第二十七話 急接近
第二十七話 急接近
マスター達の協力を得られた、翌日。
いつも通り学校へ行き、いつも通り真面目に授業を受け、いつも通りクラスメイト達とはまともに会話出来ずに過ごす。
既に5月だ。とっくに教室内でグループ分けが終わっている。そこに入っていくのは、かなり勇気のいる事だった。
それでも、偶に声をかけようとはしている。うちのクラスにだって、ゲームや漫画が好きそうな男子は自分以外にもいるのだから。
しかし、露骨に避けられるし、話題を早々に切り上げて逃げられる。
今日もまた自分の席でスマホを眺める時間が続くが、まだやらなければならない事があった。
隣のクラスの異能者、遠海さんである。
彼女のお姉さんか、あるいは従姉妹が公安の遠海虎毬さんである可能性があるのだ。
どうにか、接触して確かめたい。出来るのなら、虎毬さんと会わせてもらいたいとも思っている。
が、隣のクラスに、見知らぬ女子を訪ねに行くのは……あまりにも、ハードルが高い。
何か良い策はないだろうか。それっぽい口実があれば、会いに行きやすいのだけど……。
妙案が出ないまま時間は過ぎていき、昼休みに。
取りあえず、今日も1人でいても問題ない場所を探しにいこう。そこで、ゆっくり考えれば何か案が浮かぶかもしれない。
逃避であると自覚しながら、席を立とうとした時だった。
「え、矢広君に用事……?」
自分の名前が聞こえて、声のした方向に顔を向ける。
「はい!どなたが矢広君なのか、教えてくれますか?」
教室の入り口に、明るい髪色の猫耳をした少女が立っていた。
遠海さんである。
ざわり、と。教室がどよめいた。
「えっと……」
気まずそうに入り口近くの女子生徒が、こちらを見て来た。しかし視線が合うと、すぐに逸らされる。
「あの人がそうなんですね?ありがとうございます!」
「あ、ちょっ!」
女子生徒にペコリと一礼した後、制止を無視して遠海さんがこちらへスタスタと歩いてくる。
え、なに?なんなの?
ニコニコと天真爛漫な笑みを浮かべる彼女に、背中からどばりと汗が出た。
こんな事態は予想外である。いや、待て。冷静に考えたら、そうおかしな話でもない……のか?
「初めまして!貴方も、私と同じ異能者って聞いたんですけど……合っていますか?」
「……はい」
異能者は、数が少ない。
同じ学校、それも同じ学年に自分以外の異能者がいるのなら、会ってみたいと思う人もいるだろう。
それだけの理由で、隣のクラスの異性へ会いに行けるこの人のコミュ力には驚嘆する他ないが。
……え、むしろ僕のコミュ力が低すぎる可能性あったりする?
「良かったぁ!私、遠海虎毬って言います!貴方は、矢広君……で良いんでしたっけ?」
「あ、うん。はい。矢広耕太……です」
いけない。今は、彼女に集中しなくては。
……待った。
「え、名前……」
「はい?あ、珍しいですよね!『こまり』って。虎に毬って書いて、『こまり』って読むんです!両親が虎みたいに強くて、毬みたいに可愛く育ってほしいって、つけてくれたんです!」
腰に手を当てて、むんと、胸を張る遠海さん。
その名前は、小鳥遊さんから聞いた『英雄』のものと同じだった。
どういう事だ?この人が例の公安?だが、どう見ても未成年だ。いや、異能者に見た目年齢なんて適応されない。
異能を使って、姿を変えている?だがその可能性を考えるのなら、そもそも名前の種族も偽装であり、本物の遠海虎毬さんが別にいるのでは……。
「矢広君?どうしたんですか?」
「あ、いや。なんでもない、です」
こちらを覗き込んできた遠海さんに、慌てて首を横に振る。
というか、この人妙に距離が近い。
「矢広君って、もしかして私と同じ亜人ですか?何だか耳の形が少しだけ他の人とは違いますね」
「うん。まあ、一応。エルフのクオーターで、鬼人のクオーターでもあるから……」
「おお!珍しいですね!ちょっとお耳を触っても良いですか?」
「えっ!?あ、はい……どうぞ?」
わけも分からず、咄嗟に頷いてしまう。
しかし撤回も出来ずにいると、遠海さんの小さな手がこちらの耳に触れてきた。
「ふむふむ。先端がほんのちょっと尖っているんですね。近くで見ないと、分からなかったです」
「そう、ですか」
どうにも恥ずかしい。
耳に感じる柔らかく、温かい手。この人、少し体温が高いのだろうか?
