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第1話 でも、延長はちょっと高くなっちゃうから覚悟してね。

 放課後に生徒と偶然会うことはあったのだけれど、こうして自分の意志で生徒に会いに来る日がやってくるなんて思いもしなかった。指定された場所は初めてやってくるのに迷う事もなく、誰ともすれ違う事すらなかった。


 生徒と教師という立場上このようなことをするのは非常にまずいのだが、俺は彼女から出された提案を受け入れた。

 迷う事もなくほぼ即決だったのは自分の気持ちに素直になったからなのだけれど、何のためらいもなく決めてしまいブレーキをかける理性が無いことに今更ながら笑ってしまいそうになっていた。

 大人になればやって良い事と悪い事の区別くらいつけることが出来ると思っていたのだ。思ってはいたのだが、大人になった俺はあの時の気持ちを抑えきることが出来なかった。


 何も無い道を歩いていくと真っ黒な布で出来た大きなテントが見えてきた。

 話に聞いていたよりも黒く、俺が思い描いていたテントよりも大きく、キャンプで使うにはあまりにも異質なテントではあったが、これから行われることを考えると、これ以上なく相応しいものだと思えてしまった。

 一応声をかけてみるが返答はなく、中に入ることを戸惑いつつもこのままではここに来た意味が無いと思い、俺はどうにか入り口を探して中へ入ることにした。


 テントの中は完全に閉鎖された空間で、照明替わりなのか無数の蝋燭が灯されていた。蝋燭の明かりは俺が入ってきたことで少しゆらゆらと揺れていたのだが、俺がじっとしていると真っすぐに揺らぎのない明りへと変わっていた。


「ようこそいらっしゃいました。先生」


 聞きなれた生徒の声とは少しトーンが違うのはここが学校ではなく彼女のテリトリーだからなのだろう。学校で聞く明るく活発な様子とはうって変わって落ち着いた声は、この場の雰囲気とも相まっていつもよりも大人びて聞こえていた。

 声だけではなく、その服装からもいつもと違う印象を受けていた。制服姿だと年相応に見える彼女だが、仕事用の服を着ている彼女は年齢以上に大人びて見えるのが不思議である。高校生であったとしても、メイクと服が知っているいつもの彼女と違えば大人っぽく見えることも不思議ではないのだろう。

 ただ、ハッキリと表情が見えないからというわけではないが、俺は学校で見かける彼女と目の前にいる彼女が同一人物だとは思えない。どこが違うのかはわからないけれど、普段学校で接している彼女とは別人のように思えていた。


 本当は別人なのではないかという思いが頭の中で巡っているのだ。

 もしかしたら、彼女を別人であると思い込んでいる事によって、これから行われる許されざる行為を正当化しようとしているのかもしれない。


 そんな事は許されるはずもないのだが、


 俺は自分の気持ちを抑えることが、





 出来ない。



「先生はずっとしたかったんですよね? その願いを、私が叶えてあげますよ。今晩だけ……」

「今晩だけじゃなく、これからずっとというわけにはいかないのか?」


 一度だけの契約という事は決まっていた。

 たった一度でも、俺の願いが叶うのであればそれでいいと思ってはいた。

 思ってはいたのだけれど、いざ願いが叶うのだとわかれば、欲望はより強くなってしまう。


 こんな事を言ってしまえば一度だけの契約も破棄されてしまうかもしれないが、俺はせっかくのチャンスを目の前にこれ以上抑えることは出来なかった。

 これから残りの人生で同じような機会に巡り合うことは出来ないだろう。

 生徒と教師という立場でなければありえないこの関係。

 それを壊しかねない提案をしてしまったのだが、彼女は俺の想像とは違う答えを返してくれた。


「延長したいとなると、ちょっとお高くなっちゃうけど、それでもいいですか?」

「もちろん。俺が払える範囲でなら」


 先ほどまでの落ち着いたトーンではなく、俺が良く知っているいつもの彼女に戻っていた。

 別人ではないかと思っていたのは俺の気のせいだった。

 そう思えるくらいによく見ている少女に戻っていたのだ。


「先生だから特別ですよ。他の人だったら断るんだけど、私達も先生だったらいいかなって思ってたんですよ。みんなも先生が良いって言ってたからね。今回は私が先生のお相手をしますけど、次からは別の子が先生のお相手をしますからね。そんなに不安そうな顔しないでくださいよ。大丈夫、みんなちゃんと出来るように訓練してますから」


「その点は信用しているよ。俺なりに色々と調べてはいるからね。でも、毎晩じゃなくてもいいよ。さすがに毎日だと俺の体がもちそうにないから」


「そうですよね。先生はあんまり若くないですもんね。先生たちの中では若手かもしれないですけど、私達から見たらおじさんだもん」


 別人だと思えた彼女は完全に俺の思い違いだった。

 友達と話している感じで話しかけてくるいつもの彼女。

 表情は暗くて読み取れないが、見慣れた笑顔が俺を安心させてくれていた。


「じゃあ、さっそく始めますか。先生の妹でいいんですよね?」

「ああ、俺の妹で頼む」


「私は一人っ子だから緊張しちゃうな。でも、延長はちょっと高くなっちゃうから覚悟してね。先生」


 

 彼女の表情には全く迷いが見られなかったような気がする。

 俺は彼女の嘘に最後まで騙され続けられたらいいな。

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