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皇帝と怪力ジジイと。

この場において初めて聞く言葉が、意外にも訛りのない日本語であったため、記憶の海で必死に外国語の挨拶を検索していたタツキの口からはなんとも情けない音が漏れた。

まあ外国語が飛び出してきたとして、タツキに言えるのは「ハロー」「ニーハオ」「グーテンターク」くらいのものであるが。


「ご気分はいかがですかな。」


深く、重厚な声が広い部屋に反響する。

この宮殿の雰囲気も相まってそこには一種の神聖さすら宿っている。

しかしそんな問いかけも虚しく、いまだ状況のつかめないタツキは困惑で声が出せないでいた。


「ラハトよ、、、どうなっておる、余の言葉は通じておるのか。」


「ご希望の通り召喚術式を組んでおりますゆえ問題はないかと、しかし召喚の過程において脳にダメージがあったか、、、魔術情報部を呼んでみないことには、。」


言葉はわかる。ついでにあの幹部(仮)の名がラハトであるということもわかった。

だが話の意味が分からない。

タツキの脳は依然混乱を極めていた。

が、無言のままというのも気まずい。

タツキはひとまず謎の外国人集団とコミュニケーションをとることにした。


「あ、わかります、言葉。」


「おお、そうか、安心したぞ。」


タツキのそれはひどく飾り気のない返答であった。

「日本語お上手ですね」くらいの世辞も言えないのかと、タツキは自身の社会人力に失望すら覚える。

が、男は満足そうに笑っているので問題なし。


「では改めて、、、余はライヒ・ハインツ帝国現皇帝カーロイス・アールヴィヒである。」


「(、、、え?皇帝?、、ボケ?突っ込んだほうがいいのかこれ。)」


ボケであるならば突っ込まないわけにはいかない。

どんなにつまらないボケにも笑顔で突っ込む。これはタツキが社会人経験で培った対人の基礎である。

しかしあれがボケでなかったとき、突っ込みは不敬罪へと姿を変え、煌く槍が自らを貫くだろう。

究極の二択がタツキを襲う。


「(ど、、、どうする、行くか。行くべきかこれは。この絶妙な空気。ラハトさんの様子はどうだ、、、んー何とも言えない顔!くそっ!何の参考にもならん!うぐぐ、、、ええい、行ったれ!!)」


ザッ!!


タツキが渾身の突っ込みをすべく、その右手にエネルギーを集中させたまさにその時、周りにいた男たちが勢いよく背筋を伸ばし整列した。

これの意味するところは一つ。


「(あっぶねーーー!本物かよ!!皇帝ならもっと皇帝らしい格好を、、、はしてるか。)」


究極の二択を何とか耐えたタツキだが、その額には嫌な汗が滲んでいる。

あの言葉が本当かなどタツキからすれば知ったことではないが、少なくともここにいる武装集団はあの男のことを皇帝として扱っている。

不敬罪という見えざる剣は常にその首筋に突き付けられているのだ。


「して名はなんと申す。」


「は、はい、コタマ タツキと申します。」


「「「おぉ、、、。」」」


「うむ、コタマ殿であるな。さすがは勇者、ここらでは聞かぬ名だ。」


タツキが名乗るだけでどよめきが起こる。

何が「おぉ」なのか、そして何が「さすが」なのかは全然わからないがそれよりもわからないことがある。


「あの、大変申し訳ないのですが一つお伺いしてもよろしいでしょうか。」


「許可する。」


「、、、先ほどからおっしゃられている勇者というのは何なのでしょうか。」


この一言で空気が変わる。

皇帝を名乗る男の上がっていた口角は下がり、冷たい眼がタツキを映す。


「、、、ラハト、これはどういうことだ。勇者召喚には対象の同意が絶対条件ではないのか。、、、それともあれは勇者ではということか?」


「はっ、勇者召喚には対象の同意が絶対条件であります。またあの者は紛れもなく勇者でございます、陛下。」


「ではなぜ勇者コタマはあのようなことを?」


「(あ、ブチギレてる、これ絶対ブチギレてるよ、皇帝陛下、やばいやばい、あっ首が、首が離れる未来が見える)」


「召喚魔術は対象の肉体や精神に計り知れない負荷がかかります。その影響で記憶が混濁しているのでしょう。過去の記録を見れば人体の一部欠損や精神崩壊などはざらにあること。それを考えれば人格の破綻もせず、四肢の欠損もない今回の結果は大成功と言っていいでしょう。これはまさに帝国式宮廷魔術の粋。これもすべて陛下が先帝の遺志を継ぎ魔術教育に力を注がれた結果ですなぁ。」


「そうであるか、であればよい。しかしコタマ殿はひどく混乱しておられるようだ。ラハトよ、勇者殿に外を見せて差し上げろ。」


「御意に、ではその間、魔術情報部にコタマ様のステータスを調べさせましょう。」


「うむ。」


間抜け面で立ち尽くすタツキを置いて、どんどん話が進む。

自分は勇者などと呼ばれるほど大層な人間ではないし、なぜこのように丁重に扱われるのか、まるで分からない。

それに召喚、魔術、ステータスなど創作物でしか聞かないような言葉が当たり前に飛び交っている。

彼が疑問を解消するために投げかけた質問は、結果として疑問を増殖させた。


プチッ。


「いった!」


タツキは突如、頭頂部に針を刺されたような痛みを感じて飛び上がる。

振り返るとそこには1人の女性がいた。

薄い布をかけてはいるが、きれいな顔が透けて見える。

手には一本の”黒い糸”。


「あっ。」


その正体に気づいたとき、タツキは無意識に痛みの発信源を抑えていた。

美女は間抜けな顔で間抜けなポーズをした間抜けなタツキに一礼し、収穫したその髪の毛を大事そうに抱えて部屋の出口へと向かう。

だだっ広い部屋を優雅に歩く美女、なんとも言えない時間はしばらく続く。


「え、、、いやどういう状況、?」


美女がついに部屋を出るか出ないかというところまできて、タツキはボソッとつぶやいた。


「ささっ、コタマ様、こちらへ。」


そんなことはお構いなしにラハトがやってくる。

タツキとしては情報の整理がついていないのでまだ説明が欲しいところなのだが、ラハトはそれを許さない。


「や、ちょ!まだ全然状況が、!押さないで!ちっ、力が!強いっ!!!」


「はっはっはっ。」


いつの間にかタツキの真後ろに移動していたラハトは、その枯れ枝のような見た目からは想像もできないほどの怪力でタツキのことを案内(強制)する。


「せ、説明を!ちょっ、!まじで強い、、、!」


「はっはっはっ。」


「てかこのじいさんなんでさっきから笑ってんの!怖いんだけど!」

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