第33話【幕間:聖騎士団ヘイズ大隊長】
レオナールは子供の頃からヘイズ家の長男として、守護者になるために教育を受けてきた。できて当たり前、できなかったら落ちこぼれ。そう当主と言う名の父から言われ続けていた。その幼心は傷つき、自尊心などなかった。
だが当たり前のようにやってきた事が、外の世界に出てみたら当たり前ではなかった。父が認めてくれなかった事が、こんなにも簡単に認められる。
今まで自分がいた世界はなんだったのか。
なんだ、外の世界はこんなにも簡単だったのか――
「ヘイズ大隊長! ご一緒してもよろしいでしょうか?」
昼食時、午前の訓練を終えた騎士たちが束の間の休息をとりに食堂に集まる。ここは聖騎士団、ヘイズ大隊長と呼ばれたレオナール・ヘイズが顔を上げる。声を掛けたのはレオナール率いるヘイズ隊の部下ラーク・セレスティアだ。
「あぁ、構わない」
「神妙な顔をされて、何かありましたか?」
「いや、何でもない……ん? また妹からの手紙か?」
食事を乗せたトレーと一緒に手には新聞と手紙が握られていた。
「はい! 妹はマメでして……最近冒険者ギルドの方で昇級試験を受けたそうで、やっとランクAになったと。それの報告でした!」
自分の事のように喜ぶラークと対照的にレオナールは少し憂いた表情をする。
「……仲が良いのだな」
「そりゃもう! 可愛い妹ですから! ……だから冒険者をやってるのが心配で……あ、でも本人が頑張ってる事なので応援はしますけどね!」
手紙を広げながら妹へ思いを馳せるラーク。
「そう言えば、ヘイズ大隊長は『リヴェリア』出身ですよね? 最近新聞にもありましたが『リヴェリア』の方で大きな動きがあったらしくて話題になってますよ。ご存知ですか?」
「『リヴェリア』で? 知らないな」
「なんでも、歴史的な発見があったらしくて。それも話題なのですが、その発見者が美人な女性冒険者2人らしいのですよ」
「……世間は平和だな、そんな事が話題になるなんて」
「でも本当に可愛いんですよ! こんなに可愛い人が冒険者にいるならその道に進んでもよかったかなぁって思ってしまうくらい。ほら、見てください!」
「……」
大して興味もなかったが、促されるまま渡された新聞を手に取る。そこには大見出しで『歴史的発見! アルカイアで未踏域!』とあった。
その下には現状のアルカイアの大まかな見取り図に未踏域と思われる場所に印がつけられたイラストが載っていた。さらに記事には発見者2人の顔と名前が載せられていた。
「……! エレノア……スターリング……っ!」
「あれ? ヘイズ大隊長はそちらの女性がお好みで?」
「あ……いや、そういう訳では……」
「エレノア・スターリングさんの事は妹の手紙で何回か読んでますよ。なんでも、秘宝探求家らしくて古代語もわかる才女らしいです」
「才女はわかるが……秘宝探求家……? なぜ冒険者に……? 彼女は商家のお嬢様では……」
「よくご存知で。スターリング商会なんですけど、数年前に会社が廃業したとか。一時期魔道具関連で流通量が減ると話題になりましたね。妹が治癒師なので他人事ではない話だったので……」
「知らなかったな……」
代々続く商会が廃業など、想像だにしなかった。
士官学校を卒業してから、父ベルナールから何度も手紙が届いたが全て読まずに捨てていた。もしかしたら、スターリング家の事も書いてあったかもしれない。と言うことは、テオドールはどうなってしまったのか。
「で、彼女自身も注目されるのですが、妹の手紙ではそのエレノアさんといつも一緒にいる守護者の男性にお熱らしくて……」
「守護者……?」
「背がとても高くカッコいい剣士らしくて、いつもギルドの柱の陰から見ていると……」
嫉妬から語気が強くなるラーク。それにレオナールは被せ気味に話す。
「……名前は」
「え?」
「その剣士の名前はわかるか?」
「えーと、確か……テオドール……ヘイズだったか……あれ? ヘイズって、ヘイズ大隊長の親戚ですか?」
「なんだお前、知らないのか? テオドール・ヘイズはヘイズ大隊長の弟さんだよ」
ラークの後ろから食事の乗ったトレーを持った、同じヘイズ隊のブライヤー・ホップスが声をかける。レオナールがいるのに気付くと、ブライヤーは姿勢を正す。
「ヘイズ大隊長、失礼します! 私もご一緒してもよろしいでしょうか?」
「構わないよ。……ブライヤー、テオドールを知っているのか?」
「失礼ながら、私ヘイズ大隊長の弟君と同期でルームメイトでしたのでよく存じております」
「ヘイズ大隊長の弟君!? 大変失礼しました! ……って、同期?」
先程まで世間話としてエレノアの守護者の事を言っていたが、まさか上司の弟だと思ってもみなかったので激しく動揺するラーク。
「気にするな、それで? 士官学校時代のテオドールはどうだったのだ?」
「はい、とても勤勉で真面目、剣技において右に出る者はいませんでした。私、演習で一度も勝てませんでした……当然首席で卒業をされました」
「首席卒業! さすがヘイズ大隊長の弟君! ……? でも、テオドールさんは聖騎士団にいませんよね?」
「卒業はしたんですけど……凄かったんですよ、バルクマン隊長やホークウッド大隊長から声がかかって。ですが、テオドールはスッキリした顔をして全て断ったんです。家業を継ぐからと」
優秀な卒業生は、聖騎士団に配属される前に各隊の隊長が声を掛ける事がある。首席となれば引く手数多となる。
バルクマンやホークウッドと呼ばれた騎士は、数々の功績を挙げた実力者。聖騎士団に所属する者で知らぬ人はいないほど有名だ。
「……首席で……有言実行したのか。それで選んだ道が守護者……」
「あー……そう言えば騎士団内で噂を聞きました。あのバルクマン隊長やホークウッド大隊長の勧誘を断ったすごい首席卒業生がいるって。あれって弟君だったんですね。ヘイズ大隊長、ご存知なかったのですか?」
思い出したようにラークは言った。当時はまだヘイズ隊は無く、レオナールと違う隊にラークは所属していたので、レオナールの動向は知らなかった。
「あぁ、4年前は西方の遠征に出ていた時期でな。ブライヤー、ありがとう。テオドールとは私が士官学校を卒業してから一度も会っていないのでその後を知らなかったのだ。そうか……」
レオナールの顔は懐かしむような、少し優しい表情をしていた。
「テオドールさんの現在はその女性冒険者の守護者……と言う事は、冒険者なんですね。士官学校首席卒業なんて、とんでもない冒険者でしょうね」
「……あのお嬢様の守護者はテオドール以外務まらないからな……今頃苦労してるだろうな」
思わぬ方向からテオドールとエレノアの、現在の様子を知ることができたレオナール。まさかスターリング商会が廃業しているとは思わなかったが、エレノアの元気な姿が新聞を通して見る事ができた。
(やはりお嬢様の隣は、テオドールが似合っていたな)
レオナールは在りし日のスターリング家の庭で遊んだ日々を思い出していた。3人で最後に遊んだ日から10年が経っていた。
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