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【第一部完】『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。【第二部準備中】  作者: ねこめがね
第1部 第3章 未踏域探索編

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第68話【私の守護者】

「これで、本部への日報は最後ですわね」


 エレノアは最後の日報を書き終え、梟(ふくろう)に付けて飛ばしていた。


 ヘンドリック一家の埋葬後、人工太陽もすっかり暗くなっていた。『最果ての開拓者(フロンティア)』とパーティDは墓地から1ブロック本部寄りの場所で最後の野営をする事になった。


「……それで、なんでランクSのパーティがここで野営しているのよ」


「一応、ここは俺たちの担当区域内だよ?」


 隣接しているブロックでお互い野営をしているので、嫌でも見える位置にいるのだ。


「まぁまぁ……お互い疲れ過ぎて今更移動するのも大変だろ? それに今夜で最後だし……最後くらい別パーティと一緒だっていいだろ?」


 シオンが機嫌の悪いヴェルセリアを宥(なだ)めようとするが、そっぽを向いて輪の中で一番遠い場所にザークを連れて移動する。


「せめて視界に入らなければいいのに……今日は今までで一番疲れたのに気が休まらないわ」


 ため息を吐くヴェルセリアの身体にザークがピタリと身を寄せ、擦りつけてくる。


「……? ザーク?」


 珍しくザークが自分から寄ってきて離れない。どうしたのかと撫でているとテオドールが声を掛けてきた。


「ヴェルセリアさん、お疲れのところ申し訳ないのですが……明日本部に提出する報告書をお願いします」


 申し訳なさそうにテオドールが報告書用の紙を手渡し、作成を促す。


「あー……そうだったわね、地下施設の報告書を書かなきゃいけなかったわね……」


 地下施設の言葉に反応したのはローランドだった。


「そう言えば他の部屋の探索ができませんでした……その報告書を作成するにあたり、お話を聞かせてもらってもいいですか?」


「えぇ……?」


 心底面倒だと顔に出すヴェルセリア。その表情を見たローランドは一瞬青ざめるが、頭を左右に振って眼鏡を指で持ち上げる。


「(このハイエルフは師匠じゃない、師匠じゃない……)」


 自己暗示をかけるかのように、何度もヴェルセリアは師匠ではないと唱えている。


「……聞こえてるわよメガネ魔術師(スペルキャスター)……」


「はッ! いやその……それより、なぜ私をメガネ魔術師(スペルキャスター)と呼ぶのですか! 名前で呼んだ方が早いと思いますけど!」


「なぜ? 名前を聞いていないし眼鏡をかけているし魔術師(スペルキャスター)だからよ」


 報告書用の紙に視線を落としながら答えるヴェルセリア。あまり名前に興味は無さそうだ。


「……そう言えば自己紹介をしていませんでしたね、失礼しました。私はローランド・オブシディアンです」


「そう。ローランド、私の事もハイエルフって呼ばないで。ヴェルセリアって名前があるわ」


「……フルネームで伺っても?」


「? ヴェルセリア・エルフェイン、よ」


「そうですか……やはり師匠とは血縁者ではないのですね」


「だから、私に親族はほぼいないわよ。……親の顔も名前も知らないのだから」


「な……っ! そうだったのですか……」


 虫(ワーム)と一悶着あった際に、ヴェルセリアに親族があまりいないと聞いていたが、まさか両親の顔と名前まで知らないと思わなかったローランドはバツが悪そうな顔をする。


