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雑種と未来人の現代ダンジョン  作者: たろっぺ
第四章 新たなる力
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第七十九話 たぶん恐らく青春の一幕

第七十九話 たぶん恐らく青春の一幕



 朝、学校へ行く前にテレビを見ていると、アメリカの霊的災害について流れてきた。



『昨日、現地時間14時30分にマイアミで発生した霊的災害は死者104名。行方不明者23名。重軽傷者57名という被害が』


『異能者のお兄さんが助けてくれたの!』


『この被害に対し、フリーマン大統領が会見を』


『霊的災害の解決には日本から移住した異能者が関わっていたと、目撃証言から』


『いやー、恐いですねー。やっぱり、世界中で起き得るんですね。霊的災害っていうのは』


『はい。アメリカでさえこれだけの被害が出たわけですから、日本政府にはもっと危機感をもって頂かないと』


『フロリダ州の州知事は昨夜、会見にて被害にあった方々への哀悼の意を示し、復興に対して』



 テレビの端に映る時計に視線をやると、意外と時間が経っていた。


「母さん、僕行くねー」


「はーい、行ってらっしゃーい。テレビはそのままにしておいてー」


「分かったー。行ってきまーす」


 洗濯物を干してくれていた母さんに声をかけてから、鞄を手に玄関へ向かう。


 エルフの血の影響か、靴を履きながらでもリビングのテレビの音が聞こえていた。



『フリーマン大統領の秘書、キャサリン氏がこの前亡くなったのも、対応の遅さに影響が出ているかもしれませんね』


『それは間違いないかと。これまではアメリカでの霊的災害に対し、大統領は非常に迅速な対応を』



 大統領の秘書さん、亡くなっていたのか。


 少し気になったが、遠い国の知らない誰かの死より、遅刻しない事の方が大事である。


「行ってきまーす」


 もう一度母さんに声をかけてから、家を出た。


 すぐに、強い日差しが出迎える。天気予報では午後から雨との事だったが、本当だろうか。


 鞄の底の方に折りたたみ傘があるのを確認し、玄関の扉を閉めた後。


 少しだけ早足で、学校へ向かい歩き出した。



*    *    *



 最近、少しだけ教室にいやすくなった。


 挨拶をすれば、必要以上に怯えられる事もなく返事をしてもらえる。教室の端から、根拠もなく霊的災害に巻き込まれるかもなんて声が聞こえてくる事もない。


 松田君を始め、授業で班を組む時なんかに何人かの男子と話すようになった。友人と呼べる距離感ではないけれど、学校生活に支障はない。


 少しだけ、学校にいても呼吸がしやすくなった気がする。


 とはいえ。


「……いただきます」


 3階の隅っこ。倉庫代わりに使われているスペースで、1人弁当箱へ手を合わせた。


 未だ、教室で1人飯をする勇気はない。恐がられるのも嫌だが、変に気を遣われるのも嫌だったのだ。


 言い方を変えると、同情されたくない。1人は寂しいと思うくせに、これなのだから。我ながら面倒くさい奴だと思う。


 まあ、危険物扱いから普通のボッチに進化……進化?したのだから。現状、学校生活は順調と言える。虐めの標的にとかされないのなら、もうそれで良い気がしてきた。


 そんな事を考えながら箸と口を動かしていき、10分ほどで食べ終わる。


 弁当箱を袋にしまい、水筒からお茶を飲んで小さく息を吐いた。そして、ソシャゲのデイリークエストでも消化しようとスマホを取り出す。


 その時、小さな足音がこちらへ近づいている事に気づいた。


 3年生の先輩だろうか?いや、普通の女子生徒と比べても、足音が小さすぎる。これは……。


「あ、やっぱりここにいましたね!耕太君!」


「虎毬さん」


 ひょっこりと、オレンジに近い赤毛の少女が顔を出す。


 ピコピコと猫耳を動かして、中学生にも見える彼女はニッコリと笑った。


「お久しぶり……というほどではないかもしれませんが、あえて言いましょう!お久しぶりです!」


「どうも、お久しぶりです……。その、何か用ですか?」


 そう問いかけながら、内心で『もしや』と期待する。


 こちらの問いに、虎毬さんは眉をへにょっとさせながら頬を掻いた。


「いやぁ。前に言っていた、『家のごたごた』が一応ひと段落ついたので。私の予定が空くかもですよー……と、報告にきました」


 どうやら、前に話した事を覚えていてくれたらしい。


「お待たせしてすみません。今からでも、大丈夫ですか?私にお話って事でしたけど」


「あ、いえ。こちらこそお忙しい中すみません。じゃあ、その。近い内に、学校の外でお会いできませんか?前にもお伝えしたとおり、ちょっと学校で話せる事ではないので……」


