第三十三話 色物カルテット
第三十三話 色物カルテット
「ヘイヘ~イ!どうした少年少女~!元気ナイゾ~?もっとテンション上げてこうぜ!ウェ~イ!」
両手の人差し指をこちらに向けながら、璃子先輩が『バチコーン☆』とウインクをしてくる。
シンプルにうざい。
「いや……そもそも、何で璃子先輩がここにいるんですか?呼んでいませんが……」
「あーしを仲間外れとか水くさいじゃ~ん。あーしら……ズッ友だろ?」
「うっぜ」
「とうとう内心を隠さなくなったなオタク君」
「我々は友人だったのですか?」
「Oh……美由っちの何気ない一言に傷つくぜ……」
「……ちなみに、その、小鳥遊さんと僕は友達だよね?」
「……?矢広さんがそう思ってくださるのなら、私は嬉しいです。友達ですね」
「しゃぁっ!」
全力でガッツポーズを決める。
僕にだって、友達がいるのだ。こんなに嬉しい事はない。
自棄になってライカンスロープの集団へ斬りかかった時と同じぐらい、体が軽くなる。
もう、何も恐くない……!
「矢広さんはどうしたのですか……?」
「きっと、どうもしなかったんだよ……主に学校で」
「はあ……?」
「つうかそんな喜ぶのなら、あーしともお友達だって認めようぜオタク君!ギャルとオタクはマブだぜマブ!」
「あ、はい。どうも。よろしくお願いします」
「かるぅい!?だが許す!」
何故だろう。なんか、璃子先輩に関しては喜んだら負け感が凄い。
でも内心ではとても嬉しかった。見たか、どこかへ行ってしまった中学時代の友人達よ。僕だって、新しく友達が出来たぞ……!
教室ではボッチだけど!
「まあ、真面目な話さ。ロッソんが敵か味方か、まだ2人は警戒してんでしょ?」
璃子先輩が、片足に重心をかけながら目を鋭くする。
「あーし的には良い人に見えたけど、そんでもまだ確定ってわけじゃないのなら……ダンジョンでは、『こっち側』の戦力が大いに越した事はないっしょ」
「……そうですね」
確かに、ダンジョン内は電波も届かない場所だ。『万が一』を起こす場合、これ程打って付けのシチュエーションはないだろう。
だが、まあ。
「いや、警戒はほとんど解いているんですけどね?」
「はい。少なくとも、未来で語られている様な人物ではないと考えています」
「あっるぇー?」
真剣な顔から一転、璃子先輩が眉を『八』の字にした。
「マ?え、じゃあ何で突然オタク君はロッソんをダンジョンに誘ったん?ナンパ?」
「違います。警戒はほとんど解いていますけど、それでもどういう異能を持っているかぐらいは、直に見て把握しておきたかっただけです。それと、人柄も」
「あー、そういう?」
「というか、マスターにはもうその旨をお伝えしたのですが」
「……備えあれば嬉しいなだぜ、オタク君!」
「あ、はい」
勢いで誤魔化す璃子先輩に、頷いておく。まあ、戦力が大いに越した事はないし。
バカなやり取りもその辺にして、封鎖所へと歩き出す。数分程して、飾り気のないコンクリートが剥き出しの建物が見えて来た。
そして、その駐車スペースに1台のバイクと、ハープを手にしたロッソさんがいる。
「ふっ……」
何やらニヒルな笑みを浮かべているが、特に演奏する様子はない。本当にただ持っているだけだ。
ここが人通りの多い場所ではない事を、心から感謝しつつ話しかける。
「こんにちは。お待たせしてすみません、ロッソさん」
「ふっ、構わんぞ、若き鬼よ。定刻より吾輩が早く着いたに過ぎん。どうやら、血湧き肉躍る戦の気配が、この身を呼び寄せた様だ……」
「FOOO!格好いいぜロッソん!今日はよろしく頼むぜい!」
「ぴぇ……な、なぜ貴様がここにいる……!」
「何か勝手についてきました」
「あーしの事は気にしナイトプール!パシャパシャ!仲良くトゥギャザーしようぜ!」
無駄にハイテンションな璃子先輩に、ロッソんが頬を引きつらせる。
「ぎゃ、ギャルがなんで……うう……!ま、負けるな私……!私は無敵の吸血鬼……!」
いや、この人言う程ギャルではないと思う。発言もギャル語というより、ほぼ親父ギャグの類だし。
まあ、本物のギャルとか知らんのだけど。関わったら高確率で死ぬし。心が。
「そういうわけですので……4人ででも、大丈夫ですか?」
