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【第一部完】『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。【第二部準備中】  作者: ねこめがね
第1部 第3章 未踏域探索編

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第61話【旧魔術研究所】

「この大陸を取り戻すためには戦わなくてはならない」


 今から1200年以上前、西方魔域『ヴォルカヌス』から中央大陸『ラクリア』に、人型魔族が入り込み荒らしていく事が度々起こった。当時の人族には魔族への対抗手段はなく、荒らされていく様をただ見ているだけしかできなかった。


 1200年以上前の中央大陸(ラクリア)に住む人族は、魔(・)術(・)が(・)使(・)え(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)のだ。


「何か対抗手段はないのか」


 各国の首長が揃い、なぜ魔族に勝てぬのか意見を出し合う。


「やはり魔族が使う『魔法』があるからでは……」


「『魔法』…… 東方樹海大陸『シルヴァリア』に住まうエルフが使う物と同じか……だが、エルフ共はあの大陸からは出てきやせん。我関せずを貫いておる」


「我々には『科学』がある、一度魔族を捕まえ調べる事から始めてみるのはどうだろうか?」


 中央大陸(ラクリア)の人族は魔族を捕獲し、徹底的に調べ始めた。魔族の身体を調べ、解剖し、『魔法』を使う仕組みを探る。


 調べる内に魔力(マナ)の存在に人族は気付く。個体差はあれど魔力(マナ)はこの世界に生きる全ての者の身体の内にあるもの、その使い方を中央大陸(ラクリア)に住む人族は知らなかったのだ。


「こんな力が我らにあったのか……」


 これを機に、『魔術研究所』が設立された。始めは『魔法』と言われていた力だが、術式としての発動条件など科学的に分析をし、おとぎ話に出てくるような煌びやかな物とは一線を画すために『魔術』と命名された。


 だが――


 刻々と中央大陸(ラクリア)の大地を魔族が侵攻して来る中、魔力(マナ)の存在に気付いたばかりの人族には、その新たな力を自在に扱うには時間があまりにも足りなかった。


「勝てぬなら、相手を操る事ができればいいのではないか?」


 1人の研究者が言った。


「我々には『科学の力』と新たに手に入れた『魔術』がある」


 これが『魔術大戦』の始まりであった。後の歴史で、『魔術大戦』は人族と魔族の力比べの戦いと伝わっているが、実際は魔族を組み従えるために人族が仕掛けた戦争だった。


 そして長期計画として動き出した。


 魔族から身を守るため、『リヴェリア』のある場所を地下深く掘り、都市を作り地上の住民を移住させた。住民を住まわせた都市から少し離れた場所に箱庭を作り、そこに秘密裏に『魔術研究所』を移設した。


 研究者が逃げ出さないよう、家族全てを帯同させここで全てが完結するように作られた箱庭。この箱庭で生まれ、育ち、そして結婚し、次世代が生まれ――それを繰り返していた。


 人工太陽の光の元、生活をしていた人々の心は次第にすり減っていく。この頃『ヘリオス聖教』が設立され、箱庭で生活をする住民や研究者達の心のケアが行われた。いつ魔族の脅威から地上が開放されるかと、日々祈りながら生活を送る人々。


「この箱庭に人々は根付いたが、我らの世界は地上にある。何とかして早く取り戻さねば」


「しかし魔族の力は強大で、未だ我々の力では対抗できぬ……」


 『魔術研究所』では魔族への対抗策を考えるのだが、魔族は強大な『魔法』を使い攻撃をしてくる。それに対し『魔術』という新たな力を扱うには、人族はまだ研究不足であった。


 研究者達は『魔術』として形にしようと必死だった。『魔術』と名付けられたその力を科学的に紐解き、再構築する。『魔法』を公式に当てはめ、それを具現化する方法として『魔法陣』と呼ばれる図式が作られた。その頃から『魔法陣』を用いた『魔術』が盛んに使われ始め、最終的には『魔法陣』と『呪文』を合わせる形で『魔術』が完成した。


 しかし、『魔法陣』を使用して魔族と戦う事はできない。圧倒的に時間がかかるからだ。


「『魔術』をどうにかして上手く使う方法はないのか?」


「それこそ魔族に教えてもらった方が早そうだ」


「魔族に……教わる?」


 もちろん、人型魔族に『魔法』を教わるなど不可能である。そこで考えられたのは、魔族の力を持った人族を造ること。だが、人型魔族を捕まえるのは簡単ではなかった。そこで代替案として出されたのが魔獣を使うこと。魔獣も単純ではあるが『魔法』を使う個体がいるのはわかっていた。


