第52話【交錯する狼煙】
「なにぃッ! 狼煙が上がっているだと!? 色は? どこのパーティだ!」
ここはバルガス達がいる未踏域本部、櫓の上にいるローワンが狼煙が上がっているのを発見したのだ。足元のバルガスに大声で報告をする。
「色は青……負傷者多数です! パーティは……場所的にパーティCだと思われます!」
支給品の中に狼煙があり、焚かれた色で何が起きたのかわかるようになっている。
「パーティC……手が空いている者で現場に……」
バルガスが指示を出そうとした時、被せ気味にローワンが再び報告を上げる。
「あ……! ギルド長! また狼煙です! 今度は色は黄色、緊急事態……え……パーティE、『最果ての開拓者』です!」
「なんだと!? イグニス達か!」
「あ……『鳥籠』の梟も飛んできました!」
魔道具『鳥籠』の梟がローワンの指に留まった。梟の脚には手紙が括り付けてある。
「……手紙には……『ルート番号11、地点番号5-5にて神殿と思われる建造物を発見、警備装置を破壊した。どうすれば良いか?』との事……!? ギルド長、これは……?」
「次から次と……仕方ない、パーティCと『最果ての開拓者』のリーダーを本部に連れてこい! 詳しい状況を聞く」
梟に手紙を付け、パーティCと『最果ての開拓者』のリーダーを呼び出す事になった。
暫くして、ローランドが召喚獣の幻魔馬に乗ってやってきた。
召喚獣は基本的に召喚師だけが使えるものだが、契約次第で魔術を使える者なら使役できるのだ。ただし、召喚師以外が契約する場合、非戦闘用の召喚獣に限られている。
「『最果ての開拓者』、ローランド・オブシディアン到着しました。ギルド長、大発見ですよ!」
ローランドは歴史的発見に胸が高鳴り、鼻息荒く報告する。ただ、発見しただけなら良かったのだが――
「……で? 報告にあった警備装置を破壊、とはどういうことだ?」
発見について喜びたいところだが、問題を起こしているパーティが現在2カ所もあるため手放しで喜べない状況だ。バルガスは苛立ちを隠しきれずローランドを詰める。
「っ! ……それが――」
喜びから一転、顔を引きつらせローランドは事の顛末を簡単に説明した。このまま放っておくと、ここにいる魔獣が入り込み荒らされる危険性があると。
「はぁ……大方、イグニスが先走って壊したんだろう……」
「お察しの通りです……」
バルガスも『最果ての開拓者』がどんなパーティなのか熟知しているため、今回の事も状況が手に取るようにわかっている。
「それなら、『最果ての開拓者』は暫くその建造物を隅から隅まで探索を行う事」
「隅から隅まで……」
ローランドはメモを取りながら話を聞いている。
「その際、建物を取り囲むように防御結界を張り、外敵が入らないように努めてくれ。探索し尽くしたらまた『鳥籠』を使って本部に連絡を。以上!」
ローランドに指示を出しているとパーティCのリーダー、グレタ・ナッシュがやってきた。
グレタは 燃えるような赤髪を荒々しく編み込み、瞳は輝く金色。女性の斧闘士だ。普段は自信にあふれた笑顔が眩しいのだが、今の表情はとても険しい。
「ギルド長!」
「来たか。一体何が起きた?」
走って来たのだろう、グレタは肩で息をしている。
「それが……探索中、『マインド・フォグ・ファンガス』に遭遇してしまったんだ」
「『マインド・フォグ・ファンガス』……だと? この森にはそんな物まで生息しているのか!」
『マインド・フォグ・ファンガス』とは、所謂キノコである。幻覚作用を引き起こす胞子を撒き散らす。それを吸った者は周りの物が自分の脅威に見え、自滅を引き起こしていくというものだ。
「それで……パーティの仲間同士で同士討ちになり……直ぐに応援を寄越してくれ!」
グレタは声を絞り出すように、やっとの思いで状況を伝えた。
「各員の詳しい状況を。ルート番号、地点番号と負傷者の職業と人数を出してくれ」
バルガスの表情が険しくなり、冷静にグレタに詳しい説明を求めた。
「ルート番号11、地点番号は6-7、治癒師1名と魔術師2名、計3名が重傷を負っている。あと……攻撃をしてしまった剣士が憔悴しきっている……」
パーティCに編成された職業は、斧闘士、剣士、盾撃士、治癒師、魔術師2名だ。
「そうか……コルネット! パーティAの現在の居場所を簡易地図上で出してくれ。ローランド! 『最果ての開拓者』はどの辺りにいるかわかるか?」
位置的にパーティAとパーティE即ち『最果ての開拓者』はパーティCを挟む形で探索を行っている。定位核である程度の場所は特定できるので、簡易地図を広げパーティCに対して一番近い場所にいるパーティを急いで探す。
「『最果ての開拓者』は現在この森の中心部の、地点番号5-5に全員います」
簡易地図上のほぼ中央を指さすローランド。本部に出向く前にイグニス達には絶対に移動しないよう釘を刺して来た。
「定位核の位置によると、パーティAは現在この辺り……地点番号9-7ですね」
簡易地図で照らし合わせると、どちらのパーティも同じくらい離れた場所に位置する。
「むぅ……それならば……パーティBの位置はわかるか?」
「パーティBですか? それなら……この辺り、ルート番号14、地点番号3-9ですね」
パーティAと同様にパーティBはこの未踏域の外周を反対回りで進めている。いずれパーティAとBは探索中に出会う形になっていた。パーティBの現在地は、あと少しで担当区域の終わり地点に着きそうだった。
「パーティBは思ったよりも早く終わりそうだな……それならば、パーティCは引き揚げさせ、パーティAをパーティCの場所に移動させよ。パーティBはそのまま外周の残り全て担当してもらう。『最果ての開拓者』の数人は重傷者の引き揚げ作業を一時的に手伝ってくれ」
