第11話 お兄ちゃんの部屋にお宝はないのかな?
金髪の女性、イザーちゃんと一緒にご飯を食べてまったりとした時間を過ごしてしまったのだが、このままのんびりと過ごしているわけにはいかないという事を思い出した。
今日は学校も休みなので仕事はないのだけれど、俺にはやらないといけないことがある。洗濯は乾燥機付きの物を奮発して買ったのでたまってはいないのだが、掃除や買い出しなんかはまとめてやっておかないと俺の生活が破綻してしまう。掃除くらい手を抜いても問題無いと最初は思っていたのだけれど、俺の性格を考えると一度でも手を抜いてしまうとソレが当たり前になってしまって、何もやらないという事が当たり前になってしまうのだ。
誰かを家に呼ぶなんて事は無いので問題はないのかもしれないが、そんな適当な生活を送っている人間が生徒を指導することなどあって良いものなのかと自問自答した結果、最低限の家事は必ず行うという自分ルールを課しているのだ。
さて、お掃除ロボットでは手の届かない部分の掃除をしようと埃取りを手に持ったのだが、俺の視界にはまるで掃除下手ですよとアピールしているかのように埃が一切存在しない世界が広がっていた。
毎週ちゃんとやっていても多少は埃が溜まるものだと思うのだが、どこを探しても掃除をする必要がなさそうな状態になっている。
それではと、消耗品のストックを確認して買い出しに行こうと思って玄関にある収納を確認してみると、そこにはつい先日使用したはずのティッシュとトイレットペーパーがすでに補充されていた。
学校に行く前に確認した時には減っていたのだが、どうして今はいつもの量に戻っているのだろうか。
全ては謎だ。
「あ、そこにあったやつは空いている隙間が気になったんで同じのを買って入れておいたんだけど、ダメだったのかな?」
「え、そうだったんだ。休みの日に使った分だけ買いに行こうと思ってたから問題無いんだけど、いつの間にそんなことしてたの?」
「いつの間にって、お兄ちゃんがずっと寝てるんで暇だったし、掃除とかも終わっちゃってやることも無かったからお宝探ししてたんだよね。お兄ちゃんの部屋にお宝はないのかな? でも、私が探しているようなお宝は見つからずに消耗品が減っているのを見つけちゃったってわけ。私って、意外とそう言うの気になっちゃうタイプなんだ」
「ずっと寝てるって、まだ午前中だからそんなに長くは無いと思うんだけど。そもそも、この辺に早朝から空いてる店とかないよね? 一体どこまで買いに行ったの?」
「どこまでって、すぐ近くにあるドラッグストアだよ。もう少し足を延ばせば安い店もあるんだろうけどさ、さすがにそこまで遠い店から大荷物を背負って帰ろうとは思わないからね。食材も買う事になってたんで二往復はしたんだけど、それでも遠い店まで買いに行くのは大変なんだよ」
「近所のドラッグストアもスーパーもまだ開店前だと思うんだけど?」
「今はね。でも、私が買い物に行ったのは昨日だし。さすがに夕方には起きると思ったんだけど、夜になっても起きる気配が無かったから死んじゃったのかと思ったんだよ。でも、お兄ちゃんの体はちゃんと生命反応を示してたから心配はしなくなったのさ」
「ちょっと待ってもらっていいかな?」
俺は昨日の夜にお酒を飲みながら由貴の声を聞いたと思っていたのだが、イザーちゃんの話を聞くと俺がソレを体験したのは昨日の夜ではなく一昨日の夜という事になる。
さすがにお酒を飲んだとしても丸一日起きないことなんて無いと思うのけれど、俺のスマホの画面にはしっかりと日曜日だという事が表示されていた。
「お酒を飲んだのが久しぶりだったと言って丸一日寝続けるとかありえないだろ。さすがに嘘だよね?」
「嘘じゃないよ。昨日の夜にうまなちゃんが様子を見に来たんだけど、お兄ちゃんが寝たままだったからご飯だけ食べて帰っちゃった。さすがに生徒を教師の部屋に泊めるなんてことは出来ないし。うまなちゃんにお兄ちゃんの事をよろしくってお願いされたんだけど、寝てるだけのお兄ちゃんに何をすればいいのかわからないよね。ちなみになんだけど、うまなちゃんにもお兄ちゃんの家にお宝が無いか捜索してもらったんだけど、何も見つかりませんでした。一人暮らしの男性の部屋にはそういうものがあるんじゃないかと思ったんだけど、スマホの中にもパソコンの中にもお宝は一切見つからなかったから少しだけお兄ちゃんの事を疑っちゃった」
イザーちゃんが探していたお宝というものが何なのか予想はつくのだが、あえて俺はそれに触れずにいた。
それよりも問題なのは、生徒会長である栗宮院うまなが教師である俺の家に入ったという事実だ。
俺はずっと寝ていたという事で全く気付いていないのだが、栗宮院うまなが俺の家に入ったという事を誰かが見ていた場合、とんでもない問題に発展してしまうのではないだろうか?
生徒が教師の家に一人でやって来るなんて事はあってはならないことだし、全く記憶がない俺には弁明の余地もないのだ。なにせ、全く覚えていないことなのだから。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。お兄ちゃんが心配するようなことは無いから。もしも、誰かが悪意を持ってお兄ちゃんの事を陥れようとしたとしても私たちが守ってあげるからね」
「私達って、イザーちゃんと誰?」
「誰って、私と私だよ。お兄ちゃん」




