螺々と幸彦は行動を共にしているという先入観が、道を誤らせた。

「私、すっげー、嫌な予感がするわ」

二人は美術室の前で、顔を見合わせた。薫子は慎重に扉を開け、中に入る。ロダンの彫刻が迎える。

「ね、ねえ、本当にこっちなのかしら」

「そなたのきゅうかくをしんじろ」

エレベーターは一方通行で、上に戻ることはできなかった。せっちんの言う通り、信じて前に進むしかない。

部屋の中ほどで、誰かがうつ伏せで倒れているのを発見する。薫子は警戒し、三メートルほど手前で立ち止まった。倒れていたのは、トレンチコートを着た若い女性だ。

せっちんが、目を細めて薫子に教える。

「こやつが、”らら”じゃ」

「そうなの? でもどうして倒れてるのかしら」

薫子は、一人で螺々に近寄った。肩を揺すっても反応がない。既に冷たくなっていた。顔を拝もうと体を仰向けにする。

「……、きゃっ!」

薫子は悲鳴を上げて、螺々の遺体から離れた。せっちんが駆け寄る。

「どうした?」

「か、顔が……」

螺々と思われる遺体には、顔がなかった。鈍な刃物で時間をかけて抉られたように、切断面が荒れている。傷は深く、人間業とは思えなかった。その割に出血が少なく、床はほとんど汚れていない。

「一体、誰が、まさか支配者が」

「やつは、じぶんのすがたを、さらすことをきらう。おそらくちがうじゃろ」

支配者でなくとも、その係累がこの付近にいる。これからの戦闘は必至だ。

「そうね、まずは事情を知ってそうな人に、訊いてみることにしましょうか」

薫子は、前方の闇に目を向ける。ほどなくして、一人の男の姿が影法師のように浮かび上がる。

「お見事です、美堂さん。気配を絶っていたのですが、わかりましたか?」

伊藤嘉一郎が、わざとらしく拍手しながら登場した。

「貴方、香水使ってるでしょう? 煙草の臭いに混じってたけど、美術室に入ってすぐにわかったわ」

「成る程」

せっちんは薫子の背中に隠れるようにして、伊藤の様子を伺っている。

束の間、伊藤は、せっちんの姿に驚いたようだ。あっという風に声を上げそうだった。薫子にはそれが不思議であった。

「美堂さん、いけませんね。ここは立ち入り禁止区域ですよ。お帰りはこちらで……」

「寺田君はどこ?」

伊藤の誤魔化しもこれまで。薫子は追撃とばかりに、言い募る。

「貴方は支配者の仲間だったのね。よくもまあ、平気の平左で協力してくれなんて、言えたものね」

「失礼、穏便にすませたかったものですから。協力して欲しかったのは本当です」

「あら、言い訳? 私、言い訳する男って大嫌いなの。もうどっちだっていいわ。丑之森を殺したのは貴方?」

伊藤は顎を軽く引いた。

「支配者とかいう奴は、どこよ。寺田君と一緒なの?」

「支配者は、この旧校舎にいらっしゃいますが、君にお会いになられるかどうか」

「それは、貴方が私の相手をすると受け取っていいのかしら」

薫子の好戦的な態度に、辟易したように伊藤は両手を上げた。

「よしてくれませんか。支配者は、君の死を望んではおられません。支配者の意志は僕の意志でもある。このまま引いてくれれば、追うことはしません」

薫子は、拍子抜けした。支配者は見境なく悪意をばらまく存在だと思っていたからだ。

「ハクアも騙していたの?」

「彼女は何も知らず、己の業に振り回されていたにすぎません。それが原因で、支配者の逆鱗に触れてしまったのは、残念なことです」

伊藤は、一瞬だけせっちんに目をやった。

「どうして寺田君をさらったの? 支配者は何をしようとしているの?」

「申し訳ないのですが、美堂さん。それにはお答えできかねます。君にできるのは、この場から大人しく退散するか、僕と戦い、死ぬかのいずれかです」

伊藤が自信満々に述べると、薫子も黙っていられない。

「もう一つあるわ。貴方を倒して、支配者やニーナ、ナノを倒して、寺田君を連れ戻すことよ」

開戦が決定的になると、薫子の意気がかつてないほどに上がる。

伊藤は初対面から気に食わなかったし、公然と殴れるなら、これにこしたことはない。個人的な感情に振り回されるあたり、彼女もまた浅はかであった。

薫子はファイティングポーズを取ったが、伊藤に緊張は見られない。隙だらけのようではあったが、攻めにくいと感じる。伊藤の側にも、薫子の側にも、遮蔽物になるブロンズ像が設置してある。逃げ回られるとやっかいだ。薫子は短期決戦を意識する。

