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雑種と未来人の現代ダンジョン  作者: たろっぺ
第二章 クラン
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閑話 非異能者と

閑話 非異能者と




サイド なし




『回帰の日』以降、倒産する会社や、ホームレスが急増した。


 突如現れたダンジョンにより、各地で地価が暴落。ゲートの出現は場所を選ばず、地方の山奥から首都圏の人口密集地までどこにで発生しうる。


 封鎖所が建てられゲートが覆われたとしても、その周辺に人が住みたがらないのは当たり前であった。何なら、ゲートが現れた家の者は避難する必要がある。


 避難とは、それまでの生活を捨てるという事だ。そして、ゲートが現れるのは民家や路地裏だけではない。会社のオフィスや受付に出現する事もある。


 それでも、余力のある大企業等は移転する事が出来た。新しい土地に、新しいビルを建て、新しい物流ルートを確保する。あるいは、全てレンタルで済ませた会社も有ったかもしれない。なんせ、引っ越し先にまたゲートが出現する可能性もあるのだから。


 だが、余力のなかった個人や会社、親会社のしわ寄せを受けた中小企業等は違った。


 元々不況でどこも限界だった所に、これである。しかも、霊的災害により人的、物的な被害が発生。あくまで噂レベルだが海上での魔物の目撃情報も出回っており、燃料や資材は値上がりを続けている。


