第4話 心を照らす光
王都へ続く街道は、朝霧に包まれていた。
道の両脇に立つ枯れ木の影が、ゆらりと揺れる。
その中を、アレンとブレイは黙って歩いていた。
「本当に来るのか?」
前を行くブレイが振り返る。
アレンは微笑んで頷いた。
「はい。僕、あなたの剣が誰かを守るところを見たいです」
ブレイは短く笑う。
「変な奴だな。戦えねぇくせに」
「戦えないから、見ていたいんです。誰かが誰かを守る瞬間を」
風が頬を撫で、空に薄雲が流れた。
二人の靴音だけが、霧の中に響いていた。
◆
昼前、山を越えると、丘の下に小さな集落が見えた。
だが近づくと、妙な気配に気づく。
家々の扉が閉ざされ、窓からは誰の姿もない。
村の中央に立つ井戸のそばには、壊れた桶と乾いた血の跡。
「……魔獣の仕業か」
ブレイが腰の剣に手をやる。
アレンは、井戸の前にしゃがんで跡を見た。
「足跡が二種類あります。追いかけるような形で」
「ほう、よく見てるな」
「村の人を連れ去った魔獣を、誰かが追ったんだと思います」
ブレイは小さく唸った。
「助けに行ったやつがいるのか……」
そのとき、森の奥から叫び声が上がった。
子どもの声だった。
「行きましょう!」
アレンは駆け出す。
ブレイが舌打ちしながら後を追う。
森の奥で、灰色の魔獣が子どもを追い詰めていた。
ブレイが剣を抜く。
「下がってろ!」
瞬間、剣光が閃く。
しかし魔獣は異様な速さで跳び退いた。
傷口が黒く染まり、再生していく。
「自己再生か……厄介だな」
アレンが叫ぶ。
「目が、痛そうです!」
魔獣の片目には棘のような傷が走っていた。
アレンは地面の小石を掴み、反対側に投げた。
魔獣が反応して振り向く。その一瞬の隙を、ブレイの剣が突き抜けた。
獣が崩れ落ち、森に静寂が戻る。
子どもが震えながら言う。
「お兄ちゃん、ありがとう……」
アレンは微笑んで手を差し出した。
「もう大丈夫。怖かったね」
子どもは泣きながら頷き、アレンに抱きつく。
ブレイは剣を納めながら言った。
「お前、よう動いたな。戦えねぇくせに」
「戦えないけど……誰かの痛そうな顔は、見ていられません」
ブレイは小さく笑って頭を掻いた。
「まったく、いい目してるぜ」
そのときだった。
森の奥、影が揺らいだ。
黒衣を纏った人物が立っていた。
顔はフードに隠れ、表情は見えない。
「……見つけた」
その声はかすれていたが、どこか懐かしさを帯びていた。
アレンが振り返ると、その姿はもう消えていた。
「今、誰かいましたか?」
「いねぇよ? 気のせいじゃねぇか」
ブレイが首を傾げる。
アレンは胸に手を当てた。
ほんの一瞬、心臓の奥が熱くなった。
まるで、何かが“呼んでいる”ような――
そんな奇妙な感覚。
だが彼は首を振り、微笑んだ。
「いえ、なんでもありません」
子どもの手を握りながら、森を出る。
木漏れ日の下で、アレンの掌が淡く光った。
その光は一瞬で消えたが、
誰も、そのことには気づかなかった。




