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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【ホラー】おばけになる方法【短編】

作者: スケキヨ

※注意※

暴力・流血等の残酷な描写があります。作中の全ては実在の事件や人物と一切関係が無いフィクションです。

 Y子という女子中学生が死体で発見された。

 

 以下は検死結果の一部である。


・全身くまなく検査したが、骨折は無し

・顔面に多数の打撲痕。眼窩が腫れ上がり、右目はほとんど潰れている。殴打された可能性が高い

・背面、腹部に複数の切刺創(せっしそう)、両腕がとくに重篤。カッターナイフで切りつけたような浅い傷から、骨、内臓に及ぶものまでおよそ20数か所

・胃の内容物からは、複数の甲虫、芋虫、その他おおよそ自ら口にしたとは思えないおぞましい物が多数検出された。口唇、口腔内の傷跡から、無理やり食べさせられた可能性が高い

・膣口内におびただしい数の擦過傷(さっかしょう)。検出された体液はのちの検査でクラスメートの男子数名と一致

・手首、足首、太腿、首に索状痕(さくじょうこん)

(けい)()と頭部に複数個所の第二度熱傷。脚部、胸部にケロイド状の火傷跡有り。ヘアーアイロン、煙草等を押し付けたものと思われる

 

★★★

 Y子の遺体を他殺体として扱うかどうか、最後まで答えは出なかった。


 なぜなら、昼休み終わり、校舎の5階から飛び降り自殺をするY子の姿を、学校に居た大勢の人間が目撃していたからだ。

 

 映像記録もある。彼女が飛び降りる瞬間をスマホで撮影していた生徒達が、複数名居たのだ。


 どの映像も、視聴覚室のベランダの柵上で、奇妙な踊りを踊るY子の姿を捉えている。

 映像の中のY子は、発見時と同じ裸足で柵の上に立ち、民謡のような(ふし)(まわ)しに合わせてくねくねと体を動かし、やがてゆっくりと体を傾けると、校庭に向かって落下する。生徒の絶叫。暗転。

 

 Y子が落ちる前と落ちていく映像はあったが、落ちた後や、地面に叩きつけられる映像は、なぜかひとつも見つからなかった。


★★★

 遺体の損傷の内訳は、いくつかの古傷を除いて、全て数日か数時間以内につけられたものだった。

 しかし、両親を含む周囲の人間から、Y子が死亡する前後に怪我をしているのを見たという証言は上がらなかった。

 死の直前に撮影された映像がその証言を裏付けている。柵の上で踊るY子の、半そでから除く腕は、左右どちらも無傷だ。発見時には、骨まで到達する傷があったのに。

 Y子の体は、約15メートルの高さからコンクリートの地面に叩きつけられたにもかかわらず、骨折や脱臼などの墜落時特有の外傷が無かった。


 状況証拠は自殺を示し、遺体の状態は他殺を示していた。

 死因は不明だった。

 外傷は多岐にわたり、どれによって死に至ったか結論が出なかったのだ。

 結局、Y子がどうやって死んだのか、誰にも解らなかった。

 なぜ死んだのか、心当たりのある者は一様に口をつぐんだ。



★★★

 自室で発見されたY子の遺書には、不可解な一文が残されていた。


「■■(判読不能)が おばけになる方法 を 教えてくれた」


「おばけ になって ひとり のこらず ばかし てやる」


「ざま を みろ」



★★★

 8年後の19××年、28名の男女が急性心不全で同時に死亡した。


 かれらは全員Y子の元同級生だった。


 わたしの妹もその一人だ。


 赤い花模様の振袖姿で行ってきますと言った次の瞬間には、もう息をしていなかった。


 絶対に見るなと言い含めたのに、()(おお)いをめくった母は安置所で気絶した。


 もう、すべて、ずいぶん前の話だ。



★★★

 死亡前後のY子に外傷がなかったというのは、恐らく事実ではないのだろう。

 ただ上手に隠していただけで、ただ誰も気がつかなかっただけで、そういう、よくある話だ。

 ありふれた地獄だ。

 本来すべての子どもが守られてしかるべきで、それでいて大体の場合守ってもらえない、そういうおそろしいものから(のが)れられず、全部手遅れになって、最悪の結果になったのだ。


 わたしは運よく生き延びることができた地獄を、Y子という少女は生きられなかったのだ。


 自分の妹が、どこまで関与していたのか知らない。性格的に、積極的に(くみ)することはなく、傍観に徹していたのだろう。しかし、いずれにしろY子にとって妹は無罪足り得なかったようだ。


 おばけはだれひとり許さなかった。




医療、病理に関する用語の使い方が間違っていたらすみません。

読んでくださってありがとうございます。

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