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【第一部完】『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。【第二部準備中】  作者: ねこめがね
第1部 第1章 旅立ちと出逢い編

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第14話【食材狩人のアイリス】

「証拠は集まったけど、どうやってガストンからの嫌がらせをやめさせるんだ?」


 翌日の朝、マルドはため息を吐きながらヴェルセリアに投げかける。


「ここからは第三者を巻き込まないといけないわ」


 カウンター席で朝ご飯を食べながら次の手を考えるヴェルセリア。既に考えはまとまっているようで、マルドをチラリと見上げる。


「第三者?」


「ガストンの悪行を晒さないといけないから、ね。そしてマルド、貴方にも協力してもらうわよ」


「……え? 俺?」


 いきなりの指名に狼狽えるマルド、被害者自らどう関わればいいのか想像がついていない。


「まだ続けるのかよ……」


 足元ではザークが呆れた顔をして肉を貪っていた。


「当り前でしょう? これはある意味戦争よ! どちらかが倒れるまで終わらないわ」


 そう意気込んでいた時、裏口から小さな声でヴェルセリアが呼ばれた。


「ヴェルセリアさん、例の物、準備できましたよ」


「思ったより早かったわね」


 ヴェルセリアはカウンター席を立ちあがり、裏口の方に向かう。何かを受け取っているようだ。


「(また何かしようとしてるな……)」


 ザークは止めても無駄と半ば諦めのような表情をする。


「ふふ、これで材料は揃ったわ……ガストンの店に行くわよ」


***


「なに? 希少な食材だと?」


 『金王笏の館(セプター・パレス)』の社長室では、新聞を読みながらコーヒーを飲んでいるガストンがいた。


「なんでも、『シルヴァリア』から来た商人が持ち込んだものらしく……話をしたいと」


 秘書の男性が何か訝しげな表情を浮かべ、商人が売り込みに来たと話をしている。


「『シルヴァリア』だと……? エルフの住まう大陸の食材……確かにそれは珍しいな。話だけでも聞こうか」


 希少食材を使った料理を全面に出せば、また客を呼べると打算するガストン。下卑た笑いを浮かべ、社長室に商人を呼ぶ事になった。


「――お初にお目にかかります、食材狩人(フード・ハンター)のアイリス・ヴァレンタインと申します。本日は貴重なお時間を頂き、ありがとうございますわ」


 眼鏡越しでも美女だとわかるその女性は、エルフの特徴である長い耳に金の髪を横に流して三つ編みにし、パンツスーツを着こなしている。変装したヴェルセリアだ。昨夜とは違い、ブラウンのアイシャドウで清楚感を出し、ルージュもマットなヌーディーカラーに少しだけグロスで艶感を出している。


「ほう……わざわざ『シルヴァリア』から……。いやしかし、エルフは美しい方が多いのですねぇ」


「まぁ、お上手ですわ」


 控えめに、上品な笑みを浮かべる。


「しかし……なぜウチの店に?」


「こちらのお店『麗琥珀の食卓(アンバー・リュクス )』はそれはもう、モルガン氏とお客様の舌が肥えてらっしゃると聞きつけたからですわ。ぜひ『シルヴァリア』の希少な食材を扱って頂きたくて」


「なるほど……? 希少とは言うが、その味はどうなのかね?」


「百聞は一見に如かず……早速ですが、見て頂きたい食材はこちらですわ」


 持ち込んだ木箱から取り出したのは野菜や果物、肉、そして魚だった。


「こちらの食材はマジックバッグで運んでいますので、採れ立て新鮮ですわ」


「して、これは何というものだ?」


「こちらから、翡翠の甲殻《アヴァロン・ブロッコリー》、千年の誓い(エターナル・エルダ)、木漏れ日の影(アンブラ・ヴェイル)、銀嶺の洗礼(レイピア・サーモン)ですわ」


 一つずつ丁寧に説明をする。


 そこに並べられた物は、まるで鉱石のようにガチガチに硬い殻に覆われた緑黄色野菜の翡翠の甲殻《アヴァロン・ブロッコリー》、千年に一度だけ実をつけると言われる伝説の林檎を品種改良された千年の誓い(エターナル・エルダ)、光と影を操り、森に同化する幻の鹿の木漏れ日の影(アンブラ・ヴェイル)、ヒレが鋭利な剣のようになっている、非常に獰猛な魚の銀嶺の洗礼(レイピア・サーモン)だった。


「ほほう……なるほど……中央大陸(ラクリア)では見ない食材ですなぁ」


 ヴェルセリアは心の中でほくそ笑んでいた。そして改めてガストンに向き合いお願いをする。


「これらの食材を使用した料理を試食をして頂くことは可能でしょうか? できれば……VIPのお客様をゲストにお招きして」


「VIP客をゲストに? なぜだ?」


 一瞬ガストンの表情が強張る。だが、それは織り込み済みだ。


「モルガン氏を疑う訳ではありませんが……より多くの美食家の方に味わっていただきたいのです。食材をよく理解しているシェフも連れてきていますので、最高のコース料理をご堪能頂けると思いますよ」


