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夢は光のように


「この観覧車ね、一番最初に立ったの50年も前の事なの。だからね、私本当はもうすごいおばあさん」



手の甲で涙を拭いて、口元にわざと皺を作るようなマネをする。俺は薄々なんとなくだけど、気付いていた。けど気付いていないふりをしていた。



「俺も本当は知っていました。千代子さんがもう」



亡くなっている事。



「あら、いつから?」

「今日で確信を得ました」



驚きもせずにおどけた様子を見せる千治さんに、俺は手を伸ばした。その手は千治さんの肩をすり抜けて観覧車の窓へと当たった。ほんの少しだけど、千治さんの体は透けていた。最初ははっきり見えていた。けれど俺と出会うごとに少しずつ透けて、少し向こうが見えるくらいまでに透けてしまったのだ。だから千代子さんは俺に触れた事がないし、俺が千治さんに触れようと思っても通りぬけてしまう。


極めつけはアイツの言った「ずっと一人だった」発言。本当に傍から見れば俺は一人だったのだろう。千治さんは俺にしか、京太さんの孫である俺にしか見えていなかった。



「私、いつの間にかココにいたの。声をかけても、誰も私に気付いてくれなくて」



だから、ああ私は死んでしまってここにいるんだって知った。

最初はすごく寂しくて、京太さんにそっくりな貴方を見てびっくりしたのよ。初めて私の事に気付いてくれたし。


窓の外を見ながら、思い出を振り返るように千治さんは言った。高くあがったゴンドラからはキラキラと光る夜空と電気がまばらな夜景が見え、まるで空を飛んでいるみたいだと錯覚しそうになる。



「でも貴方が京太さんの孫だったなんて、運命っていうの?少し笑っちゃうわ」

「京太さんとの約束は守れなかったけど、貴方が一緒に乗ってくれてよかった」



幸せそうに目を閉じる姿を見ると、あの日千治さんに会って観覧車に乗ってよかったと思わせてくれる。千代子さんに会わなければきっとこの町のこんな姿を知る事はなかっただろう。


天辺を過ぎ、降りていくゴンドラの中で茜さす町の姿を思い出す。



「俺、千治さんに会えてよかったです」

「私も、楽しかったわ」



千治さんの姿はもう、かなり透けてきていた。半透明な体からは星のような淡い光が漏れている。きっともうすぐ消えてしまうのだろう。微笑む表情に、思わず涙ぐんでしまう。ほんの数日しか会う事はなかったのに、何故だろう。それは俺にも分からなかった。ゴンドラが後少しで地上に着く。すると千治さんがスッと立ち上がり、俺の隣の席へと腰を下ろした。俺はびっくりして瞬きを何回もしてしまう。



「ねぇ、貴方の名前は?」

「え?言ってなかったですっけ」

「言ってないわ」

「俺の名前は、京治(きょうじ)です。京都の京に、治めるで京治」

「そう、京治さんか」



そういえば名乗った事はなかったかもしれないと思い返してみる。隣に座る千治さんはニコニコ、というよりかはニヤニヤと言った方が正しい笑みを浮かべて透ける体で俺の頬に手を添えた。もちろん手が触れることはない。それでもそんな事は関係ないと言うように、ぐいっと顔を近づけた。



「京治さん、私の長い夢に付き合ってくれてありがとう。」



それは頬へのキスだった。触れることのない、肌を通り過ぎたキス。だけど、たしかにキスされた頬は熱を帯びて、一瞬何が起こったのか分からなかった。勢いよく千治さんを見るとしてやったり!という顔をしていてそれこそ悪戯っ子のようで、俺は思わず千治さんに手を伸ばす。けれど手はまた空を切った。それはもう既に、半透明ではなく淡い光だった。


ゴンドラはついに一周して、動くのをやめてしまった。それと同時に、千治さんの体も透き通りまるで最初から何もなかったかのように空気にとけていってしまった。


ゴンドラに残ったのは俺と、淡い星のような光。

俺はしばらくそこから動けなかった。その淡い光が消えるまで。











数日して祖父"京太さん"はこの世を去った。

俺が京太さんのいる病室に行った時、ふと窓際に見えた赤いワンピースはきっと彼女だろう。

病室の傍らにおいてある観覧車の模型が、京太さんと千治さんを繋いでいる気がした。



そしてこの日、町にあるあの観覧車も動くのを止めた。しかし取り壊しする予定はないらしい。

それを聞いてホッとした俺はこの短期間でだいぶ観覧車が好きになってしまったようだ。


瞼を閉じれば夕焼けと夜景の町、千治さんの笑顔を思い出す。




自転車のペダルを踏みながら俺は今日も観覧車を見上げていた。



観覧車の話を書きたくて勢いで書いた作品でした。

そして初めて長編(?)を完成させることができました。

結果はかなり無理やり感満載でしたがこの作品は"完結"させる事を目標にしていたので満足です。


読んでくださってありがとうございました!

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