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3・緊張しいクリス

 なんだろう。

 王子様って、眩しいオーラがあるのかもしれない。オラディア王国の第一王子殿下は、鱗粉でもまき散らしてるんじゃないかというくらい、きらきらしていた。

 光の加減で黄金にも銀にも見える髪は絹糸のよう。静かに波打つ海を思わせる薄い青の瞳。うわぁ。ここからでもわかる、睫毛まつげ長ーい。羨ましい。すっごく、羨ましい。今の私の見てくれは、ギガ美形一家に生まれたので、美人よりの凡人といった趣だが、前世は男子に睫毛の長さで負けていたのでとてつもなく羨ましい。こういう美人は女の敵だ。男なんかに生まれるな、とも思うのだが、王子殿下の場合は中性的な美貌のようでいてちゃんと男性らしさがある。決して逞しいとか男らしいとかではないのだけど…うぅん。どう言えばいいのだろうか。

 ……さくこだったら、するりと表現が見つかるんだろうが。

 心の中に漬け物石を放り投げられたようだ。とても重い気分になる。

 いや。文章から逃げたのは私なわけだし、今はあのときと全く関係ない、「クリス・ニア・ライティア」として生きているのだ。前向きに行こうじゃないか。

 王子殿下は微笑を浮かべて、通り過ぎる人々と言葉をかわす。そして、二、三言でまた別の人の元へ。初めは全員に声かけてまわるつもりかよ、と半ば呆れてその様子を観察していたのだが、どうやらそうでもないらしい。私の推測が正しければ、彼は玉座の方へ向かって行っている。まあ、話かけてくる相手が多くて蛇行気味ではあるけど。

 その王子が、もうすぐこちらへ来る。

 よし!

 気合いを入れるつもりで、ぱんっ、と両手で頬を叩く。痛い、痛い。

「姫様、何をなさっているんですか?」

 私の素っ頓狂な振る舞いにミーナは困った表情になる。でも、馬鹿にしているのでもなくて。手のかかる妹を見守る姉、みたいな? お姉様の眼差しにどこか似ている。

「ああ、頬が赤くなっていますよ」

「そんなに強くやってないから! 平気!」

「お肌が白いから目立つんです!」

 そうだろうか。そうかもしれない。外出時はミーナお手製の麦わら帽子の着用が義務づけられていたし、基本的にインドアだし、木陰が好きだから、白いかも。しかもミーナが積極的に肌の手入れをしてくれているから。

 赤みを化粧で隠そうとするミーナ。でも、それを止める。もうすぐ王子がこちらにやってくるから。

 間もなく、きらきらを纏った物体(=殿下)がこちらへやって来た。

「殿下」

「王子殿下!」

 あっという間にできる人だかり。その中に、先程私の前を通り過ぎたお嬢様方がいた。なんでだろう。単独行動できないのか、あの子ら。さては、お手洗いとか化粧直しもわらわらと__えっと、何人? 二、三、五、十……十一人か。そのままサッカーでもすればいいよ、リア充が。ま、ああいう貴族って絶対、裏でどろどろしてるはずだ……と思わなければぼっちの私は悲しくて心ぼっきり折れる。

 それはともかく。

 王子の側近に見えたのはただの腰巾着だったらしい、というのはミーナの話で知ったことなのだが、どうやってパトロンになってもらうか。

 貧乏王国の王女とか名乗っても普通に無視されるだろう。可哀想に、と言われただけで上々じゃないかと思える自分が悲しい。それが事実であろうことも悲しい。では、どうする。身分を偽る? 即刻バレる。色仕掛け? キャラじゃないというか、まず、体型も平凡だから無理だ。

 ぼく。ぼく。ぽく。ちーん。

「ミーナ!」

「いかがいたしましたか?」

「ご令嬢に紛れて印象を残してくるわ!」

 じゃ! ととと、っと小走りで群れ……もとい取り巻きに加わる。

 うふふ。あはは。まあ、面白いわ。おほほ。

 ……。

 あー。ダメ。

 やってられるか。

 うふふ、あはは、て。リアルでそういう話し方をする人、なかなかいないのではないだろうか。

 いつお嬢様に私の身分がバレて茶化されるかと気が気ではなかったが、そもそも(望んでないが)鎖国状態のライティアの王女なんて誰もわかりはしないだろう。ただ、「あ、さっきぼっちだった女」程度ですむはずだ。それに、

