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雑種と未来人の現代ダンジョン  作者: たろっぺ
第二章 クラン
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第三十七話 矢広耕太の日常

第三十七話 矢広耕太の日常




 僕の尊厳が削れた気がする打ち上げの、翌日。


 魔の月曜日がやってくる。


 自分にとって、死の危険が付きまとうダンジョンよりも、教室の方がよほど辛い場所であった。


 直接的な虐めがないだけ、マシだとは理解している。だが、この疎外感はいかんともし難い。


 あるいは、クラスメイト達も自分がいる事で不快感や恐怖を抱いているのだろうか。


 それとも、クラスメイト達は自分にそれ程の興味や関心は持っていないのだろうか。


 ……あんがい、後者な気がする。


 現在は、もう5月の中旬だ。


 恐がり続けるのだって、体力がいる。『いないもの』『関わらないもの』と決めた後は、それが習慣化して無関心となるものだ。


 現に、自分へ視線が向けられるのは、関東で起きている異能者による連続殺人鬼の話題や、その他の異能者が起こした事件の話題の時だけ。


 今こそ、自分から声をかけるべきなのかもしれない。だが、強く拒絶されるのが恐かった。


 この問題は、こちらにこそ非があるのかもしれない。そう思いながら、何か行動を起こす気にはなれなかった。


『慣れる』というのは、自分にも言える事で。こうして教室で1人過ごす時間が、もう習慣になってしまっている。


 そうして時間は過ぎていき、昼休みのチャイムが鳴った。


 途端に騒がしくなる教室。他のクラスや廊下からも、様々な声が聞こえてくる。


 すぐに席を立ち、教室を後にした。幸いな事に、安息の地を自分は得たのである。


 この学校は今でこそ少子化のあおりを受けて生徒数が減っているらしいが、昔はそれなりの生徒が在籍していたらしい。


 3階西側の、空き教室の更に奥。そこに、物置代わりに使われているスペースがある。


 1年の身で3階に行くのは少し緊張するが、特に他の学年の生徒と出会う事もなかった。


 おかげで、このパイプ椅子と木製の椅子がごっちゃに置かれた空間で、1人静かに過ごす事が出来る。


 軽くだけど掃除はしたので、それほど埃っぽくはない。放置されていた椅子の1つに腰かけ、弁当箱を開いた。


「いただきます」


 ……うん、美味しい。


 10分程で弁当を食べ終わり、弁当箱を閉じてスマホを取り出す。


 ソシャゲのデイリークエストも消化し、何となくネットニュースを冷やかしていると。


「ん?」


 何やら、変な団体が最近話題になっている事を知る。


 異能者保護団体『ヴァルハラ』。


 何でも、社会から排斥されやすい異能者を保護し、落ち着いた生活が出来る様に支援する団体らしい。


 団体の長や幹部も異能者であり、何やら笑顔の写真をやたら強調している。


 ……何というか、胡散臭い。


 そもそも安易に北欧神話から名前を持ってくる辺り、薄っぺらく感じる。そもそも、確かヴァルハラって────。



 死んだ戦士達が、()()()()とやらに備えて過ごす場所ではないか。



*    *     *



 時間は過ぎ、放課後。


 ホームルームが終わった途端、体が軽くなった様な感覚がする。


 アウェーとしか言えない教室を、少しだけ早歩きで出て、下駄箱へ。そのまま靴へと履き替えて、校門へと向かった。


 今日は喫茶店でこの前の探索の報告書を仕上げて、次の探索の相談だ。


 一応仕事の事なのに、教室で過ごす時間と比べると格段に気が楽である。あそこには、自分を恐がる人も、無視する人もいない。


 スキップでもしたい気分だが、流石にそれは目立つ。大股になってしまうのは、抑えきれなかったけど。


 そうして足早に進んでいると。


「耕太くーん!」


 突然、名前を呼ばれた。


 同じ名前の人が周囲にいるのかと思いつつ、反射的に振り返る。すると、ぴょこぴょこと動く赤とオレンジの中間の様な色の頭が視界に入った。


 少し視線を下げると、天真爛漫な笑顔を浮かべた猫耳の少女がいる。


「え、虎毬……さん?」


「はい、虎毬です!」


 こちらの前にきて、元気よく頷く虎毬さん。


 その仕草は、見た目年齢同様、何となく子供っぽい。


「今からお帰りですか?良かったら、一緒に帰りません?」


「え……なんで?」


「私、色んなお友達と帰りながら喋るのが好きなんです!今日は耕太君の気分なので、会いにきました!」


「は、はあ……」


「お友達をとっかえひっかえとは……私はやはり、罪な女なのですね……」


 何やらニヒルに笑っているが、罪な女を名乗るには発言も行動もだいぶ幼稚である。


 ……やはり、この人は公安と無関係なのでは?


 遠海虎毬さん。同姓同名同種族の異能者が未来で英雄の1人として語られているらしいが、およそ同一人物とは思えない。


 あるいは、これから数年後に公安へ入るのか?


「おや、どうしたのですか耕太君。はっ!?もしや私から溢れ出る大人の色気に当てられて?」


「あはは……な、ナイスジョーク」


「は?」


「え?」


 一瞬真顔になった虎毬さんに、思わずたじろぐ。


 え、冗談じゃなかったの?というか目ぇこわっ!