 壁に耳あり障子に目あり、なんて言うが、今の時代は耳目どころか数々の電子機器が加わってくる。


 学校では、どれだけ周囲を警戒しても秘密の話なんて……『貴女は公安の人ですか?』なんて、言えるわけがない。


「え……もしかして、こ、告白ですか……?」


 照れた様子で、虎毬さんがもじもじとしながら上目遣いでこちらを見てくる。


 大変可愛らしい。妹とかいたら、こんな風……なわけないな。度々、リアルの兄妹は中悪いと聞くし。


 ……あ、やばい。近々マジで年の離れた弟妹ができる可能性があるから、ちょっとメンタルにダメージが。


 両親が『夜の運動会』しているという情報は、思春期にはシンプルに毒なのよ。


「だ、大丈夫ですか?顔色が凄い事になっていますけど……」


「気にしないでください……あと、告白とかじゃないんで。安心してもらって大丈夫です……」


「そ、そうですか?」


 本気で心配した様子の虎毬さんに、どうにか笑みを浮かべる。


「あ、もしも野郎と2人で会うのは心配、とかでしたら。安心してください。場所は、所属しているクランの喫茶店で、と思っているので。女性のマスターがいますから……」


「そんな警戒していませんよー!耕太君はお友達ですから。信用しています!」


 腰に手を当て、小さな胸をむん、と張る虎毬さん。


 その仕草1つ1つが、どうにも子供っぽい。やはり、公安の人とは思えないのだが……。


 彼女には、是非とも公安なだけではなく、『正義のお巡りさん』であってほしいものだ。


 なんせ、頼るあてが自分達には本当に少ないのだから。


「あはは……じゃあ、あの。虎毬さんが都合の良い時を教えて頂ければ、その日に……」


「分かりました!今日はまだちょっと無理ですが、近い内にお話しましょう!あ、その喫茶店の名前と場所を教えてもらって良いですか?」


「はい。ありがとうございます。喫茶店の名前は『アルフ』で、場所は───」



*    *     *



「と、いうわけですので。その時はお願いしますとマスターにお伝えください」


「猫耳幼女をナンパだなんて……見損なったぜ、オタク君!」


「ちげーよ」


 放課後。バスに揺られながら学校での事を話したら、案の定璃子先輩がふざけだした。


 ボケないと会話できない呪いでも受けてんのか、この似非ギャル。


「YSEロリータ、NOタッチ!その誓いを忘れるだなんて……許されないんだ!」


「そんな誓いを立てた覚えはないし、ロリコンでもねぇです」


「えっ!?そんな誓いをって事は……ロリにタッチするガチ変態!?」


「名誉棄損で訴えてやろうか、こいつ……」


「若き鬼よ。抵抗もできない幼き者にそういった行為は……ダメだぞ?本当に」


「しねぇっつってんだろ」


 璃子先輩の向こう側から、ガチめに心配そうな顔をしてくるロッソさん。


 というか、この人にロリコン疑惑を向けられると異様に腹立たしいのだが。あんたのお袋さんに報告してやろうか、マジで。


「そもそも、虎毬さん同学年なんですけど。何なら、『予想通り』だった場合がっつり年上ですよ」


「そうですね。出産が可能な年齢と推測されます。問題ありません」


「美由さん。本当にそういう話ではないので」


「ごめん美由っち。美由っちの言い方は、その……生々し過ぎるから……」


「冗談では済まない言い方なので、この話はやめよう……な?」


 キリっとした顔で告げる美由さんに、ボケ2名も真顔で首を横に振る。


 というかお前ら、やっぱ分かっていてふざけていたな?


「兎に角。その日になったらお願いします」


「OKまる水産任せロリ。お祖母ちゃんにはきちんと伝えておくからなー」


「……一応聞くが、若き鬼とマスター、美由だけで良いのか?」


 ロッソさんの言葉に、頷く。


「はい。こっちのホームに呼び出しておいて、大人数で囲むのは無礼でしょうから。それに、荒事にはならないと思うので」


「だねー。『予想通り』だった場合で、なおかつ『期待が外れていた』場合でも、即斬り合いなんて事は起きないっしょ。相手にも立場があるだろうし。それでも荒事になったら……まあ、お祖母ちゃんが何とかすんでしょ。たぶん」