「丑之森はどうやって殺したのよ」

「そのうち、理解できますよ。理解が及べばの話ですが」

伊藤は手に何かを持っている。薫子は一気に距離を詰めるべく走り出す。

伊藤が持っていたのはカッターナイフだった。ごく普通の文房具。紙を切ったり、何かを切るためのもの。

この時生じた別の想像が、薫子の動きを鈍らせた。揺らぎとさえ言えないわずかな踏み込みの差が、伊藤に付け入る隙を与えた。

薫子の異常を敏感に感じ取ったのは、せっちんであった。死地を幾度も経験した二人には通じるものがあった。

「たわけっ!」

せっちんは、薫子の足に自身の足を引っかけ転ばせた。

相前後するように、伊藤がカッターの刃を音を立てて出していた。右手をまっすぐ伸ばし、薫子のいた空間をなぞるように刃を当てた。

「かんじょうにまかせて、てきのふところにはいるとは、ぐのこっちょう! そなた、しにたいのか?」

せっちんが、怒鳴ると、薫子の顔から血の毛が引いていく。冷静さを欠けば敗北は必定。それはキャストとの戦いで学んだはずだった。せっちんがいなければ、それを忘れるところであった。

二人のすぐ真後ろに、青銅時代というタイトルのブロンズ像があったのだが、その胴体に糸のような細い線が走ったと思うと、真横にスライドするように、真っ二つになった。床に激震が走る。

「は?」

伊藤からは十メートル以上離れている。何が起きたのかわからないが、せっちんがいなければ間違いなく死んでいた。

「せっちんの言う通りですよ、美堂さん。あと少しで君の首を落とすことができました。きれいに切り取って、支配者へ贈ろうと思ったのですが、残念です」

伊藤の挙動に不審な点はなかったように思えた。何らかの力が作用したのは間違いないが、キャストによるものではないのは確かだ。螺々も同じ方法で死亡したのだろう。

薫子は、伊藤の不可視の力を推量しようとした。しかし、考えれば考えるほど、足がすくむのだ。まだキャストが能力を使ったと考える方が楽である。

薫子の怯えた表情が、伊藤に意外な作用を及ぼした。彼は嘆く。

「失望しました」

伊藤はカッターの刃を納め、ポケットにしまった。無念そうに唇を噛んだ。

「どうやら僕は、君を買いかぶっていたようです。君なら僕と戦うに値すると、思ったのですが」

伊藤は、薫子の側までゆっくりと歩いてきた。薫子は顔を上げられず、拳を床につけたままである。伊藤はそのまま通り過ぎる際、上から言葉を投げかけてきた。

「ああ、そうだ。支配者から君に伝言を賜っています。どうぞ幸せになってください、と」

伊藤の足音が完全に遠ざかるまで、薫子は床から手を離すことができなかった。

「くそっ!」

拳を床に激しく打ちつける。悔しさと惨めさが、野火のように心に広がる。圧倒的な実力差を前に、戦うことすらできなかった。自分が強いと無条件に信じている時期は幸せだった。獣のように牙を向ければそれで済んだ。一度弱さを知ってしまえば、獣は尻尾を巻いて逃げる他ないのだ。

「そなたが、ここにいるりゆうはなんじゃ?」

「え?」

せっちんが、しゃがんで薫子の顔をのぞき込む。

「ゆきひこを、つれもどすためではないのか? そうでなければ、ここでおいていくぞ」

せっちんの意志の力は、薫子の顔を上げさせた。交戦は避けられなくても、伊藤を倒すことは必至ではない。支配者とも戦わずに済むかもしれない。

「ごめん、ちょっとビビっただけだから。もう平気よ」

二人は美術室を抜け、エレベーターを発見した。乗り込むと、小箱のような部屋がガタガタと上昇を始めた。このエレベーターにはガラスの小窓がついていて、旧校舎の全容が見渡せた。蟻の巣のように、無数の小部屋が連なっている。点になっている蝋燭の火を延々と数えて、薫子は気を紛らわせる。

