番外編 その後の二人【玲編】
リクエストにより
玲と凌のお話をまた書かせていただきました
感想いただけると嬉しいです。
高校の入学式。
着慣れない制服で身を包み、新しい生活に胸を膨らませる新入生が校内に集まる。
私だってその1人だ。
でも、1人浮いているアイツがいる。
(おい、あれ)
(うわ、入学式から金髪かよ)
(あれが間宮凌か)
(俺始めてみたよ。こえー)
(気に入らないものはすべて壊すっていう)
(人間だって例外じゃないらしいぜ)
(この前の不良が12人病院送りになったのも……)
(三年間関わらないといいけど)
金髪に長身、大きな体、不機嫌そうな顔。
そして広まる数々の噂。
アイツはもう変わっていた。
私はあれから一度も話したことがない。
クラスが書いてある掲示板に向かうアイツ。
本来なら到達するのも困難なはずがアイツだけは例外。
アイツの行く先には自然に道が開ける。
だけど今日は違った。
1人の女子……いや男子の制服を着た女子っぽい小さいのが突っ立っている。
そいつは綺麗な顔をしていながらもどこか冷めたような眼で凌を見る。
アイツも立ち止まって見返し低い声で唸るように言う。
「邪魔だ」
「……そうですか」
でもそいつは臆することも無くただそう言っただけだった。
しばらくギャラリーも含め膠着状態が続く。
今にもアイツが手を出しそうな雰囲気にギャラリーは固唾を飲む。
「おっまたせ~ミリー」
膠着状態を破ったのは能天気な声だった。
開けた道のアイツの後ろからアイツと同じくらい長身の男子が歩いてくる。
顔は良いけど馬鹿っぽそうな奴だ。
「僕のほうもクラスを確認し終わったところです」
小さい方が何事も無かったようにアイツの横を通り過ぎる。
「ん?あれ誰さ?」
「さあ?知りません」
「ふーん?ま、どうでもいいや」
そういって二人は教室の方に向かっていった。
(……あいつ等すげぇな)
(なんて名前だあいつ等)
(小さい方が雪村ミリオネーゼ、大きいほうが神埼心だよ)
(小さい方はハーフなのか)
(お前らうるさいって。間宮さんに睨まれてもしらねえぞ)
ギャラリーが騒ぎ出す。
アイツは周囲を一睨みしてからクラスを確認して教室に向かった。
私と同じクラスで、雪村と神埼は違うクラスだった。
退屈な入学式も終わり、一週間が経った。
クラスの中で仲の良いグループがぼちぼちと出来始める。
それでもやっぱりアイツは独りだった。
毎日遅刻もせずに律儀に学校に来るくせに、一日中寝ているのは前と変わらない。
そんなところはアイツがアイツのままだと私を安心させる。
でも、アイツじゃない。
この一週間だけでもう喧嘩は何度もしていた。
最初は上級生のほうから売られた喧嘩で、5人に怪我させた。
それを機に次から次に喧嘩を売られた。
降りかかる火の粉を振り払うように暴力をふるった。
それだけならまだ良い。
でも、間違った暴力だけはして欲しくなかった。
さらに二週間経った。
アイツの様子がおかしい。
最初に違和感を感じたのは些細なことだった。
そして昼休みのこと。
アイツはいつものように机に突っ伏していた。
でも起きているようだった。
問題はここから。
女子生徒が筆箱をぶちまけたのだ。
そのうちの一つの消しゴムが不運にもアイツに当たる。
「あっ」
女子生徒が慌てたような声をもらす。
一瞬で周囲に緊張感が走る。
筆記用具が床に落ちて音が響き、少し遅れて消しゴムが落ちる音がかすかに聞こえる。アイツがゆっくりと起き上がった。
そのまま女子生徒に向かって拳を振り上げる。
「ひっ!」
女子生徒が恐怖で眼を閉じた。
……でもアイツはその拳を自分の机に思い切り振り下ろした。
バキッ、という音がして机に拳がめり込む。
「……アホが」
アイツはボソッとそういって机から拳を抜き、そのまま教室から去っていく。
血が点々と床に続いていた。
アイツは午後の授業に現れなかった。
私が一番違和感をいだいたのはアイツが女子に拳を振り上げたことだ。
あの凌が女子に暴力をふるいそうになった。
……凌はおかしくなっている。
それからまた二週間が経った。
最近アイツの姿が見えない。
学校にはたまにしか顔を出さない。
今日もアイツの机に突っ伏して寝る者はいない。
そして昼休み、来訪者が現れた。
「間宮はいるか」
それは5人の三年生で、アイツが最初に怪我をさせた奴らだった。
どうやら完治したらしい。
「間宮さんなら今日は来てませんが……」
クラスの男子がビクビクしながら言う。
「はぁ?いねぇだと?」
そいつらが顔をより不快なものに歪ませて男子を威嚇する。
そのまま教室に押し入って居座る。
どうやらアイツが来るまで待つつもりらしい。
この時にはもう分かってきていた。
こいつらが、凌を狂わせてきていると。
「アイツに構うのは止めていただけますか?」
気が付いたたら私は口を開いていた。
三年生たちは怪訝な顔で私の方を向く。
「あ?何言ってんだお前」
そいつらがぞろぞろと私に近づいてくる。
そして近くにいたクラスメートは離れていく。
「お前何?アイツの彼女なわけ?」
そいつらが気持ち悪く笑う。
私は口をきつく結んで睨む。
「そんな怖い顔すんなよ。まあでも、お前みたいな強気な女は嫌いじゃないぜ」
1人がそういって私の方に手を伸ばしてくる。
「お前ら、何してやがる」
「「「「「「!?」」」」」」
三年生5人に私、そしてクラスメートが教室の入り口を見る。
「やっと来たか間宮」
1人がニヤリと笑って言う。
アイツは教室の真ん中辺りに進み、それを囲むように三年生5人が移動する。
クラスメートは巻き添えにあわないようにと教室から出て行く。
私も友達に連れて行かれるようにして入り口まで移動する。
「この前の借りはかえさせてもらうぜ」
特に長い前置きもなく6人は動き出す。
アイツは5人を相手にしながらも互角以上にやりあっていた。
1人、また1人と三年生が倒れていき、最後に満身創痍のアイツだけが残る。
さすがに疲れきった様子で壁にもたれるように座り込む。
頭からは血も流れていた。
静かになった教室に恐る恐る入っていく女子生徒がいた。
前に消しゴムをぶつけた子だ。
その子はハンカチを取り出してアイツに差し出す。
パシッ
「きゃっ!?」
それを、アイツは振り払った。
「あ……」
アイツは声を上げる。
自分でも信じられないと言った様子で。
そして、もう一つ。
先ほどの音とは比べ物にならない音が響く。
パチィーン!
約一年半振りに交わしたやり取りは、これだった。
あの雪の日のように優しく触れる事は、出来なかった。
というわけで
次回【凌編】に続きます
しつこいようですが
感想いただけると嬉しいです