「魔獣と人間……上手くいけば魔族に対抗する手段に成り得る……か」


 それが合成生物(キメラ)を造るきっかけだった。


 そして2つの生き物の身体を重ね合わせる研究が始まった。人の知恵と魔獣の力を合わせたその生き物は、初めの頃はうまくいかなかった。人の精神が保たなかったからだ。


「自我が目覚めている大人を使うからダメだ。それならば……」


 この箱庭で生まれた、それこそ生まれたての赤子なら――と、そんな人として一線を超えた研究が始められた。


 神殿内では医療施設としても機能していた。神殿で生まれた赤子を、死産したと偽り何人かに1人を研究施設の実験体として使われていた。


 そして――


 赤子を使った実験で、合成生物(キメラ)の成功体が誕生した。魔獣の身体に赤子の精神が宿る。


 生まれたての赤子そのままに、無邪気に遊ぶ姿が施設内で見られた。だが、身体は魔獣。その挙動1つ1つは力強く、幼い精神でその力を操るのは容易いことではない。


 そこで、感情を、精神を完全に外(・)か(・)ら(・)コントロールする実験が行われた。それはもう、生き物ではなくただの操り人形だった。


 しかし、合成生物(キメラ)のコントロールは常に行っているものではない。神経に多少なりともダメージが蓄積されるため、実験の時だけ行われていた。そのため、コントロールされていない時は年相応の子どもだ。


 その中でも好奇心旺盛だった成功体は、研究施設の外に興味を示し散歩のつもりで施設から脱走した。


「へへ……だっしゅつせいこう! いつもおなじところでつまんない!」


 警備ゴーレムを掻いくぐり、森の中を駆け巡り、箱庭を走り回った。


「こっちにはなにがあるんだろう? このかんじ、どく?」


 魔獣との合成生物(キメラ)は毒素に強く、普段と違う空気に誘われるように近付いて行った。そこは蒼い花に囲まれた、この箱庭で亡くなった人々の墓地だった。墓地には1人の女性が佇んでいる。


「なんだ? ここは?」


「っ!! ま、魔獣!?」


 この安(・)全(・)な(・)は(・)ず(・)の箱庭の森に魔獣らしき者が突然現れ、ひどく動揺をする女性。その怯える目を見た成功体は不思議な顔をする。自分の姿を見た人間は皆、世話をしてくれるからだ。見た事もない表情をされ、成功体はどうすればいいのかわからなかった。


「? なあに?」


「し、喋った……!?」


 その話し方、仕草など見れば見る程人の子とあまり変わらない。


 成功体も、研究者以外の人間と触れ合うのは初めてだった事もあり、興味津々で近付いて行く。


 敵意がない事を表すように、女性は優しい声色で話しかけた。


「……ぼ、ぼく、どこから来たの?」


「んー、あっちのほうから」


 指さす方は魔術研究所がある方角。その女性の伴侶が勤めている場所だった。研究内容は詳しく聞いてはいなかったが、とても大事な研究を行っていると聞いていた。


「……ヘンドリックなら何か知っているのかしら……」


 ポツリと呟いた言葉に、成功体が反応した。


「へんどりっく? それ、そのひと、オイラにごはんくれたりあそんでくれたりしてくれる」


「えっ! ……そうなの、私はヘンドリックの妻、エイミーよ」


 初めは突然現れた魔獣が喋り恐ろしいと思っていたエイミーだったが、話してみるとヘンドリックを知っている安心感もあり近付いてしまった。


「……えっと、ぼく、お名前は?」


「なまえ?」


「ヘンドリックからなんて呼ばれているの?」


「えーと、258ごう」


「え……番号……? 258号って呼ばれているの?」


「うん」


 まさか自分の伴侶がこの人と魔獣が合わさったような子を番号で呼んでいるとは思わず、考えてしまった。これは研究に大きく関わる子なのではないか、と。


「ここに、……258号、ちゃん、がいるのをヘンドリックは知っているの?」


「ううん、しらない。ぬけだしてきちゃった」


「それは……いけない事ね。戻りましょう?」


「えー! もっとあそびたかったなぁ」


「ヘンドリックが心配するわ。私も一緒に行くから、ね?」


 説得され、258号はエイミーと手をつなぎ歩き出す。歩く姿はまさに小さな子どもで、5年程前に赤子を亡くしてしまったエイミーには生まれていたらこんな雰囲気なのかと想像していた。あどけない笑顔を向ける258号は、すっかりエイミーの事が気に入ったようだ。