「そなたに、わびねばならぬことがある」

せっちんが、苦しそうに眉を曲げて言った。

「きんのおまるの事? 気にしてないわよ。今は、寺田君救出のことだけ考えましょう」

「そうではないのじゃ」

せっちんの腹の当たりから、赤い糸が伸びている。毛糸のような細い糸で、薫子の腹に端が繋がっている。

「もう、時間がないのね」

薫子はリミットの近いことを悟る。獣に傷つけられた箇所は完治していないのだろう。体の痛みが増してきている。いかにキャストといえども、やはり人の命まで操ることはできないのだ。

「気にしてないと言えば嘘になるけれど、第二の人生、結構楽しめたわ。ママとも最後に話せたし、これで寺田君を救えれば、万歳よ」

薫子は、せっちんの頭を乱暴に撫でる。蝋燭の火がかすんで数えられなかった。

エレベーターが急停止した。薫子は自分の頬を強く叩き、気合を入れ直す。

「さいごじゃから、いうておくが」

「ん? 何よ」

「わらわは、きんのおまるでしか、ようをたすことができぬ。これはまことじゃ」

せっちんは、パーカーの裾を握って身もだえしていた。

薫子は薄く微笑み、相棒の手を強く握る。

「それ素敵ね。私にも、いつか使えるかしら」


  

  (*)