「……良かろう。いずれ超えねばならぬ壁だ。吾輩の闇が、こやつの光を塗りつぶす時である……!」
「え~?あーしロッソんに塗り替えられんの?情熱的な告白あざます!でもすまぬ。あーしはノーマルなのだ。百合展開は非対応なんだよね」
「吾輩だってそっちのケはないわ!」
くわっと目と口を見開くロッソさんに、唐突に璃子先輩が真顔になる。
「あ、そう言えば聞き忘れていたんですけど、ため口でも大丈夫ですか?年上との事でしたが」
「え、いや、別に……」
「そうなん?マジセンキュー!これからもよろしくね、ロッソん!」
「え、ええ……?」
困惑するロッソさんが、助けを求める様にこちらを見て来た。
それに対し、無言で首を横に振る。すみません、我々にはどうする事も出来ないのです。
なおも口パクで『ヘルプ』と告げてくる彼女に、璃子先輩がずい、と顔を近づけた。
「時にロッソん」
「うぇ、な、なんだ。吾輩に何か尋ねない事でも?」
「君は─── オ タ ク ち ゃ ん か な ? 」
璃子先輩の目は、まるで獲物を見つけた肉食獣の様であった。
「ぴぇ……!?」
ハープをしまおうとしていたロッソさんが、か細い悲鳴を上げる。白い肌が益々白くなり、もはや青いと言った方が正しいかもしれない。
流石にまずいと、2人の間に割って入る。
「璃子先輩、ストップ。ストップです。ロッソさんが困っています」
「おいおい、オタク君ってば嫉妬かな?安心して良いんだよ。あーしは、オタク君にもオタクちゃんにも平等に優しいんだぜ……!」
「もうそれで良いので。あの、ロッソさん。大丈夫ですか?」
「こ、恐かった……!深淵だ……!深淵がこちらを覗き込んできた……!」
「……まあ、その。悪い人ではないので。変人ですけど」
ガタガタと震えるロッソさんを宥め、璃子先輩に距離を取らせる。
この人はオタクに優しいギャルではない。オタクに優しいギャルになる事に執着する、そういうタイプの変態だ。
日本の法律が追い付いていない今、彼女をどうする事も出来ない。
……法律でどうにか出来ない変人多いな、うちのクラン。
「取りあえず、ダンジョンに入りましょう。いつまでもここにいても、仕方ないですし」
「OK!クラン『アルフ』ギャル&オタクチーム、出陣じゃい!」
「貴女はギャルではない」
「そう言っていられるのも今の内だぜ、オタク君」
ちょっと目がマジの璃子先輩を無視し、封鎖所に入る。流石にこれ以上付き合ってられん。
受付にいる職員さんが、チラリとこちらを見る。その後、綺麗に二度見してきた。
気持ちは分かる。中身は兎も角、後ろの3人は紛れもなくスタイル抜群の美女達なのだから。
ぱっと見はギャルっぽい、褐色美少女な璃子先輩。どこがとは言わないが、大きなものをお餅……もといお持ちである。
そしてロッソさんも、今日は赤ベースに黒のゴスロリという奇抜な格好だが、それが良く似合う金髪美女だ。そしてどこがとは言わないが大きい。
最後に黒髪ロングのクール美少女……に見える小鳥遊さん。他2人も大きいのに、それらを圧倒するサイズである。どこがとは言わないが。
それと一緒にいるのだし、もしかしたら自分に敵意の1つも向けられるかもしれない。中身を知っていると、理不尽に思えてくるが。そもそも、今日は仕事で来ているのだし。
3人と別れ、更衣室に。手早く着替えを済ませれば、珍しくまだ小鳥遊さんは出て来ていなかった。
トイレに行った後、更衣室の前に戻るがやはりまだ3人は出て来ていない。
暇を持て余し、封鎖所の掲示板へと視線を向ける。
地方の間引き要請が、幾つも張り出されていた。異能者の数は足らず、世間からの理解も薄いが……それでも、都会に密集するのは変わらない。
要請……というより、依頼と言った方が正しいだろう。依頼した地域から、『こころづけ』が出るらしいので。それが商品券であったり、米や肉などの現物かは様々らしいが。
田舎程、ダンジョンへの対応が十分ではないのだろう。この辺りも、あまり他人事とは言えないが。それでも『アルフ』ともう1つがあるだけ、マシなのだろう。
まあ、もう1つの方は自治体からの『こころづけ』が出る依頼を受けまくっているそうだが。
次に、警察のポスターが視界に入る。
異能を使った犯罪に対する注意喚起や、異能者を警察に勧誘する様な内容が見て取れた。
