第十八話 デート?の約束
第十八話 デート?の約束
ボスモンスターと接敵しかけた日から、数日。
放課後、今日も小鳥遊さんの家に来ていた。
異性の家という事で緊張はするものの、少しずつ慣れてきた気がする。話の内容が、硬いものばかりだからかもしれない。
ついて早々ガレージに通されれば、そこにはケニングが鎮座していた。
しかし、前に見た時とは様子が明確に異なる。
「おお……右腕が」
そう。灰色の巨人の右腕が、繋がっていたのだ。
……ただし、左腕と同じ物ではない。
極端な言い方をすれば、丸太に関節をつけただけの腕。肩や肘は動く様だが、どの程度の可動域があるのかはわからない。手首から先はなく、前腕と一体となって巨大な『杭』の様に先端が鋭く尖っている。
「キチンとした修理はまだ出来そうにないので、取りあえず最低限戦える状態に仕上げました」
隣でケニングを見上げている小鳥遊さんが、淡々と言葉を続ける。
「各部関節の調整と、フレームの応急修理は済みました。機体バランスもこれである程度とれるかと。武装の調達が難しい為、いっそ右腕そのものを武器にしてみました」
「まあ、うん……戦えるの?これで」
「はい。突撃して右腕を振り回す事しか出来ませんが、少なくとも私が生身で戦うよりは強いかと」
その言葉に、何となく彼女へと視線を向ける。
小鳥遊さんはケニングではなく、いつの間にか己の右腕を見下ろしていた。
「……私の霊格の成長率が低いのは、恐らく異能者としての才能の差だと思われます」
「そう、なの?」
「はい。戦場で聞いた噂なので信用度は低いですが、日本人や英国人の血を引いている異能者程強力であり、それ以外の国の異能者とは基本出力が違うそうです」
「え、なんで……?」
「さあ。霊脈の『出口』に関係しているそうですが、私も詳しくはありません」
霊脈の出口、ねぇ。
無意識に、足元の地面に目を向ける。見えるのは、自分の足とコンクリートだけだ。
しかしこのずっと奥に、膨大な魔力が流れているのを感覚で把握する。
星の血管。魔力の大河。かつて魔物達がここに解けていき、記録として刻み込まれた空間。
そして、ダンジョンの源。
未だ謎多きそこから地上へと溢れる魔力は、大なり小なり生命へ影響を及ぼしている。
頭の中にある知識には、『魔力が多く噴き出る場所を霊地』『霊地ほど強い異能者が生まれやすい』という説が入っている。
あくまでも、説の1つに過ぎない。しかし、もしかしたら日本や英国は、国土自体が『霊地』である可能性はある。
であれば、小鳥遊さんの聞いた噂もあながち嘘ではないのかもしれない。
まあ、ただの噂と、根拠のない仮説の組み合わせだけど。
「私がいた世界では、英国の異能者は非常に強力な戦士ばかりでした。米国でも、日本の生き残りから出て来た異能者は強かった。異能者としての才は、遺伝すると言います」
「そう……なんだ」
「矢広さんも、強い異能者と子を残してください。強者と強者の子供は、将来有望ですから」
「え、いや、そう言われましても……」
突然のキラーパスに、なんと答えて良いかわからない。
そもそも恋人すらいないのだが。あと、戦力になる事を期待して子供をつくるのもちょっと……。
目を泳がせる自分をよそに、小鳥遊さんは話を続ける。
「話を戻しましょう。ケニングは、最低限戦える状態になりました。そろそろ、行動に移すべきかと」
「……例の人の件?」
「はい」
こちらの問いに、小鳥遊さんが深く頷く。
彼女が覚えている、数少ない未来と現代を繋ぐ話。この時代……より正確には、この時代とよく似た世界における、数年後の出来事。
その1つ。名前と大まかな所在がわかる人間に、コンタクトを取ろうというのだ。
勇名を遺した人物なら、味方になってくれないか確かめる。そして、悪名を遺した人物は……。
ケースバイケースとしか、言いようがない。まずその人がどういう人格か知らないといけないし、悪人だったとしても物理的な意味での排除は取れないし、取りたくない。
少なくとも、自分はそう考えている。小鳥遊さんがもしも強硬な手段を取ろうとしたら、全力で止めなければ。
覚悟とすら呼べない、そんな思いを胸に。彼女の言葉に耳を傾ける。
「まずは、かの有名な怪物に接触し、見定めます」
小鳥遊さんの細い眉がつり上げられ、瞳には剣呑な光が宿っていた。
冷徹な殺意を滲ませて、桜色の唇が、100年後にも悪名を轟かせ続ける存在を告げる。
「コード『ロッソ・ヴェンデッタ』───本名、石山岩子……!」
「ん~……」
何というか、非常に香ばしいネーミングである。
すみません。こういう時、どんな顔すれば良いんでしょうか。
「その……ロッソさん?は、確かアメリカの艦隊を襲ったんだっけ?」
以前、未来の話を聞いた時に、この時代で良くも悪くも活躍した人の事を聞いている。
ソシャゲの知識ベースなので、正直信用性の低い情報であるが。その中に、ロッソさん……石山さんの悪事も含まれていた。
「はい。『ロッソ・ヴェンデッタ』は、数百人の人間をゾンビに変えて使役。数々の街や避難所を破壊したと言われています」
名前のせいでシリアスになり切れない自分とは違い、小鳥遊さんは非常に真剣な顔である。
これも、ある意味でジェネレーションギャップなのだろうか……。同い年だけど、1世紀離れているし。それともカルチャーギャップ?