エレベーターの扉が開いた途端、広がった地平は薫子の度肝を抜いた。

広大無辺な水鏡が足下を満たしている。さらさらと、絹のように耳障りのいい水音が、空間に染み渡っていた。足首まで浸かる水は刺すような冷たさだ。

高い天井はドーム型で、壁も床も煉瓦で組まれていた。煉瓦の隙間から水があふれているようだ。

ほかの階とは、打って変わって真昼のような強烈な光が、目を焼かんと襲う。薫子と、せっちんは目を細めた。

「あーあ、つかえねえ……、ゴミ掃除もろくにできねえのか。あの変態教師」

水音に混じって悪意の羽音が響く。

「しょうがないよ。あいつは、指示待ちワンちゃんだもん」

二つの人影が部屋の中央に浮かぶ。

学習机を挟むように、ニーナとナノ、ニ体のキャストが椅子に座っていた。彼女たちのすぐ脇には、学習机が山と積まれている。

「ずいぶんな言いぐさね。ゴミは言い過ぎじゃない?」

薫子はだいぶ遠くから話しかけたが、ニーナとナノは同時に振り向いた。

「ここは聖域だよ、オバサン。入ったらダメでしょ」

ニーナが乱暴に席を立った。ナノは席に座ったまま、薫子たちをにらんでいた。

「それは悪かったわね。すぐに出ていくから、一つ答えて。寺田君はどこ?」

「ここにはいない。どこにもいないよ」

ナノが答えると、薫子は深く考えないように思考をできる限りシャットアウトした。

「ユッキーは大切な儀式の真っ最中でーす。オバサンはお呼びじゃないのー」

「ニーナ、喋りすぎ。関係ないんだから、オバサンには」

薫子は微笑して、ニーナたちに歩み寄る。

「貴方たち、ずいぶん寺田君を大切にしてるのね。普通の女の子みたい」

「あ?」

ニーナが食ってかかるのを、ナノが手で制する。

「はいはい、ニーナ騒ぎすぎ。オバサンなんか、片手でひねっちゃえばいいじゃん」

「わ、わかってるってば。ねー オバサン、実力差教えてあげたよね? もう忘れたの?」

薫子は眼鏡をしたまま、ニーナと対峙した。距離はニメートルもない。腕を伸ばせば、すぐにでもつかみかかることができる。

「あ、その眼鏡似合ってないよ。それにメイク濃すぎでしょ。つーか、あの自己紹介寒すぎ。十七歳じゃないって見ればわかるよ。皆、陰で笑ってたし。ぷぷっ」

ニーナの口撃にも、薫子は微動だにしない。水のせせらぎに波長を合わせる。

「やっと、貴方の本音が聞けた気がするわ」

「は? 何言ってんの?」

ニーナが焦れたように、足踏みをした。水がばしゃばしゃと音を立てる。

「貴方たちの支配者、本当はこの近くにいないんじゃない? 来たくてもここに来れない」

ニーナがナノを伺うように横目を使う。

「支配者は、私たちのことが好きじゃないんだよ」

ナノが悲しげにそう言った。初めて感情らしきものを表した。

「私たちは、この旧校舎を守るように言いつけられたの。あと、支配者権限を与えられ、ルールを破ったキャストと、ゲストを裁くのが仕事だよ」

「そー、そー。あとは勝手にやれってさ。正直支配者が何考えてるのか、あたしらは知らなーい」

ニーナとナノが、意味ありげに目を見交わしている。

「伊藤と貴方たちは、どういう関係? あんまり仲良くなさそうだけど」

ニーナは、ベレー帽に手をやった。

「あいつは、支配者のペットだよ。あたしとナノの言うことは聞かない。丑之森を呼び寄せて、あんたと戦わせようとしてたみたいだぜ。ま、それには失敗したみたいだけど」

伊藤の思惑は、薫子の想像外を動いていた。しかし、伊藤は何故、自分から戦うことをしなかったのか。今更考えても詮無いことではある。

「伊藤が何とかしてくれるかもって思ってたのに、ほんとつかえねー。もうめんどくさくなってきちゃった。どうせ、オバサンもうじき死ぬっしょ? あたし抜けるー」

ニーナはあくびをして、ナノのところに戻っていった。薫子に無防備な背中を向ける。

「ま、待ちなさいよ! 私と戦うんじゃないの?」

「えー、だって無理ゲーじゃん。あたし超強いよ、オバサン一人で……」

その時、首だけで振り返ったニーナの目に、せっちんが留まった。

「あれれれ! 何かいる!」

せっちんを指をさしたまま、固まるニーナ。ナノが眉をひそめる。

「今頃気づいたの? ニーナ鈍すぎ」

ニーナは一瞬で、せっちんの眼前に移動した。水音一つ立てず、薫子は全く反応できない。

「何でキャストが、ここにいる? 支配者が許可しない限り入れないはずだ。どんな手段を使った?」

せっちんは、小さい体を目一杯伸ばした。

「さてな。わらわを、ひざまずかせることができれば、こたえてやってもよいぞ」

ニーナは、たじろいだ。明らかに動揺している。ナノもせっちんの一挙手いっとうそくに注意している。彼女たちにとって、せっちんがいることは不測の事態のようだ。

ニーナはナノと目配せした。

「ふーん……、まあいいや。それよりそのパーカーどこで買ったの?」

予想外の質問に、せっちんが戸惑う。

「ど、どこでもいいじゃろ」

「えー、気になるー。あたしこう見えて、洋服に目がないんだ。怠け者なのに変だよな」

打ち解けた空気になったかと思いきや、ニーナはせっちんの首を絞め始めた。

「せっちんに何するの。やめなさいよ!」

薫子は側まで走り寄るが、重い裏拳を鼻梁にくらい、あえなくもんどりを打って倒れた。その際、眼鏡も破損し、水に沈んだ。

「オバサンは、すっこんでなよ。あたし、このパーカー欲しい。ちょうだい、てゆーか、もらうね♡」

ニーナはにこにこ笑いながら、せっちんの首を絞めた。せっちんの体は持ち上げられて、宙に浮いた。顔を真っ赤にし、身をよじって暴れるが、ニーナは意に介さない。鶏の首でも絞めるようにもくもくと行う。

