第16話 二人は俺の後をつけてたの?
傘を差した方が良いのか迷う程度の小雨が俺の気持ちをさらに萎えさせる。せめて気持ちの良い青空が広がっていればもう少し楽しい気持ちになれたのだろう。それでも、そんな事を顔に出さないように気を付けて俺は明るく振舞っていた。
誰かにイザーちゃんと一緒にいたことを聞かれてもごまかせるようにと考えての行動なのだ。
昨日の晩からずっと考えてはいたのだが、どうしてもうまくごまかす方法が見つからない。どんな事を言っても言い訳にしか聞こえないと自分でもわかっているのだ。
それなのに、誰一人として俺にイザーちゃんのことを聞いてくる生徒はいなかった。
「昨日は私と三上ちゃんの二人で買い物に行ってたんだけど、その時に先生を見かけたよ。話しかけようかちょっと迷ったんだけど、一人でオムライス屋さんから出てきたところだったから話しかけない方が良いんじゃないかって遠慮したんだよね」
「そうなの。私達って意外と気を使えるからね。カップルだらけのあの店に一人で行くような先生に声をかけるのも良くないんじゃないかなって思ったんだよ。その後にも、先生がパフェを食べてるの見ちゃったんだけど。もしかして、先生っていつか彼女が出来た時のデートプランとか考えて下見してたわけじゃないよね?」
イザーちゃんと一緒にいるところをこの二人は見ているはずなのに俺は一人だったという。四人で会話もしていたし、なんだったらイザーちゃんはこの二人が好きそうな余計なことまで言っていたのだ。それなのにもかかわらず、彼女たちは俺が一人だったという。
俺が話したと思っていたのは佐藤さんと三上さんではなかったというのだろうか。
いや、そんなはずはない。確かに俺はこの二人とあの店で会って会話もしたのだ。
一体、どういうことなのだろう?
「先生もそれなりに大人なんだからもっと大人っぽいデートプランを立てた方が良いんじゃないかな。オムライスを食べてパフェを食べてゲームセンターに行くって、中学生くらいまでじゃないかな?」
「私は結構好きだけど。でも、ゲームセンターはどう楽しんでいいのかわからないかも。私も佐藤ちゃんもゲームは好きだけど、ゲームセンターにあるようなのはほとんどやらないもんね。クレーンゲームだってあんまり得意じゃないし、先生って得意なの?」
「そこまで得意じゃないかもだけど、二人は俺の後をつけてたの?」
俺の質問に対して二人は顔を見合わせてからいつもの笑顔を俺に向けてきた。よく見る二人のこの笑顔は何かを企んでいるというものではなく、純粋に嬉しい時に見せるものだ。
と、俺は思っている。もしも、この屈託のない笑顔の裏に何か隠しているのだとしたら、俺は完全に騙されているという事になるのだ。
「後をつけていたって言うか、私たちがいこうと思っている場所に先生が先回りしてたんだよね」
「そうそう、私たちがいこうとしている場所に先生が先回りしてるんじゃないかって思ったくらいだったよ。他にも何人かクラスの子に会ったんだけど、先生が一人で何かしてるってみんな言ってたからね。昨日の夜はその話題で盛り上がったもんね」
「凄かったよね。クラスの女子みんなで先生と相性が良さそうな女の人がどんな感じか考えてたし」
「そうなんだよね。で、どんな感じの女の人が先生とお似合いだって事になったと思う?」
俺の話題でクラスの女子が仲良くなってくれるのはイイコトなのかもしれないが、俺にお似合いの女性がどんな人なのかなんて余計な話だろう。大体、俺にお似合いの人が決まったところで意味なんて無いのだ。俺に相応しい女性を決めたところで俺がその相手に出会う事は無いだろうし、出会ったところで付き合う事も無いだろう。
夢見る子供のお遊びだとは思うのだが、クラスの女子生徒の意見を聞いてみたいという気持ちも少しはあったのだ。
「俺にお似合いって、どんな感じなんだろ。あんまり変なタイプじゃないといいかも」
「まあ、意外な結果になったとだけ言わせてもらおうかな」
「そうなんだよね。もっと揉めるのかと思ったけど、意外とすんなりと決まったよね。私も三上ちゃんも同じこと考えてたし、先生の事を見たって子の多くも私たちと同じ考えだったんだよ」
「なぜか生徒会長のうまなちゃんのことを推してる人もいたんだけど、さすがにそれは無いでしょってなったんだよね。教師と生徒とか良くないでしょって事で終わらせたんだけど、誰かが先生とうまなちゃんが一緒にいたって言ってたんだよね。そんなことあるわけないのにね」
その言葉を聞いて思い出した。
俺は生徒会長である栗宮院うまなと一緒に酒を買って歩いていたのだ。
誰かに見られるという事を考えると、イザーちゃんと一緒にいたところを見られるよりもまずいのではないか。生徒と教師が夜遅い時間に一緒にいるところを見られたなんて、弁明のしようもないのだ。
何を言ったところで悪い結果しかありえないだろう。
「うまなちゃんが外を出歩くことなんて無いのにね。家の仕事が忙しいっていつも言ってるし、そんな時間なんて無いのはみんな知ってるよね」
「だよね。何も知らない時は栗宮院家に憧れたりもしたけど、あんなに忙しそうな感じだって思ったら羨ましいよりも尊敬の方が強くなっちゃうよね」
「そうそう、私達普通の人にはあの生活は無理だよ」
「で、先生に一番お似合いだって決まったのは」
「なんと──」




