表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生やり直しには代償が必要なんですが、覚悟は出来てますか?  作者: 釧路太郎
先生とうまなちゃん

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/27

第21話 お兄ちゃんは本当の事を知りたいって思うかな?

 運動も勉強も大好きな由貴が野球部のマネージャーの手伝いをするという事を聞いた時、誰もが意外に感じていた事だろう。小さなころから快活で誰からも愛される主人公のような由貴が裏方と言ってもいいマネージャーをするという事は他人から見ると不思議な感じに思うかも淹れないが、俺たち家族からしてみるとそこまで不思議な事とは思わなかった。

 むしろ、小さい時は親戚しかいない場だったとしても人前に出るのを嫌がるような引っ込み思案な女の子だった。周りに期待されると頑張ってしまうところはあったが、基本的には自分から目立つようなタイプではない。それを考えると、由貴がマネージャーの手伝いをするという事は何らおかしいとは思わなかった。ずっと目立っていたことの方が不思議に感じていたくらいなのだ。

 それを理解してくれているからこそ、由貴の親友のあの子はマネージャーになろうと誘ってくれたのかもしれない。ただ、色々とあって正式にマネージャーになるという事は選ばなかったようなのだが、そこも由貴らしいと言えば由貴らしいのかもしれない。


 由貴が自ら命を絶つことになったきっかけの一つが野球部に関わったから。それは何となく感じ取ってはいたけれど、イザーちゃんにハッキリと言われるまでは違う可能性もあるのではないかと思っていた。野球部が由貴を追い詰めた、なんてことを考えたくはなかったからなのかもしれない。

 今や日本を代表するプロ野球選手の一人となった彼が由貴を追い詰めた中の一人だとは思いたくなかった。直接関わったことが無いので詳しく彼の人となりを知っているわけではないが、普段の彼の言動やたまに見るテレビでの姿からはそのような人間だとは思えない。テレビや雑誌で見かける姿からはとてもではないが、俺が考えているようなことが出来る人間だとは思えないのだ。聖人君子と言っても過言ではないように思える。

 もしかしたら、それらの行動は全て由貴に対する後悔からくるものなのかもしれない。

 そんな事をふと考えてしまっていた。


 それを確かめるためにも、イザーちゃんにちゃんと話を聞くべきなのはわかっているが、今の俺がソレを聞いて全てを受け入れることが出来るという自信はない。自信がないどころか、あの彼が裏ではそういう事を平気で行うことが出来る人間だと知ってしまうと、誰を信じて良いのかわからなくなってしまいそうだ。

 結局、俺は真実を知ることで自分の気持ちが変になってしまうのではないかという思いが強いだけなのかもしれない。

 俺は、今まで知らなかった真実を知ったことでこれからの人生が復讐のためのモノになってしまうかもしれない。復讐のために生きることが怖いだけなのかもしれない。


 由貴が野球部に関わっていた期間はそれほど長くはなかった。

 休日の練習を手伝う事はあったけれど、試合を見に行くことはなかったと思う。練習ではマネージャーの手伝いをすることはあったようだが、正式な部員ではない由貴が試合の最中に出来る事は無かったとのことで、野球部の試合がある時は家族で外食をすることがほとんどだった。

 由貴の好きなファミレスのハンバーグを食べに行くのが恒例になっていた。今でも家族でそのファミレスに食べに行く事はあるのだが、なぜか誰もハンバーグは食べない。あの時に自分たちが食べていたものを黙々と口に運ぶだけの時間なのだ。由貴がいた時を思い出すかのように、俺たちは毎回同じものを同じ順番で食べているのだ。

 そんな日常も変化してしまうのではない。俺の両親はきっとイザーちゃんの話を聞きたいとは思わないだろう。俺だって聞きたいとは思わない。

 真実を知りたいという気持ちはあるのだが、今更それを知ったところでどうする事も出来ないという気持ちもあるのだ。

 もしも、過去に戻ることが出来るのであれば、由貴に野球部と関わるなという事が出来たのかもしれない。

 イザーちゃんの話を聞く前からそんな事は何度も何度も考えていたのだけれど、由貴の死に野球部が深く関わっているのが事実だという事を知った今は、以前よりもずっとずっと強い思いとなっている。それは間違いない事なのだ。


「そんなに怖い顔をしないで欲しいな。私といる時はもっと気軽に楽しく過ごしてくれたら嬉しいんだけど」

「ごめんごめん。でも、俺がぼんやりと考えていたことを正解だって言われたみたいで、ちょっと考えこんじゃってたよ」

「まあ、お兄ちゃんもパパさんもママさんもそうなんじゃないかって思ってとは思うよ。何となくは気付いていたんだろうけど、やっぱりそうだったんだって思っちゃうと考えこんでしまうよね。それはわかるよ。で、お兄ちゃんは本当の事を知りたいって思うかな?」


「思うけど、本当の事を知りたくないって気持ちもある。今の俺が本当の事を受け入れることが出来るのか不安な気持ちもあるんだよ」

「そう思うのもわかるよ。でも、そこまで思いつめるような事ではないかもよ。お兄ちゃんはあのプロ野球選手が深く関わってるんじゃないかって思ってるんだろうけど、どっちかって言うとあの人はユキちゃんを守ろうとしていた側の人だからね。というか、野球部のみんなはユキちゃんの味方だったんだよ」


 俺はてっきり、部員たちが由貴に対して酷いことをしたのではないかと考えていた。

 思春期真っただ中の飢えた獣のような奴らが何かしたのだと思っていたけれど、そうではないという事は一体どういうことなのだろう。

 俺の頭はただただ困惑しているだけであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