最終章 透明じゃない私
翌朝、いつもの屋根裏で。
エリスは糸と布に囲まれながら、ゆっくり微笑んだ。
すべてが同じはずなのに、景色が少し違って見えた。
光の具合、針先の感触、自分の心の奥底まで。
「さて……今日は何を縫おうかな」
そのとき、小さくノック。
「おーい、入ってもいい?」とレオンの声。
彼が差し出したのは、青い小瓶。
「緊張しない香りだって。お祝い……というかお礼」
エリスは微かに頷き、小さく笑った。
次に、ドアが滑らかに開き、ミーナが新しい布を抱えて飛び込んできた。
「また布屋さん、行きましょう! 山ほど買ってきたんですよ!」
「今度みんなで行きましょうね」とエリス。
レオンもほほえんで言った。
「次のドレスは、自分のために縫ってみては?」
エリスの胸にぽっと温かいものが広がる。
「そうですね……そうしてみます。わたし自身のためのドレスを」
彼女は真っ白な布を見つめ、ふと思った。
「今日のテーマは、“未来色”かな。ちょっと照れますけど」
小さな笑い声が、屋根裏部屋に柔らかく響いた。
最後までお読みいだたき、ありがとうございました。繊細で孤独を抱える主人公が勇気を出して少しずつ成長し、自分の人生に対して積極的になっていく話を書きたくて書いてみました。拙い文章ですが、お付き合いありがとうございました。ほんのり幸せな気持ちになっていただけたら、嬉しいです。