 魔術研究所の外には、何人かの研究員がいなくなった258号を探しに出ていた。


「え……258号! それにエイミー!」


「へんどりっく!」


 258号はヘンドリックの姿が見えると、走り寄ってきた。


「エイミー、これは一体……」


「お墓参りをしていた時に会ったの。魔術研究所の方から来たと聞いて、ヘンドリックの事も知っていたから……」


「そうだったのか……ありがとう……その、この事は……」


「わかっているわ、この子は……大事な研究対象なんでしょ? もう、抜け出してきちゃダメよ」


 諭すようにエイミーが258号に話しかけると、屈託のない笑顔で応える。


「えいみー! またあえる?」


「え……どうかな」


 エイミーはヘンドリックの方を見ると、何か考えているようだった。


「(258号が暴れる訳でも背中の棘を出す訳でもなく穏やかだ……エイミーがいるからか?)……そうだな、たまにはエイミーに遊びに来てもらおうか」


「やったー!」


「ヘンドリック……?」


「エイミー、少しだけ手伝ってくれ。258号の安定化のために」


 ヘンドリックのその表情は、いつもエイミーに向けた優しげな顔ではなく研究者としての影がある顔だった。


 合成生物(キメラ)の精神状態は常に気を遣っていた。今までの実験では、大人の人間を材料に使うと自傷行為を繰り返し、1年以内に自ら命を絶つ事が多かったからだ。


 そこで幼体同士を合わせた合成生物(キメラ)が作られた。数は現在までに全部で5体、いずれも安定はしていた。ただ、精神が子どもと言う事もあり、常に誰かが見ていないとすぐに癇癪(かんしゃく)を起して不安定になるのだ。


 現在生存している合成生物(キメラ)は幼体同士を合わせた258号のみ。成人を使った合成生物(キメラ)は全て研究所内で亡くなり、幼体を使った別の実験体は地上で魔族との戦闘に駆り出され、結果を遺して亡くなっている。実戦投入ができているあたり、確実に大人を使った時より安定はしていた。


「もしかしたらこの258号がこの戦争終結に一役買うかもしれない」


 258号は今までの実験体に比べ、精神状態が安定をしているためその理由を探っている最中だった。安定した合成生物(キメラ)が確立されれば量産されるため、研究所の期待を258号は背負っていたのだ。


 それから1週間に1度、エイミーは魔術研究所を訪れるようになった。研究所の中に入れる訳にいかないので、他の一般人に見られないよう何人かの研究員も一緒に、外で遊んでいた。


「えいみー!」


 258号は無邪気にエイミーに抱きつき嬉しそうにしている。研究員のほとんどが男性なので、女性と触れ合うのが珍しく、嬉しいようだ。


 見た目は子熊のようなふわふわな毛並みで、顔を見れば人間。ただ、エイミーはこの生き物が元は別々だったとは想像もしていなかった。魔術研究の末に生まれた新種の人間としか思っていなかったからだ。なのでつい、聞いてしまった。


「258号ちゃんは、どこから来たの?」


「どこ? ずっとここだよ」


「お母さんとお父さんは?」


「おかーさん? おとーさん?」


 258号は首を傾げ聞き返す。何も知らないようだ。


「……両親はいない?」


「それってなあに?」


「お母さんとお父さんはね、『命』をくれた人たちだよ。半分ずつ力を合わせて、赤ちゃんが生まれてくるんだよ」


「いのち……?」


「そう、命」


 そう言いながらエイミーは258号を抱きしめる。互いの鼓動が身体を通して響く。


「聞こえる? これが命の音よ」


 抱きしめられていると、258号は今まで感じた事のない安堵感で全身が包まれたような感覚がしていた。それと同時にエイミーも、ただ258号を抱きしめているだけではない感覚が襲う。


(なんだろう、この子を抱きしめると辛い訳じゃないのに……なぜか苦しい……)

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