第14話 お兄ちゃんに質問があるんだけどいいかな?
佐藤さんと三上さんは映画の上映時間が近付いてきたためいなくなったのだ。
もしも、彼女たちが映画のチケットを先に買っていなかったとしたら、あの時間が永遠に続いたのかもしれないと思うと何ともいたたまれない気持ちになってしまった。
「お兄ちゃんの生徒さん達って面白い子なんだね。あんなに可愛らしい女の子と毎日一緒にいて楽しいでしょ?」
「楽しいとかそういう事を考えた事は無かったよ。クラスの子たちはみんな仲がよさそうでいいんだけど、あの子たちは結構先輩とかにも気に入られているんだよ」
「話していて思ったけど、あんな子たちなら誰からも可愛がられそうだよね。お兄ちゃん以外の先生からも評判良かったりするんじゃないかな?」
「どうだろう。人によってはあのノリがあんまり得意じゃない人もいるからね。生徒と教師って関係にちゃんと一線を引いている人ばっかりじゃないんでアレなんだけど、友達みたいな感じで接しているのは何人かいるのは確かだね」
「そんなもんなんだね。人間関係って大変そうだなっていつも思うんだけど、どうしてそれでもやっていこうって思うんだろ?」
「さあ、どうしてなんだろうね?」
すれ違う人の多くがイザーちゃんを見て一瞬止まっているのだが、こんな田舎にモデルみたいなスタイルの金髪美女がいれば見てしまうのは当然だろう。俺がすれ違っている立場だったとしても、みんなと同じようにイザーちゃんに見とれてしまいそうだ。
ん?
最初に見た時とイザーちゃんの姿が違うような気がするんだけど、こんなに身長が高くてスタイルも良かったっけ?
もう少し可愛らしい感じの女の子に近かったような気もするのだけど、誰かと間違えているという事なのか?
「あれ、何か気になることでもあったのかな?」
「気になるというか、イザーちゃんが何だか別人のように見えてしまって」
「ああ、それな。それは気にしなくてもいいよ。私の事はすぐに忘れちゃうのが普通だから。私と一緒にいない時間がちょっとでもあると、私の事を忘れちゃうんだよ。だから、そんなに気にしなくても平気平気」
「そう言うのじゃなくて、家で一緒にいたイザーちゃんはもう少し子供っぽい感じだったような気もしているんだけど」
「ふーん、お兄ちゃんがご飯を食べていた時の私はそんな風に見えてたんだ。それとも、今の私が大人っぽいって思えてるって事なのかな?」
「大人っぽいって言うか、完全に大人の女性だよね。さっきまでもう少し幼い感じもしてたような気がするんだけど、そうでもないのかな? よくわからなくなってきたかも」
「まあ、そんなことどうでもいいでしょ。それよりも、何か美味しいものでも食べに行こうよ。せっかくこんな楽しそうなところに来たんだし、楽しまなきゃ損だよ」
イザーちゃんにおされるままに色々と店を見て回っていた。途中で何人かの生徒と遭遇はしたのだけど、佐藤さんと三上さんのように話しかけてくる生徒はいなかった。さすがに隠し撮りをしているような生徒はいなかったと思うんだけど、休み明けの学校は面倒な事になりそうな予感がしていた。明らかに視線を逸らしている姿を何度も見てしまったので、向こうも何か見てはいけないモノを見たとでも感じているのかもしれないな。
だが、いつもは来ないような店で人と過ごすというのは案外楽しいものなのかもしれない。一人では味わえないような体験が出来ているのはイイコトなのかもしれないけれど、俺が気付いただけでも十人近い生徒の姿を見かけたのはマイナスな事なのかもしれないな。
イザーちゃんと一緒にいることがマイナスだという事ではなく、休み明けの学校で生徒からたくさんの質問をされてしまうのだろうと考えると、今から憂鬱な気分になってしまうという事だけなのだ。そんな事で目立ちたいとは思っていないし、もう少し大人しく過ごしていたかった。
「ねえ、お兄ちゃんに質問があるんだけどいいかな?」
「俺に答えられる範囲でだったらいいけど」
「ここで食べたものの中で一番美味しかったものって何?」
「うーん、一番美味しかったものか。普段食べないものが多かったけど、その中でもオムライスは美味しかったかも。俺もたまに作ることはあるんだけど、やっぱり店で食べる方が美味しいと思う」
「そうなんだ。じゃあ、私が覚えてたら今度お兄ちゃんにオムライスを作ってあげるよ。料理にはそれなりに自信もあるからね」
「それは楽しみだ。イザーちゃんの料理は凄く美味しいからね。期待値がどんどん上がってるかも」
「自分で言うのもなんだけど、その期待には応えてみせよう。オムライスは作ったことなんて無いんだけど、ちゃんと練習しておくからね。私は人のマネをするのは得意だから、上手な人を見て勉強するんだ」
「イザーちゃんは何でも出来そうだもんね。料理も掃除も洗濯も凄い上手だもんね。尊敬しちゃうよ」
「そう言うお兄ちゃんこそ凄いじゃない。ちゃんと働いているのに家事もしっかりやってるんだもんね。今までそんな人は見たことなかったよ。こだわりとかもあったりするの?」
「こだわりとかは特にないかな。あんまり変なものじゃなきゃ大抵は気にしないからね」
「変なものは嫌だよね。ちなみになんだけど、お兄ちゃんが食べたいオムライスってどんな感じのやつかな?」
「オムライスにも色々タイプがあるもんね。でも、イザーちゃんが作りやすいのでいいと思うよ。作りやすいものが一番美味しいと思うし」
「うーん、練習してちゃんとマスターしておくね。お兄ちゃんに美味しいって思ってもらいたいから、私も頑張るよ」




