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第9話 先生って昨日の事、覚えていないんですか?

 金色の髪と綺麗な青い瞳は由貴と全く似ても似つかないのに、どこか由貴っぽさを感じていた。

 全くの別人だという事はわかっているし、そんな彼女が俺の家で料理を振舞ってくれたのも謎である。ただ、作ってもらった料理はどれも美味しく、その美味しさだけでもこの女性の事を信用してもいいのだろうと思えていた。


 でも、この女性がいったい何者なのか、俺は知りたい。

 どうしても、この女性が何者なのか、知りたいのだ。


「今一度確認して起きたんだけど、ココって俺の家であってるんだよね?」

「もちろんそうだけど。私は自分の家によく知らない男を連れ込むほど危機意識が低くはないからね。普通に考えてよね」


 自分の家に知らない人を入れたくないという気持ちは十分に理解出来るのだが、知らない人の家に上がって料理を作るのもそれと大差ないと思うのだが。その事をハッキリと指摘しない俺は心のどこかでこの女性の事を恐れているのかもしれない。

 いくら美味しい料理を作ってくれているとはいえ、名前も知らないような女性が自分の家にいるというのは恐怖に感じてしまうかもしれない。


「何か言いたそうな顔をしているけど、私の言ってることがおかしいって思ってるの?」


 ココは素直に気持ちを伝えた方が良いのだろうか。

 自分の気持ちを素直に伝えることは大切だと教わっているし、日ごろから俺自身も隠し事をしないようにと生徒たちに言っているのだ。

 それでも、今の俺の置かれている状況を考えると、素直に伝えて良いものなのか悩んでしまうというのが正直なところだ。

 世の中、思っていることをすぐに口に出さない方が良いという場面だってあるはずなのだ。


「もしかして、私の事を何も聞いてないのかな? うまなちゃんからはちゃんと伝えているって聞いてたんだけど、あの子って人にちゃんと伝わるように説明するの苦手だったりするんだよね」


 ここで栗宮院うまなの名前が出てきたことに少しだけ安堵してしまったのだが、本当にこの女性が栗宮院うまなと知り合いなのかわからない。栗宮院うまなの連絡先を知っていれば確かめる事も出来るのだけど、残念な事に俺は栗宮院うまなの連絡先など知らないのだ。


「ちょっとうまなちゃん? このお兄さんにちゃんと説明して無いでしょ? そんなんじゃ私だけじゃなくこのお兄さんも困ることになるってわからないのかな? うまなちゃんの中では説明してたって言ってもさ、お兄さんは超能力者じゃないんだから伝わるわけないでしょ。誰もが私みたいに特別な力を持ってるわけじゃないんだからね。そりゃ、このお兄さんだって見どころはあると思うんだけど、今はまだそんな段階じゃないでしょ。だから、今度からちゃんと相手に理解してもらえるように伝えないと駄目だよ。うん、じゃあ、お兄さんに変わるから説明してもらっていいかな? 何、今更あらためて説明するのが恥ずかしいって、そんなこと言ってもダメ。ちゃんとうまなちゃんの口からお兄さんに説明して。うまなちゃんがちゃんと説明しないと、今度からご飯作ってあげないからね」


 金髪の女性から電話を受け取った俺は相手の言葉を待っていたのだが、お互いに何も言わずに無言の時間が続いていた。

 電話の向こうにいるのは十中八九栗宮院うまななのだろうが、俺は電話の相手に向かって何を言い出せばいいのか迷っていた。


「ねえ、イザーちゃん、ずっと無言なんだけど。これって、もう先生と代わってるの?」

「ごめん、電話を代わってもらってたよ」

「うわ、びっくりした。代わったなら代わったって言ってくださいよ。変なこと言っちゃうところでしたよ」

「変なことって、あんまり今の状況も飲み込めてない俺を混乱させるようなことは言わないで欲しいな」

「そうそう、ソレなんですけど。先生って昨日の事、覚えていないんですか?」

「昨日の事って、外でお酒を飲んだところまでは覚えているんだけど、それ以降の事は思い出せないんだよ。何となくだけど、懐かしい声を聞いたような気がしてるんだ」

「ああ、それなんですけど。多分、先生の脳が処理能力の限界を迎えて落ちちゃったんだと思いますよ。落ちちゃったって言っても、脳に深刻なダメージを与える事は無いんで安心してくださいね。壊れそうになったら防衛本能が働いて強制的にシャットダウンされただけですから。あのまま続けてたら先生はユキちゃんともっとお話しできたと思うんですけど、今の先生がユキちゃんとお話ししてたら死んでたかもしれないですからね。そうならなくて良かったですよ」


「ごめん。何一つ理解出来ないんだけど。どういうことなのか俺にもわかるように教えて貰ってもいいかな?」

「ええ、面倒くさいな。私はこれからちょっと用事があるんで、そこにいるイザーちゃんから聞いてください。私よりもイザーちゃんの方が説明が上手だと思うんで。じゃあ、また学校で会いましょうね。バイバイ」


 一方的に切られた電話を手に呆然とする俺とそれを見て全てを察した金髪の女性が深くため息をつい。

 学校での栗宮院うまなはもう少し落ち着いていて配慮の出来る生徒だと思っていたのだが、昨日から彼女に対するイメージが崩れているような気がする。


「ごめんなさいね。あの子ってオンオフの切り替えがちょっとおかしいところもあるのよ。悪気は無いと思うんだけど、私からあらためて説明させてもらいますね。それと、説明が終わったら、一度うまなちゃんに会いに行きましょうね」

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