異能者の犯罪者を捕まえるのは、非常に大変だと聞く。関東で起きている連続殺人も、未だ解決していないとか。
一応、犯人の姿は防犯カメラに映っていたし、指紋も採取されて顔も名前も公表されている。
だが、それでも捕まっていないのだ。
どうも空間魔法の使い手らしく、『転移』で警察から逃げ回っているらしい。それと平行して犯行を重ねているものだから、世間の警察と異能者へのバッシングは日に日に増している。
ここへ来る前にテレビで見たが、国会の前では反異能者のデモが行われていた。デモに参加した人達は揃って布マスクや仮面で顔を隠していたのが、印象に残っている。何でも、身元がバレて異能者に襲撃されない為に、そうしているらしい。
彼らは異能者を国、あるいは国連で『病人兼軍人』として管理すべきと主張していた。病人扱いの癖に戦わせる気なのか、とか。そもそも日本に在日米軍以外で軍人という職業はねぇよ、とか。テレビの前でツッコミを入れたものである。
そんな事を考えていると、女子更衣室の扉が開いた。
「お待たせー、オタク君。ちょっとガールズトークに華が咲いちまったぜ!」
元気よく出てくる璃子先輩に続き、若干疲れた顔の小鳥遊さんとロッソさんが出て来た。
なんか、だいたい何が起きたか察せられる。
「はあ……いえ、別に待ってはいないです」
「お、良いぞオタク君。定番の台詞は、皆が大好きだから定番なんだぜ☆」
そう言ってふざける璃子先輩だが、装いはきちんと冒険者らしい。飾り気のないツナギに、小さめのリュックと、対霊庁で指定された通りの恰好だ。
「ではいざゆかん!冒険のフィールドへ!」
「ふっ……とうとう、吾輩の力を見せる時だ!」
「あの、すみません、2人とももう少し静かにお願いします」
仮にも先輩を自称している奴と、20代の人物を注意しながら受け付けを通って奥へ向かう。
金属製の扉が背後で閉じるのを感じ、『霊装』を展開した。
籠手や胸当を軽く叩いて確認した後、3人の方へ視線を向ける。
璃子先輩の『霊装』は、和服を改造した様な恰好だった。
上半身は袖のない白い着物の上から、黒いケープを羽織っている。下は黒いミニスカートで、すらりとした美脚が露出していた。踝から先には白い足袋と、厚底の下駄が履かれている。
指抜きの手袋が嵌められた彼女の両手には、それぞれ黒と紫で彩られた扇子が握られていた。
ロッソさんの『霊装』は、当然ながらあの日見たのと同じ。
深紅のマントに、体のラインが浮き出る黒い上着。灰色のパニエに、ヒールつきのブーツ。
彼女の長い手足や豊満な胸がよく映える装い。だがその手には、恐ろしい得物が握られている。
身の丈を超える、大鎌。その刃は柄と同じ向きに向かって伸びており、海外にて草刈りに使う物と似た形状をしていた。
だが、分厚く幅広のその穂先は、明らかに雑草を刈るのに適していないのは明白である。肉も骨も断つ事を想定した、命を奪う為の武器に他ならない。
赤く刺々しい装飾が施されている事もあり、非常に存在感のある得物であった。
2人とも、その美貌も相まってどこか神秘的な雰囲気さえ纏っている。
まるで、物語から跳び出してきた様だった。
「ふふ~ん。どうよあーしの『霊装』は……って、美由っちエッロ過ぎ!?」
「ふっ……いつ見ても、吾輩の『霊装は』美し……やはりエッチパイスー!」
色々と台無しである。
まあ、小鳥遊さんの『霊装』がスケベなのは認めるが。とても視線のやり場に困る。
「……?肌の露出は、矢広さんに次いで少ないと思いますが」
「ボディライン!ボディラインがやばいって!」
「服!服を上から着た方が良いと思うぞ、吾輩!」
「魔力を帯びた服を持っていません。魔物相手に防御力を期待する事は出来ないかと。また、『霊装』の強度は岩や木に擦れた程度で破けるものではありません」
「そういう問題じゃねぇ!?」
「恥じらいは……恥じらいはないのか……!?」
何だろうね、この空気。
ちょっと遠い目をしながら、そっと3人に背を向けた。
数分後、小鳥遊さんへの説得が無意味だと諦めた璃子先輩達と共に。
4人パーティーによるダンジョン探索が、始まった。
読んで頂きありがとうございます。
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