「それは面白い……では今夜はどうだろうか?」


「えぇ、ぜひ。その際、厨房をお借りしたいのですが……」


 申し訳なさそうに、上目遣いでお願いをしてみる。


「……ごほん! 構わんよ。最高のコース料理とやらを食えるのならな」


「ありがとうございます。もう1つお願いなのですが……調理の際、人払いをして頂けませんか? 何分シェフが作っている姿を見られたくないと。彼は腕は確かなのですが……シャイでして」


「むぅ……」


「その代わり、最高のコース料理は保証致しますわ」


 今日一番の笑顔を見せ、トドメを刺しに行く。


「……わかった、今夜は貸し切りにしよう。厨房には立ち入らないよう従業員には伝えておこう」


「ありがとうございます。……では、また後程」


 上品な笑みを浮かべたヴェルセリアは、社長室を後にする。部屋に残ったガストンと秘書は、顔を見合わせる。


「今夜の『麗琥珀の食卓(アンバー・リュクス )』は夜営業無しだ、シェフ達に伝えてくれ」


「モルガン様……よろしいのですか? 得体のしれないエルフの言う事をそのまま……」


 いきなり現れた食材狩人(フード・ハンター)アイリス・ヴァレンタインと名乗る女性を疑う秘書、当然と言える。


「まぁ、エルフは皆美食家だと聞く。それが最高のコース料理と言うなら、期待しても良かろう。それに……」


「それに?」


「美しかったな、ヴァレンタイン嬢は」


 ガストンはため息混じりに呟いた。


「はぁ、あれはリップサービスではなかったのですか?」


「本心だよ。やはり秘書は女性の方が良かったか?」


「も、モルガン様!?」


「はっはっはっ! 冗談だ。さて、VIP客を招待せねばな」


***


「今夜決行するわよ」


 『跳ねる馬蹄亭(ギャロップ・イン)』に戻ったヴェルセリアは、マルドとオーウェン他4人を前に作戦会議を開いていた。


「マルドにはコース料理を作ってもらうわ。厨房を借りる約束はしたから、今から下準備に入ってちょうだい。いいわね?」


「こ、コース料理!? なんでそうなるんだ!?」


 マルドは思ってもいなかった事を言われ、思わずカウンターを思い切り叩く。


「第三者をガストンの店に招く口実よ。怪しまれないようにするには、お料理で釣らないと、ね。できないの?」


 ヴェルセリアは挑発的な目でマルドを見つめる。


「できなくはないが……」


「厨房は人払いをお願いしたわ。誰一人『麗琥珀の食卓(アンバー・リュクス )』の従業員はいないはずよ」


「わ、わかった。だが、俺が行ったらすぐにバレるんじゃ……」


「変装すれば大丈夫よ。そこは私に任せなさい」


 ヴェルセリアはウィンクをしながら自信たっぷりな笑顔を向ける。


「道具屋のオーウェンは手先は器用かしら?」


「え? 不器用ではないが……」


「それならマルドの補佐をしてちょうだい。1人だと大変だから、料理の盛り付けとかを手伝ってほしいわ」


 ヴェルセリアはできそうな事を指示出ししていく。


「わ、わかった」


「酒屋のヒューと宿屋のロイは給仕をしてちょうだい」


『えぇっ!!』


 ヒューとロイは同時に悲鳴のような声を上げ、物凄く嫌そうな顔をする。


「貴方達、なんでも協力するって言ったわよね? 人払いをお願いしたから給仕をやる人がいないのよ。やり方は教えるわ」


 腕を組み、圧を掛けるヴェルセリア。


「は、はい……」


「が、頑張ります……」


 小声で自信無さげに応えるヒューとロイ、ガストンとゲストに一番近い距離での作業になるので緊張からか顔が強張る。


「パン屋のブルーノは前菜のブルスケッタ用のパンを焼いてちょうだい」


「わ、わかった!」


 普段やっている事と変わらないブルーノが一番自信ある返事をした。


「古着屋のシモンは今夜来るVIP客は誰か調べられるかしら?」


 シモンに調査をお願いしたのは、街に関する情報に詳しいからだ。


「あ……ある程度の目星はついているので……そいつら全員の今夜の予定を確認してきます……」


 そう言うとシモンは足早に『跳ねる馬蹄亭(ギャロップ・イン)』を裏口から出て行った。テキパキと指示を飛ばすヴェルセリアの姿を、ザークは欠伸をしながら見ていた。


「(よくもまぁ、ここまで人の為にやるな)」


「私はこれからお抱え魔術師を探しに行くわ。帰ってきたら給仕の指導よ! 皆やる事はわかったわね? さぁ、反撃の開始よ!」


 ヴェルセリアのその姿は少し楽しそうであった。

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