第1話 神殿の鐘が鳴る
朝の霧が、村を包んでいた。
山の上に建つ白い神殿から、澄んだ鐘の音が響く。
それは、子どもたちが「神よりスキルを授かる」時を告げる音。
村中がそわそわと浮き立ち、家々の扉が一斉に開く。
「アレン、早く! 今日はお前の番だろ!」
友人の少年が手を振る。
アレンは笑って頷いた。
「うん、すぐ行くよ」
彼の胸は、不安と期待でいっぱいだった。
スキルとは、生まれながらに神から与えられる“才能”だ。
それが高ければ貴族にもなれ、低ければ一生、下働き。
アレンはこれまで、努力家として知られていた。
「きっといいスキルをもらえる」――誰もがそう信じていた。
神殿の中には、白衣を纏った神官が立っていた。
中央の祭壇には、古代の魔法陣が淡く光っている。
順番に子どもたちが立ち、手を置くたびに、声が響く。
「スキル:剣術Lv4!」
「スキル:火魔法Lv3!」
「スキル:癒やしの手Lv2!」
そのたびに歓声が上がり、親たちが涙を流す。
幸せな光景。
だが、アレンの順番が来たとき――空気が変わった。
アレンが祭壇に手を置く。
淡い光が灯り、静寂が訪れる。
神官の瞳が揺れた。
「……結果が、出ません」
その場の空気が凍りつく。
「……どういうことですか?」と、誰かが呟いた。
神官は震える声で答える。
「スキル、ゼロ。神の加護は……与えられていません」
どよめきが広がった。
「まさか」「ゼロだと?」「そんな子、初めて見た」
アレンの母は口元を押さえ、父は俯いた。
アレンは小さく笑った。
「……僕、神様に嫌われちゃったのかな」
その笑顔が痛かった。
村人たちは目を逸らし、やがて誰も、彼に声をかけなくなった。
◆
翌朝、家の前には荷物が置かれていた。
父が言う。
「お前のことを悪く言いたくはない。だが……村には、お前の居場所はない」
母は泣きながら、握り飯を包んだ。
アレンは静かに受け取る。
「ありがとう。僕、きっとどこかで役に立つから」
その笑顔は、昨日よりも少し寂しかった。
丘を越えると、村の鐘が遠くに聞こえた。
背を向けて歩くアレンの背中に、朝日が差し込む。
彼は振り返らない。
> 「僕は、なにもできないけど……誰かのために、生きてみたい」
その言葉を最後に、少年は霧の中へと消えた。
まだ誰も知らない。
この“無能力の少年”が、のちに世界を変えることを。