薫子が肘をついて、起きあがっていた。ナノが真っ先にそれに気づき、目つきを険しくした。

「ニーナ、危ないよ」

ニーナはわざとナノの忠告を無視した。興奮すると視野が狭くなる悪癖だ。ナノはやれやれと首をすくめた。

ニーナの頭部に載っていたベレー帽が、突如風で煽られたように、宙を舞った。帽子は、獣の爪にかかったように、千千にちぎれてしまった。

ニーナが絶望の吐息を漏らす。

「あ、あ……、お気に入りだったのに」

せっちんの体が、無造作に落下した。せき込んだが、命に別状はなさそうだ。

薫子は鼻血を拭い、皮肉な笑みを浮かべた。

「こう言っちゃなんだけど、あの帽子あまり似合ってなかったわ。ない方が断然可愛いわよ」

薫子の当てつけに、ニーナの沸点があっさり限界を超えた。

「……、ころす」

だらんと、垂らした両手にガラス片を握り、ニーナが疾駆した。助走もなしに、最大速で薫子に猛進。

薫子は、逃げることなくそれを迎えた。ニーナの閃光のような斬撃を皮一枚でかわす。制服の袖や、その下の皮膚が真っ赤に染まっていく。

「あははっ! 遅いってえ! かったるくって欠伸でちゃうね」

「ハクアもこうやって殺したの?」

ニーナの動きは、常人では見切れないほどの速さにまで上り詰めていた。遠く離れたせっちんの目には、縦横無尽に糸が走っているようにしか見えない。

「これならあのチビの方がマシだったよ。雑魚なのは変わんないけどさ!」

薫子は、ただ闇雲に攻撃を受けていたわけではなかった。ニーナの動きを、肌で感じ取ろうとしている。

ナノは不審そうに、薫子の様子を窺っていた。

「ニーナ、代わろうか? 何かヤバそうだけど」

「はあ? 絶好調なのに何言ってんだよ。こんなオバサンさっさと三枚に下ろしてやるよ!」

ガラス片の刃が、ついに薫子の左目を捉えた。ニーナは勢いそのまま突き立てる。傷口を押し広げるように力が込められた。出血が絵の具のように垂れ、水に染み渡る。

「やっと、捕まえた」

薫子は、ニーナの腕をしっかりと掴んだ。どんなにニーナが刃を立てようと、薫子は怯まない。残った右目が、強烈な闘気を発する。

「は、離せ、てめえ、痛くねえのかよ!」

「痛いわよ。でも貴方の言う通り、私もうじき死ぬからね」

ニーナの腕を左手で掴んだまま、鳩尾に右拳を打ち込む。二回、三回と、強打をねじ込んでいるうち、ニーナの表情が苦悶へと変わる。

「っ……、何してんだよ、この、クソババア。離せよ! コラ」

「ババア?」

眼光をさらに鋭くした薫子は、ニーナの髪をわし掴みにし、顔を引き寄せた。

「いい? 覚えておきなさい。女ってのはね、いくつになっても若く見られたいものなの。ババアなんてこの世にいないのよ」 

薫子は、目を合わせたままニーナの額に頭突きをかました。堅い骨と骨が激突する。ニーナがふらふらと尻餅をついた。

「ざ、ざ、けんな……、何であたしが、負ける、負ける? そんなはず」

ニーナが最後に目撃したのは、薫子の高く振り上げられた右踵。まさかりのような一撃が脳天に加えられようとは、自身の目が信じられず、ただ呆然と口を開いていた。

薫子は、渾身の踵落としをニーナにお見舞いした。その豪の衝撃は、部屋を揺るがせるほどだった。

ニーナは床の煉瓦に顔を打ちつけ、動かなくなった。

「あーあ、だから言ったのに」

水につけたナノの素足に助けを求めるように、血が流れてきた。



 (*)

 