『魔石』や『霊薬』、『魔道具』という新しい存在が、止めとなった町工場や地方の会社に止めを刺したケースも少なくない。


 政府からの支援も限界があり、世界中で多くの失職者が出ている。


 それが、不満を生んだ。どうしてこんな事に、と。


 世界中に現れたダンジョン。そこから現れる魔物。そんなファンタジーな、見る者によっては夢溢れた現状に、地獄を見ている者達もいる。


 そして、そういう者を狙う輩は……世界がどの様に変わったとて、存在するものだ。



*     *     *



 某県某所。とある地方都市の一角。


 人通りの少ないその場所に、鉄筋コンクリートで作られた建物がある。


 門扉は錆びつき、看板もない。ここは、そうした世界の変化によって止めを刺された町工場であった。


『回帰の日』以前から不景気により各所から借金をし、その返済が出来ずに倒産してしまったのである。


 そして、工場の所有者は借金のカタに建物ごと土地を手放した。その相手が、世間一般から見て危険な存在だと知った上で。他に、道が残されてなかったゆえに。


 反社経由でブラックマーケットに流れたこの土地と建物を、とある組織が購入したのはほんの数日前。


 今はもう稼働していない工場の駐車場に、何台もの車が停まっている。数人が物陰に隠れて周囲を警戒し、他の者達が建物内に入っていった。


 大半の機械が撤去され、ガランとした内部。打ちっ放しのコンクリートの床に、10を超えるドラム缶が無造作に置かれている。


 車から降りて来た男達の内、リーダー格と思しき髭面の男が周囲に指示を出して、ドラム缶を開けていった。


 ベキベキと、強引に開かれていくドラム缶。その中に入っていた袋を、彼らは取り出していく。


 大量の乾燥材が入った袋を開ければ、そこから人の指程のサイズの、先端が尖った金属が出てきた。


「ヒュー……」


 比較的若い男が、口笛を吹く。髪の根本だけが黒い、プリン頭のその若者をリーダー格は一瞬だけ睨むも、特に何かを言う事はなかった。


 出て来た金属製の物体は、この国では珍しい物体。────弾丸である。


 そして、弾丸が有るという事は、当然それを発射する道具も有るという事だ。


 別のドラム缶から出した袋。大量のグリスが詰まったそれを開ければ、中から幾つかの部品が出てくる。


 廃工場に広がる臭いに、大半が思わずと言った様子でうめき声を上げた。


「お前達、よく聞け」


 妙な訛りのある声で、髭面の男が他の男達を見回す。


「事前に配った、この説明書、よく見ろ。そして、組め。まずは、グリスを拭きとる」


 アジア系らしき髭面の男の声に反応してか、グリスの臭いに何の反応もしなかった一部の男達がそれぞれ段ボールを持って来た。


 その中には、大量のタオルや古着が詰まっている。


 工場内の男達は、髭面の男も含めて軍手とマスクをし、部品からグリスを拭きとっていく。


「……めんどくせぇ」


 ドラム缶を開けた時に口笛を吹いた若者がぼそりと呟く。


 その隣で作業する、同じく20歳前後の若者が肩を震わせた。


「くく……ほんとそれな」


 同じ心境の、それも同年代がいた事に気を良くしたのか、プリン頭の若者が隣の若者に小声で話しかける。


「だよな。俺ら、銃が撃てるからって集まったのによ」


「ま、でも整備も含めて楽しみって言うぜ?」


「え、なにお前オタク?ミリオタってやつ?」


「別にそんなんじゃねぇよ。武器が好きなだけ。でも、油拭くとこからとは思わなかったわ」


「それなー」


 彼らを皮切りに、あちこちで小声ながら雑談が始まる。


 この場に集まった男達は、それなりに年代がばらけていた。しかし、彼らには共通点がある。


「これで沢山人ぶち殺してーわー。そんで死刑になる」


「警察に撃たれる方が早いかもしれねーぜ」


「それならそれでいいわ。てか、警察相手に無双してー」


 遊び感覚で人を殺めたかった者達。


 あるいは。


「これが……これがあれば、職場の奴らを……」


「政府のクズどもに一泡吹かせてやる……!」


「裏金で良い思いをしている奴らに、正義の鉄槌を……」


 今の社会に、不満を持っている者達。


 髭面の男や、その周囲にいる屈強な男達は何も言わない。騒ぎ過ぎれば注意するつもりの様だが、小声で喋る程度なら咎める気はない様だ。


 お世辞にも手際が良いとは言えない作業だったが、続けていればそのうち終わる。


 まだべたつきと汚れが残っている部品を幾つかの種類に分けた後、男達は流れ作業で組み立て始めた。


 髭面の男を中心とした男達がグリスを差し、少し面倒な工程を担当する。それ以外の男達は、事前に配られた説明書を見ながら部品を合わせていった。


 教養の低い人間が参加する事も想定してか、この説明書には絵で手順を説明する部分が多い。そういう意味では、良い説明書と言えよう。


 しかし、その出来の良い説明書は、悪意によって作られたものだ。


 男達の手によって、自動小銃が完成する。


 その数は、明らかにこの場にいる人数より多い。ソビエト連邦が作り上げた、世界で最も出回っている銃。『小さな大量破壊兵器』が、廃工場の床にずらりと並べられた。


「諸君」


 髭面の男が彼らの前に立ち、訛りのある日本語で語り始める。


「世界は今、大いなる危機に、直面している」


 つっかえる事はあるが、きちんとした発声。聞き取り易いその声に、集められた男達は自然と背筋を伸ばしていた。


「異能者。奴らは、人間ではない。この世の摂理に反した、動く死体なのだ。元々の人間の人格は、魂は、もうない」


 異様に強い意志の宿った瞳で、髭面の男は男達を見回す。


「なぜ、魔物は我らの目に映らないのか。それは、存在しないからだ。異能者の手によって作り出された、虚構だからだ」


 硬く拳を握り、彼は続けた。


「政治家達は、軟弱な精神ゆえに洗脳をされたか、あるいは奴らが生み出す利益に目がくらみ人類を裏切った。怪物の、異能者の手先となったのだ」


 段々と、髭面の男の声が大きくなり始める。


「諸君らは、犠牲者だ。本来享受するはずだった平穏を、利益を、奪われた。能力でも人格でもなく、異能者に都合が良いかどうかだけで、幸せな生活を奪われた」


 演説とでも呼ぶべき言葉を聞いていた男達の内、何人かが小さく頷く。


「この腐った世の中を、誰かが正さねばならない!その身命をとし、たとえ一時汚名にまみれる事となっても!未来の為に正義を為すのだ!天は、我らの献身を見てくださっている!必ず、報われる時がくるだろう!」