他人に耳を触られたのなんて、いつぶりやら。それこそ、小さい頃親に耳かきをしてもらった以来かもしれない。
自分の頬が赤くなるのを自覚する。遠海さんからは、シャンプーの香りに混ざって、ほんのりと乳の香りがする気がした。
「ありがとうございました!」
耳から遠海さんの手が離れ、ほっと胸をなでおろす。
「他の亜人さんの耳に触ったのは初めてです。あ、お礼になるか分かりませんが、私の耳も触りますか?」
「えっ」
こちらに顔を近づけて、ピコピコと猫耳を動かす遠海さん。
ニッコリと、邪気のない笑みを彼女は浮かべている。
「クラスの女の子達に、ふわふわで気持ちいいって評判なのです!」
「あ、いえ……遠慮します」
流石に、女子の耳に触るのはハードルが高すぎる。
椅子に座ったままだが、遠海さんから少し距離を取った。
「そうですか?」
無意味に緊張する自分とは違い、遠海さんはコテンと首を傾げるだけだった。
何というか、見た目だけでなく中身まで子供っぽいというか、無警戒というか。
「触りたくなったらいつでも言ってくださいね!同じ異能者のよしみです!」
「は、はあ」
「あ、連絡先交換しませんか?折角だし、お友達になりましょう!」
「……はい」
高校に入学して、初めての友達。
念願の、というべきなのだろうが、唐突過ぎて頭がついてこない。
言われるがままスマホを取り出し、連絡先を交換する。
「えへへ……またお友達が増えました!私、ここへ転校してきて良かったです!」
スマホを胸に抱いて、嬉しそうに笑う遠海さん。
その笑顔が、自分には眩しかった。
これが……陽キャと陰キャの差……!?
まるで日光に照らされた吸血鬼の様な心境である。とっても逃げ出したい。
「あ、すみません!私、クラスのお友達を待たせているんでした!また、一緒にお話ししましょう、耕太君!あ、名前で呼んで良いですか?」
「あ、はい」
「良かった!私の事も、虎毬って呼んでくださいね!」
スマホをポケットにしまい、遠海さんがペコリとお辞儀してくる。
そして、すぐに顔を上げて。
「これからよろしくお願いしますね、耕太君!」
「……こちらこそ、よろしくお願いします」
終始圧倒されたまま、遠海さん……いや。あえて虎毬さんと呼ぼう。虎毬さんとのファーストコンタクトは、終了した。
恐いもの知らずという様子の彼女が、こちらのクラスメイト達にもにこやかに会釈しながら教室を出ていった。
まるで台風が過ぎ去った後の様に、教室に静寂が訪れる。
その数秒後、各々が好き勝手に会話を再開する中で、ふと思った。
結局、『公安の遠海虎毬さん』の事、なんも分からんかったな、と。
* * *
「彼女の名前も、『虎毬』だったのですか?」
「うん」
バスに揺られながら、小鳥遊さんに今日あった事を伝える。
「……まったくの別人、なのでしょうか」
「さあ。同姓同名の別の異能者なのか、本人か彼女が相手の名前を使っているのか、それとも例の絵が間違っているのか。さっぱり分からない」
自分で言っておいて何だが、1つ目の可能性はないだろう。ただでさえ異能者は少ないのに、同姓同名で種族も同じなんて、どんな確率だ。
かといって、2つ目の可能性は意味不明過ぎる。他人の名前を騙るにしても、『虎毬』なんて特徴的な名前はあまり使わないのではなかろうか。いや、スパイとかに詳しくないから、何か理由があるのかもしれないけど。
個人的に、一番現実的なのは3つ目の可能性である。
歴史上の人物が、後世に伝わる過程で間違った容姿で語られてしまう事は珍しくない。
そもそも、小鳥遊さんの世界とこちらの世界は違う。並行世界ゆえに、容姿が最初から異なるのではなかろうか。
「何にせよ、今結論を出すのは早計かな……」
3つ目の可能性も、あくまで『現実的』というだけだ。
あの天真爛漫な少女が、公安だとは思えない。……と、感じる事自体が公安らしい手法なのかもしれないが、それを言い出すとキリがなくなる。
公安なんだから演技は上手いだろうし、異能者なんだから不思議な力で肉体年齢を操っている可能性もあるが、結局は可能性に過ぎない。
「そうですね。幸い連絡先の交換は成功したのですし、ここから交友を深めていけばおのずと答えも見えてきます」
「…………」
「矢広さん?」
沈黙した自分に、小鳥遊さんが不思議そうな顔で見てくる。
「いや、あの」
「はい」
「……交友を深めろとは、どうやって?」
「えっ」
小鳥遊さんが、ポカンと口を開ける。
いや、しょうがないねん。こちとら高校生活ずっと灰色やぞ。そろそろブラックになる状態やねん。黒歴史やぞ黒歴史。『†孤高†』ルート一直線なんですよマジで。
自分は、璃子先輩やマスター、そして虎毬さんの様なコミュ強ではないのだ。
僕は……弱い……!!