「ギルド長! ……っ私らは、まだ……」
バルガスの指示に、グレタは弾かれたように反論しようとするのだが、疲れ切った彼女には最後まで言葉にはできなかった。
「言いたい事はわかる、だが目の前で仲間によって仲間が傷つけられ、残った者をそのまま続けさせるのは辛いだろう。探索が始まってから半月以上、皆心も体も疲弊し始めている。……よくここまで頑張った」
「……くッ!」
グレタは悔しさを滲ませる。だが、バルガスが言う通り目の前で同士討ちを見てしまい、精神的なショックは隠しきれない。
(やはりランクAとは言え、力の差はあったな……)
バルガスは探索が始まってから今日まで、各パーティの日報を見てきて感じていた。今まで外周をやっていたパーティAとBは大きなトラブルもなく進めていたが、それはあまり深い森の部分を担当していなかったからだ。中央に位置する深い森を担当しているパーティDとEに関しては、今までそれなりに大きな戦闘が起きていた。
(日報でヘルハウンドやマナ・ドレイン・ウィドウに遭遇したと見た時、よく全滅しなかったと肝を冷やしたぞ)
ヴェルセリア達のパーティDに関しては探索をしている間に起きた戦闘の濃度があまりにも濃く、個人能力の高さと即席とは言えパーティの連携が奇跡的に取れているのに感心していた。
イグニス率いる『最果ての開拓者』に関しては、元から形のあるパーティだった事とランクSがいるのもあり、新種と思われるワームとの戦闘報告を受け流石だと思った。これが他のパーティに当たっていたら恐らくは全滅していただろう。
「よし、パーティAとBのリーダーに梟を飛ばせ! ローランド! お前のところの治癒師と守護枢を貸せ。とりあえずパーティCを本部まで回収するぞ」
***
「――と、言うわけでアルドリックとリリアはパーティCを本部まで連れて行く手伝いをお願いします。リリアはとにかく、負傷者を動けるようにしてください。動けるようになったらアルドリックが護衛について、本部まで連れて行く事、大丈夫ですね?」
「わかりました」
「行こう、リリア」
神殿に戻ったローランドは早速指示を飛ばす。指示を受けたアルドリックとリリアはすぐに支度をして出発をした。『鳥籠』の梟がパーティCのいる場所まで道案内をする。
今までの探索中、他のパーティの動向は伝わって来なかったため、こんなにも苦戦をしているパーティがあったとは思わなかった。
「ふーん、『マインド・フォグ・ファンガス』ねぇ、そんなのに遭遇しなくてよかったね。もし俺が幻覚にかかったらうちのパーティ全滅だもんね」
サラリと怖い事を口走るイグニス。実際にイグニスが幻覚にかかればパーティ全滅以上の恐ろしい事が起きそうである。
「ん゛、ごほん! 残ったメンバーでこの神殿の探索を進めますよ。マッピングも今いる地点で最後ですから、隅から隅まで徹底的に調べましょう!」
「やっと終わるニャ! やっと帰れるニャ!」
「メイプル、喜びすぎだよ」
コーデリアが嬉しさのあまり涙目になっているメイプルの頭を撫でながら、労をねぎらう。
ローランドのその言葉で、探索の終わりが漸く見えた事に安堵するメンバーもいる。1ヶ月近くをこの森で探索をするのは、いくら手練れのパーティと言えど楽ではなかった。
「まだ帰れませんよ! この神殿を調べ尽くさないと!」
一気に緊張感が薄れたメンバーに活を入れるローランドもまた、早く終わらせて新種ワームのレポートをまとめたくてウズウズしていた。閉鎖空間とまでは言えない今回の探索地も、さすがに1ヵ月近く留まれば疲労とストレスが溜まる。
残されたメンバーは、イグニス、ローランド、コーデリア、メイプルの4名だ。コーデリアがメンバーの顔を見て思う事があった。
(どうしよう、アルドリックとリリアがいない今、このパーティの常識人が私しかいない……)
常識人の中にローランドは含まれていなかった。何か興味のあるもの見つけた時、ローランドは場合によってはイグニスよりも手に負えなくなるからだ。
イグニスにはアルドリックが常に気を配っていたので、(若干のトラブルはあったが)大きなトラブルもなく今回の探索を進められている。ローランドに関しては、リリアが魔術を扱う者として常に隣にいたのでなんとかなっていた。
不安に駆られ、コーデリアはローランドに2人の戻りについて聞いてしまった。
「……ろ、ローランド、2人はどれくらいで戻ってくると思う?」
「ん? アルドリックとリリアですか? そうですね……負傷者を動けるようにしてから無理なく移動をさせるので……早くて明日くらいでしょうか?」
「(丸1日いないのか……)……わかった、私はメイプルが余計なことをしないように付くから、ローランドはイグニスをお願いね」
ローランドに若干の不安はあるが、気を付けてくれるだろうと踏んでお願いをする言い方をした。
「……お任せください、イグニスは私が付いています!」
「う、うん、お願いね」
ローランドは拳を胸に当て自信たっぷりに応えた。思った以上に単純なようだ。
「さあ! 探索を始めますよ! どんな小さな事でも見逃さないようしっかり見てくださいね!」
「お? ローランドのやる気がすごいね。俺も頑張ろうかなー」
「イグニス、頼みますから壊すのだけはやめてくださいね?」
早速イグニスに釘を刺し、『最果ての開拓者』の残されたメンバーは神殿の中へと入っていった。
――そこには歴史に埋もれた黒い功績が未だに眠っている事に、まだ誰も気付いていない――
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