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「肉が入ってるじゃないですか!!!」


カリアは心底嬉しそうに叫んだ。

独り言と呼ぶにはいささか大きすぎるその声も、反応する者がいなければ独り言になる。

その点で言うと、カリアは特段独り言が多い男だと言える。


カリア自身、そんなことは慣れっこなのか、一切気にする様子もない。

並べられた皿を一つとって、鼻歌混じりに歩き出す。

それに続き、タツキも皿を取る。


「ん、、、?」


ふと視線を感じ、横を見るタツキ。

そこには鬼の形相でこちらを睨むヴィリの姿。


目が語りかけてくる。

「それに手を出すな」

と。


おそらくミレーネが盛り付けをした皿なのだろう。

そう考えてもう一度並べられた皿を見返すと、盛り付けが綺麗な皿と汚い皿が明白に分かれている。

タツキはこの盛り付けが"汚い"方の皿を戻すべきか悩んだが、気にせず持っていくことにした。


まだ全員分の料理の盛り付けが終わっていないヴィリは、正確に淡々と作業をこなす。

しかしその視線は一瞬たりともタツキから外れることはない。


「(いやどんな能力だよ)」


謎の才能を発揮するヴィリにツッコミつつ、カリアを探すタツキ。

理由は一つ。勉強会だ。


今は彼の勉強会が自分の命を繋ぐ唯一の生命線と言っていい。

なんとしてもこの不可思議な世界の常識を教わらねば。

そんな思いであたりを見渡すタツキ。


「肉っ、肉っ、美味しいお肉っ♪」


芝生の上で肉ダンスを踊るカリアを発見した。


「(あいつはあいつで何やってんだよ)」


彼がここで言う肉とは、干した肉ではない新鮮な肉という意味だ。

昨日は街道から少し外れた平地にテントを貼り夜を明かしたわけだが、その間近くの森に罠を仕掛けていたようで、今朝出発前に確認したところウサギが二羽かかっているのが見つかった。


皆がウサギと呼ぶそれは、タツキが知るところのウサギではなかった。

顔は確かにウサギだが胴体や手足がやや長く、全体的にでかい。


野性味あふれる表情にごわごわとした毛、そして中型犬ほどもある体躯。

コンクリートジャングルで育ったタツキが恐怖を感じる程度の迫力は十分にあった。


捕まえた際にはそれなりの騒ぎになったが、カリアはテントの中で二度目の睡眠を謳歌していたため気が付かなかったのだろう。


そんなカリアが歓喜するこの料理は、うさぎ肉に火を通してからほぐし、塩と香辛料で味付けしただけの非常にシンプルなものだ。


「んんん、んまぁぁぁああああい!!」


しかしカリアはこの反応。

自然とタツキの喉も鳴る。


タツキは手に持ったスプーンでひとかけらの肉をすくい上げ、それを自らの口へと運ぶ。


「ん、うまい。」


口の中に広がる肉の旨み。

かすかにレモンのような香りのする香辛料が肉の臭みを消していて、思いのほかさっぱりとした味わい。

そして、舌の上に残るピリリとした辛味が食欲を刺激し、もう一口食べたくなる。


タツキは思う。

「美味しいには美味しい。しかし、カリアの反応は大袈裟すぎる。」

と。


カリアがぐんぐんとその高さを上げたハードルのせいで、若干の期待外れ感は否めない。

だが、タツキからすれば本日のメインイベントはこれではない。

持っていた皿を置き、カリアへと向き直るタツキ。


「カリア先生、!」


「んぶっ、、、せ、せんせい、?」


ずいっと身を乗り出したタツキ。

その口から出た予想外の言葉に、カリアはむせる。


「先生、今日の授業を!」


そんなことはお構いなしにさらに身を乗り出すタツキ。


「ち、近いな。というかよしてくだせぇ。あっしは先生なんて呼ばれるような、。」


タツキの言葉を否定をしようとしたカリアの口が止まる。

真剣なその目を見て、この否定は何の意味も持たないということを理解したのだろう。


「まあ、授業なんて大したもんでもないですけど。」


ポリポリと頭を掻くカリア。


「ありがとうございます。」


深々とお辞儀をするタツキ。


「じゃあ、昨日の続きから。」


そうして二回目の勉強会が始まった。

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