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プロローグ
「いい月が出ている」
手作りの浮き橋の先に立ち、シルエットしか見えない人が腕組みをして満足げに空を見上げている。ぽっかりと浮かんでいる月はくっきりとその形を見せていた。その周りには無造作にちりばめられた星が広がっている。
真っ暗な空と真っ暗な海。その境目ははっきりとしない。世界の境目が全て黒という色で塗り込められてなくなってしまったように。その中でただ一つ、ぽっかりと浮かぶ月だけが黒を吸い込まずに跳ね返しているようだった。
満月ではなかった。むしろほっそりとした月の形。ただ、そのくっきりと浮かぶ空の月を見上げてシルエットの口元に笑みが浮かんだようだった。