猫の歓迎?
連れてこられた理由を知り、歓迎を受ける新次。この国の王女とは。あの白い猫の姿はいったいどのようなものだろうか。
何百という小さな足音が俺の下から聞こえている。
あれからいろいろと聞いてみた。
どうやらお嬢様というのはこの国の王女のことらしい。
なんでも昨日助けた白猫がお嬢様だったようだ。
セバスチャンを含む護衛達と人間界にいるこの第一ネクロス帝国をまだ知らない猫たちに会いに行こうとしていたのだ。
しかし運の悪いことにカラスに襲われてお嬢様と護衛達がはぐれてしまい、食べる物もなくついに力尽きようとしていたときに俺が通りかかったというらしい。
そこで、恩返しをするべく俺をこの国に連れてきたということだそうだ。
名前は直接言いたいようで、教えてはもらえなかった。
しかし、恩返しといってもいったい何をされるのだろうか?
俺のイメージだとえさをもらってない猫は、ネズミだのゴミだのあさって食べているイメージが強いのだが。
まさかネズミとか生ゴミなんかを食べさせられるのだろうか。
考えていると憂鬱になってしまう。
「……さま、新次様、荒川新次様!」
「はい!?」
「見えましたぞ、あれが我らが猫の王国。第一ネクサス帝国でございます」
そういいながらセバスチャンが指(手)さしている方向を向く。
草原を抜けた先に大きな町が見えた。
いや正確には町というよりも全体が要塞のような形をしていた。
町は巨大な壁で覆われている。
そして遠くからでもわかるひときわ目立つ建造物があった。
城だ。
アニメや漫画などでしか見たことのないようなとても大きな城が建っていた。
おそらくこれから向かうであろう王女のいる場所だろう。
どうやってこのような物を猫たちが作り出したのかは疑問だが、とにかくすごいという感想に尽きる。
人間でもあのような巨大な城を作るのは難儀なことだろう。
猫たちに連れられて町の入り口であろう門のところまできた。
近くで見ると大きさに圧倒される。
おそらく30メートルほどの高さだろう。
ここまでされるがままに来てしまったが、いまさら後戻りすることはできない。
俺は腹をくくってこの門をくぐることにした。
そして重苦しい音を立てながら門が開きはじめる。
口内にたまった生唾を飲み込んで喉が音を鳴らす。
そして門が開き、町の姿が見えそうになったときだ。
ドドーン!パンパンパパーン!!
「ようこそ!第一ネクロス帝国へ!荒川新次様!」
おそらく花火の音だと思われる大きな音が鳴り響いた。その証拠に空には大きな花が咲いている。
だが問題はそれではなかった。
大勢の人の姿と声がしたのだ。
「え?人?」
俺はてっきりここは猫の王国だと思って身構えていたのだが違った。
町にはたくさんの人がいた。
ただしそこにいた人たちは、俺のいた世界にはついていないものがついていた。
尻尾と猫耳だ。
俺の世界でも、コスプレという形でつけている人も世の中にはいるが、どうやらこの異世界では違うようだ。
それらは動いている。まるで生きているかのように。
「なあ、この人たちって……?」
俺は隣で座っているセバスチャンにたずねた。
「この方たちですか?この国に住んでいる住人ですよ。この国の人口は約5億人となっています」
「そうじゃなくて!あの尻尾と猫耳は?動いてるけど?」
「ええ、猫ですから。私たちの世界では猫人と呼んでいますね。私たちは今の姿と人型の姿に自由に変身することができるんです。というかあなたもしてますし」
「え?」
俺はセバスチャンの言葉に対して反射的に頭を触っていた。
すると髪の毛以外のなれない感触がした。
厚紙くらいの硬さのふわふわしたものがついていた。
そして腰の後ろ辺りにはもこもこした猫じゃらしのようなものが生えていた。
それはゆらゆらと俺の意思で動いているようだった。
「な、なんじゃこりゃああああああああああ!」
これはいつ生えてきたんだ?目を覚ましたときにはなかったはずだ。
じゃあ事情を聞かされているときか?
