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テラリ・マキア

「お待ちください陛下!」


荒ぶるラハトの声は困惑で揺れていた。

その言葉は皇帝カーロイスに対し発せられたものであるが、視線は目の前で取り押さえられる二十歳そこそこの青年に向けられている。


勇者になることを決意したタツキはラハトと共に皇帝のいる部屋へと戻ってきた。

しかしそこで待っていたのはいきなり多数の兵に囲まれ地面に押し倒されるという予想もしない歓迎だった。


「な、何があったのです!何故勇者様にこのようなことを!」


「んーんーーー!」


鎧を着た男数人に体を固定され、口には布をねじ込まれたタツキ。

できるのは唸り声を上げることだけ。

この場で唯一ラハトのみがタツキの味方であり、皇帝へ抗議をしてくれている。

指一つ動かせないこの状況ではラハトに任せるほかない。


「ラハトよ、その者は勇者ではない、、、帝国の勇者にはなり得ない。」


皇帝は失望の眼差しでタツキを睨みつけ、ため息交じりに言い放った。


「どういうことです!」


食い下がるラハトの足元にひとつ、紙屑が投げ捨てられる。


「これは、。」


苛立ちをぶつけるかのようにくしゃくしゃに丸められた紙が、ラハトの萎えた指により丁寧に開かれていく。


「その者は、、、第三世界 テラリ・マキアの者だ。」


「では仕方ありませんな。」


「ひひーーー!!」


タツキは「ここは庇ってくれる流れだろ!何あっさり諦めてんだよ!」と文句を言ってやりたかったが、この状態でそんな長文を話せるわけもなく、かろうじて発せそうだった「ジジイ」という暴言を叫んでみるがそれすらも馬の鳴き声のようになる始末。


「首を刎ねたのち、魔粒子分解機にかけよ。次の召喚の糧とする。」


「「「はっ!」」」


めんどくさそうに手をフラフラと動かす皇帝の合図で兵士がタツキを引き摺るようにして連行する。


「陛下、しかし、、、。」


「なんだラハト。」


ラハトは言うか言うまいかを少し悩んだ末、一歩皇帝の近くに寄り、囁く。


「彼の者を殺してしまうというのは、なんとも勿体ないと申しますか、。」


「、、、。」


ラハトの発言を受け、皇帝は無言で手を上げる。

それを見た兵士たちはタツキの運搬を中止する。


「続けよ。」


「はっ、彼の者ですが、少々記憶の混濁が見られるとは言えほぼ完璧に近い状態での召喚例です。その学術的価値は非常に高い。魔粒子分解機にかけて得られる魔力量など召喚時に消費した量の1割にも満たない。であれば生かして研究に利用した方が有益かと。」


叱責を受けなかったことに安堵したのか、ラハトはずいぶんと早口で語る。


「、、、一理ある、であれば地下牢に繋いでおくか。」


「いやいや、ご覧ください。彼の者のステータスを。」


「、、、これがどうした。」


ラハトは心底面倒くさそうに問う皇帝の言葉を待っていたと言わんばかりに口を開く。


「このスキルの数々、確かに戦闘ではさほど役には立たないでしょう。しかし戦争で疲弊した我が国の復興に大いに役立ちます。、、、屋敷の一つでも与えて城より追い出せば我ら帝国もそれ以上のコストを払うことなく恩を売れる、あとは必要なときに報酬をちらつかせ参上を命じれば彼の者も喜んで食いつくことでしょう。」


「ふむ、、、確かに北の蛮族はそろそろ片が付く。円卓協商もプロレティアの連中と揉めていると聞くし、多くの犠牲は出したが我らの勝利も近い。そろそろ民のことを考える時期かもしれぬな。」


タツキは思う。

「おかしい、自分が聞いた話と全然違う」と。

ラハトは、帝国が全方位のあらゆる国家から集中攻撃を受け、今この時も領土を略奪され続けており今にも負けそうだ、と話していた。

だが今の話だとむしろ勝っていそう。こんな矛盾が生まれる理由は一つ。


「(謀ったな!ジジイ!!!)


タツキは思いつく限りの暴言をラハトに浴びせる。

しゃべれないので心の中で。


「しかし、生かして帝国に不利益はないか。」


「問題ございません。ステータスによれば身体能力は平凡も平凡、魔力適性は高いですがこの魔力量では強力な魔法も使用できない。つまりコタマ タツキは帝国にとってなんの脅威にもなり得ません。」


「よし。」


「(よし。じゃねぇよゆでだこ野郎、全部聞こえてるわ)」


皇帝がラハトを近くに寄せ、耳打ちをする。

その後ラハトは皇帝に深々と一礼し正面へと向きなおる。


「皇帝陛下により、今、帝国の意思が決せられた!」


ザッ!!


ラハトの一言で全兵士が敬礼をする。


「コタマ タツキは帝国の勇者としては不相応である。しかし我らが皇帝陛下の御慈悲により、彼の者には北方に館を与えることとなった!コタマ タツキは陛下より賜りし恩義に報いるその時まで、自己鍛練を怠らぬよう!以上!」


「(なんで最後だけ耳打ちしたんだよ、ずっと聞こえてたわ、馬鹿なのか)」


心の中での悪態が止まらないタツキが兵士に引きずられていく。

ゴリゴリと地面の感触を味わうタツキの耳に、遠のいていく皇帝とラハトの会話が聞こえてきた。


「しかし31個も世界があってテラリ・マキアとは、、、余も運が悪い。」


「テラリ神の加護を受けた者はほとんど文献も残っていないため珍しいと言えば珍しいのですが、いかんせん能力がパッとしない者が多いという定説は誠のようですな。それにあの世界は魔法もないと聞きますぞ。」


「なに、魔法がない?魔法がなくてどうやって生きていくのだ。」


「さあ、、、なんとも想像がつきませんな、おそらく原始的な生活をしているのでしょう。」


「たしかにそう言われれば知性に欠く獣のような顔をしていたな。」


「ええ、お世辞にも勇者顔とは言えぬものでしたね。」


「(コイツラ シバク 絶対ニ)」


大人しく運ばれるタツキは二人の笑い声を聞きながらそんな誓いを立てたのだった。

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