「殿下、先日お会いしたときのこと覚えていらっしゃいます?」

「殿下。わたくしの家に新しい書物が届きましたの。東洋から取り寄せた貴重なもので……」

「ぬけがけはダメよぅ」

 なんだ、その間延びした喋り方。ではなく。取り巻き達は会話(一方的に投げているので言葉のキャッチボールは全く成立していないように見える)に夢中だ。

 思わず半眼になりそうだが、ここはぐっと堪えよう。笑顔を浮かべていれば、きっと腰巾着の誰かが見てくれる(願望)! ほら、平々凡々の人間専門の人とかいるかもしれないし? ……私、何故付けたし、「?」。

 それにしても、殿下の笑顔は輝いている。もちろん脂ぎっているわけではない。照明のなせる技でもない。比喩だ。改めて思う。美形は特だ。

 まじまじと殿下を観察していると、ばちっ、と視線がかち合ったような気がした。いや、「気」じゃないかもしれない。だって、薄い青の瞳は確実にこちらを向いているのだから。でも、こちらにいる私以外の人間を見ている可能性の方が高い、か。

 じっ……。(←王子)

 え、え……?(←私)

 じぃっ…………。(←王子)

 本当に、私見てたりして…………?(←私)

 ひぃっ。にらめっこは得意じゃない! おまけに雲の上の人であるイケメン様だから、ねぇ? 私みたいにクラスの隅っこにいて、少人数グループとたまに会話する程度の人間が、みんなの人気者と仲良くするなんて無理だ。したがって、緊張して逃げ腰になるのも仕方ない話で。

 じりじりと後退していると、ドン! と何かにぶつかった。

「あっ。す、すみません……!」

 言ってから、王女らしくないと気がついた。まるっきり女子高生時代と同じだ。謝るときにぼそぼそ言うのも、さ。

「いえ。僕に非がありますから、どうか、顔をあげてはくださいませんか?」

 うわ、気っ障〜! 絶叫は心の中だけに留めておく。それは、相手の男性の身なりが良かったから。給仕ならまだしも、貴族と険悪になるのは得策ではない。あと、私は罪の意識から俯いてるんじゃなくて、人見知りだからなんだからねっ。

 とりあえず、すまないとは思っているけれど申し訳ないとは思っていない私は、罪悪感を抱いている良い子ちゃんだと思われるのも嫌なので視線をあげた。相手は育ちのよさを物語る柔和な顔つきだった。

「……中の上、だな」

「?」

「あ、いえ」

 素直に言えない。貴方の顔を採点していましたよ、とは。

「あの」

 あ。殿下が去ってゆく。

「あの……」

 やばい。腰巾着達もぞろぞろついて行っている。

「あの……!」

「はい?」

 そこでやっと、私は相手の方へ意識を向けた。あれ、まだいたのか、さっきの人。

「よければ、僕につきあってもらえませんか?」

 つきあ……。いや、冷静になれ私。

「どこに、でしょうか」

 落ち着いた声で、きょとんとした素振りで、答える。凡人顔が好みというわけではないと思うが、もし、変な意図で発せられた台詞だった場合を考え、慎重に行動すべきだろう。

「どこに、と言うか、僕にです」

「貴方__失礼、お名前をうかがっていませんでしたね。私はクリス・二ア・ライティアと申します。貴方は?」

「これは失敬。ハドリーです。これでもアバネシー伯爵家の嫡男なんですよ」

 気障ったらしいお辞儀をかましたア、ア? ア……あばねしー伯爵? え、何ソレうまいの?

「話を戻しますが、僕につきあってください」

「えっと……」

「一人の舞踏会は寂しいものです。クリス嬢のように可憐な方と共にいられるのなら、それはそれは、楽しい時間を過ごせるでしょう」

 誘われているのだろうか。私はちらりと、あねしばー、ではなく、アバ、バ、アバネシー家のご子息を見つめた。見なりよし。顔、普通。でも、育ちの良さが滲みでている。物腰、うーん、比較対象がお兄様しかいないから何とも言えないけれど、まあ、いいのではないか。

 まあ、可としよう。

 作戦変更。

 王子様の腰巾着を女子力でずっきゅんめろめろ大作戦(←悪ふざけ)を、アバネシー家のご子息をお酒の力でゲットだぜ!策戦(←おざなり)にしよう。

 ミーナ。

 私は背後で見守ってくれているミーナを振り返り、目で伝える。

 お姉様の悲願をかなえる一歩を、今、踏み出す!

「じぇ、じぇひおちゅきあいしゃせてひしゃしゃきましゅっ!」

(訳:ぜ、ぜひ、おつきあいさせていただきます!)

 ああ。

 噛んじゃったよ、重要なところで…………。

 これからしばらくPCから遠ざかるかもしれません。

 いつもどおりと言えばそうですが、のんびりやっていきます。

 次話、王子登場なるか__!? のつもりです。!?+予定、て。

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