「そして、日本が崩壊した際に救助活動を行っていた第7艦隊を襲撃。艦艇の約半数。100以上の艦載機。そして数千の人命を奪った怪物です」
「……何というか、規模が大きすぎてわからないのだけど。異能者って、そんな事が出来るの……?」
「才能ある異能者が鍛え続ければ、戦い方次第で艦隊を物理的に消滅させる事が可能とされています。そして、そもそも『ロッソ・ヴェンデッタ』は異能者ではありません」
「え?」
言っている意味がわからず、首を傾げる。
「異能者じゃないって、じゃあ異能無しでそんな事を?でも、ゾンビを作ったとか……」
「異能者とは、『異能を持つ人間』を指します。しかし、彼女は人間ではありません」
「……?石山岩子って名前があるんだし、人間なんじゃないの?本名、なんだよね?」
「はい。彼女は人間として生まれ、人間として育ちました」
ますます意味がわからず、眉間に皺を寄せる。
こちらへ向き直った小鳥遊さんは、まるで常識を語っているかの様に自然体であった。
「ダンピール。吸血鬼の血が混じった彼ら彼女らは、人ではありません。人から魔物へと目覚めた、人類の裏切り者なのです」
「……はい?」
『ダンピール』
ハーフ鬼人やエルフと同じ、亜人と呼ばれる存在の一角。
数こそ少ないが、世界中でその存在が確認されている。日中より夜間の方が魔力の出力や身体能力が高い等、吸血鬼に似た特徴を持っていると聞いた事があった。
当然、異能者であり、人間である。
それがなぜ、魔物呼ばわりされているのか。
……もしかして、ロッソ何某のせい?
「『ロッソ・ヴェンデッタ』の蛮行を皮切りに、各地でダンピールによる人類への攻撃が始まりました。奴らは、それまで潜伏して力を溜めていたのです」
「……あの。それ、ロッソさんがやらかしたせいで、あちこちで迫害とかがあったんじゃ……?それが原因で、他のダンピールの人達がそういう方向にいかないといけなかったとか」
「いいえ。奴らは生まれながらの怪物です。血に残った魔物の因子により、その思考回路が人とは離れていると言われています。非情に残忍かつ狡猾である為、人間への擬態が巧妙だとか……。高名な医師が、それを科学的に証明したという話もあります」
「……半分でも魔物の血が入っていたら魔物なら、ハーフ鬼人や、それこそクオーターの僕も?」
「いいえ。ハーフ鬼人は明確に人類の一種です。その様な理由で差別するのは、良くない事かと」
「えぇ……」
どうしよう。100年後の未来の話を聞いているのに、100年前の話を聞いている様な気分になってきた。
小鳥遊さんの瞳は真剣であり、迷いがない。彼女は、本気でその様な考えをしているのだ。
……未来って、やっぱりわりとヤバいな。
「『ロッソ・ヴェンデッタ』の悪名は、私がいた時代にも深く残っていました。奴をヴィランとして扱う映画が作られた事もありましたが、あまりにも許されざる存在である為、すぐに放映が中止されたとか」
そこまで嫌われているのか、ロッソ何某こと石山さん。
1人の悪人のせいで、種族全体が差別される様になったのだとしたら、他のダンピール達がお気の毒過ぎる。
「そして、『ロッソ・ヴェンデッタ』を討った事で矢広さんの名も広く知られる様になったと、祖母から聞きました」
「……んん?」
「第7艦隊を強襲した『ロッソ・ヴェンデッタ』。迎撃もむなしく、蹂躙される兵士達。生きる屍となった彼らに船を操縦させて、恐ろしい吸血鬼はアメリカ本土を目指そうとしたのです」
「いや、あの」
「そこに舞い降りたのが、今から数年後の貴方です」
「えーっと……」
小鳥遊さんの瞳と声に、心なしか熱がこもり始める。
「そこからは、まさに神話の戦い。身を挺して兵士達を守りながら戦う矢広さんを、吸血鬼は容赦なく攻撃。卑劣な爪が貴方に幾つもの傷をつけ、滴る血を奴は極上のワインでも楽しむ様に口の中で転がしたのです……」
凄いな、そのヤヒロさん。命懸けで見ず知らずの兵士達を守りながら戦ったのか。自分の身も顧みずに。僕には出来ない事だ。
いや、本当にどこのどなた?そこまで高潔な人間だっけ?