「やるね」

ナノが椅子から立ち上がり、薫子を見据えた。アンニュイな態度を崩すことなく、あくまで他人事のように素っ気なく見えた。

薫子は左目に刺さったガラス片を抜き、放り投げた。せっちんが駆け寄ってきて、心配してくれた。

眼光衰えぬ隻眼をナノに据える。

「次は貴方ね、お嬢ちゃん。ニーナみたいになりたくなかったら、早めに寺田君の居所を吐いた方がいいわよ」

「やだー、オバサン怖いよぉ。私とっても非力なんだよ。ぼうりょくはんたーい」

薫子は、ナノの着物の裾に目を向けた。裾は全く水に濡れていない。ニーナよりもナノの方が警戒すべきだと思っていた。どこか力を隠しているような恐さがある。

「戦いたくないなら、寺田君の居場所を言いなさい」

「やだ」

埒があかないと、薫子が一歩踏み出した時だった。背中に違和感があった。痛みと認識する前に背後から声が響く。

「でもやらないと、私たちが支配者にオシオキされちゃう。それはおもしろくないんだよね」

ナノが薫子の背後に立ち、ガラス片を刺していた。目にも留まらぬ早業だった。

薫子は裏拳で、ナノを吹き飛ばそうとしたが、拳は虚しく空を切る。

せっちんに背中のガラス片を抜いてもらう。

「きずは、あさいぞ」

「うん。ナノはどこに行ったの?」

ナノは、失神したニーナをお姫様抱っこし、積み上げられた机の頂上にいた。約十メートルの高さだ。

「ニーナ可哀想。こんなに痛めつけられて。仇はとってあげるからね」


ナノが薫子を見下ろす。薫子が見返すと、愛くるしい笑みを浮かべた。


「ねえ、おかしいと思わなかった? この部屋すごく明るいでしょ? 照明は使ってないよ。何故ならここにいる私たちが光そのものだから」


ナノの体から青白い光が放たれる。波のように光は広がり、部屋全体が染まっていく。

「私とニーナは、光の性質を備えているキャストなんだって。光の定義がどの範囲まで広がるのかは、教えてあげない。どのくらい広がるのか、私たちもよく知らないからね。試したことないし」 


突如、地震のような長い揺れが部屋を襲う。小さい波があちこちで起こった。薫子たちは身を寄せあい、耐える。


「とゆうわけでー、実験したいと思いまーす。理科の実験だよ。突然ですが、満潮ってご存じですか? はい、そこの小さい人!」


指名されたせっちんが、おずおずと答える。

「”しお”がみちて、かいすいめんがさいこうのじょうたいになることじゃ」


「はい、正解。ぱちぱちぱち」

薫子の足首までだった水が、ふくらはぎまで浸潤していた。煉瓦から漏れていた水が、滝のように流れてきて泡立っている。


「もしかして……、これは」

薫子の焦りを楽しむように、ナノは乾いた笑い声を立てる。


「潮の満ち引きはね、月の引力が影響しているんだって。今の私はお月さまになったんだよ。本物の月には劣るけど、多分千分の一くらいのエネルギーだね」  

薫子はナノに接近を試みる。対処が遅れれば、せっちん共々水没は免れない。事態は急を要する。


だが、ここにきて神は薫子を見捨てたようだ。彼女の肉体がついに限界を超えた。

体の強ばりは、ニーナと戦う前から始まっていた。何とか無理をおして戦っていたが、ついに足がつったように動かなくなり、倒れた。関節が油の切れた機械のように鈍くなる。


「ま、まち、なさい! まだ戦いは」

ナノはすとんと、薫子の眼前に下り立ち、顎を蹴りあげた。


「は? 戦い? 何言ってるの? オバサンとは遊んでただけだよ。ニーナも全然本気出してなかったの気づいてないでしょ。こうして能力で試し切りしてやるんだから、ありがたく死ねよ」


薫子は頭から水に浸かったまま、起きあがることもできなかった。意識はあったものの、知覚そのものが死んだように無感覚になっていく。


せっちんがナノと向き合うが、拳を握ったまま石のように動けない。


「来ないの? どっちでもいいけど、キャスト相手なら容赦しないよ。それに、貴方、まだ出来上がってないみたい。他の子たちと違うみたいだから、見逃してあげる。バイバーイ」


いつの間にか、ナノの足首を薫子が掴んでいた。ナノのつま先から光子に変化し、すぐに薫子の手から逃れた。全身が消えるのに要した時間は、一秒にも満たなかった。


「これは贖罪なんかじゃない。幸彦君は、”幸せ”になるんだよ。その邪魔をしないで」


ナノとニーナが消えた途端、部屋は暗黒に包まれた。せっちんは口を閉ざし、膝を折る。

水がとめどなく流れ込み、水位が上昇を続ける。せっちんの腰の辺りまで、水が満ちていた。


「ここからすべてが、はじまるのか。そうなのか? るーらー」


せっちんの体が水に浮く。余計な動きをせず、浮くに任せた。

絶望に支配された彼女の腕を取る、何者かがいた。水の抵抗をかき分けかき分け、どこかに連れていく。

一ヶ月経っても、旧校舎の水は引かなかった。


薫子の遺体は、誰の目にも触れない暗い水の中を漂い続けた。いつしかバクテリアの餌食になり、骨だけが残った。

唯一の出口だったエレベーターの扉が、わずかにひしゃげている。子供一人が通れる隙間ができていた。


 