「そうか……しかし、気になっていたのだが。マスターは強いのか?その口ぶりからして、そうとうな手練れの様だが」


「あー……」


 ロッソさんの言葉に、璃子先輩が何かを考える様に視線を上に向けた後。


「強いよ。かなり強い」


 そう、断言した。


 彼女もまた、幾つもの修羅場を超えてきた冒険者である。その上で、ハッキリと頷いたのだ。


「ただ、『使い勝手の悪い固有異能』だからねー。街中では、本気を出しづらいかも。それでも、本気を出したらあーしよりは絶対に強いよ」


「それほどか」


「それろほどさー。自慢のお祖母ちゃんだぜー」


「やはり……喫茶店のマスターはそうでなくてはな……!」


 ちょっと嬉しそうに、ロッソさんが拳を握る。


 その気持ちは分かる。喫茶店のマスターには、高い個人戦力をもっていてほしいですよね……。もと凄腕の殺し屋とか、実は現役の特殊部隊とか。


 あるいは、多くのアウトローと繋がりがあったり、裏の情報屋として活躍していたり。そういう『浪漫』を期待してしまう。


 実際にそんな喫茶店のマスターがいたら、近寄りたくないが。絶対、何かしらの荒事に巻き込まれるので。


 閑話休題。運転手さんのアナウンスが聞こえてくる。目的地が近いらしい。


 それから3分ほどして、バス停に到着。料金を支払って、バスから降りる。


 そのタイミングで、ポツリと頭に水滴が落ちてきた。見上げれば、濃い灰色の雲から僅かに雨が降っている。


 少しずつ勢いを増し、すぐに小雨となった。リュックから取り出した折りたたみ傘をさして、美由さんの上へ掲げる。


「……?ありがとうございます。しかし、それは耕太さんが使ってください」


「いや、僕は風邪とかひかないし。大丈夫」


「しかし」


 がらではないが、ちょっと格好つけてみる。


 困惑した様子の美由さんに苦笑を浮かべていれば、背後から野次が飛んできた。


「ナンパだー!今度こそナンパだぞロッソん!オタク君が実質幼女な美由っちを狙っているぞ!エロだぜー!あいつエロだぜー!」


「吾輩達との扱いの差に憤慨不可避であるな。起訴も辞さぬぞ。魔界の法廷で待とう。詐欺罪と器物損壊罪で訴えてくれる」


「うるせぇですよ似非ギャルと20代厨二。あんたら自前で傘持っているでしょうに」


 というか既にさしているじゃねぇか。もう横から折りたたみ傘出す余地ねぇのよ。


「似非じゃねーし!」


「厨二ではない。本物の魔界貴族である!」


「無理があるでしょ。全てに」


「全て!?」


「吾輩達の意見を全否定だと!?」


「むしろ肯定できる要素がどこに?」


「それより、早く移動しましょう。濡れてしまいます」


「あ、そうだね」


「それと」


「え?」


 ぐい、と。美由さんが傘を持つこちらの手を握り、身を寄せてくる。


 自分の二の腕に彼女の華奢な肩がぶつかり、触れるか触れないかの位置に、見事な爆乳が接近してきた。


「え、あ、ちょ」


「こうすれば、2人とも濡れな……いえ。やはり耕太さんの肩が濡れてしまいますね。急いで移動しましょう」


「は、はい……」


「……やはり、もう少し密着すべきですね。そうすれば、濡れずにすみます」


「これぐらいで、勘弁してください……!」


「……?」


 不思議そうにしないでください、死んでしまいます。心臓麻痺で。


 サラリと、長い黒髪を揺らす美由さん。彼女の恐いぐらい整った顔に、否応なしに心臓がうるさくなる。


 周囲から流れてくる雨の臭いに紛れて、美由さんの石鹸の匂いが鼻をくすぐった。


 ……僕は今、もの凄く青春をしている!!


「わーお。何か青い春感が半端ねぇな。どうする、ここはいっちょ後ろから良い感じのBGM流す?」


「はわ、はわわわわ……!」


「え、マジでどうしたロッソん?病気か?体冷やした?」


「わ、吾輩も、いや、でも、あう……ううう……!」


 背後から変な会話が相変わらず聞こえてくるが、美由さんに引っ張られる様にして足を動かす。


 美少女と相合傘な状況に浮かれながらも、1歩進むごとに思考を切り替えていった。


 なんせ、自分達は。



 まだ行った事のないダンジョンへ、向かっているのだから。





読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。励みになっております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。



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― 新着の感想 ―
エロだぜー!あいつエロだぜー!
十分君はオタクだよ… あとロッソさんは未成年云々で人のこと言えないんだよなぁ!
>少し気になったが、遠い国の知らない誰かの死より、遅刻しない事の方が大事である。 言わば対岸の火事。遠くの親類より近くの他人。 こんなニュースは日常茶飯事ゆえどうしたって関心は薄くなるよね。 >未だ…
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