「しかし、慢心こそが最強の毒。脅威ではないと油断していた兵士の放った一発の銃弾が、『ロッソ・ヴェンデッタ』の注意を一瞬だけ引いたのです!」
「はぁ」
「そのコンマ数秒の隙に、矢広さんの刃が吸血鬼の心臓を捉えました。不死殺しの刃を受けた怪物は断末魔の叫びと共に灰へと変わり、その灰は黒い霧となって消えました……」
「へぇ」
「貴方は生き残った兵士達を懸命に救助し、彼らを無事陸地へと送り届けたのです。第7艦隊はその恩義に報いる為、矢広さんが送り出した避難船の保護に回ったと言います……」
「ほぉ」
……もしかしてなのだが。
ハーフ鬼人がダンピールと違ってきちんと人間扱いされているのって、並行世界の僕が人命救助頑張っていたからだったりする……?
何というか、生々しい理由が見えて来た気がした。
「以上の事から、『ロッソ・ヴェンデッタ』。本名石山岩子の危険性は非常に高いと思われます。ケニングが戦える状態になるまで、遭遇は避けるべきと判断していました」
「そう、なんだ」
「はい。奴の霊格が比較的弱い内に、仕留めるべきです」
ふんすと、鼻息を少し粗くする小鳥遊さん。うーん、この。
まあ、でもそのロッソさんが危険人物な可能性は確かにあるので、警戒はすべきだろう。
しかし、あくまで並行世界の話。先入観に囚われ過ぎてはならない。
……いや。それを言うのなら、ダンピールへの認識も同じか。
ただの差別意識と切り捨ててしまったが、もしかしたら本当に危険な種族である可能性も考慮すべきである。なんせ、異能関連は謎が多過ぎるので。
だからと言って、『ダンピールも普通の人』という可能性を潰してしまうのは良くない。出来るだけ、フラットな視点を持つべきである。
……言うは易しだな、これ。
そんな視点を簡単に持てるのなら、戦争の9割は消えていそうなものである。
「あの、小鳥遊さん」
「はい。何でしょうか。ちなみに、ダンピールの弱点は心臓です。十字架や銀の武器、白木の杭や日光は、魔力が余程含まれていないと効果はありません」
「いや、そうじゃなくって……ダンピールだから悪、って考えで接しない様にね?」
「……なぜでしょうか?」
「……先入観は、視野を狭くするから?」
どう説明したものかと迷い、無難な事だけを口にする。
彼女と自分では、常識が違うのだ。生まれた時代も過ごした環境も違うのだから、当たり前の事である。
だからこそ、頭ごなしにその考え方を否定するのは憚られた。
こちらの言葉に、小鳥遊さんは少しだけ考えた後。
「わかりました。避けられるべき戦闘は避けるべきですね」
「うんうん」
「奴がダンピールである事に確信を持ち、なおかつ不意打ちで仕留められる瞬間を待ちます」
「うーん」
どうしよう。伝わっていない。
でもここで上手い事この思いを伝えられるコミュ力があるのなら、自分はそもそもボッチと化していないのだ。
……よし。ここはいっそ、自分が反対側に立ってバランスを取ろう。
フラットな立ち位置が難しいのなら、力技で均衡を取るしかない。ダンピールだって人類であり、種族で人格が決まる事などないと考えて行動する。
土佐出身の人斬りスタイル。『おまんも人!』の精神を持つのだ。
「まず、こっちの世界のダンピールが普通の人という可能性も。考慮に入れるべきかなって」
「それはそうですが、油断すればこちらが死にます。警戒は最大限にすべきかと」
「じゃあ、せめて僕が相手を敵だと思えるまでは、こちらから攻撃とかはしないでほしい……かな」
「……わかりました。矢広さんがそうおっしゃるのであれば」
不承不承という様子で頷く小鳥遊さんに、頬が引きつるのを自覚する。
どうしよう、不安しかない。今更だが、璃子先輩が布教した仮面●イダーが彼女の情操教育をしてくれている事を祈りたい所だ。
……今度、ド●えもんやアン●ンマンを見せようかな。
この前の歓迎会の様子から、それなりに有効なはず。
ここは、狸型子守りロボットと、元祖ヒーローの力を信じよう……!
「というわけですので、早速今週の末に『ロッソ・ヴェンデッタ』の家を探そうと思います。現状、大まかな位置しか分かっていませんので」
「え?」
「恐れながら……恐縮ながら?矢広さんにも、同行して頂きたく思います。私1人では、戦力が不足していますので。また、奴の本性も知って頂かねばなりません」
「あの」
「土曜日か日曜日に、『ロッソ・ヴェンデッタ』のいる街に向かいましょう」
キリっとした顔で、そんな事を言ってくる小鳥遊さん。
脳の理解が追い付かず、我ながら間の抜けた声で問いかける。
「週末に?」
「はい」
「2人で?」
「はい」
「街に?」
「行きましょう」
「……なるほど」
───それって実質デートでは????
鈍りに鈍った思考が、我ながらアホな回答を出してきた。
でも可能性に0はないと思います!!!!
読んでいただきありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。励みになっております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。
Q.耕太と小鳥遊さんって、今どのぐらいの強さ?
A.ステータスはこんな感じですね。
矢広耕太 LV:3
筋力:24
耐久:24
敏捷:24
魔力:24
小鳥遊美由 LV:2
筋力:12
耐久:13
敏捷:17
魔力:11