 大仰な手振りで、彼は言い放った。


「世界に知らしめるのだ!腐った者達に鉄槌を!『災禍』を持ってして、正義を為す!」


 高々と、髭面の男は拳を振り上げる。


「我ら『カラミティ』!指導者テキラ・ムースメイと共に、後世にて英雄として語られ、死後には楽園へと導かれる英雄となるのだ!」


「おおっ!」


 ややタイミングのずれた、しかし熱のこもった声が廃工場に響く。


 だが、近隣住民がそれを気にする事はない。なんせ、この廃工場の周りは空き家だらけだ。なにより、建物自体に防音設備が施されている。


それこそ、今から彼らがここで発砲したとしても、警察にすぐさま通報がいく事はない。


 髭面の男は彼らの答えを聞き、満足気に頷いた後。その瞳を鋭くした。


「では、今後の計画について説明する。幸い、異能者は自然交配以外では増えづらいと、同志からの報告がきている。だが、これ以上奴らを増やさない為にも、異能者の子供がいる学校を」



 ────ガシャン!



 彼の声が、突如として響き渡った金属音に遮られる。


 すぐさま男達が音のした方を見れば、建物の入り口にあるシャッターが閉められていた。


 横にスライドするタイプの、厚い金属で出来たシャッター。内部の明かりは、窓から入ってくる赤みがかった日の光のみであった。


「なんだ、これ!?」


「まさか罠……!」


「ちっ……!」


 動揺する男達の中で、髭面の男が舌打ちする。


 何人かがシャッターを開けようとするが、全くと言っていい程に動かない。まるで、何か強い力で押さえつけられている様だ。窓から脱出を試みる者もいたが、こちらもなぜか開かない。


それらを横目に、髭面の男と屈強な男達が弾の入ったマガジンを銃に装填していく。


「窓とシャッターから離れろ!武器をとれ!政府の犬が嗅ぎ付けてきたのだ!計画を前倒しにする!皆殺しだ!」


「おおっ!」


「ええ!?」


 歓声に近い返事と、悲鳴じみた驚きの声が髭面の男へと届く。


 それに答える暇はないと、彼と周囲の屈強な男達が次々と弾の込められた銃を『雑兵』へ押し付ける様に配った。


「使い方は説明書にあった通りだ!難しい事はない!敵が見えたら、撃て!」


 そう指示を出しながら、髭面の男が視線を工場の2階部分に向ける。


 2階は中央部分が吹き抜けになっており、壁に沿う様に幾らかの足場がある程度だ。そこで外を警戒する男が、髭面の男へ首を横に振った。


 工場の周り。そこに、動く者は一切いない。見張りをしていた、彼らの仲間達さえも。


 まるで、魔法の様な手際。いいや、実際に魔法が使われた可能性さえある。


 髭面の男は額に汗を浮かべながら、『雑兵』達に指示を出しつつ逃走ルートの選定を開始した。


 もとより、彼と他数人は生きて次の場所で兵隊を集める予定だ。日本で死ぬつもりはない。


 適当に集めた『雑兵』を盾に逃げようと、彼は工場の奥側へとゆっくり後退する。


 そちら側に、シャッターはない。分厚い鉄筋コンクリートの壁があり、人が隠れていない事は事前にしっかりと調べていた。


 まずは射線の通らない位置へと、音もなく男は歩く。


 だが、彼の口から意図しない声が漏れ出た。


『あっ……?』


 外国のイントネーションが混じった、驚きの声。そして、ぼたぼたという液体が地面に落ちる音。


 警戒心で過敏になっていた他の男達の耳にも、それは届く。慌てて振り返った彼らが目にしたのは。


「え、ああ……!?」


「ひぃ……!」


 胸にぽっかりと穴を開け、口から血を流す髭面の男だった。


『ぎ、が、ァァ……!?』


 痛みと喪失感に悲鳴を上げようとした髭面の男の首が、宙を舞った。一瞬だけ勢いよく血が傷口から噴き出す様は、スプリンクラーを彷彿とさせる。


 だが、すぐに男の体は前のめりに倒れると、傷口からゆっくりと赤い水たまりを広げる様になった。


「うっ……」


 集められた男達は、それを見ている他なかった。


「うわあああああああ!?」


 誰かが上げた悲鳴を皮切りに、パニックが全体に広がる。


 ある者はシャッターや窓に銃を乱射し、穴を開けようとした。しかしシャッターに銃弾は弾かれ、割れた窓から出ようとした者の首は何かによって切断されていく。


 ある者は武器をその場に捨て、うずくまって命乞いを始めた。どこかへ走って逃げようとした他の男が、それにつまずいてもつれる様に転ぶ。


 屈強な男達がどうにか統制をとろうとするも、それはすぐに悲鳴へと変わった。重厚な筋肉の鎧が瞬く間に紅く染まり、指示を出そうとした者から順番に手足を端から切り裂かれていく。


