第二十五話 秘密の共有者
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第二十五話 秘密の共有者
遠海さんへの確認。それについては、まあおいおいやるとして。
石山さんの加入も近い今、優先すべきはマスターへの説明だ。
決して、隣のクラスの転校生、しかも人気者の異性に話しかけるのは恐いから、後回しにしているのではない。
恐いどころではないので。ブ□リーを前にした某王子並みに恐怖している。あるいはそれ以上だ。
そんなわけで、早速喫茶店へと電話をする。直接行くには、もう遅い時間だ。
『はい。安らぎと懐かしさを提供する、喫茶アルフでございます』
「あ、璃子先輩。矢広です。お世話になっております」
『んお?オタク君じゃん。どったの?あーしの声が聞きたくなっちゃった?』
「いえ。それは別に」
『君、あーしに対しては結構ズバッと言うね……』
普通の女子相手だとまともに会話出来ないが、変人相手なら気を遣う必要もないかなって。
『ふっ……しかし、それはあーしへの好感度が高い証。楽しくじゃれ合おうぜ、オタク君!あ、でもあーしはいわゆる友人枠だゾ☆』
「すみません。出来ればマスターに代わってほしいのですが、今お時間よろしいでしょうか」
『まさかのお祖母ちゃん狙い!?言っとくけど非攻略対象だぞオタク君!うちのお祖母ちゃんは流石にアウトだよ!友人キャラとして好感度の上げ方とか、言えないからねあーし!』
「そう言うのではありません。そしてこの世界はギャルゲでもありません」
『ギャルゲじゃないから、非攻略対象なんて概念はない……って事!?』
「違います」
『んもー。オタク君ってばスケベなんだからー。お祖母ちゃーん!オタク君がお喋りしたいってー!』
誰がスケベか。いや、スケベな事を否定はしないけども。
健全な男子高校生は世間一般の基準だと全員脳みそがスケベだと思う。しょうがないだろう、そういう年頃なのだから。
少しして、マスターが電話に出てくれる。
『はい、今代わったよ。何かあったのかな?』
「あ、マスター。突然申し訳ありません。実は、ご相談したい事がありまして」
電話越しに頭をペコペコとさせる自分を、小鳥遊さんが不思議そうな目で見てくる。
そう言えば、アメリカではあんまりこういうのしないんだっけ?いや、彼女の知るアメリカと、自分の知るアメリカってだいぶ違うが。
『ううん、謝る必要なんてないよ。むしろ、頼ってくれて嬉しいな。それで、相談って?』
「はい。実は……小鳥遊さんのお家へ、近い内にちょっと来て頂きたいんです」
『……なんで?』
姿は当然見えないが、電話越しにマスターが首を傾げているのが何となくわかった。
「彼女の異能や『霊装』に関わる事で、ちょっと見てもらいたい物があるんです」
『えっと……クラン加入の時に聞いた事、以外の事かな?』
「恐らくは。少々デリケートというか……あまり口外は出来ない内容でして」
そこで、わざと声を潜める。
「……昨今のゴーレム事情について、マスターはどの様にお考えですか?」
『え?うーん、まだ分からない事だらけって聞くけど……それに関係しているの?』
「はい。小鳥遊さんも、流石に加入時の段階では打ち明ける事が出来なかったそうです。それで、僕に相談してくれたんですけど……ちょっと、対応しきれないというか、大人の力をお借りしたいと言うか」
嘘は言っていない。ケニングにはゴーレム技術が使われているし、自分に相談されたが大人の力が欲しいのは事実である。
ただ、タイムスリップとか、人型ロボットとか言っていないだけで。
「小鳥遊さんの許可を得て、マスターにご連絡させて頂きまして……本当に、すみません」
『……ううん。そういう事なら、分かった。もう一度言うけど、頼ってくれてありがとう。だから、そう背中を丸めないで、矢広君』