「あー! ヴェル姉様を虐めないでくださる!?」


 エレノアが2人の間に割って入り、ヴェルセリアを護るように両手を広げる。


「い、虐めてなどいませんよ!」


「ヴェル姉様の生い立ちはとても悲しいものなのですわ!」


 ヴェルセリアの身の上話をここにいる誰よりも最初に知っていたエレノアは、大袈裟なくらいにローランドに喰って掛かる。


「いや……別に私はそう思っていないわ……」


「無理はなさらないでくださいまし! ヴェル姉様は家族のぬくもりを知らないのですわ!」


 そう言うとエレノアはヴェルセリアを抱きしめ、頭を撫でる。エレノアの方が背が低いので、無理をしている妹のようだ。


「家族とは、人に見せられない弱みを晒せる唯一の人達の事ですわ。ヴェル姉様、弱音を吐きたい時は私(わたくし)がいますわ」


 エレノアは満面の笑みでヴェルセリアと向き合い、頼って欲しいと顔に書いてある。エレノアは1人っ子なので、ヴェルセリアに頼って欲しいのだ。


 そんな懸命なエレノアの姿に胸を打たれたヴェルセリアは微笑み、抱きつき返す。


「ふふ……妹が居たらこんな感じなのかもしれないわね。ありがとう、エレノア」


「私(わたくし)で良ければいつでも頼ってくださいまし!」


「さっそくだけど、報告書を作るお手伝いをお願いしてもいいかしら?」


「もちろん! 喜んでお手伝いしますわ!」


「……内容が辛くて書き上げるのが大変なのよ……」


「あー……わかりますわ……」


 昼間の探索で見てきた物を思い出し、少し顔色が悪くなるヴェルセリア。研究所でスケッチをしたノートを取り出し、更にため息を深く吐く。


「できるだけ正直に書いて、世間に公表させないようにしないと」


「それが部屋の内部の様子ですか?」


 ローランドがノートを覗き見てくる。あまりにも興味津々に見てくるので、諦めたヴェルセリアはローランドにノートを手渡した。


「拝見してもよろしいのですか?」


「そんなに目をキラキラされたら、ね」


「……ありがとうございます!」


 マジックバッグから敷物と簡易テーブルを出し、報告書作成を始めるヴェルセリア。座ったところでザークはヴェルセリアに纏わり付くようにピタリと身体を寄せてくる。


「……ザーク、くっつき過ぎよ……さっきからどうしたの?  いつもの貴方らしくないわね」


「うっ……そんな、事は……」


 普段ならザークから身体を寄せる事はしないのだが、昼間の戦闘後からこの調子なのだ。


「仕方ないわね、私は報告書を書くわよ? 暫く動かないけどいいのね?」


「あぁ……」


「ザークさん、お隣失礼しますわ」


 作業を手伝うエレノアもザークにくっつく形で座った。ローランドも遠慮がちに傍に寄る。


「……(狼が怒らない! これは観察のチャンスでは!?)」


 先程とは違い、傍に寄っても唸り声を上げないザークを良い事に、ローランドは魔獣観察用のノートをそっと取り出す。


「……あまり余計なことをすると、後が怖いわよ?」


 ヴェルセリアはチラリとローランドを見て釘を刺す。


「っ! ……はい……」


 2つのパーティの魔術師(スペルキャスター)が勢ぞろいをして、報告書をまとめる。話す内容は探索中に見つけた物と、部屋の様子、そしてヘンドリックから聞く事ができた内容など。魔術師から見た1200年前の魔術の始まりなど、とても濃い内容となった。


「――以上、報告完了……。終わったわ」


「お疲れ様ですわ、ヴェル姉様!」


「エレノア、ローランド、手伝ってくれてありがとう」


「うーん、とても内容の詰まった報告書になりましたね!」


 ローランドは話を聞いていただけではなく、盛り込む内容について一緒に考えてくれたのだ。


「……こんなに魔術について他の人と話したのは……初めてかもしれないわ」


 いつになく機嫌の良い顔をするヴェルセリアは2人を交互に見る。


「私(わたくし)もですわ! とても勉強になりましたわ」


「そうですね、ここまでレベルの高い話ができる相手はなかなかいませんから……」


 疲れているはずの3人は、そんな事を感じさせぬ程生き生きとしている。パーティには基本的に1人しか魔術師(スペルキャスター)がいないので、魔術について語れる場はなかなかないのだ。


「後はこれを読んだギルド側がどう思うか、ね。あまり公にしないでほしいところだけど……」


「アリスター支部長がきっといい方向に示して下さるでしょう。ギルド長の独断では片付けられる内容ではありませんからね」


 まとめた内容を見て作業前に『世間に公表させないように』と言っていた意味がローランドは理解できた。


「そうね……さ、夜も更けて来たわ。食事にして明日に備えましょう」


 エレノアはテオドールの方に、ローランドはアルドリックとイグニスの方に戻って行った。ヴェルセリアも身体を伸ばし、肩の凝りをほぐす。


「~んーっ! 終わったわね……私達も食事にしましょう」


 ずっとヴェルセリアの傍にくっついていたザークは頭を上げ、食事の言葉に下舐めずりをする。いつもならそれに耳を立て、尻尾を振るはずなのだが今日はしない。


「……ザーク、どうしたの?」


「あ? 別にどうもしないが?」


「……いつもより元気がないわよ」


「そんな事はない」


 そう言うが、いつもより言葉も表情も固い。いつからかとヴェルセリアは思い出してみる。


「んー……ヘンリーを倒した後くらいからいつもと違うわよ」


「っ! そんな事は……」


 ギクリと、明らかにザークの表情が強張る。


「ザーク?」


「……」


「もしかして……私が死んだと思ったから?」


「……」


 図星だったようで、視線を落とし黙ってしまった。


「形代を買う所を見てたから気付いたと思ったのだけど……」


「……あの形代からヴェルとヴェルの魔力の匂いがした」


 少し恥ずかしそうに伏し目がちに答えるザークは、先程からヴェルセリアの目を見れていない。


「鼻が良すぎるから私だと思ったのね……全く、私はそんなに簡単には死んでやらないわよ?」


「わかってる、ヴェルは強い。それでも、あんなリアルな死体を見せられたら……」


 目をギュッと閉じるザーク。ヘンリーが形代を咥え、噛み砕いたあの光景が瞼に焼き付いていた。


「確かに、あの形代はよく出来ていたわね」


 言いながらザークの顔を両手で包み、互いの鼻先を合わせる。


「!」


「やっと目を合わせてくれたわね」


「……俺がヴェルを護らないといけねぇのに……」


 いつものザークらしくなく、弱々しく呟く。耳は伏せ、手を離したらすぐに下を向いてしまいそうだ。


「護れなかったと思ったのね。……バカね、貴方と私は運命共同体でしょう? ずっと一緒、死ぬ時も一緒よ」


「……」


「本当に助けが必要な時はザークを呼ぶわ。だから……その時はすぐに来なさい」


 ヴェルセリアは微笑みながらザークの頭を撫で、首に抱きつく。


「私の守護者(ガーディアン)」


 ザークは耳をピンと立て、尻尾をパタパタと振った。


「守護……者(ガーディ……アン)?」


「ザークは私を護ってくれるのでしょう? それなら、守護者(ガーディアン)よ」


「守護者(ガーディアン)……」


 その響きにザークの胸が熱くなる感覚があった。エレノアとテオドールの2人は、常に互いを気遣い護る。その姿を見てきたから『守護者(ガーディアン)』という響きはザークにとって特別なものだった。


「さ、お腹空いたでしょう? ご飯にしましょう」


「あぁ」


 ヴェルセリアはザークの様子がいつもの雰囲気に戻ったのを確認して、食事の準備をするのだった。


(守護者(ガーディアン)……か、へへ……)

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