いや今はそんなこと重要じゃない。
「なんで教えなかったんだよ……」
「聞かれなかったものですから。それに、もうとっくにお気づきだと思っていました」
「こんなの生えて冷静な人間なんかいねえよ!言ってくれよ!」
「申し訳ありませぬ」
この猫わかってたんじゃないだろうか。なんかにやけてるし。
たとえ異世界だからといって俺の体がこんなことになるとは思わなかった。
「人間をこの世界に呼ぶというのは初めてのことですから、私もこのようなことになるとは思ってもいませんでした」
どうやら新しい情報だ。俺は異世界入場第一号らしい。
一体どうしたらいいんだ、この姿は。
これでは向こうの世界に帰れないかもしれない。
まだおばちゃんとの勝負はついてないというのに。
「大丈夫ですよ。なんとかなります」
「そんな気楽なこと言ってんじゃねえよ。大体俺の気持ちも考えて家を出る前に起こしてくれたらこんなことには………」
「新次様、そろそろ王宮に到着しますよ。準備はいいですね?」
「聞けよ人の話……」
俺の気持ちなんて一瞬たりとも考えてはいないようだ。
こうなってしまえばなるようになるしかないのだろう。
もう少しこの猫たちに付き合って様子を見るしかないようだ。
王宮の前に着くとまた門が出てきた。
壁にあった門よりは少し小さめの門だ。
再度門をくぐる。
もう少しの出来事では驚かないと固く心に決めた。
ギギギ……という音が鳴り響きながら開いていく。
「「「ようこそいらっしゃいました。新次様」」」
王宮の中に入ると猫耳メイドと執事の列が左右に並んでお出迎えを受けた。
「もうおどろかないぞ、絶対にだ」
何とか第一関門クリアのようだ。あといくつのドッキリがあるかはわからんが。
「では新次様、ここで降りてくだされ。私は別の準備があるので、メイドたちに任せることにします。では、失礼いたします」
「あ、おい!」
俺の返事も聞かずに行ってしまった。
思わず重たいため息が出てしまった。
「あの、新次様?」
「はい?」
声のしたほうを向くとそこにはとてもきれいな猫人のメイドさんがいた。
よく見てみると俺のいた世界のメイドと違ってスカートは長く、ホワイトブリム(頭についてるやつ)も高級なもののように感じた。
髪は長めのようだがきちんとまとめてあってとても品のある感じだ。
姿勢もきれいだし本場のメイドさんを見て少し感動してしまった。
「私はこの王宮のメイドをさせていただいているミルフィと申します。長旅のところお疲れでしょう。お嬢様にお会いする前に、しばらくお休みをとられたほうがよろしいかと思います着替えやお部屋も用意しておりますのでご案内いたします。どうぞ、こちらです」
「は、はあ……」
品のある言葉遣いと透き通るような声に魅入られそうになり生返事をしてしまった。
やはり俺の世界のメイドとは格が違うのだと感じた。
メイド喫茶なるものは俺は行ったことないが。
俺は歩き出したメイドについていく。
後ろから眺めるのもなかなかいいものだ。
いまのうちにこのメイドと仲良くなってこの世界のことを聞いたほうがいいかもしれないな。
「あの、ミルフィさんはこの王宮で働いていてどのくらいになるんですか?」
「ミルフィで結構ですよ、新次様。私はここに勤めて12年となります」
「そんなに働いているんですか。俺とは近い歳なのかな?なぜここのメイドを?」
「私はお嬢様に拾われた身ですから……」
「え?」
「いえ、何でもありません」
俺は聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか?