電話越しだと言うのに、彼女はこちらの姿勢を見抜いている様だった。
「……その、分かるんですか?」
『何となくだけどね。これでも長く生きているから。……矢広君。大人って言うのは、子供に頼られると嬉しいものなんだ。だから、君がそんな風に申し訳なく思う必要はない。それに、小鳥遊さんの事情を私に回したのも、それは矢広君が真剣にその問題に向き合っているからだよ。だから、もっと胸を張って』
「……ありがとう、ございます」
どうしよう、謎の罪悪感が。
別にマスターを騙す気なんてないのだが、真実はこの段階だと全て打ち明ける事も出来ない。
頬に冷や汗を流しながら、どうにか背筋を伸ばす。
『流石に今日は無理だけど、明日か明後日には行くね。時間は、どのぐらいが良いかな』
「えっと……17時ぐらいでも、良いでしょうか?」
『分かった。向かう前に、電話するね』
「はい。本当に、ありがとうございます」
『どういたしまして。と言っても、私が解決出来る悩みかは分からないけど』
「あ、あと。出来れば、この相談について出来るだけ内密に……」
『勿論だよ。安心して。これでも、口は堅い方なんだ』
電話の向こうで、マスターが『むん』と胸を張っている姿が浮かぶ。
それに苦笑しながら、別れの挨拶をして通話を終えた。
「ふう……緊張したぁ……」
マスターは変人ではないが、歳が離れている事もあって何となく話しやすかった。
というか、最近の自分は同年代ほど会話が苦手になっている気がする。
「お疲れ様です。しかし、電話で未来の事を伝えなくて良かったのですか?」
不思議そうにする小鳥遊さんに、小さく首を振った。
「いや……流石に、証拠も見せず『実は小鳥遊さんが未来人で、人型ロボットを修理する為に力を貸してほしいんです』とか言ったら、信じる信じないの前に正気を疑われるだろうから」
「……たしかに」
納得してくれたらしく、彼女が頷く。
……思えば、小鳥遊さん相手にも比較的普通に会話が出来ていた。
これが、信頼というやつなのかもしれない。
「どうかしましたか?」
不思議そうに首を傾げ、こちらを覗き込んでくる小鳥遊さん。
その拍子に、彼女の爆乳が『たゆん』と揺れた。やや前屈みになった事で、でかくて長いお胸様が重力で僅かに形を変える。
「な、何でもない……です」
「なぜ再び敬語に……?」
でも緊張はする。
無防備な爆乳美少女が接近してきて、心が不動な奴だけ石を投げて欲しい。全力でピッチャー返ししてやる……!
* * *
翌日。
「ここが美由っちのハウスね!!」
申し訳なさそうな顔をするマスターの隣で、璃子先輩が腰に手を当てて仁王立ちしていた。
いやまあ、事情は30分程前に電話で聞いたのだけれども。
「よっす、オタク君!美由っち!頼れるギャル先輩が来てやったぜい!」
「ごめんねー。あの時、後ろで盗み聞きしていたみたいでー……」
「お祖母ちゃんを1人で送り出したら、オタク君が暴走するかもしれないからね!我が家の安寧の為に、オタク君とお祖母ちゃんが2人きりになる可能性は絶対に許さねぇ!」
と。いう事情らしい。
「2人きりって、小鳥遊さんもいるんですけど……?」
「美由っちは……ちょっと、無防備過ぎるから」
「それは……そうですね」
「え?警戒心は強い方だと自負していますが……?」
違う、そうじゃない。
小鳥遊さんは不服そうにしているが、自分としては同意しかなかった。この人、そういう方面ではまるで信頼が出来ない。生きてきた環境が特殊過ぎる。
まあ、璃子先輩なら話しても良いかとは、自分達も考えてはいた。
正直な話、マスターの口が軽いとは思っていないものの、璃子先輩にまで秘密に出来るとも思っていない。うっかりで、家族には喋ってしまいそうである。短い付き合いだが、嘘が下手な人なのはわかるので。
璃子先輩は、マスターに似て情に厚い人だ。本当に口外してほしくない事は、秘密にしてくれるだろう。
