北へ。2
あれから数時間が経ち、現在一団はその動きを止めていた。
沈みかけた太陽の光が気まずそうなカリアの顔を照らしている。
「だ、大丈夫ですかい?お客さん。」
カリアは馬車の荷台ですっかり芋に埋もれたタツキへと話しかける。
「これが大丈夫に見えるか。」
芋の海からその仏頂面だけを出してタツキが答えた。
「あっはは、、、袋の口が緩んでたかな。、、、一旦休憩なんでおろしやすね。」
カリアは頭をポリポリと掻いてタツキを掘り起こす。
そのまま荷台を降り、兵士たちが設営する簡易キャンプまでタツキを案内した。
「旦那ぁ、お客さん連れてきやしたぜ。」
「ああ。」
カリアが話しかけたのはこの護衛隊の隊長である。
隊長は何かの書類に目を通している最中で、カリアのほうを見もせずに素っ気ない返事だけを返した。
それについて特に気にする様子もないカリア。
「しかしまだ夜は冷えますねー、お客さん。」
「あ、ああ。」
タツキは「その軽装のせいだろ」と思ったが声には出さず、キャンプの中を無遠慮に進むカリアの後に続く。
「さーてと。」
キャンプの中心、大きな焚き火の前に座らされたタツキ。
カリアはその前にしゃがみ腰に差したナイフを引き抜いた。
「、、、え?」
カリアの様子から敵意は感じられないがその行動の意図が分からずタツキも困惑する。
「、、、?お、おい!カリア!お前何してる!!」
それを見た兵士は見事な二度見を披露してから小走りで駆け寄ってくる。
作業をしていた兵士たちもその騒ぎを聞いて集まってきた。
「何って縄を切るんですよ。あらら、こんなにきつく結んで。赤くなってるじゃないですか。」
カリアは「うぃー、痛そう、。」などと言いながら、何の躊躇いもなくタツキの腕を縛る縄にナイフをかけた。
もちろん周りの兵士がそれを黙って見ているはずもない。
カリアの肩をつかんで無理矢理に引きはがす。
「ちょちょ、痛い。何するんですか。」
「それはこっちのセリフだ、カリア。貴様何を勝手な真似をしている。」
騒ぎを見ていた隊長は地面に座る形となったカリアの前に立ち、低い声で問う。
兵士はみな、抜きこそしないものの剣の柄頭に手を置いている。
カリアの行動にタツキも困惑したが、兵士たちはそれ以上に困惑しているようだ。
「だってこれじゃご飯食べれないでしょうに。」
明らかに警戒している兵士に囲まれれば多少はビビりそうなものだが、当のカリアは悪びれもせず、さも当たり前のことかのように言って見せた。
「それにエンシェリク王の館まで届けるんですよね?そしたらこの人どうするんです?」
「そこからはこいつの勝手だ。命令がない限り我々はそれ以上の介入をしない。」
「だったら向こうについて自由にするのと今ここで自由にするの、大した違いはないと思うんですがね。」
タツキを見ながら「何か悪いことをしたわけでもあるまいし」と笑うカリアの発言に一理あると思ったのか兵士たちはお互いの顔を見合わせる。
「ま、いいですよ、それじゃあ。、、、ただ到着まであと3日もあるんだ。その間のご飯やトイレの世話はあんたらに任せやすぜ。あっしの仕事は運送であって介護じゃないんでね。」
カリアの言葉にひとまず敵意はないと感じとったのか、兵士たちは剣にかけた手を下ろす。
自然と皆の視線が隊長に集まった。
「はぁ、、、わかった。拘束を解いてやれ。」
隊長は少し考えた後苦虫を噛み潰したような顔でそう言った。
「うぃ。」
カリアは短く返事をすると、地面に転がった鈍色のナイフを拾い上げ、あっという間にタツキの拘束を解いてしまう。
「、、、ありがとう、ございます。」
くっきりと縄の跡がついてしまった自分の腕をさすりながらタツキが言う。
それにカリアはいつもの笑みを向ける。
「気にしないでくだせぇ。大体話は聞きましたし。犯罪者でもないのに拘束するなんて、まったく何考えてんだか帝国の連中は。」
ここに来てカリアという初めての良心に触れたタツキは、少しだけ心が浄化されるのを感じた。
そしてこの男から受けた恩は必ず返すと誓いを立てた。