 (*)


寺田幸彦は、教室にいた。

丸岡高校の真新しい校舎だった。窓際の自分の席に座り、正面に目を向けている。

クラスメートがそこかしこで談笑する中、幸彦だけが能面のような味気ない顔をしていた。

自分は確か、大事な人と会っていたはずだ。それなのにいつの間にか、こうして座っている。

首を傾げて、教室の時計に目を上げる。時刻は、八時半に近い。そろそろホームルームが始まる。

窓の外では、青天の空に虹がかかっている。幸彦は久方ぶりの虹に見入っていた。

最後に虹を見たのは、家族全員で暮らしていた頃だ。確か箱根に旅行に行った時、妹が真っ先に見つけた。

幸彦は鞄から、教科書を出して机に入れようとした。机の中に紙があって、うまく入らない。紙を引っ張り出す。

紙はA4サイズのレポート用紙だった。自分で入れた覚えがない。そこには、たった一文が書かれている。

「やっと会えたね」

ボールペンで書かれていた字に、見覚えはなかった。丸っこい字で、女性のもののようだ。

イタズラかと思って、辺りを見回す。昼行灯の自分に恋文などあるわけがないが意識して、動きが固くなる。

「どうかしたの?」

幸彦が驚き振り向かえると、クラスメートの西野陽菜が楽しそうに立っていた。大きめのピンクのカーディガンを着て、指先を少しだけ出している。華やかな容姿と、愛らしい言動が、いつも羨望の的となっている少女だ。

最近、幸彦は彼女とお近づきになる機会があった。それからたまに、一緒に出かけたりしている。

「それ、なあに? ラブレターかな?」

「え? 違うよ」

幸彦は急いで紙を机にしまう。陽菜がその慌てぶりを怪しむ。

「幸彦君ってモテるから、私心配なんだよ。ほら、三年生の来栖先輩とも仲いいでしょ?」

「未来姉ちゃんは幼なじみ。モテないから。本当に」

幸彦はどぎまぎする。陽菜の積極性に参っているのだ。陽菜のような女子と自分がつりあうはずがない。陽菜はからかっているのだろう。

「今日ね、転校生が来るんだって。北海道から来た女の子らしいよ。やだなー」

「どうして?」

陽菜は手鏡を熱心にのぞき込んでいた。

「だって肌白そうじゃん。私より可愛かったらどうしよー」

幸彦は、陽菜が本心から言っていないことを知っている。転校生に意地悪しないか心配だ。 

「西野より可愛い子なんて、そうそういないよ。あんまり気にしない方がいいんじゃない」

幸彦は、まるで台詞でも読むように陽菜を賛美する。

陽菜は、頬を朱に染めた。

「やだぁー、照れちゃうよぉ」

陽菜は袖で顔を覆って、自分の席に戻っていった。

黒板の日直の欄には寺田、西野と書いてある。その上に相合い傘の落書きがしてあった。

ぬるま湯のような世界。万事うまく行っているような気がする。

このまま陽菜と付き合ったり、大学に行ったり、結婚したりするのだろうか。あまり実感が湧かない。何かが欠けている気がする。

「あっ、そうだ。一つ言っとくね、幸彦君」

席についたと思った陽菜が背後に立ち、耳元で囁いた。

「他の女のこと見ないで」

陽菜は、幸彦の机に入っていた紙を手で引き裂いていた。いつのまに取ったのだろう。全く気がつかなかった。

「声も聞かないで、匂いも嗅がないで、字も見ないで、想像してもダメ。全部許さない」

底冷えするような声だった。いつもの明るい陽菜が発するものと思えず、幸彦は固唾を飲んだ。

幸い、陽菜はすぐにいつもの状態に戻った。

「転校生と仲よくできるといいよね。どんな娘なのかな」

「そ、そうだね……」

窓ガラスに幸彦の姿は映し出されていたが、その背後にはロッカーだけが映り、人物はどこにもいなかった。

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