 それは、戦闘ですらない。一方的な、虐殺であった。


 はたして、髭面の男が死んでから何分が経ったであろうか。5分か、10分か。20分は経っていないだろう。


 いつの間にか、工場は随分と静かになっていた。


「はあ……はあ……くそ!なんだ!なんなんだよ!」


 プリン頭の若者が、自動小銃を手に柱を背とする。


 腰だめに銃を構えた姿は、誰が見ても素人であった。それでも、彼には縋るものがコレしかない。


 今や、工場内には先程拭っていたグリスの臭いを上回る、鉄の臭いが充満している。


 荒い息の彼の耳には、己の呼吸音しか聞こえなかった。もしや、自分達を襲った『何か』は去ったのではないかと、希望を抱く。


 だが、それはすぐに否定された。


 死体と共に転がっていた銃が、突如宙に浮く。


「ひっ……!?」


『何か』は、銃に興味を抱いた様子で、空中で自動小銃がクルクルと様々な方向に動いていく。


 そこへ、プリン頭の若者は自分の銃を構えた。


「死ねぇ、化け物ぉおお!」


 銃口から放たれる、無数の弾丸。反動に負けて狙いは滅茶苦茶であったが、下手な鉄砲も数撃てば当たる。


 何発かは、間違いなく不可視の存在がいる場所へと飛んでいった。


 だが、その全てが向こう側の壁に着弾する。間には何もなかったとでも言う様に、空気抵抗以外で減衰する事はなく、コンクリートにめり込んだ。


 あっという間に弾切れになった銃で、しかしプリン頭の若者は狂った様にトリガーを轢き続ける。


「くそっ!くそっ!くそっ!おい、警察!いるんだろ、外に!囲んでんだろ、なあ!自首するよ!だからおい!助けろよ!」


 プリン頭の若者が上げるその声に、応える者はいない。


 不可視の存在は弄り回していた銃を、彼へと向ける。


「なあ、おい……!降参、降参するから……!」


 武器を捨て、両手を上げた若者。


 だが。



 ────ガガガガガがガガガガッ!



 けたたましい銃声が響き渡り、同時に彼の体が衝撃で跳ねる。


 滅茶苦茶なダンスでも踊る様な動きで全身から血を噴き出した彼は、弾丸が尽きると共に地面へと崩れ落ちた。


 静寂が支配した、廃工場。だが、すぐに3つの音が聞こえてくる。


 1つ目は、咀嚼音。ボロボロになった男達の体が、見えない何かに噛み千切られて削れていった。


 2つ目は、金属音。拾い上げられた銃が、ガチャガチャと弄られる。偶に、暴発した弾が壁や天井にめり込んだ。


 そして、3つ目。


 ────ペラリ……ペラリ……。


 紙が、擦れる音。


『カラミティ』の構成員が、現地調達した兵隊に読ませる為に用意した武器の説明書。


 それが、工場のあちこちで捲られている。


『彼ら』に、字は読めない。少なくとも、現代の言語は。


 だが、字が読めなくとも分かる様に、丁寧に図が描いてある。『カラミティ』が、少年兵でも分かる程度にAIも使って仕上げていた。


 これら3つの音は、翌朝になるまで発せられ。


 最後まで鳴っていたのは、紙を捲る音であった。







読んで頂きありがとうございます。

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まずは、グリスを拭きとる そして塗る
>元々不況でどこも限界だった所に、これである。 他の作品でも示唆されてたけど、ダンジョンが自然発生なのか何某かの思惑の産物なのかはともかく 出現するだけで効果的に社会生活に損害を与えるとか厄介者ってレ…
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