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帝国の勇者

抵抗を諦めたタツキはラハトの後ろを歩く。


「、、、大人よ?大の大人の全力抵抗よ?なんで笑いながら勝てるの。」


純粋な力比べで老人に負けた。それもただの負けではなく、疑いようのない完敗。

その事実はタツキのプライドを粉々に砕き、結果タツキは小言を呟きながらフラフラと歩くゾンビのようになってしまった。


当のラハトはどこか満足気である。


「さあ、着きましたぞ、コタマ様。」


「あ、はい。」


ラハトは長い廊下の最奥にある一際大きな扉の前で歩みを止めた。

彼の合図で傍らに控えていたローブの男が前に出る。

男が手をかけると扉は、ギギギギッ、という大きな音をたてて開いた。


「え、、、。」


その先に広がる光景に、タツキは絶句した。

呼吸も忘れ動きを止めたタツキだったが、ラハトに促されるまま扉の先にあるバルコニーへ足を踏み入れる。


柵に手をかけ見下ろすと、タツキの眼下は漆喰の壁と石屋根でできた建物によって埋め尽くされる。

ひょこひょこと生える煙突から伸びた煙が、ゆらゆらと揺れては快晴の空に溶けていく。

街並みは遥か先まで続いており、目を凝らすことでようやく端と思われる巨大な壁が確認できる。


タツキのいる建物から壁まで伸びる一本の道。

そこに行きかう馬車と人。そしてこの街並み。

間違いなく日本ではない。


「ひぇ、、、。」


真下を見下ろしたタツキの口から絞り出したような声が漏れる。

足がすくむほどの高さ、この建物、相当でかい。

あの宮殿のような部屋からここまで歩いてきて薄々感じていたことではあるが、そんなタツキの予想など易々と超えてくるほどの巨大構造物。


ここでようやく理解した。

単に酔って宗教の施設に迷い込んだなんて話ではない。

自分は今、尋常ではない何かに巻き込まれているのだと。


「美しいでしょう、我らが帝国は。」


「、、、まあ、、、たしかに。」


透き通るような青い空に灰褐色の街並み、確かにきれいではある。

しかし、今のタツキにはそれ以外に考えるべきことが多すぎた。


皇帝を名乗る男とラハトの会話。

まるで意味の分からなかった情報の一つ一つがパズルのように組み上がる。

つまり、あれらの会話の意味は、。


「コタマ様はこの帝国の勇者として召喚されました。」


「ですよね、、、。」


こうもまざまざと現実を見せつけられてしまえば「何を馬鹿なことを」とは言えない。

タツキが25年で培ってきた常識がいとも簡単に崩れていく。


彼らの言葉の意味が分かったが、依然タツキは放心状態である。

ラハトはそんなタツキの横に立ち、見慣れているであろう街を眺めながらゆっくりと口を開いた。


「、、、帝国は現在多数の国家と戦争状態にある。戦況は、、、とても良いとは言えませんな。多くの英傑が死にました、。長引く戦争に民が、国が、疲弊している。我々はこの現状を一刻も早く打破し、国の立て直しを行わなければならない。そこで皇帝陛下より下された命こそ勇者の召喚。そして我らの声に答えてくださったのが、まさにコタマ様というわけです。」


「戦争?」


勇者という言葉から「仲間を集めて魔王討伐の旅」というのを想像していたタツキだったが、話は予想外にも国家間の戦争へと移っていく。

その後ラハトは熱心に各国との戦況、世界情勢、そして帝国の民が苦しんでいることを訴えた。

体が震えるほどに柵を強く握りしめたラハトからは、現状を憂う気持ちがひしひしと伝わってくる。


「、、、コタマ殿、やってくださいますな。」


「無理ですっ。」ニコッ


タツキは爽やかに言い放つ。


「すぅ、、、。」


決め顔でタツキに語りかけたラハトは、一旦街のほうへ視線を戻し深呼吸をする。

そしてゆっくりタツキのほうへ向きなおす。


「え?」


「だから、無理です。」


「い、いや!そんな!召喚の時は帝国の現状を憂い、待ってろ!すぐ行ってそんな奴らぶっ飛ばしてやらぁ!!とおっしゃっていたではありませんか!」


「記憶にございません。」


「えへぇ!?」


タツキ自身も思う。

今のは絶対に勇者になる流れだと。

しかし日本という平和な国でぬくぬくと育った若造が「今から戦争行ってね」と言われて喜び勇んで行くわけもなく、その上自分とは全く関係のない世界の話となるとなおのことである。


「、、、では仕方ありませんな。」


「(お、意外にもすんなりわかってくれた、まあ実際話とか聞いてると大変そうだし罪悪感も感じるけど戦争とか怖いし絶対無理、帰ってやることも山積みだし、すぐ帰れそうでよかったぁー)」


「まあ、元の世界には戻せんし勇者でない以上城に置いとくわけにも、、、陛下にどう説明しても死罪か奴隷落ちかな。」


「やります。」


「え?」


「不肖コタマ タツキ、勇者、、、やりますっ!!!」


勇者誕生の瞬間である。


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