何よりこの人が『未来人と会ったんだ!人型ロボットも見たんだ!』と周囲に言った所で、『はいはい。そういうアニメを見たのね』でスルーされるだけなので。
「おいおい、オタク君。いくら私服姿のあーしがナウでチョベリグだからって、見すぎだっての。こんなの照れちゃーみんぐ!」
「あ、はい」
「せめてツッコミは放棄しないでオタク君!?会話のキャッチボールは大切なんだぜベイベー!?」
「貴女のはドッチボールだと思います」
まあ、似合っているのは事実なのだが。
健康的な肩が露出している水色のセーターに、黒いミニスカート。長い美脚を黒いタイツで覆った璃子先輩は、結構破壊力がある。
美人でスタイルが良いと、何を着ても似合うものだ。
あとセーターと巨乳の組み合わせは無敵だと個人的に思う。
「ごめんね、2人とも。やっぱり今からでも璃子は家に帰すから……」
「いえ。璃子先輩も一緒に見て頂いて問題ありません。ただ、口外はしないようお願いします」
「……本当に良いの?」
「はい」
小鳥遊さんの答えに、璃子先輩が胸を張る。
くっ、セーター越しの巨乳が『ぷるん』と!
「どうだオタク君。これがあーしへの信頼ってやつよ」
「うっざ……」
「小声ガチトーンの悪口はやめてぇ!?あーしのガラスハートがバキンでガシャンだぜ!?」
「あ、すみません。つい……」
「マジの謝罪じゃん」
「マジで口が滑ったので」
「ぴえーん!お祖母ちゃん、オタク君が虐めるぅー!」
「えっと、じゃあ本題に入って良いのかな?」
「はい」
「総スルー!?あーしってば場違い判定!?」
それはそう。
ふざけ倒す璃子先輩を放置して、ガレージへと向かう。その最中、自称ギャルが小声で話しかけてきた。
「ねえ、オタク君。本当にあーしもいて大丈夫?」
「え、今更ですか……?」
「いやぁ。あーしも力になれたらって来たけど、無理やり人の悩みを聞きだしたいわけじゃないし」
そう告げる彼女の瞳は、真剣なものだった。
「……たぶん、璃子先輩なら大丈夫かと」
「そう?なら良いけど」
何だかんだ、真面目な所もあるらしい。根が優しい人なのだろう。
変人なだけで。
ガレージの前に立ち、小鳥遊さんが2人に視線を向ける。
「矢広さんからマスターに『ゴーレム』に関する相談と伝えてもらいましたが、実際は少々違います」
「というと……?」
「ゴーレムも使った、特殊な物品に関する相談です」
「えっと……?」
「見てもらった方が、早いかと」
困惑するマスターにそう告げて、小鳥遊さんがガレージのシャッターを開けた。
自動で点灯したライトに、片手足を失ったケニングの姿が照らし出される。損傷個所の確認の為にあちこちの装甲が外され、内側のフレームや配線が見えている姿は、無機物であるのに『死体』という言葉が一瞬だけ脳裏をよぎった。
「え……え?」
「騙す様な形になってしまい、申し訳ありません。マスター。正直に全てをお伝えしても、実物を見せない限り信じてはもらえないと思ったので」
唖然とするマスターに、深々と頭を下げる。
「マスター。そして璃子先輩。私は、この時代の人間ではありません」
ケニングの前に立った小鳥遊さんが、背筋を伸ばす。
「私は、100年後の未来……それに近い、並行世界の人間です」
「未来……!?」
目を見開いて小鳥遊さんを凝視するマスターの隣で、璃子先輩がふらふらと前へ出る。
そして。
「ロボだこれぇええええ!?」
ケニングを凝視しながら、素っ頓狂な声を上げるのだった。
……やっぱそうなりますよね!
読んでいただきありがとうございます。
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『コミュ障高校生、ダンジョンに行く』の外伝も投稿しましたので、そちらも見て頂ければ幸いです。




