表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/27

第20話 私にはわからないかな。

 この街に限って言うと、栗宮院うまなはかなりの有名人なのだ。この学校だけではなく近隣の高校でも良い意味で名は知られているし、彼女の事を悪く言う人は見たことが無かった。

 中には妬みや僻みによる陰口をたたく者もいたようなのだが、誰からも話を聞いてもらえずに孤立していった。一度でも彼女に接したことがある者は、彼女から発せられる不思議なオーラによって魅了されていると言ってもいいような状況になっていた。ただ、俺自身は彼女と接してもそこまで強い力を感じる事は無かった。小さな子供も老人も、男も女も関係なく、彼女に接したことがある人は皆そのようなオーラを感じたと言っているのにもかかわらず、俺だけがソレを感じることが出来なかったという事なのだ。


 そして、この街出身の有名人はもう一人いる。

 彼は今年の活躍次第ではメジャーリーグに挑戦すると言われているプロ野球選手なのだ。俺の出身中学の後輩であり妹の由貴と同級生であった男なのだが、由貴の葬式には参加していなかった。というよりも、由貴の葬式は身内だけで執り行ったので家族以外は参加していないというのが正しい表現なのかもしれない。

 由貴のクラスでは送る会を行ってくれたという話を聞いていたし、由貴と仲の良かった野球部のマネージャーをしている女の子からクラスのみんなが泣いていたという話も聞いていた。野球の大会で活躍していた彼も人目をはばからずに泣いていたという話を聞いていたし、野球部の他の子たちもみんな憔悴していたという話も聞いていた。

 もちろん、野球部以外の生徒たちも由貴のために泣いてくれていたという事だったのだが、俺が聞いたのは野球部の子たちがとても辛そうにしていたという事だった。マネージャーの手伝いをしていた事もあったからだと思うのだが、由貴が亡くなる少し前に練習を見に行かなくなったことが何か関係しているかもしれないとは思った。そう思ってはいたけれど、由貴から野球部の事を聞いたことが無かったのでどんな関係だったのかはわからない。

 もしかしたら、野球部のみんなから好意を寄せられていたという可能性もあるのだろう。贔屓目に見ても由貴は可愛らしかったと思うし、性格も悪くなかったと思うので年頃の男の子から好かれる要素は多分にあったと思う。俺の妹ではなくクラスメイトだったとしたら、由貴と話が出来た日は幸せな気持ちになっているような気もしていた。可愛らしく明るい女のである由貴が自ら命を絶ったというのは衝撃だったと思うし、何の前兆も無かったことからもショックは大きかったのかもしれない。

 その後も野球部が活躍して全国大会まであと一勝というところまで行ったのは、天国に旅立った由貴も喜んでいることだろう。

 そんな彼は野球の名門校へと進学し、二年生になってから不動の四番として甲子園でも活躍をしていたのだ。地元を離れてしまったとはいえ、彼の活躍はこの町の誇りとして大いに盛り上がっていた。甲子園の活躍だけではなく、その後のプロ野球セ飲酒としての活躍も目覚ましいものがあり、今では日本を代表する天才の一人として誰もが知る存在となっているのだ。

 彼の自伝の中に少しだけではあるが、由貴の事について触れられていた。当然由貴の名前は出ていないのだが、クラスメイトが突然亡くなったことのショックを乗り越えたことが彼の気持ちを奮い立たせる要因になったそうだ。由貴の死は誰にとっても辛いものだったのは事実だが、それを乗り越えることが出来て今の活躍があると言ってくれるのは嬉しいと思っていた。名前を出すことが出来なかったとにしろ、わかる人が読めば誰の事なのかわかるというのも嬉しく思う事になるのだ。


「この野球選手ってこの町の出身なんだってね。世間ではうまなちゃんとこの選手ってどっちが有名なんだろう?」

「世間ってくくりだったら、栗宮院さんよりも彼の方が有名なんじゃないかな。野球を見てる人だったら知らない人はいないだろうし、栗宮院さんが有名って言ってもこの町に限った話になるでしょ?」

「うまなちゃんは世界に名を轟かせているんだけどな。お兄ちゃんは知らないだけで、うまなちゃんのことを崇めている人は古今東西数えきれないほどいると思うよ。過去未来問わずだったらとんでもない数になっちゃうと思うし」

「古今東西過去未来問わずって、古今東西過去はまだわかるけど未来を含めるのはズルいんじゃないかな。そんな事を言ったら、この彼だってメジャーに行って活躍したらとんでもない数の人に知られることになると思うよ」

「そうは言っても、スポーツの世界の話だからね。うまなちゃんの場合はそういった括りもないし、なんだったら地球人以外にも知られている可能性だってあるんだよ」


 未来とか地球人以外とかを入れられるとどう反応していいのかわからなくなってしまう。

 それこそ、未来を含めると彼の方が知名度が高くなってしまうんじゃないだろうか。野球は一部の地域で人気だと言われているが、今では世界各地でも広く行われている。アメリカ以外にも強い国はたくさんあるし、日本に限って言えば一番有名なスポーツと言っても問題無いだろう。

 それを踏まえたうえで考えても、栗宮院うまなよりも彼の方が知名度があると言って問題ない。もしかしたら、俺の知らないところで栗宮院うまなが有名なのかもしれないが、それはオレの知らない世界の話なのだろうな。


「ちょっと待ってもらっていいかな。さっきの話と今の話って繋がってるの?」

「さっきの話と今の話ってどういう意味?」

「由貴がどんな目に遭ったか知ってるってのと、あの彼の話ってリンクしてる?」

「うーん、繋がってないとは言い切れないんだけど、直接どうこうしたってわけじゃないんだよね。間接的には関わってるんだけど、その話を聞いてお兄ちゃんがどう思うかは、私にはわからないかな。お兄ちゃんはきっと、話を聞いた後にこんな思いをするんだったら最初から聞かなかった方が良かったって思うよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