「……矢広さん」
「うん……」
「頑張ってください」
「はい……」
有無を言わさぬ目で、小鳥遊さんが見てくる。
ふふ。辛い……。
だが、これでも中学の途中までは普通に友達がいたのだ。メールでのやり取りなら、意外と何とかなるかもしれない。
頑張れ、矢広耕太。負けるな、矢広耕太。
明るい未来の為に、何やかんやを何やかんやするのである!
……ビックリするぐらい具体性がねぇ!
それにまあ、もしかしたら遠海さんを切っ掛けに青色の青春を送れる様になるかもしれない。
いいや、もしかしたら素敵な出会いをして、桃色の青春を送れる可能性も……!
「頑張るよ、小鳥遊さん……!」
「はい。その意気です、矢広さん」
決意を固める自分に、小鳥遊さんがグッと拳を握る。
その際に、彼女の爆乳が腕に押されて少し形を変えた。やっぱでけぇ。
……できれば、きたる桃色の青春では小鳥遊さんぐらい美人で、小鳥遊さんぐらいスタイルの良い女性と巡り合いたいものである。
え?それ小鳥遊さんやないかって?いや、ガチの知り合いを恋人にする妄想は、ちょっと難しいので。
あと、素の自分を知っている相手が自分に恋をしてくれるとは思えない。ラノベチョロインにすら相手にされない自信が、僕にはある。
……おかしいな。目から汗が。
「矢広さん?どうしたのですか、百人一首をして」
「……たぶん、百面相かな?」
「それです」
「気にしないで。いつもの事だから」
「それもそうでした」
否定してくれないんだ、そこ。
もしかして、自分は結構感情が顔に出るのだろうか。
そんな事を考えていると、運転手さんのアナウンスが聞こえてくる。目的地が近づいたので、近くのボタンを押した。
数分後、バスが止まる。料金を支払って、罅割れたアスファルトの上に降り立った。
「じゃあ……行こうか」
「はい」
考えるべき事も、やるべき事も沢山あるけれど。
今は、ダンジョンに集中するとしよう。
読んでいただきありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。励みになっております。創作の励みになっておりますので、どうか今後ともよろしくお願いいたします。
Q.フリーマン大統領、大統領じゃなくて一介の軍人とかの方が向いてない?
A.まあ、彼があそこまで自由なのは大統領だからなので……。
大統領じゃなかった場合。
有力者A
「あの地方へ出撃?いやいや、まずは状況把握してからさ。もう少しのんびり行こう。あの地方と私の会社が仲悪いけど、関係ナイヨ?」
有力者B
「フリーマン君!わが社の宣伝に協力してくれよ。報酬は出すからさぁ。君の上官と、私は仲が良いんだよ?君の親しい人達の『今後』の為にもさぁ」
有力者C
「せっかくアメリカに強い異能者が出てきたんだ。前線で運用するのではなく、広告塔として扱った方がより有意義だろう。それにより予算を集めてだね」
フリーマン大統領
「大統領権限でお兄ちゃん出動!お兄ちゃんは私だ!GOGOGOGOGO!」
タイラー副大統領
「はわ、はわわわ」