誰にでも事情はあることなのでこれ以上は聞かないことにしよう。
それから会話もなく俺はミルフィの背中を見ながらついていった。
すると彼女は立ち止まって振り返った。
「ここが新次様のお部屋となります」
そういいながらミルフィはドアを開けた。
中に入るとそこはとても広かった。
友達とスポーツができるくらいの広さがあるだろうと思われる。
高級そうな机、ベッド、ソファー、タンス、テレビや本などなんでもそろっているような部屋だ。
自分のぼろアパートと比べてみると涙が出る思いだ。
「その机にある電話は私の電話へとつながっておりますので、御用の際は遠慮なくおっしゃってください。もしも私が出ることができない場合は他のものが伺うことになりますが、ご了承ください」
「そうですか。ではそのときはよろしくお願いします」
「はい。では、軽い食事とお飲み物をお持ちいたします。何かご要望はありますか?」
「いや、お任せします」
「承知いたしました。では失礼いたします」
そう言ってミルフィは部屋を出て行った。
本物のメイドとの会話なんて、拓海うらやましがるかもな。
メイドといえば俺の妹がバイトをしていたみたいだけど、なんか変なことされてなければいいが。
休息といってもすることがない。
だがこんな高級そうな家具があるんだ。少しくらい楽しんでもバチはあたらないだろう。
そこで俺はまずソファーに座ることにした。
傷つけないようにゆっくり座ろうとするが。
「うお!?」
座ったとたんさらに座らされた。
というのはソファーに触れた瞬間にやわらかすぎて俺を包み込むように沈んだのだ。
このソファーは肌触りもよくて腰も疲れずゆったりと座れる。
背もたれもよいものを使っているのか、とてもふわふわしていて夢ごごちのような気分になってきた。
うちの布団なんかよりもよっぽどリラックスできるので寝てしまいそうになる。
「このソファーもって帰れないかなあ」
などと考えているとドアをノックする音。
「新次様、お食事とお茶の用意ができました。入ってもよろしいでしょうか?」
この透き通るような声はミルフィだろう。
さきほどいっていたものがきたようだ。
「はーい、ちょっとまっててください」
そう言って俺はドアノブに手を回す。
「どうもありがとうございます」
「え……あ……はい」
「?」
なぜかポカーンとした顔をして立っている。
俺は何かしてしまったのだろうか?
「あの、どうかされました?」
俺は思い切って聞いてみることにした。
「あ、いえ。普通はお客様がドアを開けるということはないので少し驚いてしまって」
「え?この世界じゃ開けないの?」
「はい。お客様や旦那様方のお世話をするのがメイドですから、ドアを開けていただくというのは初めてでした」
そういいながら机にサンドイッチと紅茶を用意していく。
よほど良い葉を使っているのか、カップの周りから良い香りが漂ってくる。
「そうなんですか?俺の世界では普通ですけどね」
「なんだか不思議な感じです。こんな人が人間界にいるんですね」
「こっちの世界には行ったことがないんですか?」
「そうなんです。生まれも育ちもこの国です」
「へー」
少しだけミルフィと仲良くなれた気がした。なんだかこの子とはうまくやっていけそうな気がする。
今度この国のことについても聞いてみようかな。
「では、私は仕事がありますので失礼いたします」
そう言ってミルフィは出て行く。
と思ったが、
「あの!」
「はい?」
どうやらなにか言い残したことがあるらしく戻ってきた。
「ひとつお願いがあるのですが、この国ではメイドに敬語を使うことは変に思われてしまうのでおやめになったほうがよろしいかと思います」
「そうですか。………わかった。これからは気をつけるよ。ありがとう、ミルフィ」
そう言って俺は彼女に微笑みかける。
「あわわ!で、では私はこれで失礼します!御用のあるときは呼んでください!」
なぜだかあわててこの部屋から出て行った。
なぜだろう?
もしかしてお礼を言うのもだめなのか?
なんだか窮屈な国だな……。
そんなことを思いながら、俺は淹れてもらった紅茶をすすりながらサンドイッチをいただくのだった。
キャラの見た目の紹介を忘れてたので書いておきます。
☆荒川 新次
年齢……18歳/大学生
身長……172cm
髪……ショート
猫の種類……黒猫
☆ミルフィ
年齢……18歳/メイド
身長……157cm
髪……少し長めだけど上の方で束ねている
猫の種類……メインクーン
登場してくるごとにキャラの紹介をしていきます。