 彼女の変化は文字通り『瞬く間』の出来事であったのだが、魔眼の影響で自分は目が良い。ハッキリと、絶対零度の視線を浴びる事となった。


「……良いですか、耕太君」


「はい」


「人の魅力とは、それぞれなのです」


「はい」


「私にだって、年相応の……そう、『年相応』の色気があるんです。OK?」


「お、おーけー……」


「ならばよろしい!さあ、お喋りしながら帰りましょう!」


「えぇ……」


 強引に押し切られてしまった。


 大人の色気とは程遠い見た目の事を、気にしていたのだろうか。いや、でもあそこで頷く選択肢はないだろう。高く見積もっても中1にしか見えないし。


 虎毬さんから『色気』というものを感じたら、正直だいぶ危ないと思う。人として。


「どうしたのですか、耕太君。お腹痛いんですか?」


「いえ……」


 強いて言うのなら、校門近くで幼女にしか見えない虎毬さんと喋っている事で、変に注目を浴びているのが辛い。


 一刻も早く移動するしかないと、歩き出す。


「さあ、お喋りしましょう!お友達と話しながら帰宅とか、青春ですからね!」


「はあ……」


「とりあえず、そうですね……最近学校はどうですか、耕太君!」


「話題チョイスがお父さん……?」


 そのまま、色々と質問されながら帰る事になった。



「クラスの人達とあんまり上手くいっていないんですか?」


「ほうほう、冒険者活動の方は順調なんですね」


「わーお。中々個性的なクランの人達ですね!」


「ご家族は冒険者をやっている事、心配とかしていません?」


「私の家族ですか?両親と3人暮らしです!え、兄弟?んー。私は一人っ子ですねー。でも、弟や妹は欲しかったかもしれません」


「耕太君、将来の夢とかありますか?私はですねー、平和を守る警察官です!」



 彼女の口はマシンガンかと疑う程、それはもう次々と言葉を吐き出してきた。


 だがまあ……何だかんだ、途中から自分も結構喋る事が出来ていた気がする。虎毬さんはああ見えて聞き上手な面もある様で、かなり話しやすかった。


 まあ、一番は彼女がこちらに対し、変な眼を向けてこない事が理由だけれども。


「おっと、私の家こっちですね」


 丁字路に差し掛かり、自分が左側に曲がろうとした瞬間、彼女は右側を指さした。


「あ、じゃあここまでで……一応、家まで送る?」


「おや?耕太君も私がレディである事を理解したようですね。しかし、心配無用です!私も実は冒険者ですから。その辺の暴漢には負けません!あ、所属クランはもちろん、『例のあそこ』じゃありませんよ?」


「そっか……じゃあ、さようなら」


「はい!また今度!」


 元気よくぶんぶんと手を振る虎毬さんに軽く手を振り返した後、左へ曲がる。


 しかし、学校の友達と一緒に帰ったのはいつぶりだろうか。中学ぶりである事は、確実である。


 友達……友達か。



 はたして、彼女は友達と呼んで良いのだろうか。



 正直、虎毬さんの『実年齢』に対して、疑いはある。


 異能者の外見年齢なんて、当てにはならない。もしかしたら、本当に公安で、何らかの理由でうちの高校に潜入でもしているのではないか。


 その目的は分からない。この辺で何か重要なモノといったら……小鳥遊さんの『ケニング』くらいだろう。


 もしかして、それについて調べに来たのだろうか?その為に、自分へ接触している?


 ……疑心暗鬼かもしれない。


 あの無邪気な笑顔を疑うのは、罪悪感がある。単に彼女の演技が上手いのか、それとも自分が愚かなのか。


 その答えは、現状でない。しかし、頭の片隅には留めておこう。


 虎毬さんの意図は分からないが、楽しい下校時間であったのは事実だ。今は、その事を感謝し、親愛の心を持つべきだろう。


 そのうち、こちらから冗談まじりに『貴女は公安ですか?』とでも聞いてみようか。


 ふざけて答えられるのか、それとも引かれるのか。あるいは……。


 何にせよ、敵対はしたくないものである。政府に魔物の手があるかも、と小鳥遊さんから聞いているのだ。彼女の上司が実は魔物か何かになっている可能性もある。迂闊な事は避けたい。


 それに、公安云々を抜きにしても、あちらは隣のクラスの人気者だ。社会的に抹殺されたくない。虎毬さんが『この人変態です!』とこちらを指さしたら、その瞬間死ぬ。マジで。


 というか、そんな人と一緒に歩いて帰って、明日クラスで何か言われないか心配になってきた。大丈夫かな、色々……。


 若干の不安を抱えながら、家へと歩く。


 取りあえず、家で着替えを済ませて、さっさと喫茶店へ向かうとしよう。



 学校での事を考えるより、ダンジョンでの事を考える方が、心が楽なのだから。





読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。励みになっております。創作の励みになっておりますので、どうか今後ともよろしくお願いいたします。


以下、本編にあまり関係ない情報。


Q.耕太の煩悩とか視線って、普通の男子高校生超えてない?クラスでの孤立ってそれ原因だったりしない?

A.実は彼、クラスとかではそういう視線を一切しない系男子です。

 教室を『アウェー』として認識して、萎縮していますからね。

 その反動もあって、クランの関係者や場所ではかなり気を抜いています。あと、鬼の血で若干3大欲求が上がっているのもありますね。

 ついでに、自宅でテレビやスマホの画面越しに何かを見る時には気を抜いているかも?


Q.例のあそこ呼ばわりされるクランって、いったい……。

A.オイオイネー。


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― 新着の感想 ―
>異能者保護団体『ヴァルハラ』 でたわね。企業、宗教と並んで良からぬ何かをやらかすトップ3の一角。 ・・・もしかしたら真っ当な可能性もあるけれども主人公が怪しんでいる時点でもうね。 >……やはり、こ…
ヴァルハラからとても強くワタミ臭を感じるのですが?w
耕太よ、虎鞠ちゃんの様子をなんとかして録画するのです。 然るのちに彼女に見せるのです。 具体的には100話くらい後に。
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